数日後、真澄達はあんこうチームのいる場所に来ていた。
そこには小豆色に塗装され、砲塔や車体に追加装甲のシュルツェンを取り付け、F2から改造したⅣ号戦車H型が佇んでいた。それを見た真澄が一言、
「おぉ〜、大分変わったわね」
「ええ!マークⅣスペシャルですよ!」
秋山がそう言う。確かに今までから見た目は大きく変わった。しかしそれはカメさんチームにも言える事だった。
「ヘッツァーに改造した38tか……」
「結構、無理矢理でしたけどね」
其処では榎本と小山が改造され、塗装が施された軽駆逐戦車ヘッツァーの姿があった。
Ⅳ号戦車と同じ砲弾を使用するこの戦車はそれだけで火力も順当に強化されていた。
そして近くでは苦労した様子の整備係の生徒が、ご苦労さんです。
この前の不良事件以降、うさぎさんチームの動向が気になるところではあったが、彼女たちは問題なさそうだった。それよりも、真澄のあの動きの方が気になっていたようだった。『ジャッ○ー・○ェン』みたいだと言われたのは不満だが……。
「こうやって見ると、やっぱりティーガーⅠに見えるわね」
「そりゃ、対戦中に撃破したのがティーガーだと思ったらただのⅣ号H型だったなんていうことが多々ありましたしね」
秋山とそんな話をしていると、風呂敷包みを背負った冷泉がやって来た。
「麻子どこ行ってたのよ」
「これ、お婆から差し入れのおはぎ」
「そうか、退院したのかお婆さん」
「退院されたんですか」
そう言い、背負っていた風呂敷をおはぎをみんなに差し出す。
「うん、みんなによろしくって」
「よかった」
「決勝戦は観に来るって」
冷泉も心なしか嬉しそうだ。決勝戦も見に来ると言うし、相当気合が入っているのがわかる。
「あ!みほさん、わたくし今日はこれで失礼させていただいていいですか?」
「あ、うん……」
「華、何かあるの?」
武部が五十鈴にそう聞いた。
「実は、土曜日から生け花の展示会が……」
「華さんが生けたお花も展示されるの?」
「はい」
「おー、観に行くよ」
「本当ですか!じゃあ、是非!!」
みほ達は五十鈴の生け花の展覧会に行くと決めると、五十鈴は嬉しげにそう話し、次に真澄に声をかけた。
「真澄さんも是非いらしてください」
「え?良いの?」
「はい、真澄さんのおかげで私は華道を続けられましたので」
そう言い彼女は母を説得した真澄にそう言うと、彼女は納得した様子で頷いていた。
「そっか……私、華道教わったけど。剣道と茶道しか上手くなれなかったぁ……」
そこでふと真澄は花嫁修行の一環として死ぬほど教わった数々の道を思い返してしまった。
とりあえず、五十鈴の話を真澄は心良く承諾していた。
そして迎えた土曜日。
生花の会場では、色とりどりの作品が展示されていた。
「わぁー、素敵」
「お花の香り」
「いつも鉄と油の匂いだからり嗅いでますからね。私達」
「華さんのお花は……」
「ん?あっ!あれじゃない!?」
そう言い武部が指差した先には豪勢な飾り付けを受けた作品が生けられていた。
花瓶も戦車を模したものとなっており、見ているだけでも力強さを感じる作品だった。
「すご〜い」
「戦車にお花が」
「斬新ですね」
みほ達がそう溢す中、真澄は下の花瓶に目が行っていた。
「よくこんな花瓶作れたわね……」
少なくとも下手に扱えなさそうな見た目に思わず感心していた。
「来てくれてありがとう」
「華さん!」
するとそこで着物姿の五十鈴が声をかけてきた。おお、お見合い直前ですかと言いたくなるほどおめかしをしていた。
「いい作品ね」
「はい……でもこれは…この花は。みなさんが生けさせてくれたんです」
すると、五十鈴の後ろから母の百合が声をかけてきた。
「そうなんですよ!この子が生ける花は、纏まってはいるけれど個性と新しさに欠ける花でした。こんなに大胆で力強い作品が出来たのは、戦車道のおかげかも知れないわね?」
「お母様…」
そして五十鈴を見ながら彼女は言う。
「私とは違う……貴女の新境地ね」
「っ!はい!」
娘に成長に嬉しそうに見ていた彼女は花瓶を見ながら言った。
「それにしても、あの戦車の花器には驚いたわ」
「特別に頼んで作ってもらったんです」
「まぁ、ふっふっふっ」
そこでやっぱりオリジナルだったかと納得する真澄に、百合が聞いた。
「貴方には、これがどう映る?」
「そうですね……」
そこで少し作品を見た後に、感想を口にした。
「力強さを秘めていますが、その中に映る和気藹々とした景色が脳裏に浮かびますね。表すなら、試合前の彼女達でしょうか?」
「ふふふ……貴方にはそう映るのね。簡単に桜の枝は折ってしまうのに、感想はご立派ね」
「言わないでください……」
茶化しながら言われたその話に真澄は少しだけ顔を俯かせてしまっていた。
「でも、あの時貴方が仲裁をしなければ。こんな作品が生まれることはなかったのでしょうね……」
「そんなことはありません。私はただ、過去の過ちを繰り返さないで欲しかっただけですから」
真澄がそう答えると、百合も察した様子で短く頷いた。
「……そう。なら、この話はこれで終わりね。……華さん」
「……はい、お母様」
百合にそう言われ、少し緊張気味な五十鈴はそこで正式に言われた。
「いつでも家に戻ってらっしゃい。待っているわ」
「っ!?……はい!!」
事実上の帰宅許可と、実力を認められた事に彼女は喜んでいた。その言葉に五十鈴だけでなく、みほ達を喜んだ。
「よかったですね!五十鈴殿!!」
「華!やったね!」
「おめでとう、五十鈴さん」
そう言いみほ達が喜びの言葉を贈っていた。
「…私も、そろそろ帰ろうかな……」
二年間、一度も帰ることのなかったあの実家に……。
その後、会場を後にし。そこでみほ達と別れた真澄は、そこでやや緊張しながらも家に向かう。
「……」
見慣れた街並み。ここは一切変わっていないみたいだ。
「……」
あっという間に辿り着いてしまったその場所に真澄は思わず帰りたいとも思ってしまうが。そこで意を決して彼女は家の鍵を取り出すと、そのまま門を潜った。
「あら、お帰りなさい」
そこで庭作業をしていた清子が帰ってきた真澄を見てやや驚いた目をしていた。
「たまたま近くに来ていたから。帰ってきたよ」
「あら、じゃあお茶でもして行く?」
「うん」
そう答えると、そこで清子と真澄は家の中に入って行った。
「もうちょっとでお父さん、帰ってくるけど……」
「いいよ、今日は一泊するつもりだから」
「あらそう?」
そこで清子は真澄を見てやや驚いた目を向けた後に喜んだ様子で言った。
「じゃあ今日はパーティーでもしましょうか?」
「いいよ、時間ないでしょう?」
そう言い時計を見ると。そこではもうすぐ夕食の時間を迎えようとしていた。基本的に我が家の夕食は二〇時だ。普段家に帰ってくるのが十九時くらいになる父は、その後に先に風呂に入るタイプの人なのでこの時間なのだ。
東大法学部を出た後に機動隊、警視庁、警察庁と渡り歩いてきた父は今や警察庁長官という重役をになっている。
その娘である真澄の話も当然出てくるわけだが、一体何を話しているのやら。あの風見色眼鏡どもを巌は心底嫌っていた。
「この前は大変だったわよ」
台所に立ちながら清子は真澄と共に具材を切る。
「貴女の事を知って。お父さん、珍しく寝込んじゃってね……」
「まあ、あの人はそういう人だから……」
そう言い真澄も巌の意外と繊細な心を思い出して苦笑してしまう。
「どうも、戦車道をしている貴方を見ていると昔の私を思い出しちゃったみたいでね」
「うん、だから無理に職権濫用して私を戦車道から離れさせようとしたんでしょう?」
真澄はそう答えると、清子は驚きつつも納得した表情を浮かべた。
「知っていたの……」
「ええ当然。でもあの後の行動は迂闊だったと、今でも反省はしているよ」
彼女はそう言い、自分の手のひらを見る。
すっかり癖になってしまっていたが、彼女の手は剣道をしていた時から変わらず、少女らしく美しく整っていた。
「そう……でも本来であれば、貴方はもっと輝くはずだった」
「それはどうかな?」
「?」
そこで真澄はみほの顔が思い浮かんだ。
「私でなくとも、あの子だったら成し遂げてくれるわ」
「あの子……もしかして?」
「多分、想像通りだよ」
そう言うと清子は納得した様子で、微笑ましげに呟く。
「そう…あの子が……」
「戦車道を楽しんでいた。とても楽しくね」
「……」
「昔の母さんや、私と同じように」
そう言うと、そこで清子は昔のアーカイブを見たのかと内心納得しつつも少し恥ずかしくしていた。
「もう昔の話よ」
「でも母さん。しほさんや千代さんに負けた事なかったじゃん」
「ええ、でも世界は呉越同舟で溢れていた……」
そこで彼女はそこで、生で海外で見てきた戦車道を思い返す。
「実を言うとね、父さんに内緒で一回戦車に乗ったことがあるの」
「そうなの?」
「ええ、しほちゃんと千代ちゃんに偽の選手名簿を作ってもらってね。世界大会に出たの……でも全然楽しくなかったわ」
そう言い彼女は出来レースであり、階級層に別れて文化がまるっきり違った欧州やアメリカの戦車道の景色を思い出していた。
「日本はそんな海外の戦車道の表面を齧っただけの卵の殻のような文化だったわ」
「……」
「そんな戦車道に飽き飽きしちゃってね。それからまるっきり」
清子は少し呆れた様子でそう言うと、軽くため息をついた。
母の乗っていた戦車はM24チャーフィー。言わずと知れた傑作戦車だが、母はそのチャーフィーを使ってしほさんや千代さんの部隊の斥候を司ると同時に敵の撹乱を行う事を専門としていた。
その華麗な動きや、撃破率の高さから『東洋の踊り子』と言う愛称を貰っていた。
「ストリッパーってバカにしてきた奴がいてね。その時はボコボコにしてやったわ。口が聞けないくらいにね」
「……」
前にも聞いたことがあるなとも思いながら真澄は清子の話を聞いていた。
「だから貴方が戦車道を始めるって言った時は、初めは止めようと思っていたのよ」
「え?そうなの」
まさかの告白に真澄は驚くと、そこで清子は言う。
「ええ、こんな変わりのないつまらない。その上怪我もしやすい競技。でも……」
そこで思い返すのは、試合後にいつも三人で飲みに行っていた景色。その時は後輩だった井手上や蝶野達も巻き込んでの飲み会は今でも鮮明に覚えていた。
「でもね、戦車道でしかわからない喜びも確かにあった。だから私は貴方を戦車道の道に進ませたの」
「……」
清子の懐かしみを含むその言葉に真澄は納得できる部分があり、軽く頷いていた。すると玄関の開く音が聞こえ、清靖が帰ってきていた。
「ただいま〜……って、え?!」
「よう、学校はどうだった。清靖」
台所で立っていた真澄を見て彼は心底驚いた目で見ていた。
「帰ってきていたの?」
「ええ、決勝が終わるまで大洗に停泊するからね。大会が終わるまで、何度か遊びにくるかも」
「そ、そっか……あっ、そうだ」
動揺をなんとか抑えながら彼は真澄を見て行った。
「おかえり、姉さん」
「ああ、ただいま」