こちら『元SRT』WOLF小隊   作:目多須でぃてくた

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Ep.01 WOLF小隊再編

 

 自称・普通の女子高生の青春宣言からしばらく経ったある日。

 二大校を巻き込んだテロ事件は無関係の第三者から見れば呆気なく幕引きとなり、銃声と爆発音が絶えぬ学園都市はそれを『些細なこと』として忘れ去っていった。

 

 その一方でもう一つ大事件が起きていた。

 連邦生徒会事務局があるサンクトゥムタワーで起きた()()()()()火災と、唯一の責任者である連邦生徒会長が失踪した事により活動停止に追いやられていた『SRT特殊学園』の閉鎖決定。

 だがこの騒ぎは直後に起きた『エデン条約』を巡るセンセーショナルな事件に興味を持っていかれ、大衆は気にも留めなかった。

 

 

 D.U.某所 SRT特殊学園()()

 連邦生徒会長の名の下に莫大な税金を投じて設立された、キヴォトス最高峰の軍事組織。

 「それが突然の廃校! 世の中理不尽だね」

 かつて学園と呼ばれていた建物を、奥ゆかしいメイド服を着た少女が自動車の助手席から眺めている。

 

 敷地内にはヘリコプターや装甲車がそのまま放置されており、手入れする者がいない今となっては錆びて朽ちるのを待つだけとなっている。

 双眼鏡を使って建物に目を向ければ、生活雑貨や出すはずだった家庭ごみが転がっており、退去が性急かつ強硬的に行われた事を示していた。

 

 「まるで不法居住者を追い出した廃墟みたい」

 「連邦生徒会にとってはそうでしょうね」

 黒髪の少女は運転席に座る白髪の相棒へと振り向いた。

 「SRTは生徒会にとっては監察官のようなものよ。ヴァルキューレを()()したように、自分たちの罪が暴かれるのを恐れたのでしょうね」

 「それ誰かの愚痴なの?」

 「安直な推測よ」

 

 閉鎖されたゲートの前に立っていた武装自動人形(オートマタ)がジロリとこちらを見た。

 「学園に戻りましょう。あまりここに居たら難癖をつけられかねないわ」

 「いま一度見たいって言ったのはアンジュじゃないか」

 車が走り去るのをしばらく眺めたあと、意思を持たぬ機械人形は再び終わりの見えない警備任務へと戻った。

 

 

 


 

 Tips:ヴァルキューレ警察学校

 英名『KIVOTOS STUDENT POLICE DEPARTMENT VALKYRIE』(K.S.P.D VALKYRIE)。

 地球でいうところの連邦警察および連邦軍に相当し、管轄はキヴォトス全土に及ぶ。

 しかしキヴォトスに属する学園は独立国家クラスの高い自治権を有し『風紀委員会』として警察組織を保有しているため、政治的事情により警察活動に支障をきたす事も珍しくない。

 組織構成は『生活安全局(一般業務)』『警備局(犯罪対応・集団警備)』『公安局(特殊部隊)』『捜査局』『交通局』『情報通信局』など。

 連邦生徒会の行政委員会『防衛室』が上層部にあたるが、その防衛室が腐敗しきっているためお察しください。

 


 

 

 

 ヴァルキューレ警察学校本館。

 要塞とも揶揄されるここは警察学校の総本部であり、夜間を除けば数百名の生徒が勤務している。

 そんな治安維持の最前線へ四名の『元』SRT隊員が招集されていた。

 

 

 廃校となったSRT特殊学園の生徒は、ヴァルキューレの中核であり犯罪対応部門である警備局へと転入される。

 だが正確にはまだ組織が消滅しておらず、元生徒の生活基盤を警察学校へと移すための猶予期間となっている。

 手荷物程度で学園から無理やり追い出しておいて、猶予も何もあったものではないが。

 

 集められた四人はSRTに割り当てられた青灰色を基調としたセーラー服をそのまま着ている。

 警察学校の制服は既に支給されているが、まだ勤務を始めた訳ではないため当てつけ目的で着てきたらしい。

 「警備局長、自分たちはもう少しSRTの制服に袖を通していたかったのですが」

 四人のリーダーである『WOLF1』狼谷(おおかみ)ハルキはその小柄な体躯からは想像できぬ威圧感を、これからの上司となる警備局長へとぶつけていた。

 頭頂部に生えている犬耳がピンと立ち、わずかに前へと倒れている。*1

 「そんなに睨まないでくれ」

 警備局の責任者は手元に置いてある報告書へ目を落とすと、渋い顔をしながら承認のサインを書きこんだ。

 末端でまた碌でもない騒ぎが起きたらしく、報告書はそれを伝えるものだった。

 「君たちとはそれなりに付き合いのある仲だ。その実力を買ってある重要な仕事を承けてもらいたいのだ」

 彼女はこの四人をよく知っている。

 何故なら昨年度までヴァルキューレを蝕んでいた組織的腐敗を正す姿を、その目をしかと見てきたからだ。

 

 

 ヴァルキューレ警察学校はいわば国家警察だ。

 公権力へ取り入ろうとする者は数知れず、賄賂を受け取り犯罪をもみ消したり弱者を踏みにじるような『公営ヤクザ』染みたことを当たり前のように行っていた。

 世界そのものへ影響を与える『概念(テクスト)論』を声高に唱える者から見れば、『学園青春もののテクストが剥がれている』と悲鳴をあげていたかもしれない。*2

 

 だが設立間もないSRT特殊学園は、カイザーグループと癒着していた上層部(防衛室)幹部の不正を立件する過程で警察学校の内情も調べ上げていた。

 カイザーの大量破壊兵器案件を解決して次に対処したのが、ヴァルキューレの『膿出し』だったのだ。

 一連の粛正で警察学校の腐敗率は前年までと比べて96%減、汚職はほぼ撲滅されたとまで言われている。

 

 その一方で汚職生徒を容赦なく失脚させ、一線を超えた生徒は連邦矯正局なり退学させて刑務所へブチ込んだ結果、組織のピラミッド構造は完全に崩壊。

 今は組織の大部分を正義感だけはあるボンクラが占め、人的な質が著しく低下した状態にある。

 加えて一朝一夕で信用が回復する訳ではないため、各学園からは邪魔もの扱いである事には変わりなかった。

 

 当時入学間もない生徒で組まれた『WOLF小隊』は、逃走を図った汚職生徒たちを何人も逮捕してきた。

 当時は出世できずに中隊長として燻っていた現警備局長『権堂リリカ』は、そんな彼女たちへ協力して実績を挙げていった。

 その時の警備局長と次長がまとめて失脚した結果、彼女はいまのポストへと就いている。

 

 「ハルキ、君はSRT特殊学園の生徒がどれだけ『お上』の命令に従ったかを知っているか?」

 「一六個小隊六四名中、我々を含めて六個小隊二四名。残り四〇名中三名が他校へ転校、四名が自主退学。残り三三名は──」

 「最精鋭・最初の四人ことFOX小隊を筆頭に全員が脱走、どこかのおバカさん四人以外は行方不明ですね」

 

 皮肉るように口を挟んだのは『WOLF2』津軽ヒスイ。

 彼女はヨハネ分派に連なる血筋の家系であり、かの救護騎士団団長・蒼森ミネの従妹である。

 『キヴォトス全体の救護』のため、トリニティ総合学園で約束されていた立場を蹴ってSRTへと入った。

 しかしSRTの権力なき今ではそれを叶えることは難しい。

 

 「SRTでは警備局を『小学生のごっこ遊び』などと馬鹿にする風潮が多かったのですが、これではどちらがごっこ遊びか分かりませんね」

 挙動ひとつ一つに優雅さを感じさせるが、口から飛び出すのは直球の暴言だ。

 「お前も逃げようと考えたくせに随分と他人事だな?」

 お上品に自虐するチームメイトに肘鉄を食らわすのは、本チームのストッパーである『WOLF4』(いさご) エリだ。

 片眼鏡(モノクル)ごしに向けられた視線に不快感がにじみ出ている。

 「申し訳ありません局長。チーフ、続きを」

 

 「……三三名全員が、SRT特殊学園の装備品を強奪しています。連邦生徒会長閣下のご判断により、装備品の多くは採算度外視の学園内工房製。学園の閉鎖に伴い最終的な処分が決まるまで全て封印する予定でした」

 「わたしも脱走には乗り気だったんだけどねぇ? チーフとエリが駄目だって言うし」

 ヒスイの次に茶化し始めたのは、チームのオペレーター『WOLF3』防人(さきもり) ユイ。

 連邦生徒会の異常な判断に、ヒスイ同様激しい怒りを見せていた隊員だ。

 常識人(エリ)はそんな幼馴染から脱走を持ちかけられたために、拳を交えて()()していた。

 「そんなにテロリストになりたかったのか。……どうやら殴られ足りないようだな? ん?」

 「テロリスト、それだ」

 リリカは漫才のようなやり取りに頭の痛みを感じつつ、本題を切り出した。

 

 「重武装の特殊犯罪への対応は公安局の役目なのだが、残念ながら防衛室の政治的干渉を受けやすい所でもあるんだ」

 ヴァルキューレの暗黒期に最も猛威を振るっていたのは公安局だ。

 特殊部隊として厳しい訓練を積み、警察学校で最も充実した装備を与えられる。

 だからこそ、普段は何も命令してこないのに肝心な時は余計な事しかしない防衛室の『駒』として汚れ仕事を行ってきた。

 局内でのいじめや不当な体罰、予算の横領も日常的に行っていたとされる。

 『浄化』後に公安局長へ就任した尾刃(おがた)カンナも、元々の強面がさらに険しくなるほど『上』に振り回されているらしい。

 「連邦生徒会長の失踪後、違法性のあるルートでの武器の流通が数千パーセント増加。この間トリニティで起きた事件以降『アリウス分校を名乗る過激派テロ組織』の落伍者が出没してる中で、SRTの隊員までもが犯罪者側に回る恐れが出てきたのが現状だ」

 

 四人は局長の言葉に息を呑む。

 大小様々な犯罪の頻発、加えて今まで水面下で動き回っていたカイザーグループの犯罪計画が次々と表面化している。

 各学園の高度な自治権に阻まれ活動に制約があるヴァルキューレも他人事ではない。

 現に百鬼夜行連合学院方面の分校は、当校の風紀委員会(百花繚乱紛争調停委員会)の活動鈍化のせいで出動件数が激増している。

 

 「そこでだ。君たちWOLF小隊を警備局長(わたし)直属の特別部隊として再編、緊急対応チームとして活動して貰いたいのだ」

 彼女の提案は連邦生徒会の意思を無視するものだ。

 これ以上元SRT生徒が反乱を起こせないように、隊員はキヴォトス各所に存在する分校へバラバラに配属するように命令されているからだ。

 「我々としては願ったり叶ったりですが、他の転入組の方へ提案はされたのですか?」

 こんな高待遇を自分達だけ甘受しては、同じ釜の飯を食った残り二〇名から恨まれかねない。

 ハルキはそう考えて質問したのだが、リリカは左手で額を押さえてため息をつく。

 「……燃え尽き症候群だ。厳しい入学試験や訓練を潜り抜けて頑張ってきたのに、このような仕打ちを受けたせいで自分を見失ってしまったようだ。一応保留にはしているが、上の目もあるから難しいところでもある」

 

 そう聞いて四人は『不思議に思うほど士気を維持している』なと自身を振り返って感じた。

 他の小隊のように『絶対的な正義』に飢えている訳でも、かといってそれを理不尽に奪われた事に対する怒りがない訳でもない。

 だが『力を持つ者としての使命(ノブリス・オブリージュ)』と『大いなる力に伴う責任感』だけは持っていると力強く言えた。

 ヒスイの『助けが必要な場所へ救いの手を』という信念、砂に埋もれたアビドスの地から這い上がってきたユイとエリの心の強さ。

 そしてそれらをまとめ上げるハルキの普遍的な正義感、それらが倫理観が低い傾向にある『狼の群れ』のアライメントを『中立にして善』へと保っていた。

 SRTが失われようとやる事は変わらない。

 平和に仇する犯罪者を取り締まるだけだと、自らの青春を燃やしているのだ。

 

 「(まぁ、一番の理由は……)」

 「(この泣き虫ちゃんをほっとけないって事だよね)」

 「……ふふっ」

 三人から温かい目で見られながら、小柄な狼は提案に乗った。

 「狼谷ハルキ以下四名、承知しました」

 

 リリカはWOLF小隊が無事引き受けてくれた事に胸をなでおろした。

 彼女は部下からの人望があまり良いとは言えない*3ので、実力と人格面の両方で信用できる手駒を欲してもいた。

 今回の案件は上層部からの覚えが悪くなるのをペイできる程の利点があるからこそである。

 

 

 「局長、いくつかお願いがあります」

 「なんだね?」

 「自分達が正当なSRTである事を誇示するため、制服はSRTのものをそのまま使うこと。また万全を期したいので銃器を始めとした装備品は私物の使用を許していただきたい」

 連邦生徒会が首を縦に振るとは考えられないため、封印されたSRT製に代わる道具は自分で用意しなければならない。

 しょせん大量生産品である警察学校の制式装備では不十分なので、徹底的にカスタムした『愛銃』を使いたいのだ。

 「ご自分の立場を危うくしてまで僕たちを特別扱いしてくださる以上、それ相応の成果を挙げなければなりません。これはそのための投資とお考えください」

 

 「……わかった、認めよう。ただし部隊の特殊性ゆえ、報告書を始めとした文書作成は全て君たち自身で行うこと。いいな?」

 「了解しました。ご配慮に感謝致します」

 一糸乱れぬ動きで敬礼を行う四名の元SRT生徒。

 緊急対応部隊『WOLF』が誕生した瞬間だった。

 

 

 

Ep.01「WOLF小隊再編」(終)

*1
威嚇のサイン

*2
先生が退場させられたバッドエンド世界線を踏まえると、そもそも現在の『学園青春もの』という状態が異色なのかもしれないが。

*3
原作の警備局長は装備の管理ロッカーの暗証番号を自分の誕生日にされた上、誰も覚える気がないらしくメモ紙が貼ってある。




●執筆の経緯
 色々あってモチベドン底だわ……せや、CAT小隊すきだからANMNでオリキャラスレに挑戦しよう。単独スレでな
 ↓
 あなたはヴァルキューレへ転籍したSRT生徒です(は?)
 ↓
 小隊が再編されました(は?)
 ↓
 WOLF小隊誕生

 本来の主役はエリでした
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