「これで二両撃破…」
高地に居る戦車を見ながら真澄はボードに戦車の名前と数を数えていく。
「さらに一両、Ⅳ号がラングを撃破しました」
その時、伊藤が報告を詳しく挙げた。
「これで残っているのはラングが四両、パンター五両、ヤクパン、ヤク虎、象、虎Ⅱ二両、虎Ⅰ一両…」
「二両居ませんね」
砲弾を装填する榎本がそう溢す。先ほどヘッツァーが足止めをした二両を足しても。この場には二両足りない事にやや疑問を感じていた。
まさか十八両で試合に参加しているはずもないので、二十両いるはずだ。
「今考えても仕方あるまい」
「まあそうね」
とにかく、目の前の現状を打開する方が優先案件という事で真澄達は取り敢えずこの問題を片隅に追いやっていた。
「ヤークトティーガー。正面へ」
高地攻略中に撃破されたのは三両。二両は行動不能で、残るは十五両。
まほは涼しい顔で指示を出すと、大洗チームの前に巨大な戦車を持ち出した。
彼女らの戦術は至って簡単な物だった。それは、装甲の硬い戦車を前面に出して盾代わりにして進み続ける事だった。
「うわっ、来やがった」
「ヤク虎だ…」
思わず冷や汗をこぼして大久保達は言う。
ヤークトティーガーは主砲に一二八ミリ砲を備えた重駆逐戦車であり、前面装甲も二五〇ミリと言う分厚さ。
ティーガーⅡをベースに車体長を延長しており、七〇トンと言う劣悪すぎる重さを持っていた。
「流石に無理がある」
事実、ゆっくりと前進してくるヤークトティーガーに砲撃が命中するが、悉く弾かれていた。
『さすがは重駆逐戦車。正面きってでは分が悪い!』
するとお返しと言わんばかりに黒森峰から嵐の様な砲撃が丘の頂上に向けられ砲弾の雨が大洗の戦車隊に降り注ぐ。
「な、なんとか各車無事だよー」
土煙が立ち込めながらも砲撃が止み、煙が晴れた時。撃破された大洗の車両は居なかった。
「これが王者の戦いよ。このまま正面からねじ伏せてあげる」
パワーバランスでいえばこれほどわかりやすいものはない。純粋な戦いでは大洗に勝ち目はなかった。
「せっかくここまできたのに…このままだと撃ち負ける…!」
「さすが黒森峰…」
「マルタの大包囲戦のようだな…」
「あれは囲まれたマルタ騎士団がオスマン帝国を撃退したぞ!」
「だが…我々にそれができるか?」
大洗の面々に不安がよぎる。このままでは一方的にやられてしまうのではないか、という不安が過ぎった。
その攻防戦は遠くで別行動をしていたヘッツァーからでもよく確認できた。
「すごい砲撃戦…」
「真綿でじわじわ首を絞められているようだな」
「こっちもあそこを要塞にするって見越していたようだね~。…まぁ、当然か」
黒森峰側もこちらの戦力差は認識していた。常に有利な立ち位置を意識しているだろうと、呼んでいたのだろう。
状況は刻一刻と動いていた。現状の状況を判断し、みほは次の行動を決めていた。
「十七対八、これだけ潰せば…。ここから撤退します!」
「でもこの包囲の中どうやって!?退路は塞がれちゃっています!」
高地は黒森峰部隊がしっかり囲んでおり、抜ける場所は見当たらなかった。
『西住ちゃん! 例のアレやる?』
「はい! おちょくり作戦始めてください!」
そこでカメさんチームからの無線が届き、それにみほは迷わず答えた。
「皆さん、カメさんチームが作戦を開始しました!しばらくこちらに注意を引きつけて下さい!相手に悟られないで!」
『了解よ!』
『『承知!』』
『ヤークトティーガーの足回りをバーストさせてやるーっ!』
『タイヤじゃないよー』
確かに抜ける場所はない。だが、抜け道がないのなら作ってしまえばいい。
「準備いい?」
「はい」
「はいっ!」
「じゃあ、おちょくり開始~」
そう言うと、意気揚々と戦場にヘッツァーは向かっていった。
その頃、主戦場に向かう一両のヤークトパンターが一両。それは先ほど、ヘッツァーの奇襲攻撃で履帯を切られて移動不能になっていた車両だった。
「ふぅ、何とか修理が間に合った〜…さて、早く本隊と合流しなきゃ」
そう言い、安堵した様子で大きな土煙の上がる主戦場に移動する途中。その後ろから聞き慣れない音が聞こえてくる。
「ん?何の戦車…ってああ!?」
その視線の先に居た戦車は、先程自分の戦車の履帯を破壊したヘッツァーだった。
「またあんな所から出てくるなんて…七時の方向!例のヘッツァーよ!」
ヤークトパンター車長の少女は操縦手にそう命じ操縦手が大急ぎで方向転換しようとするものの。それも虚しくヘッツァーから砲撃を喰らい、再び履帯を切られて行動不能に陥れられるのであった。
そしてそのまま横を颯爽と走っていくヘッツァーに怒鳴り散らしていた。
「うわああっ!?直したばっかりなのにぃ!!このぉ!!うちの履帯は重いんだぞ!!」
悲惨な声が聞こえた来たが、そんなこと露知らず会長は声高らかに叫ぶ。
ちなみに言うと、パンターの履帯は一つ二十キロを超える重さであり。少女が直すだけでも一苦労だろう。南無三。
「突撃~!敵陣を掻き回せーっ!!」
「こんなすごそうな戦車ばかりのところに突撃するなんて、生きた心地がしない…」
「西住達じゃあるまいし…今更ながら無謀な作戦だな」
「ほら二人共、ビビんないビビんない。あえて突っ込んだ方が安全なんだってよ? 」
自分達を見ている黒森峰の戦車を前にして、小山と河嶋の二人は若干の怯みを見せた。
「こう言うのって、敢えて突っ込んでいった方が安全なんだってよぉ~?」
そう言うと角谷は何処からか持ち出した雑誌を片手に干し芋を摘まんでみせた。
「それは後にしましょうか…」
小山は呆れながら、作戦通りにパンターとエレファントの間に滑り込んでいた。
「え!?」
それを見ていた他のパンターの車長は真横に突然現れたヘッツァーに思わず驚く。
「十一号車、十五号車! 脇にヘッツァーがいるぞ!!」
それに気付いたパンターの車長があわてて操縦手に足蹴りで指示を送る。
「くそっ!同士討ちなるから撃てない!!」
その指示を受け、ヘッツァーの左隣に居たパンターは一旦後退して、走り出したヘッツァーを狙おうとするものの、直ぐ傍にエレファントが居た。
「こちら十七号車、自分がやります!!」
その中、一両のラングが照準を合わせようと車両を旋回させるが。うっかり側面を山頂の大洗部隊に晒してしまい。そのまま撃破されてしまった。
「申し訳ありません! やられました!!」
「私が…!!」
「待て!Ⅲ突が向かってくるぞ!」
ヘッツァーに撹乱される黒森峰本隊に陣地を抜け出した、大洗本隊が徐々に降りてきていた。
「まるで昔の先輩のようです」
「え、そう?」
観客席で千代はそう溢す。
「世界大会二回戦。ドイツとの試合の時。貴方はチャーフィーに乗って敵陣に突っ込んで撹乱していましたね」
「あー、確かにそうだったわね」
そこで思い出したように少し納得した彼女はモニターに目線を戻していた。
「あんなに混乱した黒森峰を見たのは、初めてです」
同じ頃、アリサは大洗の作戦に翻弄されている黒森峰を見て驚愕していた。
「黒森峰は隊列を組んで正確に攻撃する訓練は、積んでるけどその分突発的な事に対処出来ない」
「マニュアルが崩れてパニックになってる訳ですね」
ケイの言葉にアリサ納得し、改めてモニターを見ていた。
「右側がグチャグチャだよ!」
「右方向に突っ込みます!皆さん続いて下さい!」
大混乱している黒森峰を見て、みほはこれを機に前進を指示する。
「レオポンさん先行してください。クマさんは後衛を」
『了解』
『任された』
先頭を最も防御力のあるポルシェティーガーが一気に高地から降りてくる。
咄嗟にラングやパンターから砲撃が来るも、その速度では間に合わず。大洗の本隊は二両のラングの合間を縫うように一気に抜けていった。
そして最後尾の短十二糎が煙幕装置を起動させ、真っ白な煙幕を吐き出しながら一気に去っていった。
『いやっほー!』
『やりました!』
『やれやれ、スリル満点だな』
思わず冷泉はこの状況に半分呆れていた。
『すみません!全車両に逃げられました!』
『何やってんの!!せめて一両はやりなさいよ!!』
高地から脱出された事に思わずエリカは激昂して叫んでしまった。
黒森峰は焚かれた煙幕によって満足に動くことができなかった。
『落ち着け。体制を立て直して追え、此方も直ぐに向かう』
「私が行きます!」
エリカが叫ぶ中で一人冷静なまほはそう言うが。エリカが先行すると言い出し、そのままティーガーⅡを向かわせた。
「どこへ行く気なの?」
「面白くなってきたわねぇ」
アリサは高地から脱出した大洗部隊を見て首を傾げると、ケイはポップコーン片手に興味津々な様子で言った。
『西住ちゃーん!うまくいったね〜!』
「カメさんチームのおかげです」
撤退中のみほ達に角谷から無線が入る。
『この後は、次の川のポイントまでだよね?』
「ハイ!ちょっと離れますが南西の川ポイントCの地点に向かいます。またカメさんチームには撹乱をお願いします」
『了解〜』
そう言うと、そこで一番後ろを走る真澄から無線が入る。
『こちら最後尾。黒森峰部隊の追撃を確認』
「ここまでは西住殿と黒田殿の読み通りですね」
無線を聞き、秋山がそう答えると。みほも頷いた。
「うん、各車縦隊でジグザグに走って下さい!敵の追撃を振り切りますっ!」
『『『『『了解!!』』』』』
そう言い、ティーガーⅡの追撃を避ける為に大洗部隊は之字運動をして避け始める。
すると他の車両がポルシェティーガーの横を走り抜けて行く中、ポルシェティーガーの後部から黒煙が上がり始める。
同時に何か嫌な音も聞こえ始め、故障したのだと一瞬で理解できた。
「レオポンがぐずり出したぞ」
「ちょっと宥めてくる」
ナカジマはそう返すと、片手に工具箱を持ってキューポラから出ていった。
「えっ?!」
そしてそのままナカジマは後部のハッチを開けて、修理を初め。それを見たみほは驚いた様子を見せた。
「はいはい、大丈夫でちゅよ〜」
赤ちゃん言葉になりながらナカジマは修理を続行する。ちなみに、走りながらの修理は本当に危険なので真似はしないように。
「壊れた所を走りながら直している」
「流石、自動車部」
その光景に秋山は驚きながら称賛していた。