知波単学園最強の軍師   作:Aa_おにぎり

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第七三射

「そっか…もう決勝なのか」

「ええ、いよいよ大詰めって所ね」

 

そんな話をリビングですると、清靖が聞いた。

 

「部屋には行ったの?」

「あっ、まだ行っていないや」

「そういえばここでお茶を飲んだ後に台所に立たせちゃったわね」

 

うっかりしていたと清子は言うが、その内心で真澄の望む『いつもと変わらない生活』を意識していた。

学園艦でのシェアハウスも確かに楽しいだろうが、やはり家族でしか味わえない楽しさと言うのもある。

 

「この前、友人の家に行った時に懐かしくなってね」

「いいんだよ。ここは姉さんがいつでも帰ってきて良い場所なんだから」

 

階段を登りながら真澄と清靖はそう話す。

 

「ああ、懐かしいねえ。この感覚」

「相変わらず古臭いの間違いじゃないの?」

「お馬鹿、こう言うのは侘び寂びって言うんだよ」

 

そう言い彼女は大正チックな様相を残す家を歩く。

 

東京の一等地でここまでの広さの家を持つ黒田家は元は華族であり、代々中央官庁の役人を輩出してきた由緒正しき家だ。

この家も戦前から残っている珍しい家であり、あの東京大空襲すらも生き延びていた。元が頑丈なレンガ作りであり、その上にべっとりと漆喰が塗られていた。

今は鬼籍に入った祖母が言うには、かつてはこの家の地下室に隠れて空襲を生き延びたと言う。

そして私の部屋も、代々受け継がれてきた女子用の部屋だった。

 

「……」

 

扉を開けて中に入ると、そこは相変わらずデカすぎるボコのぬいぐるみや整頓された棚。それから剣道大会で取ってきた賞状やメダル、トロフィーなどが飾ってあった。

 

「変わらないねえ」

「そりゃそうさ。毎日掃除してきたんだから」

 

そう言い入念に女子部屋を掃除したと堂々と言う清靖。あのねえ、女子部屋に気軽に入るんじゃないよ。

 

「すまないね」

 

だが、主夫と言える清靖に真澄は感謝するとそのままベットに転がり込んだ。

 

「それじゃあ、夕食ができたら呼ぶよ」

「ああ、ありがとう」

 

そう言うと、そこで真澄はそのまま疲れていたからか眠ってしまった。

 

 

 

 

 

「ーーんあっ」

 

そして目が覚めて、真澄は部屋に置かれた時計の時間を見ると。時刻は十九時三〇分だった。

 

「……そろそろ起きるか」

 

そこで真澄は体を起こすと、そのまま階段を降りていった。

 

「お茶もらおう……」

 

階段をそう言いながら降りると、そこで彼女を名前を呼ぶ声が一人。

 

「真澄……?」

 

声のした方を見ると、そこには風呂上がりなのだろう。少々体から湯気が立ちこめ、浴衣姿で立っていた巌の姿があった。

 

「よう、親父」

「帰ってきていたのか……」

 

その顔はなんとも言い難いものであると真澄はわかっていた。

まほと同様、ほぼ表情の変わらない巌はまほ以上に面倒くさく、ただ見ているだけでも子供が泣いてしまうので彼はあまり仕事以外で家から出ない。

 

極たまにヤクザ関係者と思われて警察から職質を受けた事もあったそうで、当時は官房審議官だった巌の階級を知って縮み上がってしまったという。警官可哀想に……。

 

「たまたま近くに来てたから。帰って来たわ」

 

思えば、この父親がいたからこそ。まほの表情も理解できたし、しほさんも全く怖くなかったのだろう。

初めの頃なんか、エリカは完全にしほさんにビビってたわけだし。

 

「そうか……」

「この後、夕飯も一緒にするから」

「……ああ、」

 

少し歯切れ悪く答えながらも、巌はとりあえず寝巻きに着替えに向かった。この親父、家ではずっと寝巻き姿のダメ親父なのである。あの見た目で……。

 

 

 

 

 

「「「「頂きます」」」」

 

そしてリビングで卓を囲んでとても久しぶりに家族四人の夕食が始まった。

すでに榎本達に一泊する事は伝えており、やや心配な様子の返事が返ってきていた。

今日の夕食は天ぷら。前にもみほちゃんと食べていたと思い返していると、最初に巌が口を開いた。

 

「真澄、あの学校はどうだ?」

「え?別に良いと思っているわ。友人とか知っている人が多いもの」

「そうか……」

 

すぐに会話が止まってしまうと、横で清子が巌に突っ込んだ。

 

「何止まっているんですか。相変わらず口下手なんだから」

「……すまん」

 

巌は清子の尻に敷かれているので、思わず真澄や清靖は笑いそうになってしまう。

かつて鬼の四機の中でも別格の強さを誇り、『四機の熊親父』とまで言われた人物がこの有様である。週刊誌の記者も驚く景色だろう。

 

「ごめんね真澄。いきなり返ってきたもんだから驚いちゃってて……」

「良いよ別に。いきなり返ってきたこっちもこっちだし」

「何親子揃って馬鹿なこと言っているんです。実家は帰りたい時に帰ってくる為にあるんでしょうが」

 

清子はそう言うと、真澄も思わず納得できてしまう。確かに、帰りにくい家って嫌だもんな……身近にその人がいるけど。

 

「真澄、食後に話したいことがある」

「……わかった」

 

とりあえず落ち着きたいだろうし、色々とこっちも言いたいことがある。なのでこの食事ではあまり多くは語らないだろう。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

そして食後、風呂を入った後に髪を乾かしてすぐにでも寝れる準備ができた所で。真澄は巌に呼び出されて、家の応接室に入った。

 

「取り敢えず座れ」

「はいはい」

 

そう言い、真澄は巌の反対側の席に座ると。そこで清子が麦茶を出して、部屋を後にした。

 

「……真澄、」

 

そしてそこで、最初に巌が口を開く。

 

「どうして、そこまで戦車道が好きなのだ?」

「……」

 

まあそうだよな。巌にとって戦車道は婚約者を永遠に失ってしまったかもしれない仇敵のような競技だ。

そんな道にわざわざ入りたいと思った真澄に、まず彼は疑問を持っただろう。

 

「楽しいから」

「……」

 

そこで真澄は巌の目をしっかりと見ながら答える。

 

「父さんなら知っていると思うけど。母さんが大怪我を負った後、病院で目を覚ました時に『また戦車に乗りたい』と言った」

「ああ……」

 

だからこそ分からないと巌は顔に浮かんでいた。

 

「戦車道は確かに危険な競技です。他のボクシングや剣道などに比べても圧倒的に死亡率も高く、事故も多い……」

 

そこで彼女は今まで、大洗や知波単で見てきた景色を思い浮かべながら巌に言った。

 

「ただ戦車は剣道と違って個人で動く物ではない」

「……」

「戦車に乗り込んだそれぞれが目となり、耳となり、足となり、手となる。戦車を一人で動かす事はできない」

 

そこで真澄は巌に戦車道で感じた、剣道とはまた違うその感覚を伝える。

 

「剣道にも団体戦は存在していますけど、結局は一対一の試合形式が永遠と続くだけです。その反面、戦車道は一対十にもなる可能性を秘めている競技です。

確かにこれを武士道に当て嵌めるのであれば、反すると言うべきだと思っています。

だけど戦車が一人で乗れないと言うことは、人の力を借りなければならない。

それぞれが息を合わせて、絶望的な状況下でも支え合うことができる。まさに一心同体、誰かを信じなければ戦車を動かす事はできません」

 

彼女はそう言い、戦車道で感じた事を全て巌にぶつけた。

 

「戦車道は確かに、戦争の真似事であると揶揄する人もいます。ですが、戦車道をしている生徒はなんら自分たちが戦争の真似事をしているとは思っていません」

 

そう言い、真澄は洗車に楽しげに乗っており。練習も欠かさずに訪れていた大洗の戦車道チームを思い浮かべる。

 

「彼女達は皆、『楽しいから』戦車に乗っているんです」

 

そう言い、彼女は特に初めの頃は悲鳴を上げていた澤達を思い出す。みな、みほについて行って戦車道を楽しんでいるのを真澄はマネージャーとして見ていた。

 

「戦車道は誰か一人でも欠ければ満足に動かすことはできない。剣道と違って個が束になって一を作るのが戦車道です」

 

真澄はそう断言すると、そこで巌は話を聞いた後に少し考えていた。

 

「……二年前の決勝戦。西住の妹との試合の時にお前が見せたあの顔は…母と同じ目をしていた」

「……」

 

そこで巌は真澄を見ながらその時の情景を思い出す。

 

「私にはその目が、そのまま破滅へと進む道に落ちる未来しか見えなかった……」

「……」

 

そこで真澄は納得すると同時にそれほどのショックな事件だったのだろう。今でも引きずっているトラウマなのだから……。

 

「私は目の前からお前がいなくなるのではないかと思ってしまった。母と同じ目をするのに、戦車道の体質は何ら変わっていなかったのだからな」

 

同じ轍は二度と踏まない。そう思ったからこそ、巌は真澄を戦車道から無理やり切り離した。

 

いつの時代も残虐な行為の裏には正義の心が宿っていると、誰が言った。

自分の行なっている行動が正しいと確信できた時、人はどのような残虐な行為でも『これは正義だから』という理由で人を殺すことだって厭わない。

 

「……」

 

それを聞き、真澄は納得できる部分もあった。

 

「しかし、やり方が悪いよ親父」

 

だからこそ、私はこの一件で親父には強めに言って置くべきだったのだろう。

 

「せめて事前に言うくらいしてよ。流石にいきなり言われたら変な事しでかすって」

「……」

「親父も元刑事なんだから、そのくらい知っているでしょう?」

 

自殺というのは余程のストレスが溜まっている場合か、その時の半分勢い任せて行ってしまうことが多い。

かく言う真澄自身も後者をやってしまったわけなのだから、自身もそこは反省をしていた。

 

「それは…すまなかった……」

 

巌はそこでしおらしく答えると、真澄は席を立った。

部屋を出る時、巌は真澄に聞いた。

 

「……恨んでいないのか?」

 

そう聞かれると、彼女は巌を見ながら少し笑って答えた。

 

「恨んでいるわけないでしょう。ただ親父にを呪っただけよ」

「……」

 

恨むのと呪うのは意味が違う。

真澄はただ巌に不幸が訪れろと言っているだけで、巌自身に不満があるわけではなかった。

 

「事実、母さんから一週間寝込んだって聞きましたしね」

「……」

 

そう言われて、少しだけ恥ずかしそうにしながら彼は部屋を出て行く真澄に昔から寝る前にかけていた言葉を言った。

 

「おやすみ。真澄」

「ええ、()()()()ね」

 

そう言うと彼女は部屋を後にした。

今日はよく寝られそうだと、巌は思っていた。

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