戦車道の格納庫で今日の初陣で破壊された戦車達を見ながら真澄は自動車部や後方要員の面々と調整を取り合っていた。
選手である榎本達には先に帰ってもらっていた。
「各車両の整備はあと四時間ほどで終わります」
「分かった。足りない部品があったら補給係の子に連絡して頂戴」
「姐御、今回使用した砲弾の薬莢はどうすれば?」
「こらっ、マネージャーとお呼び!それは連盟の薬莢リサイクルに出して。戦車倶楽部にまとめて持って行って。あとできれば店員さんに定期的に取りに来てもらえるように頼んでおいて」
戦車道のマネージャーとして彼女は次々にくる質問に答え始める。彼女は自動車部含めて百人ほどいる後方要員を取り仕切っていた。
それぞれ係に分けて仕事分担と効率化を測り、倉庫では撃破された戦車の復旧と整備が行われていた。自分の仕事は関係各所の話し合いとやってくる質問に答えることだった。
戦車に乗る十数名の戦車道選手に対し、これだけの後方にいる人数は正直多すぎる。なので一部の人間は機動隊の本拠地に戻して風紀委員と生徒会の命令の元で活動を早速開始していた。
「マネージャー。今回使用した分の砲弾ですが、注文されますか?」
「要らないわ。既に各砲弾は二百発ずつ注文している。それより戦車の足りない部品はない?」
そう聞くと電話があったと一人の生徒が聞いてくる。
「マネージャー、戦車道連盟から名指しで呼ばれています」
「無視して」
「え?しかし……」
「良いわ、どうせ広告電話だもの」
彼女は忌々しげに答えると、その生徒も納得した上で断るように言った後に電話を切っていた。
「ったく飽きない連中だよ。どうせ除名なんて敵わないってのに……」
何処か深みある言い方で彼女は一瞬だけ顔を曇らせていた。
「終わった……」
そして数時間後、あらかた落ち着いた戦車道の倉庫で真澄はそう溢す。
倉庫に並んだ戦車達は自動車部と機動隊の整備係の元で修復が行われており、あとの事は彼女達に任せていた。
そして真澄はそのまま帰ろうとした時、持っていた携帯に連絡が入った。
「はい、もしもし?」
『あー、黒田ちゃん?』
相手は角谷からだった。
『ちょっと明日話したいことがあるから、放課後に生徒会室に来て』
「何故です?」
『いやぁ、ちょっと練習試合をしたいから何処が良いか相談したくって』
「了解しました。明日の放課後、生徒会室ですね?」
『うん、よろしくね〜』
そう言うと電話が切れ、真澄はそのままシェアハウスに帰っていく。
「ただいまー」
家に帰ると、いつものメンバーともう一人が答えた。
「「「「おかえりー」」」」
「お帰りなさい」
「あれ?みほちゃん?」
そこにはみほが鍋を持って帰ってきた真澄を出迎えていた。
「どうしたの?」
なんでみほが家にいるのかと疑問に思うと大久保が言った。
「ああ、家が近かったから私が誘ったのよ」
「ああ、なるほど」
「お、お邪魔してます」
「いいのよ、遠慮無くくつろいじゃって」
真澄はそう言うと荷物を片付けてリビングでテーブルを囲む。今日のメニューは天ぷらだった。
「うわぁ、これ全部榎本さんが?」
「ええ、今日はいい食材が入って来たからね」
「農業科の子から余ったからって貰って来たの」
「へぇ……」
そう言いみほは知り合いの多い様子の真澄達に少し羨ましそうに見ていた。
「さっ、冷めないうちに食べちゃって」
「「「「「いただきます!」」」」」
そう言い、五人は手を合わせると夕食の天ぷらを食べ始める。採れたての新鮮な野菜なだけあってか、その味はとても良いそうでみほも満足げな表情を浮かべていた。
「これ美味しいですね!」
「でしょう?農業科の子達が時々分けてくれるのよ」
「まあ、取れすぎた時とかだからあんまり回数は多くないけどね」
そう言い、みほはその美味さに驚いていた。
「使っている油も五味油だからいい味よ〜」
「さすがですね」
「利子は日本食得意だしね」
「それはここにいる全員でしょうに……」
そう言うと思わず笑ってしまう。ああ、久々にここ以外の友人と話した。
「懐かしいわね。昔みほちゃんがうちに遊びに来た時にこうしてみんな呼んでたっけな」
「そう、真澄さんの家に遊びに行って。そこで大久保さん達も訪れて……懐かしいなあ」
片手に真澄から注がれたノンアル日本酒を少し恐る恐る飲む。
「でも皆さんの姿は変わっていないようで何よりでした」
「そう?」
「はい、皆さん楽しそうにしていて……息もピッタリでしたし」
「……」
榎本達はみほにそう言われ、少し嬉しくも悲しくも感じた。
「でもやっぱり真澄がいないと……」
「私たちの戦車道は真澄が居てなんぼだもの」
そう言い彼女達の目線はみほの横に座る真澄に集まる。するとそこでみほは申し訳なさそうな表情で真澄に言う。その顔は今にも泣き出しそうだった。
「ごめんなさい…私があの時負けておけば……」
「勝つ事に何の悪い意味がるのよ」
真澄はすぐにそんなみほに逆に軽く叱る。
「試合に勝って悪い道義がある?裏で不正していたわけでもないし、ましてやあれは前々から私が喧嘩していたから。弱点をつかれただけよ」
「でも、そのせいで真澄さんは……」
するとその瞬間、真澄は飲んでいたグラスを少し強めに机に置いた。
「二度は言わない。みほ、貴方はあの時できる精一杯の努力をした。私はあの試合に不満足だったことは何もない。むしろ誇らしかった」
真澄はそう答えると大隈が頷く。
「そうそう。元々知波単がベスト2にまで登れたこと自体、あの時は奇跡のようなものだったし
「みほちゃん。貴方が気にすること自体馬鹿みたいな事なのよ」
「貴方は貴方ができる事をしただけ。気にする必要はないわ」
「……」
みほは周りにそう言われ、少し持っていたお猪口に映る自分の顔を見る。
「それに、今の生活になってあの馬鹿どもも後悔しているしね」
真澄がそう言うと他の榎本達も豪快に笑う。
「だっはっはっはっ!」
「そりゃ違いねえ!」
「泣きついてこの前電話かかって来たしな!!」
「ザマアミロってんだ!」
そう言い笑っている真澄達を見てみほはどこか羨望の眼差しをしていた。
そして出された天ぷらを全て食べ切ると、みほはそこで持っていた手提げからDVDを取り出した。
「あの、実は今日これを持って来たんです」
そう言いパッケージを見せたDVDに伊藤が惹かれた。
「おっ!ボコじゃん!いいねえ」
「はい、伊藤さんとこれが見たくて……」
そう、伊藤はみほと同じボコファンである。だからこそ二人にボコ愛を語らせるなと言うのは周知の事実だ。まあ、真澄自身。幼い頃からみほと関わって来た影響で自宅に一体、キングサイズのボコのぬいぐるみを買ってしまった訳だが……。
「『機熊戦士ボコダム 逆襲のボコ』?」
「面白いんだよこれ!私のお気に入り」
「他は何があるの?」
そう言いみほの持って来た手提げを見ると、そこには『機熊戦士ボコダム BOKO IGLOO』や『映画ボコキュア ドリームシスターズ』などなかなかに色合いの違う作品がラインナップされていた。
「おぉ、これは……」
「なかなかね」
「とりあえず風呂入ってくるわ」
「ええ、そのあと上映会しましょう」
そう言うと全員が風呂に入ったあと、上映会が始まった。
なんだかんだでボコ上映会は楽しんでおり、そのまま深夜まで彼女達は上映会をしながらそのまま全員が寝落ちしてしまっていた。
翌日の放課後
生徒会室
「黒田真澄です」
『入って〜』
扉を開けて中に入るとそこで真澄は生徒会室に入る。
「粗茶ですが」
「ありがとうございます」
部屋に入ると小山から冷えた緑茶を出される。
戦車道のマネージャーとして真面目に働いているからか、小山さんからの反応は上場だった。
「さて会長。練習試合の一件ですが……」
「うん、君の伝手で何とかならないかな?」
角谷はそう言うと真澄の過去の経歴を知っている上で聞いてくる。
「会長なら知っているでしょう。私がどんな経歴で除名処分を受けたのかを」
「うん、だからこそ私は君に頼んだ」
「……どう言う事です?」
真澄が聞き返すと、角谷はこちらを試すような目で言う。
「改めて君の経歴を調べた。全部ね」
そう言うと纏めたのだろうバインダーに挟まれた紙の内容を読み上げた。
「中学二年生より知波単学園中等部戦車道総隊長を勤め、戦車道全国中学生大会にて知波単を初の準優勝に導いた最強の軍師。
しかしその数ヶ月後、内部告発で戦車道部員に虐めをしていた事が発覚。戦車道の名誉に傷を付けたと言う事で日本戦車道連盟より除名処分が下った」
「……」
全てを読み上げたかと真澄は思うと、角谷は続きを話す。
「しかし君が除名処分を受けたあと、当時知波単に所属していた同級生の大半が戦車道を退部。その後の知波単は暗黒時代とも言える全試合初戦敗退を繰り返すようになった。
そしてその状況を見て知波単学園は消息不明となった君を探すようになり、同時に日本戦車道連盟からも勧誘の電話が殺到するようになった……」
まるで盗聴をしていたような……いや、多分これはやってるだろう。そんな報告に真澄はため息をついた。
「盗聴しました?」
「さあ?私は知らないよ〜」
角谷はそう答えると、椅子を外に向けて表情が見えないようにしていた。
「でもそんな勧誘が来るって事はそれだけ人望があると言うこと。事実、君には四人の家臣がいるじゃないか」
「……」
しかしそれを聞いて全てを察していないと真澄は確信しながら角谷に聞く。
「それで?誰と試合をしたいんです?」
「うーん、できれば強豪校」
「ああ、経験を積ませるんです?」
「そう言う事〜」
どうも当たって砕けろの精神で会長は試合をさせるらしい。と言うより、これ会長の思いつきじゃないのか?とも思ってしまった。
「強豪校だと主にプラウダ・サンダース・聖グロリアーナ・黒森峰がありますね」
指を出しながら真澄は言う。
「その中だとやっぱ黒森峰?強いって評判だし」
「いや、やめときましょう」
「どうして?」
「あそこがこんなちっぽけな学校にわざわざ戦力出すと思います?」
「まぁ、そうか……」
本当はみほの心のためという理由だ。何も言わなくても今の彼女は黒森峰で何かあった証拠だ。今の彼女に黒森峰と会わせるのは酷だ。
まあこの中だと一番絡みやすいのはサンダースだが、それだと思い切り泣かれた後に大食い大会に出されると思うのでやめておこう。プラウダは……やめとこう、目の敵(笑)にされてるから。
「じゃあ、ここは私に任せてくれます?一人心当たりがありますので」
「うん、わかった」
そう言い真澄は席を外すと携帯の番号を押す。確かこの番号であっているはずだ。