大洗部隊が高地から脱出した後、エリカは追撃をかけていた。
「逃がさないわ。目標一時、フラッグ車!」
ティーガーⅡがフラッグ車であるⅣ号に照準を定めようとした時、突然ティーガーⅡが激しく揺れ出し、左に急激に曲がって行く。
「ちょっとどこ行く気なのよ!…何やってんの!!!」
足回りの弱いティーガーⅡを振り回したせいか、足回りが壊れてその場で足止めを喰らう羽目になる。
「左動力系に異常!すみません、操縦不能です!」
エリカ達は緊急でティーガーⅡから降りると、そこで転げ落ちた転輪やらを慌てて回収して修理を始めていた。
その光景を見ながら大洗部隊は颯爽と走り去って行く。
「プラウダ校対策だった重戦車運用が裏目に出た様ね」
「黒森峰の重戦車は足回りが壊れやすいのが欠点…それを狙ってたんですね」
ダージリンさんとオレンジペコの解説の通り。森の中の進軍から始まり、黒森峰側はずっと大洗をつけ回してきたのだ、足回りに負荷がかかるのは当然。
「走り回っていれば、黒森峰側は燃料切れをおこす車両も出てくるかもしれないわね」
そもそもプラウダ高校が相手ならこの黒森峰の戦力も納得だが、相手が大洗となると過剰戦力感があった。
「ありゃりゃ、ぶっ壊れた見たいね」
傾いたティーガーⅡを見ながら真澄が言う。
「無茶するから…」
「ティーガーは足回り弱いですからね…」
おまけにティーガーⅡに関しては、明らかに重量に対するエンジン出力が見合っていないので、よくオーバーヒートを起こしていた。
「自分の戦車をよく知らないから…」
「その点、うちらもあまり強く言えなくない?」
少なくとも五〇〇馬力近くという、十五トン級にしては明らか過剰とも言える馬力を有するエンジンを抱えているこの車両も文句は言えないと榎本は言っていた。
「良いの。うちらは一度も車両を壊してないんだから」
「それもそうか…」
真澄の反論に妙に納得できた大隈は納得すると、そこでみほから無線が入った。
『あんこうチーム、左折します。付いて来てください』
そこで地図を確認した伊藤が首を傾げた。
「あれ?この先は川ですよ?」
「ああ、横断する気ね」
「大丈夫?」
榎本が心配げに言うと、そこで真澄は言う。
「でも、ここを渡れば黒森峰本隊から大きく距離を取ることができるわ。向こうは川を渡るだけで一苦労だもの」
そう答えると、大洗部隊は川に向かって移動を行なっていた。
「この先はどのルートを?」
「この川を渡ります」
「川を渡る!?」
驚くと、みほは指示を出す。
「上流にはレオポン、下流にはアヒルさんが居て下さい」
「成る程、軽い戦車が流されない様に渡るんですね」
川に流されないように上流側にポルシェティーガー、下流側に八九式を配置していた。
そして並び終えると一斉に川を横断するために横一列になって一斉に川を渡り始めた。
「停まると動けなくなるから気をつけて下さい」
『『『『『了解!!』』』』』
そう答えると、大洗部隊は川を進んでいたが。その真ん中で、M3が突如動きを止めてしまった。
「え?あれ?うそっ!」
阪口は慌ててエンジンをかけるも、動く様子はなかった。
「エンジン止まっちゃったよ?!」
阪口は何度もアクセルペダルを踏むも、動く様子はなく。どんどんエンジンの音は小さくなっていった。
「ん?」
そして動かなくなったのを、真澄は首を傾げた。そしてエンジンの音が聞こえなくなったのを見て、真澄は無線を繋いだ。
「全車停止!M3の様子が変だ。止まってもエンジンを止めるな!」
そう言うと、全車両が川の中で止まった。
「みぽりん! ウサギさんチームが!」
「ウサギさんチームがエンスト!?」
その報告にみほ達は狼狽えた。
『一旦バックして!ギアを入れなさい!』
『ダメです!エンジンがかかりません!』
『水が入ったか…不味いね』
川中のエンストですっかり一年生達はパニックに陥っていた。吸気口から水が入ったのか、エンジンが止まってしまい、どうにもならなかった。
するとそこで澤は何かを思い立ち、みほに無線を入れた。
『私達は、大丈夫です!隊長たちは早くいってください!後から追いかけます!』
しかし、川の水圧は予想以上に高く。M3はやや下流に流されてしまった。
「あぶない!このままじゃ横転しちゃう!」
「それに、モタモタしてると黒森峰が来るぞ」
そう、現在黒森峰の部隊が追撃中であり。ここで立ち往生していると、本隊が到着してしまう。
「でも、ウサギさんチームが流されでもしたら…」
するとそこで新たな一報が入る。
「後方!黒森峰らしき煙を確認!」
「ちっ、近づいて来ます!」
『隊長!!早く!行って下さい!!』
状況は一刻を争う。その状況にみほは困り果てる。
黒森峰を率いる真帆であれば、まず間違いなく見つけた瞬間に撃ってくる。
「っ…!!」
みほは握った手が小さく震える。
このままM3を置いて行くのか。
はたまた、救出を優先するか。
脳裏によぎったのは去年の決勝戦。
雨の中を進む黒森峰の部隊がプラウダの奇襲を受けた際、雨で増水した川に滑落していったⅢ号戦車の救助の為に戦車を放り出して救助に向かった隙に撃破されたあの時の記憶。
滑落したⅢ号から聞こえてくる乗員の悲鳴。
その時の景色は今でもトラウマだった。時々夢にも出てくる。
それを見た武部は少しの間考えるような仕草を見せると、みほに声を掛けた。
「行ってあげなよ、みぽりん」
彼女は静かに答えた。それをみてみほは目を見開いた。
「沙織さん…」
武部の後押しもあり、みほは覚悟を決めた。
「優花里さん!ワイヤーにロープを!!」
「はい!!」
みほの指示に秋山は今にも泣きそうな表情で彼女にロープを手渡す。
「みんな!少しだけ待っていてください!」
『え!?何する気!』
そして腰にロープを巻きつけた彼女は車体後部に降りると、そのまま前方を見た。
M3にたどり着くには短十二糎、B1、Ⅲ突を飛び越える必要がある。
みほは軽く飛んで短十二糎自走砲のエンジン部に着地すると、そのままみほはB1に飛び移る。
「……」
その景色を見た真澄は徐に携帯を取り出すと、その景色をカメラに収めていた。みほは丁度、B1を飛んでⅢ突に向かって飛ぶ最中だった。
するとそこで武部から無線が入った。
『ますみん、聞こえる?』
「ええ、十分に」
彼女の願いはただ一つ。
『お願い!みぽりんを助けてあげて』
武部は真澄に向かってそう言うと、真澄は即答した。
「了解した」
一言そう答えると、そのまま無線を彼女は置いた。
そしてⅣ号の車内では少女達が微笑み合う。
「前進する事より、仲間を助ける事を選ぶとはな」
「みほさんはやっぱり、みほさんね」
「だからみんな…西住殿について行けるんです。そして私達は、ここまで来れたんです」
「そうだね」
だからこそ叶えたいと強く思う…優勝を。
「私…この試合、絶対勝ちたいです。みほさんの戦車道が間違っていない事を証明する為にも…絶対に勝ちたいです!!」
「無論、負けるつもりはない」
「その通りです!!」
「もちろんだよ!みんな!みぽりんを援護して!!」
武部がそう言った途端。Ⅲ突からM3に飛ぼうとするみほの真横に真澄が降り立った。日本刀は車内に置いてきていた。
「ま、真澄さん?!」
「手伝いに来たわ。相変わらず無茶をする事…」
少し微笑みながら彼女は言うと、次に車体後部に出てきた一年生達をみていた。
ここからM3まではやや距離があり、うっかり川にドボンする可能性もあった。
「あの子達を助けるんでしょう?」
「…うん……」
みほはそこで頷くと、真澄は目測で距離を測って彼女に言う。
「相変わらずだね。君のそう言うところ」
「……」
「だが、嫌いじゃない」
「ふぇっ!?」
すると突然、真澄はみほの足元を抱え、両腕で彼女の体を支える……俗に言うお姫様抱っこをすると、そのまま軽く助走をつけて軽くM3に飛び乗った。
「西住先輩!黒田先輩!」
目に涙を浮かべて喜ぶ一年生達。
「私は手前を行く。みほちゃんは奥をお願い」
「うん、分かった」
そこで真澄は今来たルートを戻って最後にポルシェティーガーにワイヤーを接続し、みほは奥の八九式に飛び移ってワイヤーを接続した。
そして全車両にワイヤーを繋ぎ終え、そこで確認のためにM3に戻る。
「全部繋いだわ」
「こっちも」
するとそこで一年生が詰め寄ってきた。
「先輩!」
「「?」」
「ありがとうございました」
「色々と迷惑をかけました」
彼女達はそう言うと、涙を浮かべて頭を下げた。そんな彼女達を見て真澄は最後に言った。
「エンジンが動かない時。最後の手段にこの言葉を言いながらエンジンをかけなさい」
「え?」
そこで真澄は一言、阪口達にある言葉を伝えると、彼女達は納得し、みほは少し笑った。
「じゃ、戻ろうか」
「はい」
そう言うと、二人はそれぞれジャンプして元の戦車に戻っていった。
「…変わらないわね」
その様子を丘上から見ていた黒森峰部隊、その中のエリカはそう溢す。まだ射程距離に届いていないが、大洗何が起こっているのかはよく見えていた。
「(トンビが鷹を産んだ…あながち、その表現は合っているかもしれないわね)」
双眼鏡で覗きながら内心でそう思っていると、その様子をまほは無言で聞いており。そこで静かにある音を聞き逃さなかった。
「後方七時に敵だ。十一号車、やれ」
その指示のもと、一両のパンターが森から抜けて出てくるヘッツァーに照準を合わせるとすぐさま発砲した。
砲弾はヘッツァーの至近に命中し、軽く車体が浮き上がった。
「うへぇ~!流石に三度目は無かったか~、撤退撤退~!」
ヘッツァーは素早く、そして潔く撤退した。ここでは仏の顔も二度までだったかと思いながらヘッツァーはそそくさと逃げ出していた。
そして全車両を繋いだ状態で川を進む大洗部隊。
「動いてよぉ〜!」
その中、引っ張られているM3の中。阪口はイグニッションを何度も押す。
「桂利奈、黒田先輩の言ってた奴!」
「あっ!」
山郷がそう言うと、彼女は納得した様子で真澄に言われたエンジンがかかる魔法の言葉を叫んだ。
「動けこのポンコツが!動けってんだよ!!」ドゴンッ!
その後に少し強めに叩くと、車両全体がゆっくりと振動し始めた。
「やった!」
「動いた!!」
そしてエンジンが掛かったことはすぐさま武部に伝えられた。
「みんな、ウサギさんチーム動き出したよ!!もう大丈夫だって」
「よかった…」
「全車両、ウサギさんチームと歩調を合わせて移動してください」
みほがそう指示をし、他の車長達も顔を覗かせてM3の様子を見始める。
そしてそのままエンジンの動いたM3や他の大洗部隊はそのまま川を渡り切っていた。