ゴルフ場のバンカーに逃げ込み、囲い込みを受けたマチルダⅡ三両とチャーチルMk.Ⅶ一両。
周囲を大洗・知波単連合チームの戦車達から砲撃が飛び、その中の知波単学園所属の旧砲塔チハが一台のマチルダⅡを撃破する。
『すみません、走行不能です』
「いいえ、こちらの不手際よ。怪我はないわね?」
『ありません』
チャーチルMk.Ⅶの車内でダージリンは慌てることなく無線で状況の確認を行い、怪我の有無を確認した。
「知波単学園二号車マチルダⅡ命中!」
「おお!聖グロリアーナ撃破!」
「快挙であります!大戦果であります!」
それを受けて撃破した車両の車長の知波単の細身が体を乗り出し、通信手の寺本が思わず撮影すら行う始末。
「すごいな!聖グロから白旗なんててスチュアート以来だ!」
その報告を聞き、新砲塔チハに搭乗していた西が思わず口にすると聞いていた真澄がぼやく。
「大体なんで全部新砲塔に改修してないんだよ」
「どうせOG会の文句ですよ」
「予算捻出に渋ったんしょうね」
「くっだらね〜」
「年会費支払ってるからって現役生徒のやり方に口を出すもんじゃないね全く」
元知波単学園の生徒として色々と裏事情を知っている彼女達は口々に文句を連ねる。真澄に関しては過去に苦渋を舐めさせられた経験を持っているが故にその感情もより強いものであった。
「西殿!あとは突撃あるのみです!」
そしてマチルダⅡの撃破を皮切りにある一人の知波単学園の生徒が上申をする。
「その通り!」
「突撃は我が校の伝統であります!」
「突撃以外何がありましょうぞ?!」
それを皮切りに他の周囲にいた生徒達も同様に突撃を行うよう西に迫った。
「いや、どうかなぁ…?」
しかし西は迷っていた。
なにせ試合をすると聞き、顔を合わせた時に真澄から真っ先に言われたのが、
『良いか?間違っても突撃はするな!勝手にやろうとした馬鹿には体当たりをしてでも止めろ!』
と、とても強く念を押されていたからである。
ここでもし彼女の意見を無視すれば後で恐ろしいこととなるのは過去の経験から知っていた。
前任の隊長が夏の全国大会で一回戦負けをしたことを理由に部活を辞め、その後任としてかつての中学生大会で準優勝をした経験のあった西が隊長を務めることとなった。
「突撃!」
「「「突撃ーっ!」」」
「え?あっ…」
しかし迷っている間に彼女の周りにいた知波単学園の生徒達は勝手に前進を始めてしまった。
「突撃して潔く散りましょうぞ!」
「いやいや!散ったらダメだろう?!」
その時、西の横を通り過ぎていった車両の車長の一言に思わず突っ込んでしまうがもう遅かった。
「知波単魂を世に知らしめようぞ!」
「勝利は我にあり!」
前進を始めた彼女達は一斉に始めてしまった彼女達は急速に接近を始めてしまう。
「あぁ、まあ良いか。よし、吶喊!!」
『駄目だよ!?』とどこかで幻聴がしたような気がしたが、西は先に前進を始めた他の戦車達と共に行動を始める。
「え?あ、あの、西さん?!」
突然のこの動きに思わず見ていたみほは困惑した顔で通り過ぎていく西を見る。すると彼女はみほを見て敬礼をした。
「チッ、あの馬鹿共っ!」
一気に動き始めた新旧砲塔のチハ三両ずつを見た真澄は思わず舌打ちをする。
「西の前に出せ!アイツだけでも止めろぉ!!」
「了解!」
慌ててその動きに反応して車体を旋回させて西の目の前に短十二糎を出す。
「うおっ!?」
車体がぶつかる寸前で西の車両は停車すると、そこでキューポラを開けた真澄が顔を出して一言。
「こんのド阿呆ぉ!」
「ひゅおっ!?」
目の前で飛ばされた怒号を前に西は思わず距離があるにもかかわらず少しのけぞってしまった。
そしてその突撃してくる五両のチハを見たダージリンが言う。
「勝手にスコーンが割れたわね」
「あとは美味しくいただくだけですか」
その内心、こうも上に立つ人間が変わるだけでこうなるのかと思いながら紅茶を傾ける。
オレンジペコがそう返すとアッサムが突撃を敢行してきた車両に照準を定める。それに合わせて他の残った一両のマチルダⅡも照準を合わせる。
「それに、もう直ぐサンドイッチも出来上がるわ…砲撃」
その瞬間にマチルダⅡとチャーチルMK.Ⅶがそれぞれ砲撃を行うと、一両ずつチハを撃破した。
そしてチャーチルMk.Ⅶはスーッと砲塔が旋回するとそのまま次に接近してきた旧砲塔チハを一両撃破する。
「くそぉぉおっ!!」
撃破された車長は毒吐いてチャーチルMK.Ⅶを見る。
「ほれ、見てみろこの惨状を」
「…」
そして次々と撃破されていく五両のチハを前に呆れる真澄と、唖然となる西。
「ったく、速度も出しきれないゴルフ場だからこうなるのよ」
彼女はそう言い、惨状となったバンカー付近を見て苛立ちを隠すようにシガレットを取り出した。
「あらあら」
「あーあー」
その突撃を見た五十鈴は困惑し、秋山は呆然となった。
「まずい!このままじゃ!」
五両の戦車を撃破され、包囲網に穴が開いたことを直感的に把握したみほは思わず叫んでしまった。
そしてその情報を耳にした別動体にいた知波単学園所属の戦車隊にも動きがあった。
「我が知波単第一中隊が突撃を敢行したらしいぞ?!」
「よし!我々も遅れをとるな!」
「取らいでか?!」
別動体にいて敵を押さえ込んでいたの戦車達はその報を聞き、直後に突撃を行うことを決心した。
「突撃!!」
「「「おうっ!」」」
そして隠れていた斜面から飛び出してしまった。
「は?」
「え?あ、ちょっと待った…!!」
それに気がついたナカジマが制止させるも時すでに遅し。砲弾が絶え間なく飛び交うこの場所にて、チハは飛び出た瞬間に撃破されてしまった。
「先輩殿!」
それを見ていた
「我々も後に続くであります!戦車前進!!」
そう言い突撃しようとしたところを
「あーあー、だから駄目だってみんな無謀すぎ!」
「行かせてください!これではみんなに合わせる顔がありません…!」
福田はそこで今し方撃破されたチハを前に叫んだ。
「アグレッシブに攻めるのも良いけど、リタイアしちゃったら元も子もないんだよ」
「しかし我が知波単学園は!」
「西住隊長からこの陣地を守るように言われたでしょう?命令ってのは規則と同じなの」
そこで園がキューポラを開けて福田を説得する。風紀委員長らしく規則を口にしての説教だが、福田はそれでも答える。
「でもであります!」
「規則は守るためにあるのよ」
「うぁう…」
しかし園に言われ、同時に彼女が部活の教練で受けた教育についに反論する口がなくなってしまった。
「こちら、まもなく突破されます。退却、合流します」
そして限界を迎えたことで撤退を伝えて車体を旋回する。
「ほら、行くわよ」
「ああ、何をするでありますか!?」
「いいかいいから」
そこで無理やりハ号は32トンある車両に押されてズリズリと移動を始め、敵部隊を抑え込んでいた別働隊は退却を行なった。
すると間髪入れずに坂を登ってT-34/76、T-34/85、IS-2が突入してきた。
「待たせたわね!」
その中の一両のT-34/85にてキューポラから顔を出してカチューシャは無線でダージリンに聞いた。
『待ちすぎて紅茶が冷めてしまいましたわ』
プラウダの戦車隊到着の報を聞き、ダージリンはやや冗談混じりで答えると少しムッとした表情でカチューシャは答える。
「仕方ないでしょ!もっと簡単に敵を突破できると思ったのよ!」
「迂回すればよかったんですよ」
しかし彼女に冗談は通じた様子はなく、その返答を聞いていたノンナが小さく呟いた。そしてそれをカチューシャに進言しなかった辺り、彼女の変な思考が垣間見えるとも言えた。
『それより早く挟撃体勢入っていただける?』
「任せなさい!カチューシャ達が来たからにはもうお終いよ!「全車両でフラッグ車を狙って!!」」
自信満々にダージリンに答えたカチューシャは大量の戦車を持って逆包囲を行うために進行する。
「『このゴルフ場で一気に決着をつけると言う事ですか?』」
「『はい、うまくいけば良いのですが…』」
二人はこれから行う作戦にやや不安を覚えていた。
現在は逆包囲網を作る最中であるが、相手は
一度、やられた過去もあるので彼女達はみほの打つ一手に警戒していた。一週間前に行われた試合には部下も派遣させて地形の変わった大洗の街も精査させ、通行不能な箇所を地図に記してカチューシャに提出までする徹底ぶりであった。
「ノンナ!クラーラ!日本語で話しなさいよ!!」
「『はい?』」
そんな二人の考えも露知らず、カチューシャはロシア語で会話をした二人にツッコミをかけた。
「車両は一.四倍。火力にあっては一.九五倍こちらが有利です」
駆けつけたプラウダの戦車隊を見てアッサムは冷徹に彼我の戦力差を弾き出す。
「私達の援軍ももうすぐ到着するわ。行くわよカチューシャ」
『先に言わないで!命令するのは私なんだから!!』
カチューシャはダージリンに大声で伝えると、混乱するゴルフ場のバンカーから二両が脱出を図ろうとすると、砲撃が飛んできた。
「はっはっはーっ!豆鉄砲をいくら撃たれようときくものか!!」
『油断は禁物よ、ルクリリ』
そして脱出途中に残ったマチルダⅡに乗っていたルクリリに軽く注意を入れる。
「はい、お任せください!このルクリリ、生まれてこのかた油断というものをしたことがありません!ダージリン様の紅茶が冷める前に連中を仕留めてご覧にいれましょう!」
そして車体に合わせてダージリンは持っていた紅茶のカップを手首を動かして合わせてバンカーを脱出した。
「油断してますね」
「聖グロリアーナの戦車道はいついかなるときも」
『優雅!』
そして聖グロリアーナ女学院の戦車道のモットーを口にして彼女達の優雅さをアピールした。