こちら『元SRT』WOLF小隊   作:目多須でぃてくた

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Ep.03 初陣

 

 リンが『ヴァルキューレ公安局を動員しろ』と指示してからしばらく経った頃、アユムが勢いよく扉を開いて駆け寄ってきた。

 「行政官……」

 「まさかとは思いますが……」

 「はい、公安局の生徒もみな……。報告によると、『公園に近付くこともできないまま、大量の狙撃とトラップによって部隊が壊滅した』と……」

 この報告は警備局を指したものであり、現実の公安局は現着して間もない状況だった。*1

 このような大きなミスを起こしてしまうほど、()()()()()()を強いられた調停室の混乱の大きさがわかる。

 「クロノススクールの記者たちも現場に来てしまい、中継によって状況が加熱しているみたいで……。このままですと、問題がどんどん大きく……」

 「……」

 項垂れるアユムの報告を聞いたリンは、ストレスと怒りに顔を歪ませた。

 「全く、どうしてこう次から次へと……!」

 この程度の事もできないヴァルキューレも、ひたすら騒ぎを拡げるクロノスも、()()()()()()()()()()()()()()()()()暴れ散らかすSRTも!

 

 このやり取りを聞いていたシャーレの顧問は、爆発寸前のリンへと声をかける。

 「“私に手助けできることはある?”」

 「あの、リン先輩……こういう時こそ、シャーレの先生に助けてもらうというのは……?」

 二人の提案は大変魅力的だった。

 S.C.H.A.L.E(シャーレ)が持つ超法規的権限でよその学園の戦力を無条件で寄越してもらえるだけでない、顧問の戦術指揮能力の高さも眼を見張る。

 「ヴァルキューレで太刀打ちできない以上、もう手段はそれくらいしか……」

 「……はぁ」

 

 リンは今日何度目か分からないため息をつき、作り笑いを浮かべながら顧問へ向き直った。

 「先生、少々問題がありまして……本来なら私たちだけで片付けておきたいところですが……」

 

 正義実現委員会でもゲヘナ風紀委員会でも、なんだったらミレニアムのメイド部でもいい。

 使い物にならないヴァルキューレに代わって、さっさとこのバカ騒ぎを終わらせてくれる奴を連れてきて欲しい。

 そのためだったら書類の訂正はこっちで引き受ける、だからはいと首を縦に振ってくれ。

 

 「お願いできますでしょうか?」

 取り繕って短く告げた頼みには、いっぱいいっぱいになった彼女の怨嗟が籠もっていた。

 

  「“うん、任せて”」

 

 

 

……

 

 

 

 ──ヴァルキューレ公安局。

 重武装の犯罪者やテロ組織を想定した、警察学校で最も優れた生徒が集められる特殊部隊。

 違法行為を行った民間軍事会社への強制捜査の執行実績も豊富な、まぎれもないヴァルキューレの最高戦力だ。

 

 だが、それはあくまで『普通の犯罪者』が相手の場合だ。

 

 破壊された警備局の装甲車を盾に、あるいは子ウサギ公園の土地面積の多くを占める森林に身を隠し、三個中隊*2は二手に分かれて『テロリスト』の本拠地へと迫る。

 

 森林を進むA(アルファ)分隊の二名は、どこからともなく飛んできた銃弾の雨に足を止めた。

 「うわっ!? 銃弾!?」

 「ここ、間違いなく死角だよな……? どこから飛んでくるんだ?」

 草木生い茂るこのエリアではまるで見通しが利かない。

 なぜ『敵』はこちらに気付いたのか?

 

 「……ふっ、甘いな」

 木々の葉の中に身を隠しながら、『RABBIT2』空井サキはほくそ笑んだ。

 熱線映像装置(サーモグラフィ)を用いたサーマルスコープは、SRTの斥候担当に支給された標準装備である。

 コンクリート壁ごしですらはっきりと検知できるそれを前に、草木や岩の陰などガラス板の影に隠れているも同然だ。

 「足止め完了! 目標、VK(ヴィクター・キロ)4-0-4-5。やれ!」

 『くひひ、待ってたよ〜』

 

 プロペラ音を鳴らしながら頭上から襲いかかる飛行ドローン。

 その急降下爆撃を前に、A分隊はなすすべもなく吹き飛ばされた。

 「(ざまあみろ、実力差も分からないド素人め)」

 ()()()完璧な仕事で歯向かう敵が消えるのを見るのは、風呂上がりの一杯よりも快感だった。

 

 

 

 『ご覧いただけてますでしょうか? 公安局、防戦一方です!』

 『警備局に続き、公安局までやられてしまいそうです! もうヴァルキューレで動ける部隊といえば、生活安全局ぐらいでしょうか……!?』

 WOLF小隊移動指揮車(MOP)のカーナビ画面に、クロノススクールの中継映像が映っていた。

 当然ヴァルキューレは撮影許可など出していないし、民間人が危険地帯へ入る事など端から認めない。

 警備局の撤収後は生活安全局が現地を封鎖しているはずだが、どうも監視の目をくぐって入りこんだらしい。

 『ああもう、うるさい! 誰の許可で撮影してる! さっさとカメラを止めろ!』

 怒り狂った公安局長をおちょくるかのように、レポーターはその場から逃げ出した。

 

 「マス■ミだな」

 「そりゃクロノスだし」

 WOLF小隊はユイの運転で子ウサギ公園へと急行していた。

 普通のミニバン(ハイエース)を架装し各種機器を積み込んだこの車両も、利用にあたって緊急車両として登録している。

 サイレンを鳴らしパトランプを光らせながら走ってはいるが、道路の混雑のため迂回ルートを取らねばならず到着が遅れていた。

 

 「ヒスイ。RABBIT小隊が持ち出した装備品のうち、お前ならこのシチュエーションで何を使う?」

 助手席に座るハルキは前を向いたまま、後ろに座るヒスイへと問いかけた。

 「そうですね……サーマルスコープは当然として、偵察用ドローンでしょうか」

 「ふむ」

 RABBIT小隊のうち、小隊長の月雪ミヤコとオペレーターの風倉モエは各種ドローンの運用に関する技能講習を受けていた。

 先に壊滅した警備局、そして今戦闘中の公安局ともに、小型ミサイルや無誘導爆弾を搭載した飛行ドローンによる爆撃に苦戦している。

 だが基地から強奪した機材のなかに、予め設置しておき侵入者を自動で検知通報するモーションセンサーの類いはなかった。

 おそらくモエ以外の三名が各地点へ分散して観測を行っているのだろうが、それを踏まえても異様なほどこちらの動きが筒抜けになっている。

 

 それを補う手段をRABBIT小隊は確保している。

 車両後部のコンピュータに向かっていたエリが、二次レーダーの画面に浮かぶ光点を指差した。

 「……見つけたぞ。高度九二〇メートル地点を一定のコースで周回飛行しているUAVを探知。SRTのRQ2型有翼偵察機だ」

 「空から動きが丸見えか。ならここまで一方的になるのも無理はない」

 

 やがてバンは公安局の装甲車やパトカーが停められている駐車場へと到着したが、隊員たちはすぐに車から降りなかった。

 中を通って運転席から後部へと移動したユイは、エリと席を替わってコンピュータと向かい合った。

 「さてさて、まずは空の目を奪うとしましょうか」

 「頼むぞ」

 戦場において『情報』は特に重要な要素のひとつである。

 ヴァルキューレへ転籍したとはいえSRTの隊員が投入されたと知れば、いくら浮かれていても警戒を強めると考えるのが自然だ。

 RABBIT小隊はWOLF小隊が再編されたことを知らない。ならば可能な限りそれを認知するのを遅らせ、作戦の成功率を上げる努力をしなければならない。

 

 

 公園入口付近に立っていた二人組の生活安全局生徒が近付いて来るのを見て、ハルキは窓を開けて身を乗り出した。

 「そこのデコバン! コスプレ撮影会ならここでやってないよ!」

 「コスプレ? 一体何の事だ?」

 ハルキは頭に疑問符を浮かべながら、ライアットガンを担いだ生徒へと身分証明書を提示した。

 「ヴァルキューレ警備局?」

 追いついた相方の生徒が肩を掴んで顔を耳元へ寄せる。

 「たぶん最近警備局長が作ったという元SRTの部隊だよ、この人たち」

 「ああ。緊急対応部隊『WOLF』、覚えておいてくれると助かる」

 ハルキはドアに貼られた小隊の隊章を指差して笑いかけた。

 「うっわ、背丈低そうなのにおっぱいのついたイケメン……

 

 

 「よし」

 画面に表示されたゲージが緑に染まり、ドローンの制御権を握った事をオペレーターへ知らせた。

 「やっぱあり合わせの機材じゃ苦しいか。……スイちゃんもう少しどうにかならなかったの?」

 指揮車コンピュータの処理能力が足りておらず、危うく攻性防壁でこちらがショートさせられそうになった事を愚痴るユイ。

 「民生品でそれ以上機器を小型化するのは難しいですよ。ミレニアムにでも特注すれば別でしょうけど」

 ハルキは助手席から後ろへ振り向きつつ指示を飛ばす。

 「WOLF3、ラビッツ側には偽の飛行情報を送信。ドローンを奴らの拠点上空へ飛ばせ」

 「ウィルコゥ」

 「向こうが気付いた時用にいつでも自爆させれるようにしとけよ」

 「わかってるって」

 

 ヒスイは背中に背負う医療キット入りのバックパックに掛けられた、予備の弾薬ボックスの固定を今一度確認する。

 エリも同様に腰に下げた非殺傷グレネードの種類を確かめた。

 「WOLF2と4は私に続け。WOLF3はそのままRABBIT小隊員の位置特定を急いでくれ」

 愛銃のチャージングハンドルを軽く引くと、初弾が装填されているかを確認してからスリングを肩に掛けた。

 

 「WOLF小隊、出動!」

 「いってらっしゃ~い」

 扉を開いて三匹の狼は目前の戦場へと飛び出していった。

 「へぇ、やっぱセーラー服なんだ」

 「噂によると部隊ごとにデザインが違うらしいですよ」

 

 

 

……

 

 

 

 舗装された遊歩道を駆け抜け、公安局長・カンナの後ろ姿を認めて一気に距離を詰める。

 「公安局長!」

 後ろから声をかけられたカンナは、より険しくなった強面で睨みつけながら振り向いた。

 「こちら警備局緊急対応部隊『WOLF』。全部隊を一旦ここに戻せ」

 「ウルフ……? 例の元SRT部隊か」

 チーフが話しかけている間ヒスイとエリは二人の立っている場所より先へ進み、その辺にあるベンチやゴミ箱を土嚢やバリケードの代わりとして、銃を据え付けて迎撃態勢を整える。

 「奴らは空からドローンでそちらの動きを見ていたぞ。こちらで制御を奪いはしたが布陣は筒抜けになっているはずだ」

 ならばこれ以上被害を出す前に一度態勢を立て直せ、それをわざわざ言われるほど彼女はバカではない。

 「公安局全隊員に連絡! 直ちにHQまで後退──」

 

 カンナが部下へ指示を出し始めたのを見て、ハルキもエリの横へ移動して≪ターゲット・インサイト≫を構えた。

 後輩たちはきっとヴァルキューレが後退を始めたのを見て、調子づいてドローンによる追撃を始めるはずだ。

 それを迎撃し味方の後退を手助けするすると同時に、できる限り相手の手数を減らさなければならない。

 

 やがて照準眼鏡の向こう側に多数の影が映りこんだ。

 負傷者を担いで全速力で駆けてくる公安局の生徒たちと、それを追いかけてきた円盤型ドローンの群れだ。

 「目標視認! WOLF3、ドローンの敵味方識別装置(IFF)欺瞞を頼むぞ!」

 『やってるよ。気付いた時のモエちゃんの顔が目に浮かぶねぇ』

 「各員自由射撃。射程に入り次第、片っぱしから撃ち落とせ!」

 「「了解(ウィルコゥ)!」」

 

 公安局支援作戦の第一段階が開始された。

 

 

 


 

 

 

 同時刻。ヴァルキューレ警察学校本館、第三応接室。

 「この度はお時間を頂き、誠にありがとうございます」

 公安局局長補佐官、向田(こうだ)アサミは対面に座るスーツ姿のロボット営業マンから名刺を受け取った。

 

 

 ヴァルキューレ公安局は『狂犬』の異名を持つ尾刃カンナに憧れる者ばかりが所属する、いわゆる親衛隊のような状態にある。

 不健全極まりない現状をカンナ本人は問題視しているものの、残念ながらその気持ちを汲んでくれる者はわずかしかいない。

 そのうちの一人が彼女である。

 カンナと共に公安局の暗黒時代を戦い抜いた戦友にして、警察学校では数少ない気の知れた友人。

 だが副局長というポストに就きながらも部下の大半からは蔑ろにされ、現場におけるカンナの副官である宗方(むなかた)セイカが次席と本気で思っている者すらいた。

 

 理由は単純明快、舐められきっている。

 本来ならば局長であるカンナが処理するべき諸々の手続きを一人で引き受け、オフィスへこもってひたすら事務作業を続けている。

 そのおかげで通常ではあり得ないほどスムーズに出動までこぎ着けれる*3のだが、カンナに心酔する生徒は現場での華々しい活躍ばかりに目を向け縁の下の力持ちには見向きもしないのだ。

 リュウカ「別な意味で腐ってませんか? これ」

 連邦生徒会による出動命令が下った今回もオフィスに残って書類を捌いていたのだが、そこへ喜ばしく思えない来客が来たのでやむなく応対にあたったのだ。

 

 

 「……公安局は現在作戦行動中です。手短に用件をお聞かせ願いたい。カイザーインダストリーがどのような御用でしょうか?」

 

 

Ep.03「初陣」(終)

*1
そうで無ければ先生が着いた頃には誰も残っていない

*2
36名

*3
原作では直前の出動中にカンナが提出前の書類を紛失してしまい、ワカモが暴れて警備局がキリキリ舞いしているにも関わらず出動不能に陥っていた。




 最近寒暖差だの花粉だのでコンディション最悪ですわ。
 台本形式練習のために立てたスレを誤って削除したりと散々……
 今回登場したアサミはそのスレで悲惨な末路を迎えてしまった生徒です。
 立場はスレと全く同じにしていますが、本作ではヴァルキューレの腐敗がほぼ撲滅されているので大丈夫です。
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