『警察が優秀だと話が成り立たない』とは言いますが、あそこまで底なしなのはやりすぎでしょう。
……んでダイスがキュピーンした結果、かつてはそんな原作を上回るほど腐りきっていた本作のヴァルキューレってなんなの?
原作が80%なら本作は100%なの? 無実の人間ブタ箱にブチ込んだり違法品の売買でもしてんの?
持ち場からWOLF移動指揮車を眺めていた二人の生徒は、一台の自家用車が駐車場へ入ってきたのを見てすぐに駆け寄った。
民間人であるなら追い払わなければならないが、目の前に止まった
「先生じゃないの」
運転手は車から降りると笑いながら話しかける。
「"やあ、二人とも"」
「こういう騒ぎにも駆り出されるなんて先生も大変だねぇ」
「"そういう仕事だからね"」
……
突然退却を始めた公安局を見て『臆病風に吹かれた』といい気になったのか、RABBIT小隊はドローンによる追撃を行いヴァルキューレの陣地付近まで迫ってきた。
……が、それらは待ち構えていた生え抜きの
しかも識別信号を偽造されたため、向こうはそれを知る事すらできない。
WOLF小隊の支援作戦第一段階は成功裏に終わった。
残存部隊の集結を確認したWOLF小隊の三名は、改めて公安局長への挨拶に赴く。
「何ぶん編入されたばかりですので、実際にお会いするのは初めてかと。自分は狼谷ハルキ、緊急対応部隊『WOLF』のチーフを務めております」
「僕はWOLF2、津軽ヒスイ。……早速で申し訳ございませんが、負傷者の救護に当たらせてもらいます」
ヒスイはそう一言告げると、弾薬類と一緒に持ちこんだメディカルキットを持って水飲み場付近に集められたケガ人たちのもとへ駆けていった。
「お、おい」
「ハハハ……アイツの性根は
呆気にとられるカンナの顔を見て、エリは面白いものが見れたとフッと息を吐いた。
「負傷者は重軽傷合わせて二三名、無事なのは一三名か……」
チーフがつぶやいた言葉を聞いて、エリの心に少しだけ罪悪感が浮かんだ。
自分たちが存在を隠すことなく早期に突入していれば、負傷者はもっと減らせただろう。
だがそれはあくまで可能性であり、現状では重武装のSRT生徒制圧作戦をより難しくしてしまうのが確実だった。
少々申し訳ないがこれは必要な犠牲だったのだ。エリは表情に出す事なく気持ちを切り替えた。
「空からこちらの動きを見ていた偵察機は奪い取りました。いまWOLF3が敵の正確な位置を特定中です」
「ドローンの残り数はわかるのか?」
「あー、少し待ってくれ。……WOLF3?」
チーフとカンナとのやり取りを通信機ごしに聞いていたユイは、数秒沈黙すると返事を返してきた。
『さっきWOLF1と2が粗方撃墜したからねぇ、円盤型に絞って残りは一〇機といったとこ』
「まだそんなにいるのか」
SRTのドローンはその辺にいる武装勢力よりも強力な火器を備えている。
なんの変哲もない布の制服に防弾性能は低いタクティカルベスト、小さなライオットシールドでは到底防ぐ事はできない。
「連中が盗んだ機数は四〇機、残りは自分たちが先ほど撃ち落としたのでかなり楽にはなっています」
上空を自律制御で周回している有翼型ドローンはミサイルを切らしており、現状では脅威になり得なかった。
公安局生徒の一人が苛立たしい顔で近寄ってきた。
「相手はテメエらのの後輩なんだぞ? 手加減なんて考えてるんじゃねえよな?」
「フン。今はただのテロリストだ、情けなんてかけねえさ」
『情け無用のWOLF小隊』。直接顔を合わせた事こそなかったが、カンナもその噂は耳にしている。
それはどうやら身内に対しても同じらしい。
「チーフ、負傷者の応急処置が完了しました」
救護を終えたヒスイが戻ってきた。
「戦闘に参加できる奴はいるのか?」
「医療従事者としては安静にして頂きたいのですが……。そうですね、軽症かつ戦意を失っていない者は六名程おります」
負傷者を含めてではあるが公安局の戦力はこれで一九名。*1
それに一騎当千の強者であるWOLF小隊を含めれば、一見ゴリ押しでも勝てそうにも思える。
「戦況は多少こちらが有利か」
「空の目は奪った。しかし厄介なのがまだ残っている」
ポツリとつぶやくカンナにチーフは油断しないように告げる。
「はぁ? お前達をしてそう言わせる一年生とは誰なんだ?」
喧嘩腰に食って掛かった生徒は皮肉交じりに問うたが、それに答えたのはエリの顔は至って真面目だ。
「RABBIT4、霞沢ミユだ。あいつ影が薄すぎて自動ドアのセンサーすら反応しないんだ」
「は?」
「幸いSRTの
「は?」
これを聞いた生徒たちの背景にきらびやかな宇宙空間が浮かび上がった。
「確かに狙撃された方向は分かっても、肝心の狙撃手が発見できないとは報告されているが。……本気で言っているのか?」
「
真に受け始めたカンナに釘を刺しつつ、チーフは真面目な説明を始める。
「彼女の狙撃可能距離は二千ヤード*2以上、支給された対人狙撃銃もそれに対応した精度を持ち専用の弾薬を使用している。あの子なら嵐の中でも当ててくるよ」
『射線が通りさえすれば肉眼で見えない場所から撃てる』という事実。
「とんでもない奴が敵に回ったな……」
これまでまともな実戦をしたことがない一年生がこのような才能の塊だという。
そんな人間ばかり集められている可能性に至り、カンナは『SRT閉鎖に反発した生徒の半分が脱走した』という情報にますます危機感を抱いた。*3
『──! WOLF3より作戦中の全隊員へ! 敵のポイントマンがベースまで後退してるわ!』
突然の急報に三人は驚きの表情を浮かべた。
「サキがか? どういうことだ?」
『知らないよ』
空井サキはポイントマン……本隊から突出して偵察を行い、敵の正確な位置や攻撃座標を伝える斥候役である。
戦闘ドローンが森林に潜むヴァルキューレ部隊へやたらと的確に攻撃を行えていたのも、彼女がサーマルスコープと威嚇射撃を駆使して最も効果的な位置まで相手を誘導していたからだ。
何故そのような重要なポジションが後退してしまったのか?
「……敵が来ないと判断して弾薬の補充に戻ったか?」
「WOLF3、RABBIT1と4の位置は?」
『変わらず。交代した訳でもないし、完全にナメられてるわね』
実戦未経験とはいえRABBIT小隊もSRTの一員として特別な訓練を受けてきた。
だがそんな彼女らが素人丸出しの動きを見せたことに、先輩たるWOLF小隊は困惑が隠せなかった。
「……だが、攻めるなら今か?」
話を聞いていたカンナが口を開いた途端、公園の正門側からドタドタと駆け寄ってくる二つの人影が見えてきた。
「お待たせしました、生活安全局のキリノです! もう今すぐ出動してもいいですか!?」
「……もう終わってるっぽくない? もはや私たちの出番じゃないでしょ」
呼んでもいないのにやってきた、生活安全局の名物コンビだった。
──生活安全局。
一般的な警察業務を担当する、いわゆる『お巡りさん』である。
しかし文字通り日常的に銃犯罪が起きるキヴォトスにおいては、猫も杓子も警備局による武力行使により様々な事態に対処している。
それゆえに我々の地球とは正反対に、老若男女問わず『落ちこぼれの集まり』『役に立たない非戦闘員』と見下しバカにするのが常識となっていた。
装備品も他の執行隊で使われなくなった二線級や旧式が申し訳程度に与えられ、人員も余りものや他の部署で厄介払いされた問題児ばかりで構成されている。
ただ、大きな犯罪に対処する役割がなく政治的な影響とは無縁であるため、警察学校の暗黒時代においては汚職とは無縁の『聖域』と化していたのは皮肉な話である。
ゆえに物好きで生活安全局に入った局長や同僚にとっては、頭痛の種として悩ましい存在であった。
今回も市街地パトロール中に入った『生活安全局が子ウサギ公園の騒ぎに動員された』という連絡をキリノが曲解し、手柄目当て八割警察官としての使命感二割でフブキを巻きこんで駆けつけたのだ。
「公安局に噂のWOLF小隊が揃っているなら、もう作戦は成功したも同然ですね! さあ、このまま放っておく訳にはいきません! 早速──」
「待て、勝手に動くな」
勝手に飛び出そうとするキリノをカンナが呼び止める。
「生活安全局の、えっと「中務キリノです!」……中務とやら、お前ら二人の出る幕はないぞ?」
「熱意があるのは宜しい。ですが充分な戦闘訓練を受けていないあなたたちが加わったところで、こちらの足を引っ張ってしまうおそれがありますよ?」
エリとヒスイもそれに加わるが、キリノは一歩も譲ろうとしない。
「で、ですが、市民の方々も怖がっていますし……このまま見ているだけ、という訳には……」
「君たち生活安全局の仕事は、その市民がこれ以上危ない目に遭わないように、現場に立ち入らないよう見張ることでないのか?」
トドメとばかりに言い放たれたチーフの一言に、キリノはとうとう折れた。
「は、はいぃ……」
「ラッキー。ま、言ってることはその通りだしね」
一方フブキはただ楽をしたい、ここで黙って見ていれば仕事になると浮かれ気味だった。
「まあ任せておいてくれ。今作戦を考え──」
「"なんだかすごい状況みたいだね……"」
そんな時、誰を相手にする訳でもなく話しかけてきた相手に、一同の視線が集まった。
「……何だ貴様は? 見てわからないのか、ここは今封鎖中だ」
先ほどの公安局生徒は高圧的な態度で不審者へ詰め寄るが、一方のチーフたちやカンナは険しい表情を浮かべていた。
「部外者はさっさと出ていけ!」
「おい、その人は──」
「“今からこの場を預からせてもらうよ? これは
目前に差し出された書面に目を通した生徒は驚きの声をあげた。
「……はぁ? 防衛室の代わりに、『
薄い藍色のジャンパースカートに黒いコートとベレー帽。
身長一五〇センチメートルほどの小柄な姿は、一見すると少女にしか見えない。
しかしその頭頂部にヘイローがない事が、彼女はキヴォトスの人間ではない事を示していた。
「"うん。私はシャーレの先生だよ"」
薄い桃色のメッシュが入れられた白髪を揺らし、大人の女性はほほ笑見ながらそう答えた。
連邦捜査部『シャーレ』。
失踪した連邦生徒会長が創設したとされる超法規機関で、与えられた権限はその会長に匹敵する。
しかしその一方で具体的な活動目的が一切定められておらず、『何をしても許される』とまで言われている。
それ故にシャーレに取り入ろうとする者、危険視する者は絶えることがない。
この組織を顧問として任せられた唯一の人間にして、キヴォトスの外から招かれた異邦人。
それが『先生』だ。
「部下が失礼しました」
カンナは姿勢を正すと背の低い彼女へ目線を合わせて敬礼を行う。
「今回の作戦において、現場の責任者を担当しています。ヴァルキューレ警察学校の公安局長、カンナです」
「"よろしくね。……現状は?"」
「数で押すつもりでしたが、SRT側のデタラメな火力に圧倒され……危うく警備局の二の舞になるところでした」
そこで言葉を切って背後で静観していた三名の隊員へと振り返った。
「幸いなことに、警備局から派遣された元SRTの隊員が介入。彼女らのおかげで被害は抑えられております」
WOLF小隊の三名もまた、一糸乱れぬ動きで先生へ敬礼をした。
「お初にお目にかかります。元SRT特殊学園二年、現ヴァルキューレ警備局所属・緊急対応部隊『WOLF』。隊長の狼谷ハルキです」
「同じく津軽ヒスイです。こちらは砂 エリ。それともう一人、オペレーターの防人ユイがいます」
自己紹介を終えたところで先生が本題を切り出した。
「"……確か、今暴れている子たちもSRTなんだよね?"」
「はい。一年生チーム『RABBIT』の四名です。データは──」
「あ、先生! 奇遇ですね、ヴァルキューレの支援に来てくださったのですか?」
「こんな現場にまで来るなんて、相変わらず大へもごっ」
エリは場の空気を読まずに話に割り込みをかけたキリノとフブキの口を塞いだ。
「"あはは……。それで、RABBIT小隊っていうのは?"」
話を戻そうとする先生の言葉を受け、ヒスイが口を開く。
「本来ならば私たち同様に警備局へ編入予定でした。ですがSRTの装備品を多数強奪し、こうして公園を占拠──」
「連邦生徒会に対し『閉校を取り消せ』とデモを始めた……という流れです」
説明を継いだハルキは、ずっと前から疑問に思っていた事を問うてみることにした。
「時に先生」
「"なにかな?"」
「SRT特殊学園は連邦生徒会長の直轄組織、外郭団体の扱いとはいえシャーレも同様のはずです。……先生はSRTの事についてどれだけご存じですか?」
「"ごめんよ、そんな学園があるって知ったのはついさっきなんだ"」
「……そうですか」
ハルキはこの社会人失格者への怒りを腹の底へ押しこんだ。
04「招かれざる客」(終)