翌日、黒田邸では真澄は久しぶりに家族のいる生活を送っていた。
「んはよ〜」
日曜日のこの日、真澄は十時に目を覚ますと階段を降りて居間に出る。
「あら、おはよう」
基本的にだらしない我が家は日曜日ともなると特に予定のない日以外はこの時間までグダグダと寝ていることが多かった。
ある意味で冷泉より不味い生活かもしれない。
「親父は?」
「まだ寝ているわよ」
久しぶりによく寝ていると清子は言うと、今度は清靖が階段を降りてきた。
「あっ、姉さん」
「よく寝れたか?」
「久々にね」
そう言うと、彼はそのまま今に居間に入る。
既に彼と母は着替えており、ここでも似てきたと思う瞬間だ。
「ああ、そう言えば」
するとそこで思い出したように清靖が言った。
「会社から電話があったよ」
「?」
会社というのは強襲戦車競技の部品や試合に出る戦車を輸送する運送問屋である。
戦車道を追放された彼女がダージリンとの約束のために、資金調達として元々譲り受けた土地と株を転がして建てた会社である。
きちんと認可も取ったモノホンの会社であり、従業員も輸送機も持ち合わせていた。経営は真澄と清靖で行っており、母は会長ポジで自分達を支えていた。
「今度の仕入れ品の確認がほしいだってさ」
「そうかい」
「午後に成田に到着するってさ」
「了解」
そう言うと、真澄は頷く。するとそこで野太い声が聞こえた。
「お前たちの会社の話か?」
「そうそう……
ん?」
そこで違和感を感じた真澄は振り返ると、そこには寝巻きにナイトキャップを被った巌が立っていた。
「っ!?!?!?」
声にならない驚きをしながら真澄は目を見開くと、巌はやや面白げに言う。
「
「なっ、何でそれをっ!!」
思わず清靖も驚いた目を向けると、そこで彼は言った。
「何やら清靖が隠し事をしていたからな。部下に調べさせたらお前の名前で運送許可証が認可されていた」
「「とんだ職権濫用だな!!おい!」」
思わずツッコミをかけてしまう。いや、何してんのアンタ?
「だから前に新品のヘリを買ったんだろう?」
「……」
そこで思わず真澄達は言葉に詰まる。確かに儲かって家族用に
曲がりなりにも刑事やっていた時の経験が生きすぎているよと思わざるを得ない話に真澄達は苦笑していた。
「だが、清子が黙ってと言ったから今まで言わなかったわけだが……」
「「何してんだ母さん!!」」
二人はそう言い、心底楽しそうにしている母を思わず睨んでしまう。
「あら、真澄だって知らないって思われていた方が都合が良かったんでしょう?」
「……」
少々バツが悪そうにいうと、巌はテーブルに座りながら言う。
「何、戦車に乗らないのなら対してキツくは言わん」
「やっぱり戦車乗らせたくないんじゃん」
「死なれるよりはましだから許可したまでだ」
そう言うと巌の前に冷えたお茶が置かれる。
「全く、あなたも素直じゃないんですから」
清子はそう言うと、そこで巌は一瞬だけ動きが止まりながらもそのままお茶を飲む。この家族で一番最強なのが誰なのかわかる瞬間だ。
「しっかり納税もしている善良企業だな。荷物は戦車部品…共に強襲戦車競技用の連盟非公認部品や、十トン以下の戦車を運んでいる」
「全部調べてんじゃん…」
「親父ぃ…」
徹底的に洗いざらい調べている上にこれ間違いなくサクラ(公安)動かしただろ。本当に碌なことしねえなこの親父。
「取り敢えず今日は成田まで送ろう」
「いいって、うちらで行けるから」
「…」
真澄がそう答えると、巌は気を落としていた。
「分かったよ。お願いするよ」
そこまで気を落とされたらこっちが悪いみたいじゃん…。
「ふーん…」
そして訪れた成田空港の格納庫。そこで真澄と清靖は私服を着てその荷物を見ていた。
実家からわざわざ時間のかかる方の車で移動し、商品まで見ようとしたところを慌てて清靖と止めて、少し疲れて品物を見ていた。
「これがドイツから直輸入したチタン製軽量履帯です」
会社の従業員がそう言うと、真澄は頷いた。
「オッケー、これを納品して良いわね」
「分かりました」
そう答えると、そこで従業員は去っていく。自分達の扱う部品はあくまでも連盟非公認の物品、日本国の法律に違反する物を持ち込んでいるわけではない。無いのだが、やっぱり非公認の品と言うことでやや後ろめたさはある。
「まさか親父が知っていたとはね…」
「絶対公安使って調べさせたって…」
「権力持った子煩悩ほど、恐ろしいものは無いわね」
そう言いながらこの荷物を運んできた
それをこの会社では三機、それと
我が社の利益はこの戦車運搬と問屋仕事であり、珍しい海外の品物も輸入しているからボロ儲けだった。契約?そんなの直で行くこともあればテレビ電話で私がプレゼンしていたよ。
おかげで最近じゃあ向こう側から広告に来てくれるほどの会社になっちまったよ…。
元々強襲戦車競技な個人でも参入しやすい競技であり、日本においてはいくつか私が土地を持っているので何もない代わりに彼等に試合場を提供していることもあった。そこでの使用料でも儲けていた。
何もない代わりに壊れるものもないので、賠償が無く。家を壊して賠償するくらいならと、使用料を払って試合をする人も居た、
「行ってらー」
そして私たちの親は警察庁長官という偉すぎる立場ゆえに戦車道連盟も手を出しづらいことだろう。かと言って日本の法律に当てはめると違法性は全くない。嗚呼、なんと素晴らしいことか…。
税関も通り、無事に納品される品々を見送りながら真澄達はそのまま格納庫を後にした。因みにこの会社は流石に角谷やみほは知らない。家族以外で知っているのは榎本達位だ。
自分が言うのも何だが、もうすぐ決勝だったのに何してんだか…。
その日の夕方に真澄は学園艦のある大洗に帰ることになったのだが、よほど家に帰ってきたのが嬉しかったのか巌はヘリを手配して送ってくれた。
機種は川崎重工製BK117ヘリコプター。
水色と青で塗られオレンジ色の斜線の入り、側面には思い切り『警察庁』と書かれたヘリコプターだ。
「……」
もはや何もいうことはあるまい。いっそ堂々としていれば、怖いものなど何もない。あの子煩悩め、周りの目を気にしろってんだよ。
『お嬢、どうかされましたか?』
「いや、何でもないよ」
その時、ヘリのパイロットが真澄に聞いてくる。彼は巌の部下であり、真澄を抑えて剣道場に連れて行った人だった。
彼は真澄が帰ってきたことや巌との和解した様子に終始、あの五十鈴の奉公人の新三郎のように泣き散らしていた。名前を神谷さんと呼ぶ。
「神谷さん、大洗に着いたら適当な場所で降ろしてください」
『分かりました』
そう言うとあっという間に成田から大洗に到着し、そこで学園艦の方にあるヘリポートに着陸する。
「ありがとう」
『はい、お嬢もお気をつけて』
ドアを開けて降りると、そこには音を聞いたのだろうみほや榎本達がヘリポートに訪れていた。
そしてヘリに書かれた塗装を見て秋山たちは驚いた様子を見せていた。
「お帰り〜」
「ただいま」
「あの、真澄さん。あのヘリって……」
そう言いちょうど飛んで行ったヘリを眺めると、そこで真澄は言った。
「あの子煩悩、会社のヘリで送りやがったよ」
「あはは……」
「やってんなあ、あの人」
何があったのかを察して思わずそう榎本が微笑ましげに言うと、そこで思わず事情を知らない秋山達が恐ろしい形相で聞いてきた。
「「「遂に逮捕されたんですか真澄さん!?」」」
「違うわ馬鹿!!」
思わず真澄はそう叫んでしまっていた。
数日後、最後の練習を前に角谷が壇上に立つ。
「さあ〜、明日はいよいよ決勝戦だよ!!目標は優勝だからね!!」
「大それた目標なのは分かっている。
だが、我々にはもう後がない。負ければ…我々の双肩には学園の未来が懸かっている!みんなの為にも!あと一戦!全力で挑んでもらいたい!」
河嶋がそう言うと、角谷はみほを見ながら一言。
「んじゃ、西住ちゃんも何か一言!」
「え!?」
「ほら」
みほはは一瞬躊躇ったが、苦笑混じりに前にでる。
「明日対戦する黒森峰女学院は…私の居た学校です。でも、今はこの大洗女学園が私の大切な母校でだがら…私も一生懸命落ち着いて、冷静に頑張りますので…みなさんも頑張りましょう!!」
『『『『『おおーーーっ!!』』』』』
誰がそう答えると、そこで角田にはもう一言。
「ほら、黒田ちゃんも」
「?」
そこで首を傾げると、そこで角谷は言う。
「当然、副隊長なんだからさ」
そう言うと、そこで真澄も納得して壇上に上がるとそこで言った。
「私たちはここまで来た。あとは走り抜けるだけだ。
決勝戦では誰もが黒森峰が勝つだろうとふんぞり帰っているだろう。しかし、我々はそんな人たちのケツを蹴り上げるような、あっと驚くような結果を残そう。私からは以上だ」
『『『おおっーーっ!!』』』
そこで他の生徒たちもそう答えると、真澄はそのまま壇上を降りる。
「もうすぐだものね」
「ええ、博子の練習ね」
「ひえぇ…」
改修で37ミリ砲を搭載した短十二糎の装填手兼砲手となった彼女は軽く悲鳴を上げながら答える。因みに余剰となった九七式車載重機関銃は八九式の九一式車載軽機関銃と取り替えていた。
「おかげで私の仕事がフランス戦車の車長並みにあるんですけど」
そう言い園も同じ状況だと言われると、彼女も黙り込んでしまった。
そして、決勝戦前最後の練習が終わる。
「練習終了!やるべき事は全てやった、後は各自明日の決勝に備える様に」
「「「「「「はい!!」」」」」
「では、解散!」
河嶋の号令と共に、一斉に戦車道メンバーはそれぞれチームごとに別れていく。
学園廃校の一件をリークした方が良いのではないかと言う真澄の提案に角谷は首を横に振った。
『学校が危機であることが外に漏れたら、みんな満足に戦えなくなるでしょう?うちの学校の問題は、うちらで解決する必要がある』
彼女はそう言い、真澄も納得した上でこの情報は口外無用のものとして扱っていた。
出来ることはやった。後は作戦がうまくいく事を祈るだけだ。黒森峰が何をしでかすかは分からないが、その時は臨機応変に動くだけだ。幸いにもそれだけのことが出来る腕は、このチームには存在している。
決勝戦は目前であった。
練習後、真澄達は家で揚げ物と出汁を作りながら先週末の話をしていた。
「へぇ〜、実家で無事だったんだ」
「何よ、私と親父は常に喧嘩しているみたいな言い方しやがって」
そう言うと、伊東や大久保が苦笑していう。
「いやぁ」
「だってこの二年帰っていなかったからさ」
そう二人は言うと、そこで台所に立つ彼女はやや不満げに言う。
「あのねぇ、うちで喧嘩したらそれこそ週刊誌に載っちまうよ」
「お父さん、お偉いさんだもんねぇ」
「四機の熊親父って言われていたんでしょう?」
そう言い風呂に入っている大隈以外は居間でそう話していると、そこで大隈が風呂から出てきた。
「風呂出たわよ」
「はいはい、じゃあ次は私かな?」
伊藤がそう言って立ち上がると、そこで真澄が言う。
「んじゃ、博子がでたら夕飯にしようかな」
そう言い彼女は片手に溶き卵を作っていた。
そして、伊藤が出た後に彼女たちは決勝戦前日の夕食を食べる。
「「「「「いただきます」」」」」
今日の夕食はカツ丼だ。願掛けではあるが、二年前の決勝戦の時も真澄がわざわざ頼んで作っていた。
「試合前はいつもこれだったわね」
「懐かしい」
「肉が出てくるから大騒ぎだったわ…」
そう言い、真澄と榎本以外の三人がそう溢すと真澄が言う。
「元々は武代の家の奴でね。剣道の試合前はいつもこれだったんだとさ」
「うちの秘伝の出汁よ」
「なるほど」
「どうりで美味しいわけだ」
そう言いながら三人は話していると、伊藤が思い出したように呟く。
「そう言えば武部がこの前アマチュア二級取ったって言ってたっけ?」
「え?そうなの」
大久保が首を傾げると、そこで彼女は頷く。
「すごいわね。もう二級取れたの」
「ねっ」
「博子は?」
「もちろん、一級でございます」
そう言い彼女は財布から免許証を取り出す。彼女は中学生の段階で既に一級の免許を取得していた。
「おおー、流石〜」
「元々真澄にスカウトされて戦車道に入ったもんね」
そこで大隈が思い出すように彼女が戦車道を始めた経緯を思い出していた。
「ええ、でもまさか。戦車道に入ったのに、戦車に乗らずに情報収集ばかりというね…」
「仕方あるまい。元々真澄の情報部のためにスカウトされたんだから」
「お陰で楽できたと思ったのにね〜」
そう言い少し恨めしげに彼女は真澄を見ると、そこで真澄が答えた。
「仕方ないでしょう?元々主砲の装填中の攻撃手段だし」
そう言い、真澄は新たに装備した一式三七粍戦車砲を思い出し。同時に突貫で行った伊藤の射撃訓練だった。
「元々至近距離用の副砲だ。狙いは分かっているわね?」
「ええ、えらく射角が制限されているから。元々撃てる範囲も限られているしね」
「てか、あの砲身はどこで手に入れたの?」
思わず大隈が入手ルートを聞いてしまうと、そこで真澄が言った。
「本店の婆'sの滝沢さんが入手ルートを秘密にする代わりに持ってきてくれた」
「え?それ大丈夫なの?」
「確認したけど、ちゃんと連盟公認品だったよ」
「まじか…」
真澄の会社運営は知っているし、なんなら彼女たちも社員で給料を貰っている立場故にあまり強いことは言えないが、少し驚いた様子を見せていた。
「何処らか仕入れたのかはあまり聞かない方が良さそうだね」
「あの人達も中々ですしお寿司」
そう言い真澄たちは苦笑する。少なくともまともなルートではなさそうだと思うと口を噤んでいた。
本当は警察庁所有のヘリはないけどオリジナルで許してくだしあ。