その日、寄港した大洗港近くのホテルの宴会場。そこで大洗女子学園戦車道部部員全員が集まっていた。
「あ~、決勝戦はホントにご苦労だった。皆の素晴らしい活躍で我が校は見事優勝する事が出来た」
広間の壇上では浴衣姿の生徒会トリオの河嶋が、同じく浴衣姿の部員に向かって口上を述べていた。
「戦車道で無名の我が校が並み居る強豪部隊に打ち勝つとは誰が予想しえたであろうか。コレは高校戦車道史に残る快挙である。コレも一重に…」
「桃ちゃん、長いよ」
「センパーイ、なげぇっす」
どこかの校長の話の如く長くなる予感を早々に感じていた小山と真澄が言った。
その耳打ちと文句に河嶋は前者は不満げに、後者には少し睨んでしまいつつも口上を中断する。
「それでは祝賀会を始めたいと思う。会長、一言お願いします」
「ほいさ~」
そしてマイクを角谷に回し、相変わらず気の抜ける口調で返す彼女。
「いやいや、良かったね~、廃校にならずに済んで。んじゃ乾杯ーっ!!」
「それだけですか?!」
「乾杯ーっ!!」
河嶋と違って一瞬で終わった口上に、河嶋ですら驚いてしまっていたが、真澄たちはそんなの知ったことかと言わんばかりに飲み物の注がれたグラスを掲げる。
「か、カンパ〜い!」
「かんぱーい!」
「乾杯!」
「お疲れ様でした〜」
「おー」
あんこうチームを筆頭に、それぞれのチームがそれぞれの搭乗員とグラスを掲げ合わせていく。
「漢杯〜っ!」
「「「「「おぉ〜っ!!」」」」」
中でも真澄達くまさんチームは整備班や輜重班の子達と盛大に盃を掲げており、それを見ていた周りの面々から『ヤクザの慶事か何かなの?』と言われる様相だった。
そんな馬鹿騒ぎをやって色々と台無しになる前に河嶋はやるべき事を先に終わらせる。
「えー。大洗商工会、及び町内会からは花を沢山いただいている」
そこでスポットライトが並べられた花を見る。いや、嬉しいけど個人的にはお中元っぽいものが欲しかった。
「拍手~!」
『『『『『わ〜』』』』』
「やめぇ〜!」
ちょっとだけみんな雑になりながら拍手を送り、角谷は次の工程に移る。
「それでは、祝電を披露する!」
そして今度は本学に届いた祝電の数々の紹介が行われていく。
サンダースをはじめ聖グロリアーナ、プラウダ、アンツィオと今まで戦ってきた各学校の戦車道部からの祝電。それぞれに皆がその時の試合を思い返しながら懐かしんでいる。
「なにせ今まで無敗ですからね…」
「五連勝中なのよね…」
真澄と榎本はそこで今の大洗戦車道部の雰囲気に少し警戒をする。
永遠と常勝無敗というのは存在しない。なにせ
「おまけに次の試合、あの子達慣れてないでしょ。他の学校と連合組んでやるなんて」
「そこなんだよね…」
真澄もそこで頭を悩ませていた。
次の試合はエキシビジョンマッチ。優勝校と準優勝校、それぞれが一回戦に相手にした学園同士で連合を組んで戦う公式戦。
記録に載る試合なので、今のところ常勝である大洗戦車道部に寄せられている機体は大きかった。
「行けると思う?」
「まぁ、こっちでうまく手綱を握れるように努力はする」
そんな話をしていると、生徒会トリオは次の予定を進める。
「じゃあ座も温まった事だし、そろそろ始めるかね~」
「拍手~!」
「「「「「うわあ~~~っ!!」」」」」
全員が拍手をすると、今回の主目的が発表される。
「止めーいっ!!…それではこれより。各戦車チームによる隠し芸の披露を行う!」
河嶋が高らかに宣誓を行う。
「今回は其々得意な物は禁止だぞ」
そこで軽くルール説明を受けるが、事前に聞いていたので聞き流しても問題なかった。
「レオポンチームは自動車ネタ禁止。
アリクイはネトゲネタ禁止。
カバチームは歴史ネタ禁止。
アヒルチームはバレーネタ禁止。
あんこうチームはあんこう踊り禁止」
最後のにはちょっと疑問符がつくが、まあ突っ込んだらみほちゃんからドロップキックが飛んでくるのでお口チャックである。
「私達からネトゲ奪ったら何が残るんですか!?」
「同じくレオポンから自動車を取ったら…」
「歴史を取ったら!」
「バレーを取ったら!」
「あんたら他に取り柄ないの?!」
この杜撰な状況に大隈がツッコミをかける。
「あんこう踊りを!…取られても全然平気だね」
「寧ろ禁止して欲しい…」
「それはそう」
あんこう踊り禁止令に安堵するあんこうチーム。うん、毒されていないようで何より。
「優勝チームには豪華賞品も用意しているからなぁ」
「因みに三位は大洗商店街のサマーセールの福引補助券。
二位は学食の食券五〇〇円分。
一位の賞品は十万円相当の…」
『『『『『おぉっ!!』』』』』
結構豪華なもん用意してんじゃん、生徒会トリオと軽く見直す真澄達。以前、干し芋をバカほど送りつけようとしたので今回は期待してもいいかもしれない。
「詳しくは後で発表する。以上!」
河嶋の十万円分の価値がある何かに全員の期待値は上昇していく。
「現金かな?」
「十万円あればティーガーの履帯が1枚買えます!」
「私、ボコのぬいぐるみ買っても良いかな?」
「良いよ。ボコの何処が良いか分からないけど」
「皆で温泉に行きましょうよ」
「単位が欲しい…」
あんこうチームの面々も期待していた。
他のチームも十万円分の価値があるものに換金や課金を考え、風紀委員はなぜか風紀を守るためによよくわからない事を言っていた。
「十万か…」
「あら、真澄にははした金だったかしら?」
「いやいや、十万は十万よ」
すると伊藤が近づいて耳打ちをする。
「車長、ちょっと嫌な予感がします」
「え?また干し芋ってか?そんなまさかぁ〜」
伊藤の商品を知っている河嶋の表情を見た分析を伝えるが、彼女はありえないと思ってその懸念はないと言った。
「優勝したいかー!?」
『『『『『おぉ〜っ!!』』』』』
そこで角谷の合図に合わせて全員が腕をあげる。
「それでは、各チームに渾身の一芸を披露して頂きます!」
そして小山の合図でチーム毎の宴会芸が始まった。
隠し芸大会ではチーム毎に一つ宴会芸を行うことで、一等を目指してそれぞれが準備を行う。
「では、トップバッターは…風紀を取り締まったら大洗一。厳しさの中に厳しさが滲む。地震、雷、火事、風紀委員。カモさんチームです」
どこかのウグイス嬢でも食っていけそうなほど上手く小山がナレーションを行うと幕が上がる。
「「「私等強気な風紀委員娘♪皆言ってる陰口を♪カモさんチームのお名前は♪そど子、ゴモヨ、パゾ美とは随分ね♪」」
そこでは風紀委員会が三味線とギターを構えて演奏を行い、途中で風紀委員のマジックショーが行われる。
そしてその出来栄えとトリックに一番手としては中々、まあ初手ならねと言った具合で終わった。
「二番手は、汗はオイル。心はエンジン。カーブでもアクセルは緩めない。トップスピードで人生を駆け抜ける自動車部、レオポンさんチーム」
そこで幕が上ると、そこでは様々な格好に身を包んだレオポンさんチームの面々。
「「「「イッツ、ショータイムッ!!」」」」
「ジャジャーンッ!!」
「ジャジャジャンッ!!」
そこで彼女らはマジックで無から書き割りの八九式を取り出し、それを幕を被せることで一瞬でポルシェティーガーに変え、再び戻すというマジックを行なって好評を博す。まあこれを見ていたアヒルさんチームからは文句が出ていたが、一番手よりは盛り上がっていた。
「ハイ、それでは三番目チームは二次元の戦いに命を燃やし、クリック、エンター、キー操作!指の動きは天下一品!アリクイさんチームです!!」
そこで幕が上ると、そこでは浴衣姿の三人が立っており、やったのはまさかの『カエルの歌』の三人合唱。しかもエンドレスリピートをするつもりらしい。
「え?これだけ?」
「ちょっと!?」
真澄の呟きに榎本が突っ込むと、流石に場がシラけると思ったのか速攻で小山が幕を下ろした。
「それでは四番手!『出来ない~!』『無理~!』『分からない~!』。年下だから許される!?若いは正義も今の内!一年生ウサギチームです!」
アリクイさんチームが速攻で終わり、次にうさぎさんチームが組体操を行う。
サボテンや扇といった簡単ながらも立派な組体操に真澄達も声が上がる。すると、
「戦車やれー!戦車ーっ!!」
「「っ!?」」
一瞬誰の声だとギョッとなってその方を見ると、そこでは秋山が声を荒げている様があった。
「え?酔ってない?」
「ちょっと、誰ー?車長のどぶろく飲ませたの〜?」
「顔が赤いですよ?」
「酔ってる…」
「オレンジジュースで!?」
そこで場に酔ったのか、一瞬とち狂った意見が飛び出してきてしまった。
「ピラミッド!」
一方ステージでは最後のピラミッドが披露されて、これで組体操が終わった。
「やったーっ!!」
「練習した甲斐あったね〜」
全ての工程を終えてうさぎさんチームは喜びのハイタッチを行う。
「うふふふ」
「つまらん…」
「可愛いじゃないの」
その様子を武部は母親のような眼差しで見つめ、小山も微笑み、河嶋は面白みがないとバッサリ切った。
「次は、復活掲げて幾星霜。どんな苦労もレシーブし、野次や嘲りブロックし、アタック道を切り開く!バレー部アヒルさんチーム!」
そこで幕が上ると、浴衣姿の四人。
「それではモノマネやりまーす!分かった人は手を上げて答えて下さーいっ!!」
「面白そうですね」
「五十鈴殿、何でそんなにワクワクしてるんですか?」
そこで五十鈴が俄然やる気を出しており、宴会芸らしい宴会芸に真澄達も盛り上がっていた。
「「ズズ…」」
「分かりました!」
「いや、まだモノマネしてませんから!」
ただ、モノマネの仕草をした直後に五十鈴が手を挙げてしまう。まあティーカップでDAー様なの間違いないんだろうけど…。
そしてそこからはもう怒涛の五十鈴ラッシュで、モノマネの答えを全部言い当ててしまう。
クオリティ高いけどさ、譲るという琴お覚えてほしいなぁ。
「弾は一発で十分です。絶対に命中させます」
「コレは何方でしょう?」
「「「「「「「え?」」」」」」」
そして最後のモノマネに全員が首を傾げた。
ただまぁ、モノマネのレベルが高かったので大いに盛り上がっていた。