決勝戦で、大洗側が展開している作戦にオレンジペコは驚いた様子でそれを見ていた。
「煙幕を張るなんて…」
「All is fair in love ane war.」
ここでダージリンが流暢に格言を言う。
「恋と戦いはあらゆる事が正当化されるのよ」
前にみほに向かって言った『イギリス人は恋愛と戦争では手段を選ばない』の格言と類似した格言を言うダージリン。
「あ、煙幕晴れて来ました」
オレンジペコがそう言うと、ダージリンは飲もうとしていたティーカップを置いてモニターに目を移した。
この戦いの趨勢はどのように傾くのかは未だわからなかった。
『車長、煙幕が晴れてきました!』
今まで自分たちの目を奪っていた白い煙幕が薄れて行き、追撃中の黒森峰部隊の一人から報告が上がる。
高地に陣地を敷くのであれば、重量のあるポルシェティーガーがいる以上、構築は遅れるだろうと予測しており。早足で彼女達は高地に向かっていた。
「なっ!?この坂道をもうあんな所まで!?」
煙幕が晴れ、そこで見た景色にエリカは思わず驚いてしまった。
大洗部隊は予想よりもずっと高い場所におり、既に丘の後半辺りにまで差し掛かっていたのだ。エリカの視線の先では、最後尾のポルシェティーガーをⅣ号、Ⅲ突、M3リーが前方からワイヤーで引っ張り。後ろから直接短十二糎が押していた。
『さすがに重い…』
『レオポン、ダイエットするぜよ』
『どっしりしている所がレオポンの良いとこだ!』
『重い…ダイエット……』
重いポルシェティーガーを牽引する各車。
冷泉とおりょうは愚痴り、ポルシェティーガーのどっしりしている所を賞賛する左衛門左、重いとダイエットの単語に反応する武部など様々な声が散見された。
「そっかー、みんなで引っ張ってたのね。ポルシェティーガーを…。んんっ…や、やるわね」
カチューシャがまるで子供のように目をキラキラさせていた。奇想天外な方法に感心するのはなにもカチューシャだけでは無かった。
「なるほど、こうすれば早く進めるか…」
「うまく考えたわね」
そう言い、観客席では観戦に来ていた清靖と清子がそう溢していた。そのさらに横では巌も座っており、なかなか異様な光景が広がっていた。
「まさしく、みほさんらしい作戦ね」
清子はそう言い、面白くその様子を眺めていた。
「やばいよ!エンジン爆発しちゃう!」
「そんな訳ないでしょうが!」
大隈の冗談に真澄がそう叫んで答えると、そこで伊藤が首を傾げた様子で聞いた。
「というより、なんでこの車両。統制型エンジン…それも試製の物なんでしょう?」
「んなこと聞かれたって…」
そう、この車両はなぜか統制型一〇〇式エンジン…それもV12型エンジンに過給器を装備しており、普通で三〇〇馬力を持っているところを自動車部がチューンを施し。さらに馬力は上がっており、文字通り化け物みたいな加速力を得ていた。これでも連盟のOKが出たのだから頭がおかしい(褒め言葉)なぜ通過できた。おかげで中戦車のくせに軽戦車ばりの速度性能を持ち合わせていた。
「おかげで10式みたいな殺人ブレーキだよ」
「一回頭打ったし……」
大隈ですらギアチェンジに苦労するこの一品。本当にどうなってんのやら…。
「みほちゃん、そろそろ煙幕が晴れるわ」
『了解です』
キューポラから顔を覗かせ、真澄はそう言う。
「あの車両のエンジン。元が試製の統制型V12気筒な上に、元が三〇〇馬力…そこに自動車部のチューニングが入って五〇〇馬力近い出力を得ました」
思わずⅣ号の車内で秋山がそう溢す。
「中戦車には似合わない馬力だよ」
思わずその馬力に武部も苦笑してしまう。このⅣ号のエンジンが三〇〇馬力だ、それよりも小さい九七式車体に五〇〇馬力近いエンジンを載せていると言う事になる。普通の九七式の三倍近いエンジン出力だ。
「だが、その馬力が今はうまく生きているな。予想よりも早くのぼれている」
冷泉がそう言うと、そこでみほが無線で指示を飛ばした。
「もう直ぐ坂を上り終えます。アヒルさんチーム、カモさんチームの皆さん、準備は良いですか?」
『此方アヒルさんチーム。準備オッケーです!』
『カモチームも同じく、準備完了しました!』
磯部と園からの返事が来ると、みほは指示を出した。
「では、これよりパラリラ作戦を開始します!アヒルさんチーム、カモさんチーム。始めてください!」
『『了解!』』
ポルシェティーガーの牽引には当たらなかった八九式とB1が再び煙を噴き上げて散開する。
「何なのよこの作戦は!?まるで不良になったみたいじゃない!」
園は後藤による蛇行運転で他の子と共に右へ左へと激しく揺られながら言う。
「終わったら手が腫れてそう~」
忙しそうにハンドルを切る後藤も気が気ではなく、そんな事を呟いていた。
「お尻が痛い…腕が、つるっ…!!」
「頑張って!ワンハンドレシーブの練習だと思って!」
八九式の車内でも、操縦手の河西がやりにくそうに呟いていた。
他のチームはポルシェティーガーを引っ張ったり押したりしている状態で、蛇行する二両の間を進んで行った。
「こんな広範囲に煙幕が広がるとは…っ!!」
黒森峰部隊は高地に移動する途中で、それを見ていたエリカは驚いていた。
『全車、榴弾装填!』
まほからの指示が飛び、各戦車の装填手が榴弾を装填する。
『目標は、あの山の頂上だ。撃て!』
その指示と共に黒森峰の戦車の主砲が一斉に火を噴く。山の頂上付近は大量の巻き上がった土煙に見舞われた。
『敵、発砲!』
『煙幕が切れてきてます!』
「大丈夫です!今は丘の上を目指して下さい」
みほがそう叫ぶと、そこで突如。黒森峰部隊の砲声が聞こえなくなった。
「ヘッツァーが上手くやったわね」
「ええ、今のうちに」
そこでここには居ないヘッツァーの活躍に感心しながら真澄達は高地を登っていた。
「良ぉ~し…次はお前だ、パンターG型!」
初撃でヤークトパンターの履帯を切ったヘッツァーの中で角谷がそう呟く。その横で河嶋は装填をしていた。
そして砲弾が発射され、七五ミリ砲はそのまま次に一両のパンターの履帯に命中し。部隊は動きを止めていた。
「お見事です!会長!」
「どんなもんよ〜」
そう言い、河嶋に自慢している角谷は砲手席でそう溢していた。
「あいつ!!」
その攻撃に気づいたエリカが砲塔を回し始めた。
「会長、気づかれました。攻撃は此処までかと」
「二両が限界か、撃破したいな〜」
「もう少しの辛抱です。会長」
小山がそう返すと、そそくさとヘッツァーは撤退していった。
『深追いはするな』
そして逃げたヘッツァーへの追撃をまほは事前に制止させ、戦力の分散をさせなかった。
あくまでも試合はフラッグ戦であり、殲滅戦のように全部の車両を片付ける必要はない。フラッグ車の場所は把握している以上、余計な妨害は無視して進む必要があった。
攻撃された車両を残して、陣形を組み直して黒森峰部隊は高地に急行していた。
「やられる前に…有利な場所に逃げ込まないと」
「あなたもいつの間にか、彼女達の味方ね」
「えっ!?」
ダージリンに言われてオレンジペコは顔が真っ赤になった。
「西住みほ……」
同じ頃、観客席で座る千代の目はみほに向かっていた。その横では愛里寿も片手にボコを持ちながら座っており。試合を面白そうに見ていた。
「やあ、千代ちゃん」
するとそんな二人に声をかける人が一人いた。
「清子さん…」
「あら、先輩呼びじゃないのね」
「……」
そしてそのまま愛里寿の横に座った彼女は、そこで愛里寿に挨拶をする。
「初めまして愛里寿ちゃん。貴方の事はよくお母さんから聞いているわ」
「え、えっと…」
いきなり言われて困惑している愛里寿に千代はやや呆れや様子で言う。
「先輩、前に会った時。この子はまだ赤ん坊でしたのよ?」
「ああ、そう言えばそうだったわね」
懐かしげに納得した様子を浮かべた清子はそこで改めて挨拶をしていた。
「本当はお久しぶりなのだけれど…初めまして、私は黒田清子と言うわ」
「…貴方が、『東洋の踊り子』」
「あら、知っているの?」
「はい…母から、噂は予々聞いております」
思わずその時の二つ名を呟いた愛里寿に清子は懐かしげな目を浮かべると、千代が言った。
「この人は、真澄さんのお母様よ」
「っ!真澄お姐ちゃんの……?!」
そう愛里寿が言うと、清子はやや驚いた目を向けた。
「あら、真澄の事をそんなふうに呼んでくれるなんて……」
「そのぬいぐるみも、真澄さんからもらった物ですよ。嬉しそうにいつも持っています」
「あら、真澄もそれは喜ぶでしょうね」
そう言うと、清子は愛里寿の抱えているぬいぐるみを見ていた。
『隊長!配置完了です!』
『守り固めたよ』
「了解!全車両、照準をフラッグ車の前にいる車両へ!」
丘を陣取り、黒森峰を迎えつ準備を整えていると。そこにカメさんチームから無線が聞こえた。
『西住ちゃーん、こっちは二両履帯破壊しといたよー。少しは足止めになったかな?』
「十分です。ありがとうございます」
『じゃあ、次のタイミングまで待機してるねー』
カメさんチームと無線を終えると。
「西住殿、来ました」
秋山がそういい、みほが視線を前に向けると。そこには黒森峰の戦車十六両が高地麓に横隊で並んでいた。
「全車停止」
『くっ、敵に態勢を整えられた……』
「構わん。こちらが正面から粉砕するまでだ」
まほはエリカにそう返すと、彼女も納得した様子を浮かべた。
「想定より早く陣地を構築したな」
双眼鏡で高地山頂に陣地を敷いている大洗部隊を見たまほは指示を出す。
「囲め」
合図と共に黒森峰部隊は高地山頂に向かってジワリと網を狭めて行く。
「砲撃始め!」
それを見たみほは一斉に全車両に指示を出す。
『砲撃始め!』
『砲撃始め!』
そして大洗部隊が一斉に有利な高所から砲撃を行う。
それを迎えつように黒森峰部隊も攻撃を開始し、高地に土煙が舞い上がる。
そんな中、Ⅲ凸の砲弾が一両のパンターに命中し、白旗が上がる。
「よし!まずは一両撃破!」
そこで一番初めに敵を撃破し、同時に高揚し始めたエルヴィンは次の目標を指示する。
「良し、それじゃあ次!一時のラングだ!」
「ラングって何れだ!?」
「ヘッツァーのお兄ちゃんみたいなヤツ!」
左衛門佐が思わず首を傾げたところに、エルヴィンは分かりやすい?例えで答えた。
「まずはパンター!」
「了解!」
そして砲塔が周り、登ってくるパンターに照準が合わさる。
『短十二糎の砲塔がこっちに!って来たぁっ!!』
その瞬間、砲口を向けられたパンターの上面に十二センチの砲弾が命中し、簡単にパンターが撃破された。