蝶野の大雑把な訓練内容に困惑しながらも、榎本達の乗る短十二糎自走砲は森の中を進む。
「重葉、あとどのくらいだ?」
「一分くらいです」
「っ!見えた!」
「停車!」
目的地である橋の見える位置に停車するとそこで榎本達は複数聞こえる砲声を耳にする。
「誰が撃ってる?」
「うーん、五〇粍以上と言うことしか……」
「候補多いですね」
少なくとも音的にその程度しかわからないと思うと、ちょうど見ていた橋向こうにⅣ号と、それを追うⅢ突と八九式を見た。
「ああ、撃ったのはあの二両ね」
「撃つ?」
「駄目、今撃ったら破片がみほちゃんに当たる」
そう言い砲塔から身を乗り出しているみほや他の乗員を見た。
それを見て砲手の大久保は納得していた。
その頃みほたちは、八九式とⅢ突に追い回されていた。しかも車内には逃げる際中に出会った冷泉麻子を乗せていた。
「も~やだぁー。どうすればいいのよー!!」
武部が取り乱しそう言う。みほはハッチをあけて前方を見るとそこにはつり橋があった。
「停車してください」
みほがそう言うと操縦手をしている五十鈴が止める。するとみほは戦車から降りる。
「今出たら危ないですよ!?」
「大丈夫。二発目まではたぶん時間があるから!」
そう言い、みほは戦車が橋を渡っても大丈夫か確かめる。
「ゆっくり前へ!」
みほがそう言うとⅣ号はゆっくりと前に進む。砲撃の影響で橋が大きく揺れた。その反動で戦車は橋のワイヤーを摩擦で切ってしまい、その重量で端は大きく傾いた。
「落ちるぅ〜!嫌だぁぁぁ!」
武部が思わず叫ぶと、その瞬間。
「撃てぇー!!」
Ⅲ突の七五ミリ砲が火を吹いた。その砲弾はⅣに命中するも、不発故に白旗判定は出なかった。だが……
「あっ……!」
「五十鈴殿!?」
操縦室で先程のショックでやられたのだろう、五十鈴が気絶してしまっていた。
「華!大丈夫!?」
「操縦手失神!行動不能!」
Ⅳ号では大混乱が広がっていた。その頃、Ⅲ突では。
「居た、見た、撃った」
「よしっ!行けるぞ。このままBチームと協力して撃破するぞ」
装填手のカエサルと車長のエルヴィンがそう言う。どうやらみほを警戒してBチームと手を組んだみたいだった。
「なんと卑怯な!これでは二対一であります!!」
「車長!撃ちましょう!」
「待て、確かに見過ごすことはできない。利子」
「Ⅲ突を狙います!」
「よし……ん?」
その瞬間、橋の上のⅣ号の動きが変わった。さっきよりもメリハリのある動きだ。
いきなりバックしたかと思えば急に前進し、Ⅲ突と八九式の攻撃をかわす。そして停車して砲塔が回転し始めた。
「照準良し!」
「撃て!」
その瞬間、十二糎榴弾砲が火を吹いた。
その頃、操縦手が気絶して大混乱のⅣ号では……
「…操縦は苦手だけど、私がやるしか」
みほがそう言った瞬間。Ⅳ号が動き出し、橋の真ん中に移動する。皆は操縦席を見るとそこには操縦マニュアルを片手に戦車を操縦している冷泉が居た。その姿は何処かのトリコロールカラーのロボットアニメを彷彿とさせた。
「麻子!運転出来たんだ!!」
「今覚えた」
「今っ!?」
「さっすが学年主席!!」
秋山が思わず驚くと、武部は感心した様子を浮かべる。
「とにかく撃てぇ!」
「連続アタックっ!!」
「「「それ!それ!それぇ!!」」」
すると後方の八九式から九一式車載機関銃の引き金を引く。
Ⅲ突では思いのほか重い七五ミリ砲弾にカエサルは苦労していた。
すると、Ⅳ号がバックし始める。
「ちょっと!バックし始めたよ!」
「わかってる」
武部とは裏腹に冷静な返答をする冷泉は操縦桿を倒して急発進し、Ⅲ突と八九式の砲撃を避ける。
するとその衝撃で気絶していた五十鈴が目を覚ました。
「は!?わたしは……」
「大丈夫?」
「あ、はい……すみません」
「ううん。少し休んでて」
「いいえ、大丈夫です」
そう答えると五十鈴は前を向いた。それを見てみほは安心した顔をした。
「……秋山さん!砲塔を回転させてください!」
「は……了解!!」
そう言い秋山は砲塔を回すが……
「西住殿!敵が砲撃しています!」
「砲塔間に合いそうですか?」
「まだ照準があってませんので難しいです!」
そして、Ⅲ突が砲撃しようとした瞬間。
ドゴーン
Ⅲ突の目の前に巨大な爆発が起こり、Ⅲ突は一瞬宙に浮くと照準がズレてしまった。
「Ⅲ突の照準がズレました。チャンスです!秋山さん、お願いします」
「わ、分かりました!!」
そう言い、Ⅳ号ははじめにⅢ突を撃破し、次に八九式を撃破した。
その時、砲撃音を聞いた五十鈴が何かに目覚めたようは声をこぼし、少しあぶない雰囲気を出していた。
「有効!Cチーム、Bチーム。走行不能!やるわね」
「当然、ウチの仲間ですもの」
観察所で蝶野は感心した様子で会場を見ていた。
「お疲れ様」
「やはり榴弾砲は当てづらいです」
「弾速遅いですしね」
榎本が大久保の肩を叩きながら愚痴をこぼすと、次弾装填しながら最後に伊藤が呟く。
「武代、敵確認。M3中戦車と38t軽戦車」
「やっと到着したの。…よしそちらを狙え」
「はっ!」
そして旋回するとまた砲撃を行う。この車両は新砲塔型、つまり三人乗り砲塔を改造したので五人乗れる車両だった。まあ、無理をすれば。という話だが……。ただ、そのせいか車内に乗っていても十二糎砲弾の装填が比較的しやすかった。あくまで二人だからだろうが……。
あとこの車両、なぜかエンジンが統制エンジンを搭載しており。通常よりも馬力は高かった。
「撃てっ!」
そう言い大久保が引き金を引く。
その砲撃に気づかず、38tの中で河嶋が呟く。
「ふっふっふっ…ここがお前らの死に場所だぁ!」ドゴーンッ
その瞬間、真横から十二糎砲弾を叩き込まれた38tはあっという間に横転しながら撃破され、M3に乗る一年生はすっかり戦意喪失していた。
「やっぱ半端ない!」
「それにあの砲撃も怖い!」
「逃げよ、逃げよ!」
「そうしよ、そうしよ!」
「急げぇー!!」
あまりにも慌てていたせいか履帯が泥沼にはまったあげく、履帯が外れそしてエンジンがエンストを起こして白旗が上がる。
『DチームM3、Eチーム38t、CチームⅢ号突撃砲、Bチーム八九式、いずれも行動不能!』
無線でそう放送が聞こえる。
「あとは榎本殿の短十二糎自走砲ですね」
「でも何処にいるんだろう?」
「っ!あそこ!!」
みほが目を向けた先で、稜線奥から車体を乗り出す草色の戦車を見た。
「あんな所から……」
「元が榴弾砲なので、ああいう稜線射撃が得意なんですね」
「不味いよ!こっち狙われちゃう!」
橋の上で満足に逃げ道がない状況では圧倒的不利だと武部は半狂乱になりかけた所、キューポラから榎本が体を出すと、その手にライトを持って発光信号を送った。
「あれは……」
「発光信号ですね、読み上げます!」
そう言い、秋山が発光信号を読み上げた。
「えっと……ソ・ウ・キ・ユ・ウ・ニ・ハ・シ・ヲ・ワ・タ・ラ・レ・タ・シ、ワ・レ・ラ・イ・ツ・キ・ウ・チ・ヲ・シ・ヨ・モ・ウ・ス。っ!『早急橋を渡られたし、我ら一騎打ちを所望す』です」
「なーんか変な言い方。古臭い」
「昔の癖が抜けてないんだよ」
そう言うとみほは冷泉に安全に橋を渡るよう指示し、そのままⅣ号は橋を渡り切った。
そして渡り切ると、反対側の声が聞こえる範囲で榎本が顔を出して一時的に車長となったみほに話しかける。
「やはり貴方はそこの席が一番似合うわよ」
「そういう榎本さんだって……」
「彼方はやらされているだけ。家臣は主君を立てるために存在するのよ」
その主君が誰なのかはみほも理解していた。ここには居ない、戦車に乗ることを拒否されてしまった哀れな少女。
かつて自分がコテンパンに負けた最強の軍師を……
「さて行こうか。情け無しね」
「はいっ!」
そう言うと先に動いたのは榎本達だった。
「戦車前進!」
「側面を見せないで!大丈夫、正面を向けていれば抜かれません!」
事実、十二センチの巨大な大砲を備えているというのに真正面から撃ってこない。だが側面ともなれば分からなかった。
「撃て!」
みほが叫ぶと砲弾が発射される。しかし、急停車した短十二の目の前に着弾する。
「っ!!」
そして急発進すると短十二はそのままⅣ号に近づくように旋回する。砲塔では慌てて次弾が装填される。
「装填完了!」
「撃て!」
「そこっ!」
「うらぁっ!」
そして発射された二発目も外れ、そのまま短十二は地面を大きくスライドすると一気にⅣ号の後ろに回り込んだ。
「っ!」
「発射!」
そして真後ろから発射された十二センチ砲弾はその質量をエンジンに叩き込み、Ⅳ号から白旗が上がった。
『AチームⅣ号D型、行動不能!Fチーム短十二糎自走砲の勝利!!』
蝶野がそう言うと、初陣試合は終了した。
『撃破された戦車は後で回収班が回収するわ。とりあえずみんな、戻ってきてちょうだい』
そう言うとあの場所まで徒歩で戻らなければならないのかと思ったが、その瞬間。回収車とトラックが現れ、荷台には今までに撃破された生徒達が座り込んでいた。
「お送りしましょうか?」
「彼方は結構。先に戻っている」
「分かりました」
運転席にはあの機動隊の隊員が乗り込んでいた。こういう時、後ろにいる人間が多いとこう言うアフターケアがされるから有難いのをみほ達は実感していた。
「みんな初めてでこれだけガンガン動かせれば上出来よ!!」
蝶野はそう言う。昔から剣道の交流試合で彼女とは何度か竹刀を交合わせたこともある真澄からすれば鉄板ネタであり、よく一発芸で真似すると大好評のネタだ。主に彼女を知っている人から……。
「特にAチーム、そしてFチーム。両チーム共に素晴らしい戦いをしていたわね」
そう言うと蝶野は二チームの健闘を讃えていた。そして最後に彼女は全員に顔を向けながら言った。
「皆あとは各々戦車訓練に励むように、何かあったら連絡ちょうだいね」
「それでは、本日の戦車訓練を終了します。一同、礼!!」
「ありがとうございました!!」
こうして一日目の訓練は終了した。
「すごく強かったですね」
「榎本さん達、何者なの?」
帰り際、そんな疑問が秋山や武部から出てくる。彼女達にとってみれば不良グループの代表たちであり、はっきり言ってそこまで良い人間には見えなかったのだ。
「まるで一心同体でした。あんな至近距離で砲撃を避ける技術、到底今の私達では届きそうにありません」
「おまけになにあのドリフト!意味分かんない!」
武部達はそう言い文句が漏れていると、みほはやや苦笑していた。