その時は一時的にその場を離れてギャン泣きしてますし、今回もスレ版では「ウゾダドンドコドーン!」と取り乱しています。
これは結局のところ書いた時点でキャラが固まっていなかったせいです。
カイザーインダストリーの営業マンは、顔面の液晶画面に愛想笑いを浮かべながらアサミにセールストークを始めた。
「公表されているヴァルキューレ公安局の活動実績ですが、どうも今年に入ってからは損害が激増しているように思えますが……?」
「正確には『連邦生徒会長が失踪してから』です。ある程度の資金力を持つ犯罪組織が、違法スレスレの兵器を保有している事例が激増していますから」
アサミはなんともないように言いながら目を細める。
「カイザーインダストリーとその子会社が製品もずいぶんと多いですが」
「弊社の商品は大変評価が高く、市場価値もきわめて高くなっております。秩序を乱す側の人間が欲しがるのも無理はございません」
白々しい、とアサミは内心で毒づいた。
D.U.近傍には犯罪者や悪徳業者が闊歩し、不法占拠も同然ながら独自の秩序を確立し実質的に住民による自治が行われている非学園エリアがある。
『ブラックマーケット』というそのままな名前で呼ばれている暗黒街は、社会のゴミの最終処分場であると同時に莫大な利益を水面下でもたらしている。
本来土地を管理する立場である連邦生徒会がこれを放置し、ヴァルキューレ警察学校も積極的に警察活動を行わないのも、表向きには出てこない資金の流れがキヴォトス中央部の社会そのものへ大きな影響力を持っているからだ。
キヴォトス社会最大級の複合企業であるカイザーコーポレーションもブラックマーケットの『お得意様』である。
かの『覆面水着団』最初の目撃例となった闇銀行の襲撃事件も、『カイザーローンがアビドス高等学校から借金の返済として徴収した金を闇銀行を通し、アビドスへ差し向けたヘルメット団を雇うための金として利用していた』のが背後にあった。
カイザーグループの軍需産業部門があるカイザーインダストリーは、ブラックマーケットに設けた窓口から堂々と武器を裏社会へと流している。
『使う人間の問題であり道具に罪はない』とはいうが、悪用するのが明白な相手に売るのは問題だ。
それが罪に問われることがないのは前述の影響力、そしてカイザーそのものが連邦生徒会に対して深く取り入っているからに他ならない。
現に連邦生徒会に議席を持つ生徒の何割かは、大なり小なりカイザーの息がかかっている。
責任者が居なくなった混乱に乗じてSRT特殊学園廃止論が俎上に上がったのも、『そういうこと』なのだろう。
「いまクロノスが中継していますけど、
売りこみをかけている相手を見下しているのを隠さない営業マンだが、『浮浪者』という言葉を聞いたアサミは眉をわずかにつり上がらせた。
最近キヴォトスで噂になっている『ヴァルキューレ警察学校を上回る重武装の放浪者集団』、それがD.U.圏内で目撃されたという情報が入っていたからだ。
「何を仰っしゃりたいのです?」
「もしそちらが宜しければなのですが、御社から公安局へ銃器類を『寄付』する用意がございます」
「贈収賄罪です。お断りします」
「あくまで寄付です。警察学校がこのような
「それは去年までの話です。今のヴァルキューレには、不浄役人など片手の指が余る程度しかいないでしょう」
相容れぬ話が平行線を辿るなか、営業マンは肩をすくめて大きなため息をついた。
「……いやはや。力なき正義は無力だと
「穢れた力に頼っていたこれまでの公安局とは違います。……今日のところはお帰りください。正面ゲートまで送りましょう」
カイザーの営業マンは仏頂面のアサミを愉快そうに見ながら最後にこう告げた。
「我々カイザーインダストリーは、いつでもご連絡をお待ちしておりますよ」
「くそっ!! 舐めた態度しやがってカイザーの犬が!」
アサミは公安局に割り当てられたロッカー室で盛大に毒を吐いた。
「ウチらはブタ箱送りになった
前任の防衛室長に媚びへつらい自分たちには横柄に接する能無しの局長と、権力を笠に着てパワハラやいじめを繰り返していた副局長。
連中は当然のごとくカイザーと繋がっており、随分と甘い汁を啜っていたそうである。
「ハァ……ハッ! ゴミの集まりだった警備局にはリリカがいて、今はあのオオカミがいる」
アサミは己に言い聞かせるように呟く。
「大丈夫、きっと大丈夫……」
このまま黙っていてはおそらく、心に抱え込んだ傷が開いてしまいそうだから。
子ウサギ公園での騒ぎから数日後。
時計の針がグルリと周り、時間帯は深夜へと差し掛かろうとしていた。
夜勤の生徒を除いて寮や自宅へ戻っており、ヴァルキューレ本館も静まり返っていた。
WOLF小隊のオフィスは先日の乱痴気騒ぎの報告書作成が終わっておらず、四人揃って机に向かって黙々とペンを走らせていた。
「だいたい連邦生徒会といいヴァルキューレといい、なんで紙媒体に拘り続けてるんだよ?」
「クラッキングによる改竄防止が一応の理由だ。それはいいが実際問題としては──」
「歴代の連邦生徒会長が効率化に取り組まなかったから、ね」
高校生であるがために、連邦生徒会といえども在任期間は数年しかない。
極度のトップダウン型運営であるがために、会長は『その程度のこと』を改善しようという発想にすら至らない。
優秀で我の強い補佐でもいれば話は別なのだろうが、副会長という概念すらない連中にそれを望むのは無理筋といえた。
ただペンを走らせ紙をめくる音が場を支配する中、誰かがグゥと腹を鳴らした。
「そういえばRABBIT小隊の取り調べも終わった頃ですね。おそらくは防衛室長も来ているでしょう」
戸棚から低糖質カップ麺を取り出しながらヒスイは言う。
防衛室長、
彼女がヴァルキューレへの命令を室長名義で出したこともなく、大体のことは部下に丸投げしているのだろう。
良く言えば人を使うのが上手、悪く言えば本当に何もしておらずお飾りであるのかもしれない。
ハルキは昼間聞いたリュウカの言葉に何が引っ掛かるものを感じていた。
『ひょっとすると表沙汰にしてない重要なことを話すかもしれません』
まるで『先生に対して外部に漏らしたくない情報を教える』と確信を持っているかのような態度だった。
「……よし。聞いてやろうじゃないか、内緒話を」
「じゃあわたしが見てくる?」
椅子から立ち上がり、座りっぱなしで痛む尻を撫でながらユイが言った。
「待て待て俺が行く」
「いや、言い出しっぺの自分が行くべきだろう」
単調な作業に集中力を切らした二人が、少しの間だけでも仕事を先送りにしたいと立候補し出した。
日頃の勤務態度やまじめさなど、このような状況では無意味だった。
「ハァ……皆大人しくジャンケンしてください。僕もやりますからね」
「最初はグー、じゃーんけーん──」
……
人気のない通路をコツリコツリと足音を立て、秘密兵器を持ったエリはいずこかへと進む。
「(まぁ公安局のオフィスだろうな。五階の──)」
途中から足音を消し、周囲を警戒しながら進んでいく。
WOLF小隊は諜報活動のため、全員最低限の隠密行動が取れるように訓練されている。
これに一番長けているのはユイであるし、最初に名乗りを上げたのも隊員のなかで一番『見つかりにくい』と自認しているからだ。
だがジャンケンの結果は絶対である。
エリは左目に掛けた片眼鏡のフレームを撫で、赤外線センサーを作動させた。
このモノクルは
見た目はなんの変哲もない眼鏡でしかないため、SRTの装備品を返却する際にこっそりくすねていたのだ。
人影はなし、赤外線センサーなどという高級品はなし。問題なく足を進めていく。
公安局のオフィス前に着いたエリは、懐に忍ばせておいた小型の収音マイクを扉へと当てつつ、下の隙間からファイバースコープを室内へと指しこんだ。
『"──SRT特殊学園がどういった学園なのか、詳しく教えてもらえないかな?"』
『はぁ……リン先輩らしいといいますか』
ユイから借りたファイバースコープの方も室内にいる先生とカヤ、
「(なんだ? SRTのことを一から話すようだが?)」
先生がキヴォトスに来てから半年近く。
シャーレは独立組織でこそあるが一応は連邦生徒会の関連組織であるため、責任者である先生は報告書なり予算申請などの公文書を提出する義務がある。
しかし似たような組織であるSRT特殊学園を『さっき知った』と話し、彼女は意外と繊細なチーフの心象を悪くしてしまった。
先生の上司にあたる人物……たぶん七神リン統括室長が最低限の説明を怠ったか、そうでなくても先生が『知る』権利と義務を放棄したか?
エリ本人としては先生を気に入ってはいるが、どこか抜けているとかいうレベルではないとは考える。
耳を傾けるうちにカヤによる説明は進む。
各学園が持つ高すぎる自治権によりヴァルキューレ警察学校が活動できず、学園間を跨いでの犯罪捜査に支障をきたしていたこと。
この長年放置されていた問題を解決するため、当代の連邦生徒会長が自身の直轄とする事でどこの誰よりも優れた権限を持つ軍事組織『SRT特殊学園』を設立したこと。*1
その成果の中には後に『七囚人』と呼ばれる狐坂ワカモの逮捕も含まれていること。
唯一の管理者たる連邦生徒会長が失踪した事で責任の所在が不透明となり、活動停止に追いやられ不要論が噴出したこと。
そして──
『ですが、自分たちの存続が脅かされているのでは……と気づいたのでしょうか、『FOX小隊』が動きを見せたのです』
『"『FOX小隊』……さっき言ってた、最初にワカモを逮捕した小隊?"』
『はい、そうです』
「(ん? FOX小隊が?)」
七度ユキノ率いる『最初の四人』、戦術科最精鋭の三年生チーム『FOX』。
彼女らはSRT特殊学園が活動停止に追いやられてからというものの、空元気というか無理をして平静を装っているように見えた。
特にユキノは取り繕う余裕もなく日に日に憔悴していき、とてもじゃないが見ていられなかった。
だからこそSRTを閉鎖するといわれた時、何も告げず真っ先に脱走したのだろう。
ミヤコに限らずFOX小隊の活躍にあこがれてSRTに入った者は多く、脱走者が続出したのも『真のSRTがそうしたから』という意識もあったかもしれないとハルキたちは考えていた。
『先月のことですが、FOX小隊が突如として連邦生徒会を襲撃。SRT特殊学園の閉鎖を進めようとしていたメンバーを攻撃し、逃走しました』
「(なっ……!?)」
事務局があるサンクトゥムタワーの火災事件の原因は非公表であり、本来対処するべきSRTにも連絡が行っていない。
だが生徒会が自ら恥を晒したエデン条約締結に関する緊急会見で、体育室長のハイネが腕を吊っていた事は当然把握している。
しかし下手人がFOX小隊? そんな事がありえるのか?
この事件に前後して全体の五割強にも及ぶSRT生徒が脱走した事から、連邦生徒会はとうとうSRTに見切りをつけたとカヤは語る。
加えてRABBIT小隊によるデモとヴァルキューレへの攻撃が大衆に知れ渡ってしまい、SRT特殊学園の立場は完全に失われてしまった。
「(……いくらなんでも怪しすぎるな。それに、本当にFOXがやったにしてもなぜそれを公表しない?)」
『冷静に、常に冷静に』。それがWOLF小隊のモットーだ。この程度で取り乱しては仕事にならない。
そんなあまりにも冷静さを欠いた理由でFOX小隊がやらかすか? という点も気になった。
RABBIT小隊の処遇については最終的に『生徒の望まない事を強制したくない』と話した先生が身柄を預かる事で纏まった。
シャーレの権限とカヤの根回しによって、学園そのものは消滅するが四人のSRTとしての学籍と権限そのものは維持するらしい。
まったくご都合主義にも程がある。
「(これ以上は得るものも無さそうだ。部室に戻ろう)」
エリは再び誰にも気づかれないようにその場を離れた。
こんなところに一般市民は通さないので、監視カメラの類を警戒しないで済むのが気楽であった。
……
WOLF小隊オフィス──
『先月のことですが、FOX小隊が突如として連邦生徒会を襲撃。SRT特殊学園の閉鎖を進めようとしていたメンバーを攻撃し、逃走しました』
録音されたカヤの言葉を聞いて、残る三人は言葉を失った。
やがて目を細めて何かを考えるヒスイと、ため息をついて目頭を押さえるユイ。
「……嘘だろ」
ハルキはそう呟くと頭を抱えながらソファーへ寝転がった。
「エリ、この話は先生のほかに聞いた人はいますか?」
「いいや。俺以外通路にいなかったし、先生と一緒にいたカンナ局長だけだろうな」
ハルキが声を殺しつつも嗚咽を漏らし始めてしまったので、次席であるヒスイが情報の整理に入った。
「……妙としか言いようがありません。『FOX小隊が連邦生徒会を襲った』なんて聞いたら、ざまあみろと思う人はいるでしょうが……」
『恥の上塗りをしない為にも脱走はしない』。
不満や怒りはあろうと、FOX小隊のした行いはれっきとした反逆罪だ。
初陣でユキノがマスメディアに謳った
「スイちゃん、こうは考えられない? 真実はどうであれ、そうやって意図的に情報を隠す事で『SRTの生徒が反乱を起こす』ように仕向けさせたとか」
「うーん……」
可能性はじゅうぶんある。何しろSRT特殊学園は大多数の生徒会役員にとっては獅子身中の虫、目の上のたん瘤だ。
加えて仕事をせず莫大な予算を消費していく現状を見て、生徒会が自分らの仕事の不甲斐なさを棚に上げ『コストカット』を企てていても不思議ではない。
現状維持を望むリンたちの主張を覆すためのカードこそ、『SRTが連邦生徒会に反逆した』という客観的事実なのだろう。
「……事実はどうあれ、表に出ていないこの情報は有用でしょう」
何しろ脱走組の多くが信望しているであろうFOX小隊が、SRTにとどめを刺した張本人だというのだ。
事実ならば相手は『SRTの正義』という大義名分を失うし、無実ならばFOX小隊は自らに着せられた汚名をそそぐために姿を消した事になる。
そんな先輩たちの足を身勝手な考えで引っ張るつもりなのか? これは説得材料としてはかなり有効だろう。
「決まりだな。逃げた奴らをとっ捕まえたら、この事を伝えて戦意を折ってやればいい」
「連邦矯正局で大人しくしてもらうにせよ、私たちに合流するにせよ、先輩方の言葉に耳を貸さないように出来たらベストね」
「問題は……ハルキ、気持ちはわかりますがそろそろ落ち着いてください」
ヒスイはまだ泣き止まないハルキを抱き起こして椅子に座らせると、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔を優しく拭いていった。
我らの隊長は今日もかわいい。少しだけ張りつめた空気が和らいだ。
数分後。
「本件、RABBIT小隊に伝えるつもりはありますか?」
「……いいや。落ち着いた頃合いに先生が伝えるはずだ、下手に刺激して余計な騒ぎを起こすべきじゃない」
「僕も同意見です」
チーフの決定を聞いてエリはフンと鼻をならす。
「まあそうだな。どうせ俺たちが言っても信じる訳がねえ」
「頭に血が上ったいま言ったとしても、連邦生徒会に殴りこんで説明を求めるだろうしね」
今のRABBIT小隊は動く爆弾のような存在であり、外野がヘタに手を出せばまた暴発してしまう恐れがある。
ならば正式に後を任された人間が、手段や結果はどうあれ落ち着かせるまで静観するべきだ。
WOLF小隊のメンバーはそういう方向で方針を固めた。
Ep.06「隠された真実」(終)
……こんな有様(五割脱走)でモブSRTの扱いをどうすりゃいいんだと悩んでいます。