脱出を行ったチャーチルMk.ⅦとマチルダⅡを見た河嶋が無線で伝える。
「逃げたぞ!」
そしてすぐに動いた。
「合流させるな!仕留めるぞ!」
少しでも包囲をさせないように
何事かと砲弾の飛んできた報を見ると、凄まじい轟音を立てながらゴルフ場の森の中を左右に揺れて走る戦車を見た。
「なんだあれは?!」
「カニっぽいねぇ」
その速度に驚く河嶋と、その見た目と動きを生物に例えた角谷。するとすぐに見ていたエルヴィンが車種を特定した。
「巡航戦車クルセイダー!足が早いから要注意だ!」
「攻撃中止!」
そこでゴルフ場に乱入してきたのはMk.Ⅵ巡航戦車 クルセイダーMk.Ⅲ。イギリスで数多く製造された巡航戦車の中でも、北アフリカにおいて活躍をした車両である。この車両はその中でも主砲を40ミリの2ポンド砲から57ミリの6ポンド砲に換装した車両であった。まあこれ以外でまともな戦力になる巡航戦車がほぼ無かったことも原因かもしれないが…。
この車両は北アフリカの灼熱の砂漠において乗員を一名減らして装甲強化も含めて激太りしたのだが、エンジンはそのままであったのでひどいオイル漏れや変速機の故障多発といった持病持ちとなってしまった。まあ後者に関しては乗員が勝手にリミッターを解除してバンバン走らせたのが原因と思われるが…。
そしてクルセイダー四両に砲撃をされ、固定砲塔車両であった二両はすぐに撤退の判断を行う。
「完全に挟まれました」
その様子を見ていた秋山がみほに囁くように伝える。
「ったく、挟撃されるよ」
シガレットを加えて状況を見ていた真澄が呟くと、西の車両に乗っていた生徒達が言う。
「もうだめだ!こうなったら潔く散ろう!」
「それが知波単魂!」
「早まるな!」
そう言う彼女達を西は制止させると、そこでタコマイクに手を当ててみほに聞いた。
「西住隊長、如何いたしますか?」
質問をした時、彼女の返答は早かった。
「ここで戦うのは不利です。撤退します!」
「敵に後ろを見せるのでありますか?!」
みほの即決に知波単学園の生徒達は驚愕をした。
「撤退なんて嫌であります!」
「規則だから」
「後で挽回しなって」
無理やり押されるハ号に園達も宥めると、包囲されかかった大洗・知波単連合チームはゴルフ場を脱出するルートを取る。
「山を下ります。下り終えたら、敵の戦力の分散に努めて下さい」
『『『『『はい!』』』』』
「かしこまりました!」
みほの指示に全員が頷くと、ゴルフ場から脱出する道路を先頭をⅣ号、最後尾をポルシェティーガーが抑えて走る。
「流石の判断ですね」
その素早い動きを見てオレンジペコは舌を巻き、ダージリンは好敵手であると認めた相手に不敵な笑みを見せる。
「みほさん。私、もう二度とカップを落としませんことよ?」
ダージリンは余裕な表情で前を走るⅣ号を視た。
「惜しいなぁ…一斉に突撃をしてたらまだ勝機はあったものを…」
後続で追いかけてくるプラウダの戦車を確認しながら真澄がぼやいた。
「初手でほぼ全員でフラッグ車に突撃をかましたからね」
「まあ、まさか向こうも思わないでしょ。全員でフラッグ車を先頭に突撃するなんて」
試合開始と同時に全車両で突撃を行い、その為に奇策を打って出ると警戒して保守的になっていた聖グロリアーナ・プラウダ連合チームは後退を繰り返してあのバンカーに潜まざるを得なかった。しかしバンカーに入られたことで貫通力に乏しい戦車ばかりであった大洗・知波単連合チームは分厚いチャーチルやマチルダの砲塔を抜くことができなかった。
「しかし良かったですね」
「ん?」
伊藤がそこで真澄に言う。
「クロムウェルが出なくて」
「あぁ…」
それは夏の全国大会で聖グロリアーナ女学院が準決勝の黒森峰戦で持ち出した『巡航戦車 Mk.VIII クロムウェル』の事だった。
おそらくダージリンがOG会を説得して購入したのだろうその戦車は一両しか姿を見せていなかったが『第二次大戦中最速の戦車』とまで言わしめた足を持ち、十分な装甲と砲を備えた優秀な戦車であった。
「虎の子だったのか、今回の試合では持ってこなかったんですね」
「てっきり持ってくるものかと思ってたけどね〜」
「修理が終わらなかったんでしょう。袋叩きにあってましたから」
全ての試合を見ていた伊藤達はそんな事を言うと、真澄はタコマイクに手を当ててナカジマに連絡をする。
「ナカジマ〜、そろそろ初めて〜」
『了〜解!』
指示を受け、ツチヤが操縦席の操作機器を動かしてポルシェティーガーから濛々と白煙が立ち込めた。
「うわっ、こりゃスゲェ」
その白煙の量に思わず驚いてしまうと、ナカジマが言う。
「一回しか使えないけど、超強力な排煙煙幕装置。これで敵を足止め…ってあれ?」
視界一面が真っ白になる程立ち込めた煙幕だったが、その中を突っ切ってプラウダの戦車隊は前進を続ける。
「うげっ、まーだ追うんか」
『この先の交差点で別れましょう』
そこでみほはすぐに行動に出ると、山を脱出した戦車達は丁字路の交差点に差し掛かった。
そこで
「こっちこっち〜」
その際、ポルシェティーガーが後続のプラウダの戦車に煽るために蛇行運転の煽り運転をしたが、プラウダの戦車達はその後攻撃にフルシカトを決め込んで前進し続ける。なので挑発のために砲撃をしようとすると、通過するIS-2が砲塔を回したので慌てて速度を上げた。
「うわ〜、まだ追っかけてくるよ」
それを見て真澄はみほに言う。
「みほちゃん、このまま市街地行く?」
『はい、このまま分散しましょう』
「護衛は?」
『お願いします』
「了解」
ここの道路は直線に違いが、高低差があるので先頭のⅣ号を狙うには障害物が多く、実際プラウダは一度も発砲をして来ていない。
「アヒルさん、西。この先でⅣ号が曲がったら撃って」
『はーい!』
『畏まりました』
そこで坂を登って後続の舞台が見えなくなった瞬間、Ⅳ号・短十二糎・Ⅲ突・B1bisが右折した。
「57ミリ砲のスパイク、受けてみよ!そ〜れっ!」
「そーれっ!」
そして曲がったのを確認した八九式とチハが主砲を発射したが、後続のプラウダは全く意に介さずに全車が右折してしまう。
「あれ?」
「全然こっちに来ませんね」
それどころかさらに後ろにいたグロリアーナ部隊は一本手前の交差点を曲がっていた。
「黒森峰ならともかく、その手には乗りませんわ」
「なぜ分かるんです?」
「ふふっ、地図を見れば高低差を利用するのは十分に読める上、今までただ逃げていただけの大洗側が、あんな弱い車両だけで急に攻撃を仕掛けてくるのは、もう囮に決まっているでしょう」
ダージリンは最初の練習試合や決勝戦と同じ手を使おうとした大洗側の意図を見破り、残った全車両でⅣ号だけを追いかけていた。
「しかし相手には自走砲がいます。向こうから撃ってくる可能性は?」
「ここで短十二糎自走砲の攻撃が無かったと言うことは、残弾が少ないからでしょう。あの規模の車体に積める弾薬そう多くないはずよ」
アッサムに答えるダージリンの推察の通り、短十二糎自走砲の残弾はあまり心許なかった。
「ローズヒップ、行きなさい」
彼女は無線で指示をを出すと、一斉にクルセイダー隊は加速を始めた。
「うっわ、来よった」
真澄が言うと、一つ区画を挟んで反対にクルセイダー四両を視認した。そのクルセイダー隊はグングン加速を開始し、見晴らしの良い角でクルセイダーの動きがよく見えた。
「速い、囲まれるぞ」
それを見た冷泉は変速機を操作してⅣ号を加速させる。
「カモさん、先行してください。加速して一気に突っ切って。重量差があるから大丈夫」
そこで少しガードレールを擦りながら場所を開けると、そこに加速したB1bisが前進した。自重32トンもある車両ではクルセイダーの車重では止めきれない。
「「「はい」」」
園達三人はそこで頷いてⅣ号を追い越していく。
「カバさんも続いてください」
「心得た」
そこでⅢ突もB1bisの後続にくっつくと、前進を続けるB1bisがそのままクルセイダー隊と衝突をする直前に発砲をする。
「うりゃっ!」
発砲による影響はほぼなかったが、車間距離を縮めて走っていたクルセイダー隊は先頭車が急停車してそれに対応できずに後続も団子になって追突事故を起こす。
その間にⅣ号と短十二糎はクルセイダー隊を通り過ぎて右折をしてくる。
「…」
その先ではチャーチルとマチルダが走っており、みほ達は角を曲がりながらチャーチルに砲を向ける。
「撃破は?」
「無理」
少し膨らんで曲がった先でチャーチルに発砲をすると、砲弾はチャーチルの砲塔側面を浅い角度で当たったのでカコンと音を立てて弾く。ビンタもできなかった。
するとその後ろを追従していたマチルダがⅣ号に照準を向けて発砲をしたが、
ドゴーンッ!
直前に発砲した短十二糎の砲弾が至近距離で着弾して照準がずれてしまい、砲撃は当たる事なく彼方に飛んで行った。
「おぉー!」
「すげぇ連携だな」
それを観客達は声を上げて見ていた。
「硬いっちゅーの!装甲削ぎ落としてから出直せ!」
去り際にチャーチルに向かって真澄が叫ぶと、追いかけるカチューシャは無線で叫んだ。
「挑発に乗っちゃダメ!フラッグ車だけを追いなさい!」
そこで空き地を横断してカチューシャ達はひたすらにⅣ号を追いかけてくる。
「分断作戦に乗って来ませんね」
「うん」
秋山にみほが頷くと、五十鈴が提案をした。
「もう一回相手のフラッグ車とタイマン張ります?」
「周りが多いから危険かも」
先ほどとは違い、これほどプラウダとの距離も近く護衛も一両しかいないので袋叩きに合うのは目に見えていた。
「麻子さん、逃げているけど、逃げられない感じで走ってくれます?」
「分かった」
ふわっとした指示を受け取って冷泉は変速機を動かす。
「うわ〜、後ろにプラウダ七両。聖グロ六両よ」
そして後続の車両を見た真澄がみほに報告を上げた。
「十三両ですか。流石に無理ですね」
横で榎本が言うと、無線で真澄は伝える。
「みほちゃん、こっち残り十発くらいしかないから。あまり援護できないよ?」
『分かりました』
直後、砲塔を後ろに回していた短十二糎自走砲の砲手大久保が引き金を引くと、一発が先頭のT-34/76に命中した。
「よっしゃ当たった!」
「馬鹿、当たったからいいけど弾数考えてよ?」
大洗駅の前を走りながら真澄は軽く忠告をした。