いよいよ始まった決勝戦。九両の大洗女子学園と二〇両の黒森峰女学院という明らかな戦力差は側から見れば無謀な戦いに見える事だろう。
しかし一回戦と準決勝で共に強豪と言われるサンダースとプラウダを撃破した実力から、大洗女子学園は今や注目の的であった。
「まさか今度は高校で一戦を交えるとはね…」
「こんな事ないだろうと思っていたけど」
そう伊藤と大隈がそう話す。
現在、大洗部隊は九両でⅣ号を先頭にパンツァーカイルを作って進撃をしていた。
そんな中、短十二糎のキューポラから顔を出した真澄は懐からソーダシガレットを取り出して口に咥えていた。
「今度の相手はⅢ号じゃなくてティーガーとかパンターが相手って言うね…」
「正面から抜くのはほぼ無理でしょうね。タ弾もそんなに数ないし…」
「あら、その方が私は燃えるわよ」
そう言い黄色く塗られたタ弾を持ちながら榎本が溢すと、大久保が俄然やる気に湧いた様子で答えた。
「真澄、私にも一本」
そこで大久保がそう聞くと、真澄は呆れたように言う。
「自分のがあるでしょう?」
事実、彼女の懐には葉巻型菓子をいつも持っていた。
「恩賜の煙草みたいな感じでさ」
「…ほら」
そこで真澄は大久保に一本シガレットを手渡すと、彼女はそのまま口に咥えていた。
「サンキュー」
そこで大久保は少し嬉しそうにしてシガレットを食べていた。
「良かったですね、西住殿。仲間を助けた西住殿の行動は間違ってなかったんですよ!」
同じ頃、Ⅳ号の中では。先ほどの赤星の話を聞き、秋山は嬉しげにみほに話しかけていた。その顔はとても安堵していた。
「…今でも本当に正しかったかどうかは、わからないけど…でも、あの時わたしはチームメイトを助けたかったの仲間の誰かを犠牲にしたりせず。みんなで戦いきりたい…そう思っていたんだと思う…」
みほはどこか遠くを見ながらそう口にする。その目は何処か明るく、吹っ切れたようでもあった。
「沙織さん、各車に連絡を入れて」
「了解、みぽりん」
そう言って、武部は通信機を操作して全車に通信を入れた。
「此方あんこうチーム。現在私達は二〇七地点まで約二キロの場所に居ます。今のところ、黒森峰の姿は見えません」
その言葉に真澄達以外の大洗メンバーは安堵の表情を浮かべた。
流石にこの序盤から戦闘なんて気が滅入ってしまう。やはり決勝戦という事で相手の強豪校に少し萎縮してしまっていた。
「ですが皆さん、フラッグ車を守りつつ最後まで油断せず落ち着いて行動しましょう。以上、交信を終わります!」
「アレ?なんか話し方変わりました?」
話し方の変化に五十鈴が少し、疑問に感じた。
「本当、余裕を感じます」
「え?本当!?プロっぽい?」
秋山の言葉にすっかり浸け上がって体をややくねらせる武部。
「全然プロっぽくない」
「ヒドイ!何でそんな事言うのっ!?」
ただ冷泉の一言であっさりと雰囲気がぶち壊されてしまった。
「だって、アマチュア無線だし」
そう言って車内が笑いに包まれそうになった瞬間。
ドドンドンドンッ!!
周囲に数発の砲弾が着弾した。
「何!?」
「もう来た!?」
「嘘ぉっ!?」
突然の事に他のチームが焦りと驚きを見せる中。みほは双眼鏡を取り出して辺りを見回し、目についた森林地帯を睨んだ。
「九時方向、敵発見!」
そこには森の木々の間に進撃してきたラングやパンターG型、ティーガーⅠ・Ⅱ、ヤークトティーガーやエレファントが停車し、砲撃を行ってきた。ドイツ戦車や森から出てきたなどから、まるで西方電撃戦のアルデンヌの森のようだった。
「ちくしょう、最低でも七〇口径七五ミリ砲かよ」
「羨ましい。うちのⅣ号に乗っけられないかな?」
「流石に厳しいでしょう…」
「木製モックアップしか作られてないよ〜」
思わず余裕げにそう溢してしまう。
「いきなり何!?」
「前が見えないじゃない!」
「森の中をショートカットして来たのか!?」
いきなりの攻撃に皆が驚き、狼狽える中。真澄は顔を覗かせたまま双眼鏡を見る。
無論、いきなりこんな攻撃は驚くはずだ。
「全車、ジグザグに動きなさい。之字運動よ」
「いきなり猛烈ですねッ!」
「凄すぎる!!」
「これが西住流!!電撃戦さながらってところですかっ!」
「…ッ!」
Ⅳ号の車内でも、容赦無い攻撃にパニックを通り越して感動しているような雰囲気すら漂っていた。
『全車、ジグザグに動きなさい。之字運動よ』
「っ!!みなさん!真澄さんの言う通りに動いて、前方の森に逃げ込んでください!」
そんな中、みほはすかさず指示を出して他の全員も指示通り戦車を左右に動かし始めた。
「全車両一斉攻撃!…ちょこまか逃げてもムダよ」
「前方二時方向に、敵フラッグ車を確認」
「よし!照準を合わせ!」
森林をアルデンヌの森の如く抜けてきた黒森峰部隊、その中のティーガーⅡに乗るエリカは指示を飛ばす。
「ももがーさん、どんどん遅れてるよー」
「ぎ、ギア固ッ!入んない!」
「ゲームだと簡単に入るのに!」
そんな中、三式中戦車に乗るアリクイさんチームの三人はギアチェンジに一苦労していた。
これは九七式にも由来する欠点であり、シンクロメッシュ機構と呼ばれる変速機構に回転速度を同期させる装備が三式や短十二糎には搭載されておらず。うまく動かすにはエンジンを吹かして回転数を合わせる必要があった。この欠点は四式中戦車になるまで直ることは無かった。
彼女達が加入したのが決勝直前ということもあり、大隈達はその事を満足に教えられなかったのだ。
「やった!ギア入った!……あれ?」
「バ、バ、バックしちゃったよ!?」
そしてももがーが闇雲に力を入れてギアレバーを動かせられたはいいものの、バックに入れてしまい三式は後退を初めてしまった。
「照準よし!大洗フラッグ車に合わせました」
「一発で終わらせてあげるわ」
その内心、エリカは勝利を確信すると同時に不完全燃焼気味に見ていた。
「装填完了!」
「よし、撃てぇっ!!」
そう叫んで、エリカのティーガーⅡから砲弾が発射され。そのままジグザグに避けるⅣ号の後部に命中しようとした。
しかしそこへ、照準器に三式が勢いよく割り込んできた。
「っ?!」
流石にこの事態にはエリカ車の砲手も思わず驚く。
そして割り込んだ三式はⅣ号の盾になって砲弾の直撃を受けて撃破された。
「「「ギャアアアッ!」」」
車内では三人の悲鳴が上がり、三式は撃ち込まれた衝撃でエンジン部分から黒煙を上げながら回転し、行動不能を示す白旗が飛び出た。
『大洗女子学園、三式。行動不能!』
白旗を確認したアナウンスが流れていた。
「アリクイ、無事?」
無線で真澄は呼びかける。なんという運か、フラッグ車を身を挺して守った仲間の無事を確認していた。
『ごめんね黒田さん、西住さん。もうゲームオーバーになっちゃった』
『怪我は!?』
みほも無線で聞くと、彼女達の声がそれぞれ聞こえた。
『大丈夫』
『大丈夫だっちゃ』
『大丈夫なり』
『良かった、大丈夫みたいね』
元気そうな反応を聞き、一瞬ホッとするのも束の間。真澄は無線で言う。
「お陰で助かった。……感謝するわ」
『えへへ、偶然だけど良かったナリ』
そう言った後に無線を切ると、榎本が少し微笑みながら言う。
「無事だったみたいね」
「ええ、何かとこの競技は怪我が多いからね……」
「入ってきたのが直前だったから、あまり詳しく教えられなかったわね」
大隈が少し悔しげにいうと、横で伊藤が言う。
「これが終わったらしっかり教えましょう」
「ええ、そうね」
そう答えると、大洗部隊はそのまま目的地まで前進を続けていた。
『隊長!敵が森を抜けました。こちらを追って来てますっ!』
前進中のウサギさんチームの澤から黒森峰が森を抜けてそのまま追撃して来たと無線で知らせが入る。
『全車両、作戦を開始します!もくもく作戦です!』
『もくもく用意!』
みほが指示を出し、武部が全体にその旨を伝える。
『もくもく用意!』
『もくもく用意』
『もくもく用意!』
『もくもく準備完了!』
『レオポンチームも完了しました』
『いつでもどうぞ』
もくもく作戦の準備が出来たと各車の車長から知らせが入る。
「みんな準備オーケーだって!」
「もくもく始め……!」
そこで武部が報告を入れると、そこでみほは頷いて作戦を発動した。
『『『『『もくもく始め!』』』』』
その瞬間、一斉に前者から煙幕が放たれ、風向きも相まって黒森峰戦車隊を真っ白な煙幕が包み込んだ。
そしてその煙幕を確認し、みほは的確に細かく指示を出していく。
「皆さん、この煙に乗じてこの先の丘に向かいます!続いて下さい!」
『『『『『了解っ!』』』』』
そしてみほはⅣ号の乗員に指示を出す。
「沙織さん、煙幕が晴れる前にカメさんチームに次の指示を!」
「了解!」
「優花里さん。B地点に到着次第、華さんとワイヤーを持ってウサギさんチーム、カバさんチームに向かって下さい!」
「「了解っ!」」
みほは煙幕で敵を撹乱している間に次の行動をする様に指示する。大洗チームはその煙に紛れてひたすらに目的地を目指していた。
「煙?忍者じゃあるまいし、小賢しい真似を…!撃ち方用…『全車、撃ち方やめっ』っ!?」
視界が悪い状況にもかかわらず、すかさず追撃を命令しようとするエリカにまほの抑制する声が飛んで来た。
「一気に叩きつぶさなくていいんですか?」
『下手に向こうの作戦に乗るな。無駄弾を撃たせるつもりだろう。弾には限りがある。次の手を見定めてからでも遅くない』
まほはそう言い、向こうの考えている作戦を予想していた。この戦力差で、向こうは少しでも数を減らしたいと考えているはずだ。すでに一両こちらが撃破している以上、向こうにとっては大きな痛手である事は予測していた。
「逃がすもんですか…」
大洗が発生させた煙に向かってエリカの戦車が機銃で掃射を行う。
「敵、十一時方向に確認!」
「あの先は坂道だ。向こうにはポルシェティーガーがいる。足が遅いから簡単には登れまい、十分に時間はあるはずだ」
地図を確認すればこの先に高地がある。恐らくはそこに陣地を組んで黒森峰と戦うのだろうと、まほは踏んでいた。