このペースは今回だけです。
先生の合流から数分後。
『作戦の再確認をするよ? 発案者は先生とカンナ局長──』
1.部隊は人員を混在させず、生活安全局・WOLF小隊・公安局がそれぞれ編成を維持
2.ベースから大きく離れ孤立状態のミヤコとミユをそれぞれキリノとフブキが捕縛
3.RABBIT小隊ベースを正面よりWOLF小隊が堂々と接近、注意を引いている間に公安局が背後から奇襲し制圧
「……先生、この二人で勝算はあるのか?」
重ね重ね言うが生活安全局の職務に『武器を使って暴れる犯罪者の制圧』は含まれていない。
正面切って交戦すれば勝てる見込みはまずない。
「"RABBIT小隊のデータは読ませてもらったよ。大丈夫"」
そう言い切るからには彼女には絶対の自信があるのだろう。
キリノとフブキとは初対面のWOLF小隊と違って、先生はそう判断できるだけの信頼を築いているのだろう。
「(まぁ万が一どちらかが失敗したところで、僕たちがやればいいだけです)」
「(そうだな)」
そう耳元でささやくヒスイに頷く。
「ねえ! これホントマジでやるの?! 嘘でしょ、絶対すぐやられるって! 先生、正気!?」
「"正気正気"」
一方でそんな信頼を置かれたフブキは慌てふためいていた。そりゃそうである。
「フブキ、大丈夫です! 先生の指揮があるなら、何とかなります! 多分!!」
キリノはキリノで平然と『多分』などと言っている辺り、高いテンションとは裏腹に少なからず不安はあるのだろう。
「あーもう、計算が狂った……こんな事なら、仮病でも使っておけば……」
そう嘆くものの『成功すれば特別休暇がもらえる』だの『警備局への転科のチャンス』などとまくし立てるキリノに、フブキは渋々といった様子で腹を括った。
「カンナ局長、今度は見つからないように頼むぞ」
「善処しよう。お前たちこそ功を焦るなよ?」
「バカ言うな。手柄を焦るような頭だったら、俺たちも今頃脱走犯の仲間入りだからな」
『狂犬』と『群狼』は互いに軽口を叩き合いつつ開始の合図を待った。
『3、2、1……作戦開始!』
「
……
RABBIT小隊ベースキャンプ。
子ウサギ公園の広場に構築されたそこには複数のテントと小型ミサイルの発射台、そして無数のトラップが仕掛けられていた。
先ほど歯向かうヴァルキューレを片っぱしから蹴散らし、連邦生徒会への宣戦布告と共にクロノススクールの中継用ドローンを撃墜したことで、サキとモエの二人はすっかり浮かれ切っていた。
「……ん?」
「どしたの? 何か問題でもあった?」
だがサキは舗装された遊歩道を大きな足音を立てて近づく何かに気が付いた。腐ってもポイントマンである。
「何か、また兵が出てきた。奴ら尻尾を巻いて逃げ帰ったと思ってたが……」
二人は公安局追撃に回したドローンを全機撃墜されている事に気づいていない。
上空の偵察機がユイのハッキングを受け『ドローンの大半は健在、公安局は敗走した』という偽の情報を受け取っていたからだ。
そして自身の戦力に対する過信とヴァルキューレ警察学校に対する色眼鏡が、警戒心を無くすという致命的な慢心へと繋がっていた。
「まさかとは思うが、生活安全局……?」
「じゃあザコじゃん。聞いて損した。それくらいだったら、ミユが適当に処理してくれるでしょ」
先ほどそのRABBIT4の存在をすっかり忘れて、危うく攻撃に巻き込みかけた者の言っていいことではない。
「そうなんだけど、何か気になるっていうか……」
何か引っ掛かるものをものを感じたサキは、レンズに反射低減処理が施された双眼鏡で現場を覗きこんでみた。
「……なぁっ!?」
「どしたの? 会長代行が白旗上げて投降でもしてきた?」
「ば、馬鹿!? あれ見ろ!」
サキの慌てふためいた様子に、モエも傍らに転がっていた照準眼鏡を拾った。
「Tango Down!」
『ドローン4機目撃墜。WOLF4、
「おらぁ!」
小隊の背後に回り込んだドローンは、エリの銃に設えた
「……マジ? 二年生の先輩たちじゃん」
WOLF小隊──その異名は二人とも知っている。
腐敗と堕落を極めたヴァルキューレ警察学校を、SRTが『粛正』した時に名を挙げた上級生だ。
問答無用・情け無用、名前を聞けば『ブラックマーケットのアウトローも震えだす』なんて大げさな噂もある。
学園内でも半ば風紀委員のようなポジションに収まっていたのを思い出す。
しかしRABBIT小隊として組まされた四人……正確にはミユを除いた三人からの印象は良くない。
先輩がやってる事は愚かな連邦生徒会の尻を拭いてるだけじゃないか。SRTの正義はそんな『どぶ浚い』に使うべきじゃない。
連邦生徒会やカイザーのような大企業の不正を暴いたFOX小隊、その姿こそ『SRTがあるべき姿』じゃないのか?
しまいには連邦生徒会からの命令に従って警察学校へと入った。他の先輩たちは『正義』を貫くために脱走したというのに!
こんな腑抜けにはお似合いだと内心であざ笑った。
だがそれと実際に相手取って戦う事は別である!
「なんでなんで!? 偵察機やドローンからはそんな情報──」
モエは慌ててモニター画面にふり返る。そこには
『作戦中に交代要員もいないのに持ち場を離れるな WOLF3より』
暗転した画面にWOLF小隊の部隊章、そしてガングロギャルな見た目*1の先輩によるメッセージが映し出されていた。
「やられた……!」
背後で最後のドローンが破壊された音と、遠くから聞こえる銃声が被さったことで、二人は『
『ネムガキちゃんがRABBIT4を撃破。いやぁミユちゃんの自信のなさに付け込んだとはいえ、やるねぇ』
「公安局は?」
『あと一分ぐらい稼いで』
「ウィルコゥ」
群狼は銃口を向けながら兎の近くまでにじり寄ってくる。
「警備局緊急対応部隊『WOLF』だ。武器を捨てて投降しろ」
「悪ガキども、観念するんだな」
サキはポイントマンとしての知識と観察眼を駆使して
「(……ダメだ、相手に隙がない)」
WOLF1は速射が利くセミオートマチックのマークスマンライフル、WOLF2は精密射撃ができる軽機関銃持ちだ。
WOLF4は片手でアサルトカービンを構えているが、左手にはガスグレネードを持っている。
おそらくSRTの機材を確保するために弾頭は催涙ガスの類だろう。
流石に経験豊富な上級生チームに一人で勝てると思う程サキは驕っていない。
加えてWOLF3に偵察ドローンを乗っ取られ、上空からリアルタイムで監視されている状態だ。
さっきまでは遠くからあれこれ煩いミヤコより役に立つと思っていたが、敵に回ればこれほど厄介な相手はいないと舌打ちした。
ならば一か八かに賭けてみようとサキは判断した。
「……モエ、ミサイルをぶち込め。
目の前を爆撃してラッキーヒットを出せれば僥倖、そうでなくても爆煙が煙幕代わりとなって逃げるチャンスが生まれる。
経験不足のマニュアル人間が即興で考えたにしては悪くないプランであった。
「いや支援も何も、もう弾薬残ってないけど?」
「……は、どうして?」
こいつは何を言ってるんだ?
「さっき言ったじゃん、『ド派手に』『全部使って』って。ドローン追撃する時に、全部パーッとね♪」
「はぁ!? おまっ、嘘だろ!?」
『RABBIT3』風倉モエは自他を問わない破滅願望の持ち主であり、そして快楽主義者である。
入学試験の成績こそ優秀だが、志願理由を『強力な兵器をバンバン使いたいから』と話すぐらい自分に正直な人間だった。
「ほんとお馬鹿さん……つける薬もありません」
「おー? 救護魂でも助けれないものがあるのか」
「初等教育からやり直すべきですよ……」
ヒスイが呆れ気味に呟いた直後、左手に巻いた腕時計の長針がひとつ進んだ。
すると下らない言い争いをするサキとモエの背後から、いくつもの催涙ガス弾が投げ込まれた。
「「?」」
何が起きたのか分からず動きが止まった二人は、呆気なくガスの海に溺れる形となった。
『突入!』
そしてガスマスクを着用した公安局の隊員たちが一斉に姿を現し、ガスの中へと飛び込んでいった。
「やれやれだな……」
『──今RABBIT1がキリノちゃんに撃破されたよ』
ガスが晴れて袋叩きにされた二人が地面に押さえつけられているのを眺めるWOLF小隊。
その時、残る『RABBIT1』月雪ミヤコもまた生活安全局の生徒に敗北したことが知らされた。
「ほう? 中務はどんな手品を使ったんだ? あいつはかなり軽装だったが」
『データには『射撃が絶望的』『民間人誤射の常習犯』としか書かれてないって。後で本人に聞いたら?』
「……」
あの大人なら何か知っているのだろうか? データでは表せない『何か』を?
「世の中には不思議な事があるものだな……」
こうして一週間*2にも及ぶRABBIT小隊のデモ活動は、警察学校へ与えた損害とは裏腹に呆気なく幕を閉じた。
……
作戦を終え、警察学校の生徒たちはカンナと先生が待つ広場まで戻ってきていた。
「……信じられません。まさか本当に生活安全局の生徒だけで、SRTを制圧するとは……」
「"二人とも頑張ってくれたからね"」
先生はあどけない笑顔を浮かべ、さも当然のごとく言った。
「なるほど……これが先生のお力。その上、姿勢も謙虚と来るとは」
カンナは『とんでもない人がいるものだ』とフッとため息をつく。
「生徒たちの噂もまた、本当だったということですね。……ヴァルキューレ警察学校を代表して、感謝いたします」
そんな二人の姿を、ハルキは目を細めバイザーごしに眺めていた。
「(……それ自体は紛れもない事実だろう。だが尾刃、『先生は生徒の味方』という言葉は心に留めていろよ?)」
シャーレの先生は必ずしも秩序側の味方ではない。
以前WOLF小隊で独自に調べ上げたシャーレの活動内容を見た限り、何かしらの理由はあるのだろうが『秩序を壊す側』にも平気で力を貸しているからだ。
やれ転科だ特別休暇だと盛り上がるキリノとフブキを、手錠と縄で繋がれたRABBIT小隊は驚きの目で見ていた。
「二人ともあんな頭の悪そうなやつらにやられたの!?」
「お前が言うな、弾薬を一気に使い果たす、なんて相当頭の悪い行動をしたくせに」
「何言ってるのさ、一瞬の輝きより大事なものなんて無いっての!」
先輩達と奇襲してきた公安局にしてやられた分、サキとモエの方はまだ精神的な余裕があった。
「もう終わりなんだ……SRTも、RABBIT小隊も、私も……全部奪われて、寂しく消える運命なんだ……」
問題はひどく自尊心に欠けるミユだ。この世の終わりと言わんばかりに絶望してしまっている。
不安そうに見ているヒスイの姿すら認識できないほど憔悴した姿はひどく痛々しい。
「……」
ミヤコは近づいて来る先生とエリを交互に見て、苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべた。
「“初めまして。SRT特殊学園の生徒たち……だよね?”」
「……お前と話すことなんて一つも無い!」
「何なに、冷やかし? それともバカにしに来たの?」
「お前らなぁ。SRTでいたいならもう少し煽りスキルを身に着けろよ」
エリはキーキー噛みついてくる二人を見て、まるで躾に失敗した小型犬のようだと心の中でぼやいた。
「……あなたがあの生活安全局を指揮した、『大人』ですか?」
「"うん、そうだよ"」
「……そうですか。あなたがあの、多くの生徒たちの悩みを解決し、生徒たちから信頼されている、超法規的捜査権を持った『シャーレの先生』……」
ミヤコはひと際憎悪を込めた視線でこう言い放った。
「……先生。私たちは、あなたのような大人が一番嫌いです」
「地獄に落ちろ」
「もう二度と会わないだろうね」
それに便乗するかのようにサキとモエも罵詈雑言をぶつけ出した。
「……バカ野郎が!」
自分より弱そうな相手と見るや即座に勢いを取り戻すのは、まさに『強き者に媚び弱者を挫く』ように思えてならない。
ハルキはそんな愚かな後輩たちに我慢できず、短く罵倒を浴びせた。
「"うーん、元気だ"」
公安局に連行されていく背中を見つめ、苦笑いを浮かべる先生。
「気にする必要はありません。負かされたことでイライラしてるんでしょう」
「あいつら今の自分たちの方が犯罪者だって事、一ミリも理解していないようだな」
そんな先生をフォローするかのように告げるカンナとエリ。
「"あの子たちは、これからどうなるの?"」
「まずは取り調べです。普段ならその後、ヴァルキューレが処罰を決める流れなのですが……」
「政治的な案件だ。おそらく防衛室長が出てくるだろうな」
あの何もしないで税金を貪り、犯罪者から袖の下を受け取ることで私腹を肥やす連中のカシラが。
ハルキはその本音を決して表に出さなかった。そんな事はこの場でいうべきことではない。
撤収する部下に合流したカンナの背中を見て、WOLF小隊はため息を漏らした。
「あー。帰ったら報告書作らなきゃいかんのかぁ……」
「それがチームの条件ですからね」
緊急性の高い案件だったとはいえ、今回はなかなかリスキーなものだった。
失敗すれば『同郷の相手に情けをかけた』と批判にさらされるし、小隊だけで解決すれば公安局の面目は丸潰れとなってしまう。
自分たちが白い目で見られるのはいいが、燃え尽きてしまった仲間たちまで巻き込む訳にはいかないのだ。
「作戦完了。WOLF小隊員は撤収を開始せよ」
移動指揮車まで戻るように命じたハルキは、バイザーを外して見送ろうとする先生へと振り向いた。
「先生」
後輩が嫌いと言った『権力者』を射殺さんと睨む。
「あなたがシャーレで何をしたいのかを自分は知らない」
だがこれはわかる。このままじゃこの大人はそう遠くない日に破滅する。
「しかし同じ組織の下にあった学園に『教えて貰わなかったから何も知らない』というのは度を過ぎている。あなたが『先生』として背負う責任というのは、そんなに薄っぺらいものなのか?」
「"……"」
『失礼しました』と頭を下げ、ハルキは2人の後を追う。
先生は彼女の問いかけに何も言わなかった。
Ep.05「兎狩り」(終)
次回は小説版書き下ろしの予定。
そろそろあのメイドが書きたいのじゃ