基本的に我が大洗女子学園の校則は比較的緩めである。
サンダース程では無いが、なぜか学園長よりも権力の強い角谷杏生徒会長の施した大改革によって無駄と判断された校則が廃止された事で校風は以前のものよりも緩くなっていた。
「と言うより…」
「昔か厳し過ぎただけ説」
片手にジュラルミンの盾、片方にウレタンソードを握る大隈と大久保の二人。
彼女達は被っていたヘルメットのバイザーを上げたまま反対に居座る集団を見つめる。
『このデモは未許可である!直ちに解散しなさーい!!』
彼女達の後ろでは放水銃を備えた九三式装甲自動車や一式六輪自動貨車が連なって学校につながる道路を封鎖していた。
そして今回出動した風紀委員機動隊は目の前で行われているデモに対応するようにせっつかれていた。
『ルーズソックス禁止令はんた〜い!!』
『機動隊は帰れぇ!!』
反対では横断幕を掲げて機動隊と対峙しているデモ隊の姿があった。彼女達は学校の生徒達の中でも成績が低めの…不良になるかギリギリくらいの生徒達である。
風紀委員の間では要注意人物に指定されるような…そういった人たちである。
「やれやれ、一番うちらシゴいてんの、結局風紀委員じゃないの」
「ったく、帰ったらかっぱ共に文句言ってやる」
隣にいた機動隊員が言うと、反対から水風船が飛んできたのでジュラルミンの盾で防護しながらバイザーを下ろす。
かっぱとは、おかっぱ頭しかいない風紀委員の方の人たちのあだ名であり、ある意味機動隊の中では軽蔑に近い蔑称であった。
「ところで真澄達は?」
「別の裏門通りの方に出ているわよ」
今回のルーズソックス禁止令の校則を聞きつけ、反対を求めて生徒会室に暴徒が来るだろうからとあらかじめ生徒会からの要請で出動した機動隊。
中高合わせてほぼ全部隊が出動しており、生徒会室のある学校に繋がる通りをすでにトラックとバスで封鎖していた。
『直ちに解散しなさい!!』
そしてこの反対デモは無許可で行われており、事前に申請されたものでも無いのでだんだんと解散を呼びかける声も荒くなってくる。
「うっせぇ!」
「あんた達不良はととっと下がれや!!」
「裏切り者めがっ!」
誰かが展開していた機動隊に叫んだ時、
「「あっ」」
プチッ『…』
明らかに部隊長の風紀委員は何かが切れた様子でワナワナと拳を握ると、
『っ…!!貴様ぁ!全員、逮捕だぁ!!』
拡声器で彼女は大声で叫ぶと、
『かかれぇ!!』
腕を出して指示を飛ばすと、装甲車が前面に出て放水銃を発射。
「うわぁっ!」
「テメェっ!!」
大量の水をかぶり、デモ隊達は水濡れになって慌てて逃げ出す。
「「「「「うわぁぁぁあああああっ!!」」」」」
それと同時に前面に出ていた機動隊員達が片手にウレタンソードを持って突撃を敢行。一気にデモ隊を蹴散らしに入る。
「行く?」
「行っちゃえ行っちゃえ」
そこを追うように大隈達も盾とウレタンソードを持って走り出す。
「逮捕!!」
「いてっ」
「こっちだ!!」
「待てぇぇぇえっ!!」
デモ隊は後ろにいた野次馬の作った壁に阻まれ、その野次馬達が逃げ出すまでの間に突撃してきた機動隊員達がウレタンソードを振って拘束をしていく。
プロテクターなどのフル装備で警備に当たっている機動隊員達にただのデモ隊が敵うはずも無く、あっという間にデモ隊は逃げていく。
「うわっ、船舶科の生徒もいるよ」
「どんだけ逮捕者出るんだよ」
周囲では半分乱闘騒ぎになり、逮捕者は全員機動隊のバスに乗せられて矯正局に運ばれていく。
「うわぁ、あの子達全員矯正局送り?」
「上からはそう言う話らしいよ?」
「うぅ〜、怖っ」
他の機動隊員達は走り出していくトラックを前に震えていた。
矯正局は何をしているのかは知らないが、出てくる生徒達全員が校則を過剰なまでに守ろうとする模範的生徒に早変わりするという事で、同じ風紀委員機動隊でも園みどり子と同等以上に恐れられていた。
「でも一週間くらいで元に戻るとかって聞いたけど?」
「それ以前に矯正局で何やったか記憶にないのがやばいって話だよ」
「薬でも打ってんじゃないの?」
そんな世にも恐ろしい話を前に彼女達は口々に話していると、
「えっ!?向こうも突入しちゃったの?」
「あちゃ〜」
無線で裏門に展開していたデモ隊も、同様に展開していた機動隊によって突撃を敢行したというのを聞いて頭を抱える。
すでに学校前の通りはデモ隊が残して、機動隊が踏んづけた横断幕や旗の残骸が残されており、ついでに言うと今の時刻は午前一時である。
「こりゃ片付けに時間かかるわよ〜」
「えっ!?片付けうちらがやるの?!」
「ふざけんなぁ!!」
学校が始まる朝の時間までにこれら残骸を片付ける必要があった。
「捕まえた不良達使っちゃダメなの?」
罰として今までに拘束をしたデモ隊を使う案も出たが、
「もう矯正局送りになっちゃったよ〜」
「コノ…バカヤロウ!!」
誰かが叫ぶも、やってしまったものは仕方がないので彼女達は渋々片付けに入る。
「ねぇ、これ明日学校休めない?」
「会長なら許してくれそうだけど…」
そんな事を話しながら彼女達は横断幕をトラックの荷台に放り投げた。
なお、後にデモの後片付けを逮捕したデモ隊にやらせると言う案に園みどり子が猛反対し、機動隊と風紀委員で大喧嘩になるのだが、それはまた別の話である。
「ーーってな事が昨日あってね〜」
「「「「うわぁ〜…」」」」
真澄は榎本とみほ達あんこうチームの面々と共に学校の屋上で弁当を取っていた。
弁当は真澄と榎本達が作ったお重に詰まった三段の弁当箱であり、皆で食べようと提案したのだ。
なお冷泉は差したパラソルの下で寝そべっており、弁当の匂いに釣られて今起きたばかりであった。
「よくそんな事態があってこのような弁当を作れましたね」
五十鈴が感心しながらお重を見ると、
「いやぁ、前日に粗方作ってはいたから、あとは詰めるだけだったしね〜」
「でも流石に疲れました…」
真澄と榎本はその後のデモ隊の後片付けをして、帰ったのが午前四時ごろ。そこから徹夜になりながら弁当を詰めていたのである。
「正直博子が手伝ってくれなかったら、今頃倒れていたでしょうね」
榎本は言い、その時参加していなかった伊藤に感謝していた。
「今、他の皆さんはどうているんですか?」
秋山がそこで聞くと、真澄が答える。
「三人はちょっと実家に帰る準備をしているよ」
「あぁ〜、そろそろ夏休みだしね〜」
そこで武部はジリジリと差し込む夏の太陽を見上げる。
「ねぇ、みんなはどうするの?」
「ん?どうするとは?」
そこでみほと共にボコの形になったおにぎりを手に取って食べていた真澄が聞くと、武部は言う。
「みんな家に帰ったりするの?」
「「「「「あぁ〜…」」」」」
夏休みに入り、彼女達は一応自由な時間を過ごすことになる。
この前、全国大会優勝をして来月末にはエキシビジョンマッチを控えている大洗戦車道部。夏休みにも残念ながら試合のために練習時間が設けられていた。
「私は特に予定はありませんね」
「私は家で寝るだけだ」
「優花里さんと冷泉さんはご実家がこちらにありますものね」
秋山と冷泉に五十鈴は言うと、彼女は学校に残ると言った。
「私は次の作品の制作をしなければなりなせんので」
華道を嗜む彼女は、この前の展示会によって母の百合に認められたことで次の展覧会用の作品の構想をするらしい。
「私も帰るつもりなのよね〜…」
武部も軽く頬杖を付いて言い、実家に帰ると言った。
「そのままお見合いにでもいくのかい?」
「それができたらね〜」
「武部さんに今の歳でお見合いは…それほどのお家何ですか?」
「ひどいっ!なんて事言うの!?」
辛辣な五十鈴の意見に武部は反論気味に溢す。
「あぁ〜、私も清靖くんみたいなイケメン引っ掛けた〜い」
「ぶははははっ!!」
その言葉に真澄は吹き出して笑ってしまう。
「あぁ〜…清靖みたいなイケメンねぇ〜…」
「器用貧乏の代表例だろう?」
そこで冷泉はハンバーグにフォークを刺して口に入れる。
「器用貧乏じゃないよ!完全無欠だよ!!」
「なぜ武部殿が熱くなるのですか…」
「あははは…」
勝手に燃える武部に秋山は呆れ、みほは苦笑していた。
「(今度会うんだけどなぁ〜…)」
みほはそこで清靖から誘われて東京のレストランに行くのを申し訳なく思いながら今の武部を見る。
久しぶりに会ったが、あそこまで究極進化をしているとは思っていなかったみほも、清靖からのお誘いを受けて少し嬉しかった。
「おいしいね。真澄さん」
「はははっ、そりゃあよかった」
彼女達は全員学校の屋上に集まっており、昼間の時間に最近では珍しく戦車の上以外で昼食を摂っていた。
「ところでなんだけどさ」
「「「「「ん?」」」」」
そこで真澄はみほ達に言う。
「放課後に戦車の練習があるんだけど、編成どうする?」
その問いにみほ達は考える。
今いる大洗の戦車の数は九。国も車種もバラバラな戦車ばかりだが、それが大洗の強みであるとみほ達は十分理解している。
「そうですね…」
「ふむふむ。今日の練習でありますと…」
五十鈴や秋山はあらかじめ真澄から今日の訓練内容を聞き、それにあった編成を思考する。
「やれやれ、今度は何の練習をするんだ?」
やや呆れまじりに、しかしその中に少しの楽しみを交えながら冷泉が聞く。
「練習かぁ〜、何時くらいまで?」
武部も少し笑みを見せながら真澄に聞く。
「そうね〜、夜までには終わると思うわよ」
真澄も軽く笑いながら今日の予定を思い出す。
ここにいる全員、戦車がなければ合わなかったような人ばかり。
暑い夏。今日も今日とて乙女達は戦車の話で盛り上がる。
「あっ!そういえば私、ここのせんしゃ倶楽部で新しい雑誌を見つけたんです!」
「へぇ〜、どんなやつなの?」
いつもの日常、いつもの景色。
蝉が遠くで鳴き、校舎では生徒達が行き交う。
「そうそう、今夜また真澄さんの家に行っていいかな?新しいボコの映画が入ったの」
「おぉ良いよ。んじゃあ静子たちも呼ばないとね」
そこには夏の下で笑い合う声が聞こえてきた。