早朝、決勝戦の試合会場である日本最大の演習場である富士東演習場にはとある集団が到着していた。
「よーし!我々が一番乗りだ!」
「これで、明日の決勝には余裕で間に合うっすね」
「でも、まだ早過ぎません?」
そう言い、車列からアンツィオ高校の代表アンチョビがサハリアーノから降り、カルパッチョが思わず聞いてしまう。無理もない、早すぎて周りには誰もいなかったからからだ。
「物事を進めるには、慎重なぐらいが丁度いいんだ」
「さっすが姐さん!抜かりないッス!」
ペパロニがそう言い、アンチョビを褒める中。応援に駆けつけた戦車道チームは……。
「メガホンと双眼鏡持ってきた!」
「横断幕だって用意したし、旗だって用意した!」
「当然、大洗はあんこうで有名だから、そのプリントだって忘れちゃいねえ!」
「アタイ達、ホント準備良いよな~!」
そう言い、横断幕やその他応援セットを持って自画自賛をしていた。
まだ試合開始まで時間もあると言うことで、暇つぶしにアンチョビは少し早いが宴会を開くことにした。
「良し!時間もタップリあるし、お前ら宴会だ!湯を沸かせ、釜を焚けぇい!」
『『『『『オオーーーッ!!』』』』』
そうして始まった宴会だが、料理にはしゃぎすぎて疲れてしまい、そのまま爆睡してしまっていた。
第63回高校戦車道全国大会決勝戦 当日
学園艦から出発し、目的地である富士東演習場に足を踏み入れた。ここは日本最大の演習場。そしてここで、黒森峰との決勝戦が行われる会場でもあった。
「こっ、ここで、試合が出来るなんて!」
「そんなにすごい事なんですか?」
「自衛隊も演習をやっている、まさに戦車道の聖地です!!」
試合会場が日本戦車道の聖地と言う事もあって秋山は感激していた。
「わたしも……今回も決勝会場がまさか富士東だとは思わなかった」
「自分も驚きよ。まさかまたここに来るとはね」
真澄と榎本も同じように口にする。
「ここのフィールドは平原、森林、高地、市街地。ほぼ全ての環境があるから、ゲリラ戦を展開するにはうってつけの場所ね……」
試合会場では大勢の観客が出入りし、出店や戦車が置かれ。とても賑わっていた。
「うちらも後がないんだ」
「窮鼠猫を噛む……追い詰められた人間ほど強い人は居ないわ。どんな状況下でもね」
「そうね」
そう言うと二人は二年前の試合を思い返しながら待機場所に戻って行った。
その頃あんこうチームはみほがミーティングに出ている中。秋山、武部、五十鈴、冷泉はⅣ号に乗って待機していた。
「いよいよだね……」
「そうですね」
「はい」
いよいよ決勝戦、ここに集まった理由はただ戦車が好きな者。授業で興味を持った者など、戦車道に関しては素人集団が強豪校を破り。決勝戦にいるのだから……。新聞屋は喜びそうな記事が書き上がることだろう。
「ただの授業の一環だと思ってたのに……私達すごい所まで来たもんだね……」
武部が徐にそう語る。
「そうですね、ただ戦車が好きってだけで始めた戦車道なのに……西住殿と黒田殿にこんな所まで連れてきてもらいました」
そんな武部の言葉に秋山も頷いて答える。
「ゆかりん、もし今みぽりんがいたらみんなで来たんだよって言うし、ますみんなら『私一人の力じゃない。皆の努力の結果だ』って言うよ」
「そのとおりですね……」
「でも、みほさんと黒田さんがいなければわたし達は今ここにいませんね」
五十鈴が納得すると、そこで武部は言う。
「うん、戦車道がこんなに面白い事や戦車に乗る責任なんて気づく事もなかったかな……」
真澄は途中からの参加だったが、四人はそんな二人に感謝していた。
「みんな戦いが終わったみたいな言い方をして……」
「冷泉殿の言う通りですね……」
「あっ、みほさんと真澄さんがミーティングから帰ってきました」
ミーティングが終わり、みほと真澄の姿が見え。チームと合流しようとした時。
「ごきげんよう。みほさん、真澄さん」
「あっ、こんにちは」
「やぁ、ダージリンに蜜柑ちゃん」
「だから蜜柑ちゃんじゃありませんってば……」
呆れながらそう言うと、オレンジペコは呆れた様子でいつもの答え方をする。そして、そんないつも通りの挨拶をまたダージリンは少し笑う。
「ええ…フフッ、元気そうで何よりです」
何処か楽しげに語る彼女はそう言うと、そこでダージリンは言う。
「まさかあなたがたが決勝戦に進むとは思いませんでしたわ」
「あ、私もです」
みほの返答に少しまたダージリンは笑うと、今度は真澄を見た。
「そうね。あなた方はここまで毎試合、予想を覆す戦いをしてきた。特にこの前の真澄さんの大立ち回りは素晴らしかったですわ。昔より断然強くなられて……今日のこの試合も楽しみにしていますわ」
「えっと…頑張ります」
「ご期待に添えられるように頑張りますよ」
そう言うと彼女は懐からある軍帽を取り出すと、それを頭に被った。
「あら、それは……」
「真澄さん……!!」
その帽子はかつて知波単を率いていた時に被っていた特注の帽子だ。
桜の形をした金具を付け、彼女に合わせて作られたオリジナル品だ。これとセットで帯刀をすればあの頃と同じ装備をすることになる。
「あら、宜しいの?」
「大洗の私の姿だ」
ダージリンの問いにそう答えると、彼女も納得した上で嬉しそうにしていた。すると……
「ミホ〜!マスミ〜!」
陽気な声が二人の耳元に届く。
振り返ると、そこにはジープに乗ったケイとナオミ、アリサの三人が姿を現した。
「ケイさん、お元気そうで」
「Of course!私は何時でも元気よ!!」
相変わらずな彼女に少しだけみほの緊張も解けたかなと思っていると、ケイは真澄を見ながら微笑ましくしていた。
「前の試合すごかったわね。プラウダの七両相手に華麗な演技を見せてくれて」
「ダー様にも言われたよ」
真澄は少し笑いながらそう返すと、後ろでダージリンが一瞬だけ殺意を見せ、ケイはみほを見て言った。
「またエキサイティングでクレイジーな戦いを期待してるからね?ファイト!」
「ありがとうございます!」
「(クレイジーね……)」
使い方が微妙に違うような気がしないでも無い。
「good luck」
颯爽と登場し、彼女は颯爽と去っていった。すると今度は、
「ミホーシャ、マスーミャ」
声をかけたのはカチューシャだった。相変わらずノンナに肩車された状態で現れた。そしてそばにはクラーラもいた。
「このカチューシャ様が見に来てあげたわよ。黒森峰なんかバグラチオン並にボッコボコにしてあげてね」
「あっ…はい」
するとカチューシャは、今度は真澄を見る。
「マスーミャも、負けるような戦いをしたらシベリア送りにしてやるから」
「何、負けるつもりはさらさら無いさ」
そう言うと、そこでクラーラが近づいてロシア語で話しかけてきた。
「『この前はありがとうございました。お陰でカチューシャ様のコレクションが増えました』」
「『それはよかったです』」
「『ノンナもすごく喜んでいました』」
そう言い、クラーラ達は真澄と交わした淑女協定で時折写真を交換して交友を深めていた。
「じゃあね、ピロシキ〜」
「「До свидания」」
そう言うと三人は去って行った。
「あなたは不思議な人ね。戦った相手みんなと仲良くなるなんて…」
「それは…みなさんが素敵な人だから」
みほがそう答えるとダージリンはある言葉を送った。
「…そう、あなたにイギリスの諺を送るわ。『四本足の馬でさえ躓く』…強さも勝利も永遠じゃないわ」
「はい!」
なるほど、毎回勝てるとは限らない。実にダージリンらしい表し方だ。事実、今の大洗は無敗を出している。それに驕ってここで負ける可能性だってあり得るのだ。
「真澄さん、今度我が校に来て、また紅茶を入れてくださいね」
「ダージリンさん?」
「何かしら?」
すると少しだけみほは顔を赤くしながら言った。
「その…ちゃんと帰らせて下さいね」
「あら、それは本人の判断によるのでは?」
「はっはっはっ!私にお嬢様は似合わないよ」
そう言うとダージリン達も納得した様子で頷く。
「確かに、貴方はいつも暴れているほうが似合いますわね」
「余計な一言だな」
「先ほど私をダー様と言ったお返しです」
彼女はそう言うと最後に軽く挨拶を終えて去っていった。
そして待機場所に戻った真澄達はそこで思い思いの決意を表す。
短十二糎自走砲も改装が加えられ。指揮戦車シキのように車体に三七ミリ砲を副砲として搭載していた。元は二回戦のアンツィオ戦で無線手の伊藤自身が望んだ装備であった。
大口径の主砲の装填時間をカバーするために乗せたこの副砲は、至近距離であればパンター側面を十分な貫徹力を有していた。
そして砲塔横には熊のマークの横に『義』の白い墨字の塗装が施されていた。
「真澄」
そして近づいてきた真澄に榎本が持っていた、鞘に入った日本刀を真澄に渡す。
「ありがとう」
そう答えると、そこで彼女は腰にその刀を差し込む。大洗のパンツァージャケットには不似合いにも見えるその日本刀は。不思議にも真澄が持つと、とても一人の武人のように似合っていた。
「ほほぅ、懐かしい」
「これで完全復活ね」
「おお…」
思わず大隈達がそう溢してしまうと、そこで一人の武人のように勇ましい姿を見せる彼女は言う。
「懐かしいだけじゃだめなのさ。私も、前に進まないとな」
「そうだね」
そこで榎本も言うと、少しだけ微笑んでいた。