短十二糎はまほ以外の車両を塞いで撃破され、大洗戦車隊の中で残って居るのはⅣ号のみ。
校庭では二両の戦車が走り回ってチェイスを繰り広げていた。
中央広場のほぼ対角に相対する二台の戦車。
一時の静寂が流れると、Ⅳ号の無線に一報が入る。
『あー、こちらクマさん』
真澄直々の無線を武部は聴く。
『こっちは敵部隊を遠ざけたけど、別働隊がそっちに向かってるから。よろしく〜』
二重の壁を前にやっとの思いでポルシェティーガーを乗り越えたラングが絶望して居るが、街から遠ざけた別働隊や、嵌め殺しをされて居る真澄達の車両の事を伝える。
「みぽりん、敵が近づいているから急いで!」
「やっぱり一撃をかわしてその隙に距離を詰めるしか…」
武部の報告を聞き、みほは今相対しているティーガーⅠの性能と自分のⅣ号の性能を鑑みたシミュレーションを構築する。
「由香里さん、装填時間さらに短縮って可能ですか?」
「っ!はいっ!任せてください!」
みほに聞かれた秋山は少し嬉しげに、自信満々に答える。
「行進間射撃でも可能ですが、〇.五秒でも良いので、停止射撃の時間を下さい。確実に撃破して見せます」
五十鈴は万全を期するためにみほに言う。
「麻子さん。全速力で正面から一気に後部まで回り込めますか?」
「履帯切れるぞ」
そんな冷泉の懸念をみほは払拭するように言う。
「大丈夫。ここで決めるから」
「分かった」
冷泉はみほの言葉を信じて頷く。
そして全員の確認を終え、みほはキューポラから顔を出すと石柱を中心に反対に止まるティーガーⅠを見つめる。
そしてその映像を既に撃破された他の大洗戦車隊の面々や観客達は固唾を飲んで見守り、真澄達は天を見上げた。
「この一撃は、皆の思いを込めた一撃……!!」
照準器を五十鈴が覗いた時、
「前進っ!」
みほの号令が飛んだ。
そしてⅣ号が動いたのを見てティーガーⅠも反応するように動く。
「グロリアーナの時は失敗したけど…今度は必ず!」
みほは最後の最後で大洗に来て初めての試合で行ったのと同じ技をシミュレーションしていた。
大きく回り込んでくるⅣ号にティーガーⅠは超信地旋回を行って、照準を合わせる。
「撃てっ!」
直後発砲、Ⅳ号の砲弾はティーガーⅠの左正面に命中。
「撃てっ!」
その衝撃に揺らされながらもまほが号令、発砲すると砲弾はⅣ号のそばを掠めた。
そしてシュルツェンで初撃を弾いたⅣ号はそのまま横滑りし始めると、ティーガーⅠの操縦手は再び超信地旋回を行い、砲塔も旋回し始める。
Ⅳ号の履帯からは火花が飛び散り、横滑りの衝撃に耐えられず転輪が外れ、履帯が弾け飛ぶ。
そしてそのままドリフトを行なってティーガーⅠの後部に回り込むのと同時、ティーガーⅠの砲身が背後に回り込んだⅣ号を収める。
後部のエンジン部分を狙って一瞬停車した瞬間に五十鈴が発砲。同時にティーガーⅠもⅣ号正面に向けて発砲。
ほぼ同時に発砲した為に、二台の間に激しい黒煙が舞った。
「…」
「…」
そしてその黒煙の奥、エンジンが完全に破壊されたティーガーⅠと左正面の装甲がひしゃげたⅣ号。
恐る恐る顔半分を覗かせてティーガーⅠを見ていたみほと、呆然とその光景を見ていたまほ。
しかしまほは次第に表情を変え、少し穏やかな表情になった後に悟った表情を浮かべた。
そして黒煙が晴れると、ティーガーⅠの後部に白旗が上がっていた。
『黒森峰女学園フラッグ車、行動不能。よって…
大洗女子学園の勝利!』
そのアナウンスと共に観客席からは歓声が轟いた。
誰もがこの勝利に驚き、喜び、賞賛を贈った。
「勝った…のか?」
「そうだよ桃ちゃん!」
「優勝だ!」
「っ…!!」
生徒会の三人はその事実に喜びを隠しきれなかった。
「賭けは私の勝ちだな。エリカ?」
「チッ…後で覚えておきさない」
「おぉ、怖っwww」
映像を見ながら迎えに来たトラックに乗り込んで得意げに答える真澄にエリカは悔しがっていた。
同乗していた他の黒森峰生徒達はその結果に唖然となっていた。
「やったよ、みぽりん!!」
キューポラから顔を覗かせていたみほに武部が嬉しさのあまり抱きつく。
「勝ちました〜!」
「私達、勝ちました!」
「うむ」
Ⅳ号のハッチからそれぞれ顔を出して喜びを表す。
「勝った…んだよね?」
「うん!」
いまだに現実を受け入れられていないみほは武部の頷きでようやく理解した。
「っ…!」
自分達が優勝したと言う事実に。
その後、撃破はされなかったが、動けないⅣ号を回収車が引っ張って先に待っていた他の大洗戦車隊の面々と合流した。
「あっ!先輩!」
最初に澤が気づいて駆け寄ると、他のウサギさんチームも駆け寄る。
「やりましたね!」
「すごいです!」
「お帰りなさい」
「格好良かったです!」
そして他の面々も次々と駆け寄る。
「excellent!」
「ビットマン級だったぞ」
「お見事」
「やるじゃないの!」
「すごいアタックでした!」
「ナイスクイック!」
「痺れました!」
トラックに牽引されたⅣ号に近寄ってくるメンバーを見てみほ達は嬉しそうにする。
「みんな…ありがとう」
そして到着したので武部はみほに言う。
「みぽりん、降りよう」
「あっ、うん…」
そしてみほは降りようとするのだが、
「西住殿?」
「どうしたの?」
その違和感に首を傾げると、
「力が…入らなくて…」
「しっかりしろ隊長」
緊張や喜びでうまく力が入らなかったみほに少し笑っていた。
その後、支えられながら地面に降りたみほは一瞬よろめくもみほ達はⅣ号を見つめる。
「この戦車でティーガーを…」
「えぇ、」
「お疲れ様でした」
そう言い、苦労を労うと
「西住」
そこで河嶋が声をかけた。
「西住…この度の活躍、感謝の例に絶えない。本当に…本当に…ありが…」
しかし泣きかけだった彼女はここで涙腺が崩壊してしまい、嬉し涙で言葉が崩壊してしまった。
「桃ちゃん泣きすぎ」
そんな彼女を小山が慰めに入ると、角谷はあらためてみほに近づいた。
「西住ちゃん…これで学校が廃校にならずに済むよ」
「はい」
そう言う話だった。故にここまで頑張れた。
「私たちの学校、守れたよ…!」
「っ!はい!」
みほも嬉しげに返すと、角谷はみほに少し飛んで抱きしめた。
「ありがとね」
「あぁ、いえ…」
そんな彼女にみほは言う。
「私の方こそ、ありがとうございます」
自分をここまで成長させてくれた事や、再び戦車道の楽しさと言うものを教えてくれる機会を与えてくれた角谷に、みほは感謝をしていた。
その横で、冷泉は約束通り遅刻・欠席データを消去した園に嬉しさのあまり抱きついてしまう。
アヒルさんチームでは磯部が早速来年の戦車道にやる気を出しており。
活躍がほぼできなかったと悔やむアリクイさんチームは次回へ期待を寄せる。
各チームが次回への意気込みを語る中、みほは最後にある人物に近寄った。
「お姉ちゃん」
クルップ・クロッツェに乗って撤収しようとしたまほに話しかけた。
声をかけられたまほは、みほを見た後にまず最初に勝利を誉めた。
「優勝おめでとう」
そしてその後、少し表情を緩めて言った。
「…完敗だな」
そう言われたみほは嬉しそうにし、まほの差し出した手を握り返した。
「みほらしい戦いだったな。西住流とはまるで違う」
「そうかな?」
「そうだろう」
二人はそんな事を話していると、みほの後ろでは武部達がみほを待っていた。
「じゃあ行くね」
「あぁ…」
みほを見送るまほは少し嬉しそうにも、悲しそうにも見える表情で見ていると、
「お姉ちゃん!」
彼女は振り返った。
「やっと見つけたよ…私の戦車道」
その時、みほの表情はとても明るかった。
「次は負けないわよ」
そんな彼女にエリカは少々不敵な笑みを見せながらみほに言う。
「はいっ!」
そんなエリカにみほは頷きながら武部達の元に走っていった。
その後、優勝旗を渡される時、
「真澄さん」
みほは合流した真澄に声をかけると、一緒に優勝旗を持って欲しいと言った。
なぜかと聞くと、彼女はこう返した。
「だって真澄さん、優勝旗握った事無いでしょう?」
「君ぃ、嫌な事言うようになったね〜」
そう言いつつも真澄は嬉しそうに優勝旗を握ると、アナウンスが流れた。
『優勝、大洗女子学園!』
前代未聞とも言える快挙を成し遂げた彼女達に、多くの人が賞賛を贈った。
誰もが喜び、歓喜し、功績を称えた。
大会表彰後、各々撤収作業が始まる中、エリカと真澄は会場の隅で歩いていた。
「約束、忘れていないわよね?」
「…あぁ、」
真澄はエリカに頷くと、立ち止まった。
「ほらよ」
真澄はエリカの前で立つと、彼女はそんな真澄を見上げた後に手を思い切り振った。
パチンッ
一発の平手打ちが真澄の頬を叩くと、彼女は薄く頬が赤くなった。
「…やっぱデカすぎるわよ。アンタ」
「そりゃどうも」
エリカは軽く真澄に愚痴るも、その後真澄に手を出しながら笑みを見せた。
「おかえり、クソ女」
「ただいま、ツンデレ女」
お互いに軽く笑みを見せた後、真澄はエリカの首に腕を回した。
「よぉーし、今日は朝まで飲むぞぉ!」
「っ!?」
途端、エリカの顔が青くなる。
「ちょっと!私を巻き込む気?!」
「あったりめぇよ。こんな日に飲まないでどうする?!」
そしてエリカの首を軽く絞めたまま黒森峰の格納庫に行く。
「まほさ〜ん」
「なんだ?」
黒森峰の格納庫に向かうと、そこではまほを含めた黒森峰の生徒達が一斉に真澄と、彼女に首を絞められているエリカに驚愕していた。
「ちょ〜っとエリカ借りてくよ〜」
「あぁ、分かった」
「隊長?!」
助けてくれると思ったのに、即答したまほにエリカは驚愕するとそのまま引きずられながら格納庫を出ていく。
「放せ〜!!」
「まぁまぁ、ちょっと深夜帰りになるだけさ」
「ふざけんじゃないわよ!!」
駄々をこねながら抵抗をするも、体格差がありすぎて全く敵わないエリカはそのままズルズルと引きずられて消えて行った。
「あーあー…」
「隊長、大丈夫なんですか?」
「いつもの事だ。問題ない」
高等部から入ってきた生徒達が不安がる中、中等部からいた生徒達は慣れた様子で二人を見ていた。
「まだうちらが巻き込まれないだけマシよ…」
「「「「「うん…」」」」」
どこか遠く、そして疲れた目をした彼女達にその惨事を知らない面々はそこはかとない恐ろしさを感じていた。