こちら『元SRT』WOLF小隊   作:目多須でぃてくた

11 / 13
Ep.11 急転直下

 

 聖園ミカの聴聞会の翌日。

 D.U.某所、ヴァルキューレ警察学校本館の第四会議室にて。

 

 「皆様集まりましたね? それでは緊急会議を始めたいと思いまーす」

 『警備局』『公安局』『生活安全局』『交通局』『捜査局』『情報通信局』など……、各部署の局長やそれに準ずる立場の生徒がここに集められていた。

 今回会議を取り仕切っているのは、実家がトリニティの名家である生活安全局長の御手洗(ミタライ)マリエルだ。

 

 「昨日早朝、『アリウス分校を名乗る過激派テロ組織』の本拠地をトリニティ総合学園が襲撃。これを壊滅せしめたという報告が入りました」

 連邦生徒会にすら入っていない重要情報を伝えられ、警察学校の幹部たちからざわめきの声が上がった。

 その中で無言を貫いているのは、一週間の謹慎期間が明けて業務に復帰した“緊急対応部隊『WOLF』”の隊長だった。

 

 

 遡ること数百年前。創設されたばかりのトリニティ総合学園によって異端者として弾圧され、歴史の闇へと消えた分派『アリウス分校』。

 その末裔を名乗るテロリスト集団が、トリニティ・ゲヘナ間で締結されようとしていた不可侵条約『エデン』の式典を襲撃したのがつい先月の話である。

 

 『自称』アリウス分校は『トリニティとゲヘナを地図から消し去る』と宣戦布告。

 大量破壊兵器と思わしきミサイルで会場の古聖堂を破壊し双方の首脳陣を全滅させると、無限に湧いて現れる幽霊のような武装兵団を駆使して無差別破壊を始めた。

 だがオブザーバーとして参列していた所を巻きこまれたシャーレの先生が即席の連合軍を編成し、破壊された古聖堂跡に集結していたアリウスの大部隊を退けることに成功した。

 

 これで一旦事態は終息を迎えたのだが、テロ組織がどこから来てどこへ消えていったのかは不明のまま。

 そしてアリウスの敗残兵と思わしき犯罪集団がD.U.領内へ散発的に現れるようになり、ヴァルキューレは対応に追われることとなった。

 

 「(仮にSRTが閉鎖されていなくとも、あれでは間違いなく見て見ぬ振りを決めこむだろうな)」

 

 なお、締結式当日は連邦生徒会により『自治権の侵害となるので何が起きても介入を禁止する』という命令が下されていたため、ヴァルキューレの公式上で活動は記録されていない。

 しかし首脳部全滅により各派閥の統率が取れなくなったことで正義実現委員会が麻痺、それに加えてテロに便乗した襲撃や略奪行為があちこちで発生。

 トリニティ方面隊は『市民からの通報を受けた』事を理由に出動し、現地の自警団や混乱を逃れた正実部隊と協力して事態の収拾に努めたことを記しておく。*1

 

 

 「詳しい経緯については未公表ですが、普段はバラバラで足並みが整わないトリニティが総力を結集し、人海戦術によって包囲殲滅を行ったとのことです。何があったんでしょうねぇ」

 「マリエル局長、質問」

 マリエルが述べる皮肉交じりの報告に捜査局長が手を挙げた。

 「はい」

 「トリニティの内情は正直どうでもいい。しかしなぜ連邦生徒会を無視して直接ヴァルキューレへと連絡が行っているのか教えて貰いたい」

 

 連邦生徒会が各学園から侮られているのは今更だが、ヴァルキューレ警察学校に対する認識はその評判を更に下回っている。

 

 『役に立たない癖にしゃしゃり出て、むしろ犯罪者と手を組み事件を悪化させる

 

 という過去の穢れきった悪評は一朝一夕でそそげる物ではなく、このような重大な情報を上層部を通り越して現場に直接伝えるというのは『異常事態』だ。

 

 「どうも本件には、またシャーレの先生が関わっているようです。……誰かしらがこちらに気を利かせるよう根回ししたのかもしれませんが」

 「マリエル、報告の中に『捕縛されていない戦闘員』の総数はあるのか?」

 続けて手を挙げ、返事を待たずに質問を述べたのは警備局長。

 「リリカ局長、はやる気持ちはわかりますけど順序というものがあるでしょー?」

 マリエルは眼鏡の奥の目を細め、ため息をついてタブレットを操作した。

 

 

 アリウス生徒は違法性のある構造か明確に法規制が行われている兵器を多数所持しており、真っ先に対応に当たらなければならない警備局としては『子ウサギタウンに居付いた()()()連中』よりも厄介な存在である。

 

 サーモバリック爆薬を用いた気化爆弾は特に厄介で、外傷にはめっぽう強いキヴォトスの人間と言えども気道熱傷や肺の損傷……最悪窒息死に至ってしまう。

 それ故にキヴォトス全土で全面規制が敷かれている兵器となっており、二年前のカイザーインダストリーによる密造事件は大きな騒ぎとなったのだ。

 そんなものを手榴弾やグレネードランチャーの砲弾としてポンと所持されててはたまったものではない。

 

 その一方でアリウス分校の総攻撃となったエデン条約締結式襲撃において、トリニティに拘束された構成員はわずか五名にすぎなかった。

 だが攻撃を受けた二大校は首脳部の全滅と無限湧きする敵による戦力の消耗、それに加えてそれぞれのトラブルを抱えていた。

 

 トリニティは『各派閥の統率が取れなくなり、挙句の果てにクーデター勃発』『生徒・市民を問わず暴動による混乱』。

 ゲヘナは『“敵地”での孤立とトリニティ側暴徒による襲撃』『風紀委員会の支柱である風紀委員長(空崎ヒナ)の一時失踪による士気の著しい低下』。

 

 これらをシャーレの権限と先生の信用で強引に繋ぎとめて組んだ臨時のETO(エデン条約機構)に、倒した普通の敵兵を捕らえるだけの余力は残されていなかったのだ。

 

 

 「提供されたリストによりますと、本拠地で所在が確認できていないアリウス構成員は一三六名、学園側に拘束されたのが五名ですから──」

 「こちらで捕まえたのは四六人、だから後は八五人……」

 

 あと八五人*2も野放しになっているのか、あいつら。

 会議室の雰囲気は一気にどん底へと落ちた。

 

 相手は組織の頭領(ベアトリーチェ)によって長年洗脳教育を施され、徹底的な虚無感を植え付けられ自己肯定感を奪われた少女兵だ。

 拘束した者の中には小学生レベルの学力があるかすら怪しい奴もいたが、『人殺し』の技術だけは飛び抜けていた。

 そんな人間が悪人の軍門に下ったら? そうでなくともその日を生きるため強盗でもしたら?

 結局は警察の延長線上でしかないヴァルキューレでは対応が難しいだろう。

 事実、暴動を起こしたグループを逮捕した時に警備局はかなりの損害を被っている。

 公安局は不法滞在者排除に苦戦しており、WOLF小隊は謹慎中の時期であったので完全な独力で対処を余儀なくされたからだ。

 

 

 「……拘束したアリウス生徒に関しては間もなく留置期限が切れる子もいますが、全員トリニティが引き取るとのことです」

 そのあと彼女たちをどうするかについてはヴァルキューレの知ったことではない。

 処分を下すにせよ娑婆で生きていけるよう再教育するにしても、他人の迷惑にならないようにしてもらいたいものだ。一同はそう思わざるを得なかった。

 「アリウスに関してはトリニティ生徒会による正式な発表を受け次第、連邦生徒会が具体的な方針を決定すると思われます」

 期待できそうにない。という誰かの呟きがハルキの耳に入った。

 

 「次、カンナ局長。最近頻繁に防衛室へ呼び出しを受けていますが、何かトラブルがありましたか?」

 生活安全局長のくせにどうしてお前はこう目ざといのか。カンナは口をへの字に曲げて仏頂面をさらにひどくした。

 「いつもの事だろう? 大きな金が動いている子ウサギタウンの件で、最近は随分と神経質になっている」

 『その金でどこかへ消えた弾薬費の補填をしてもらいたいものだ』と毒を吐き、生徒会から昨日受け取った紙切れを手に立ち上がった。

 

 

 「脱走したSRT特殊学園の生徒の扱いに関して、連邦生徒会が正式な決定を下した」

 SRTの脱走者全員を窃盗の罪で逮捕せよ──

 過激な意見すら飛び交った議会が下した最終的な結論がこれだ。

 

 一部の参加者が不躾にもハルキの方へチラチラと視線を向け始めた。

 部隊の設置は警備局長肝いりであり、その期待に応える実績を既に築き上げているWOLF小隊ではあるが、それはあくまで警備局内での話だ。

 業務内容が近く共同作戦の経験がある公安局と生活安全局を除けば、ヴァルキューレ本部内での立場は決して良いとは言えない。

 特に捜査局の管轄にもしゃしゃり出てくるため、同部門に所属する荒くれもの揃いの刑事たちからの評判は特に悪いのだ。

 

 

 「……ふん、連邦生徒会が腐り果てていないようで安心した。自分たち三一名まで犯罪者呼ばわりされてはかなわないからな」

 ハルキは平静さを保ったまま、目上への礼儀を捨て威圧するように言い放つ。

 「カンナ局長、連絡事項はそれだけか?」

 「ああ」

 「警備局よりリリカ局長に代わり、狼谷が報告申し上げます。先日のSRT装備強奪事件、ならびに突然のヴァルキューレ予算不足の犯人に関し──」

 

 

 『通信指令室より第四会議室! 非常事態発生! 非常事態発生!』

 

 

 館内放送で通信指令室のオペレーターが緊迫した声で呼び出しをかけ始めた。

 マリエルは近くに置いておいた内線電話の受話器を手に取り、指令室へと回線を繋いだ。

 「こちら第四会議室、御手洗。スイッチが全館放送になっていますよ。すぐに切り替えてください」

 『局長! それどころじゃないんです!』

 「後で反省文書いてください。……それで?」

 

 『市民から『シャーレのビルが爆発した』という通報が相次いでいます!』

 

 「……は?」

 

 

 


 

 

 

 通報の少し前──

 

 サンクトゥムタワーから遠く離れたD.U.の外縁部に、今やキヴォトスで名を知らぬ者はない謎の組織『連邦捜査部S.C.H.A.L.E(シャーレ)』のオフィスビルが建っている。

 そびえ立つ数十階建てビルのフロアの大半は何もない空き部屋となっており、これをたった一人しかいない職員のために用意した連邦生徒会長がいかなる意図を持っていたかはリンでも知らない。

 

 これだけ大きく様々な学園の情報が集まる場所であるならば、さぞかし警備も厳重かと思うであろう。

 だが実際はザルに大穴が開いているに等しい無防備きわまりない建物である。

 何しろ『すべてを先生に任せている』。逆に言えば先生が申請を出さない限りは、連邦生徒会は何もしない。

 

 最低限の機械警備システムを備えるのみでドローンやタレットによる攻撃設備はなし、その機械警備も夜間に警報を鳴らすのみで警備会社との契約もなし。

 導入費用が高い非常用発電機も備えておらず、停電なり地下送電線を切られるなりで電力を失うと全機能が停止する。

 そして付近にはヴァルキューレ警察学校の分校どころか、自治体警察(セントラルポリス)*3の交番すらないガバガバの治安状況である。

 

 ……もっとも、警備をする人間が居ないのはサンクトゥムタワーという最重要施設内にある連邦生徒会事務局からしてそうなのだが。

 

 シャーレへの出入りが多いとされるミレニアムの某生徒会役員(早瀬ユウカ)が提言し、先生は警備体制の見直しを含めた施設整備プランを提出した事はある。

 連邦生徒会からの返事は『浪費家に貢ぐほど財政に余裕はない』という、いくらなんでもあんまりなものであったが。

 

 加えて今日は間が悪いことに、地上階にあるコンビニの店員は『どうせ暇だろ』と他店へのヘルプへ回されており不在。

 レッドウィンター連邦学園から来る予定だった当番生徒も毎週恒例の『革命』に巻きこまれてキャンセルと、最早何らかの意思が働いてると勘繰ってしまうような状況である。*4

 

 そんな現状がために、朝から侵入者が建物の奥深くにまで入りこんでも不思議ではないのだ。残念ながら。

 

 

 

 中央ホールのエレベーター扉が開き、中から二人の女が姿を現した。

 「えーっと、先生のいる階はここだったよな?」

 「案内図見た限りはそうだな」

 見た目は謎の服装規定に沿った画一的なロングスカートのセーラー服、バツマークがついたマスクをつけたそれを『スケバン』と呼ぶ。

 罪をおかし学園を退学になる、やむにやまれず社会の輪から追い出される、あるいは刺激を求めて自らワルになる……。

 社会的地位は千差万別だが基本的に懐が寒く、『ヘルメット団』のような集団にも加わる機会もない。

 ゆえに悪い奴の鉄砲玉として雇われ騒ぎを起こす。それがスケバンたちの『役割』だった。

 

 

 下に停めたオンボロ軽トラで待っている者を含めた三人もそんな雇われであり、身なりは良いがよく分からない奴から

 『シャーレの先生を脅したいから』

 と結構な報酬額を見せられてホイホイと依頼に飛びついたのだ。

 

 「金が入ったらどうする?」

 「一人頭百万だろ? 少しは軽トラの修理に回そうぜ?」

 依頼人より渡された軽自動車のエンジンほどの大きさの機械。これはちょっとした花火と煙幕の発生装置であるらしい。

 これを先生の目の前で作動させろというのが今回の仕事だ。

 先生が現れる、または居る部屋にたどり着いたら装置を載せている台車ごと押し付けてリモコンで起動。

 イメージトレーニングもバッチリだ。

 

 通路の案内図を頼りに執務室へ続く通路を歩くと、曲がり角の向こう側から扉を開け閉めする音が聞こえてきた。

 「来るぞ」

 「合わせて三百万……合わせて三百万……」

 

 

 視界に白髪を揺らす小柄な女性の姿を捉えた直後、大柄なスケバンは渾身の力をこめて台車を押しだした。

 ガラガラと大きな音を立てて迫る何かに女性が気付いて驚きの表情を浮かべたのを確認し

 

 

 「サプラーイズ!!」

 手に握られたスイッチが押され

 

 

 

 視界が紅蓮に染まった。

 

 

 

 Ep.11「急転直下」(終)

*1
原作? どうせドーナツ食いながらテレビでも見てたんでしょ?

*2
アリウススクワッドを含めた人数なので正確には81人

*3
独自設定。マキの絆ストーリー1に登場するD.U.圏内で活動している謎の警察がモチーフ。

*4
地下生活者「小生何もしておりませんよ!?」




最終編1章13話

サキ「ちょうどいい。いつかシャーレをぶっ飛ばしてみたいと思ってたところだったんだ」(満面の笑み)

冗談でもこんな事言えなくなっちゃったねサキちゃん……。


SRT装備強奪事件から本話に至るまでの時系列は以下の通り

0日:盗難当日(Ep.09「陰謀」)
2日:先生がリュウカづてにSRT装備盗難を知らされる(Ep.10冒頭、原作9話「這い寄る影」)
3日:WOLF小隊に一週間の謹慎が言い渡される
6日:謹慎3日目。アンジュを頼ってミレニアムへ(Ep.10「私は瀟洒な諜報員」)
7日:謹慎4日目。大雨で子ウサギ公園水没(原作11話「大雨注意報」)
8日:謹慎6日目。カンナが汚職を強要される(Ep.11「前兆」、原作12話「雨に濡れた請求書」)
同日:先生はティーパーティーに呼ばれてトリニティへ、サオリに助けを乞われてアリウスへ(Ep.12「虚像の救済者と白魔女」、エデン条約編4章)
9日:謹慎7日目。アリウス浄化作戦、ミカの聴聞会(エデン条約編4章) 公安局がカイザーから兵器を受け取る
10日:謹慎明け。ヴァルキューレ緊急会議とシャーレ爆発事件発生(今ここ)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。