こちら『元SRT』WOLF小隊   作:目多須でぃてくた

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 日常ダイスでキュピーンを出した結果、急に現れたモブネームドの話。
 筋力値が人外に達してそうだけどヴァルキューレにミニガンとかの重量物はないんだ……。


Ep.07 無能な……?

 

 防衛室長(不知火カヤ)の来訪から四日後。

 

 「サバイバル訓練でもしてるつもりなのかなぁ……」

 ユイはこっそりと子ウサギ公園へ赴き、RABBIT小隊と先生の会話を盗み聞きしてきた帰りだった。

 

 シャーレはRABBIT小隊に対して、転校の説得まではいかなくとも施設や物資の提供を申し出ていた。

 だが()()()()()()()()()()()()たる先生の施しなど要らん! とミヤコたちは意固地になっていた。

 SRT生徒としての口座が凍結され、先立つものがないため飢えていた四人は妥協点として『シャーレ内のコンビニで発生する売れ残った弁当』を廃棄処分代行の名目で引き取ることにした。

 ミヤコは屈辱的な行いをさせた先生への憎悪をたぎらせた。理不尽。

 

 一応『食』が整うとやはり『住』を充実させたくなる。風呂に入りたいのだ。

 子ウサギ公園には水道はあるが、当然ながらお湯が出ない。

 水浴びや濡れたタオルで拭くだけでは汚れは落ちきらないし、老廃物も体に溜まる一方で臭くなってしまう。

 やはり衛生的観点からもちゃんと身を清めたいが、シャーレオフィスビルの無駄に充実した設備を借りるのは嫌らしい。

 

 「(だからといってドラム缶を盗もうだなんてさ。普通に考えて「廃棄処分する奴だからセーフ」は通らないでしょ)」

 もしバレて取っ捕まったら先生が責任を取るのだろうか?

 SRTの正義だなんだと騒いでおきながら、やってる事はその辺の浮浪者と変わらない事に涙が出そうになる。

 

 それよりも気になったのは、ベースキャンプの排水溝が適切な深さと長さで掘られていないことだ。

 建ててあるテント類が雨水対策をロクにしていないのも気になる。

 あれでは大雨が降った時に重みでテントは簡単に潰れるし、逃げ道がなく足元に溜まった水によって装備品が水没してしまうだろう。

 「(まあほっとこう。陣地構築の方法はちゃんと習ったんだから、それでやらかしても自己責任よ)」*1

 先日チーフらが思った通り、あの様子だと先生はおろか自分達すら拒絶するに違いない。

 なら頭が冷えるまでしばらくは放っておくが吉である。

 

 

 

……

 

 

 

 せっかくなので警察学校へ戻る前に、子ウサギタウンの周辺を散策してみることにした。

 一口にD.U.(首都)といっても、全ての土地に高層ビルが建っている訳ではない。

 そんなレトロフューチャーな風景は都心部だけの話であり、外縁部ともなればそれなりに自然が多い。

 ミレニアムほどではないが、元々D.U.には川が多いというのも理由に挙げられるだろう。

 

 子ウサギタウンは連邦生徒会主導による再開発計画が進められており、住民の立ち退きが進められている。

 この間世間話をした生徒いわく、こういう事情もあってよその町への人口流入が激しいらしい。

 地価の暴騰と治安の悪化に加えて、金もうけの匂いを嗅ぎつけた地上げ屋まで現れ始めているそうだ。

 

 そして問題の再開発を受け持った企業というのが、カイザーコーポレーションの系列会社である『カイザーコンストラクション』というわけである。

 理事を兼任していたカイザーPMCの責任者が失脚したところで、頭がすり替わるだけで何のダメージも受けないのだ。

 「あーやだやだ。ほんと連邦生徒会はカイザーの首輪付きだねぇ」

 

 ユイの故郷・アビドス高等学校の自治区も、半年前に騒ぎが起きたので調べてみれば土地の権利のほぼすべてがカイザーの手に渡っている事がわかっている。

 彼女にとって、カイザーの脅威は決して他人事ではない。

 

 「はぁ……アビドスも昔はこんな感じだったのかな」

 神社の鳥居を眺めながら、自分もこういった場所に住みたいなとのんびり歩いていると──

 

 『犯罪者のいう事に耳を貸すなよ! 全員突撃ー!』

 どうもヴァルキューレがなにかの騒動に駆り出されたらしい。

 なんだどうしたと声のした方へ行ってみると、そこでは警備局と思われる部隊と典型的なスケバン集団が争っている姿が目に入った。

 「おーおー、やってるねぇ」

 ユイは物陰へ隠れてしばらく様子を見ることにした。

 

 

 ヴァルキューレ警備局という組織は()()()()()()()ごくありふれた事柄である銃犯罪を中心に、様々な事件に対応する機動隊である。

 ただしその本質は単純な武力行使による犯罪者の制圧であり、各種捜査活動は基本的には捜査局や公安局の役割である。

 そのため究極的には『指揮官の命令に忠実で腕っぷしが強いだけのバカ』でも職務を全うできてしまう。

 事実特に人数が必要とされる部署であると同時にヴァルキューレの深刻な人材不足もあって、全体の半分以上はそういった最低限の事しかしない生徒も多い。

 かのゼークトの組織論でいう『無能な怠け者』といったところだろう。

 ……ただ、これでも昨年度までと比べればマシな方である。

 

 「ウラァァァァ!」

 獣耳と尻尾と生えた体格のいい隊員が、標準装備のライオットシールドを構えて体当たり(チャージ)しているのが目に入った。

 「ギャー!?」

 ぶちかましを食らったスケバンが古いギャグアニメのように吹き飛び、近くの民家の塀にめり込んだ。

 あれの修繕費用を出すのは誰だと思っているのだろうか?

 弾痕程度ならキヴォトスの日常であるので誰も気にしないが、流石にあれはヴァルキューレで弁償しなければならない。

 

 「(全体で見れば劣勢ね)」

 一般的なチンピラ集団であるならば、警備局の一個中隊でもあれば多少苦戦はすれども問題なく制圧できる。

 SRTの超高級品と比べるのが悪いのであって、一応ヴァルキューレの制式装備は普通の犯罪者を圧倒するだけの性能はある。*2

 だが今回はどうも運が悪かった。

 対峙したスケバングループはどこからともなく手に入れた高性能の武器で武装しており、加えて数の上でも圧倒している。

 ならば慎重な対応をしなければならないのだが、先ほどの隊員が一人で突出しているので援護のため無理に前へ出なければならないのだ。

 

 結果、警備局の部隊はあっという間に追い込まれる側に回った。

 

 「あらら……連携もなにもあったもんじゃないね」

 ユイはおもむろにスマートフォンを取り出すと、短縮ダイヤルでヴァルキューレ本館へと電話を繋いだ。

 「こちら警備局緊急対応部隊『WOLF』所属、防人ユイ。通信指令室へ通達」

 『はい、こちら警察学校本部通信指令室。WOLF3どうぞ』

 「オイナリタウン5丁目3番地で出動中の第9中隊が暴徒に圧倒されています。警備局へ追加の部隊を要請するか、我が隊への出動命令をください」

 通信指令室を受け持つ生徒は、少しの間相談のために沈黙したのち

 『警備局一般部隊への増援要請を出します。WOLF3はそのまま本館へ戻ってください』

 「了解しました」

 この程度の相手に特殊部隊を出すのは、さすがの警備局側もプライドというものがあるらしい。

 

 「んじゃ帰りましょうか」

 戻ってこいと言われた以上長居は無用である。ユイはそのまま学校への帰路についた。

 

 建物の陰から一瞬見えた後ろ姿を、先ほどの隊員が見つけていたとは気付かずに……。

 

 

 


 

 Tips:オイナリタウン

 RABBIT小隊の拠点がある子ウサギタウンの近傍、D.U.と他校自治区の境界線付近に存在する自然豊かな町。

 日々の参拝客が絶えることがない大きな神社があるなど、百鬼夜行連合学院系の文化が強い地域でもある。

 『カルバノグの兎編』におけるカイザーグループによる子ウサギタウン再開発*3の影響で住民が流入しており、地価の暴騰と治安の悪化が起き始めている。

 


 

 

 

 数時間後、WOLF小隊オフィス。

 ここにはウォーターサーバーだけではなく、電気ポットと電子レンジ、そして冷蔵庫が持ち込まれていた。

 書類作成や出動に備えての待機任務で部屋にカンヅメとなることもあるだろうという判断からだ。

 ハルキとヒスイは会議に出ており、ここにはユイとエリしかいない。

 

 「ドラム缶風呂ねぇ……出所が盗品でなけりゃいい着目点だとは思うな」

 「だよね。わたしたちも一年のころ、野戦訓練中に入ったっけ」

 「あったあった。チーフがその辺に捨ててあった奴拾ってきて、焚火が目立たないようにしながら──」

 『ハルキが一緒に入ったヒスイの胸に埋もれた』だの『結局教官にバレて全員こっぴどく叱られた』と思い出話に花を咲かせる二人。

 なんだかんだで彼女らの心もSRTに残っており、こういう話をしては戻ってこないだろう母校での生活を懐かしがるのだ。

 

 「たのもー!」

 突然、扉がドカンと蹴り破られた。

 ユイとエリは咄嗟に腰に下げた拳銃を抜き、寸分たがわず襲撃犯の眉間へと照準が向けられた。

 「誰だ貴様?」

 

 『なんだこいつ?』それが襲撃犯を見た二人の感想だ。

 背丈は一七〇弱で胸は豊満、やや赤みが強い桃色髪で前髪は脱色したのか黄色だ。

 頭には小ぶりなイヌ科の耳、腰からは狐らしい尻尾がユラユラと揺れている。

 「(知性のかけらも感じられねぇ)」

 「あ、さっき見かけた人だ

 可愛げのある顔をしているが、同僚の部屋へ扉を壊して殴り込むとは理性的な行いではない。

 

 「はい、そこのガングロギャル!」

 「誰がガングロよ。これは地肌だって」

 「おまえSRTだよな! なんでさっきの暴徒鎮圧に加勢しなかった!?」

 ユイへと不躾に人差し指が向けられた。

 

 「オイナリタウンのあれ?」

 「そうだよ!」

 外見に特徴だらけの奴が一人で前に出て暴れているなら、観察していれば嫌でも記憶に残るものである。

 「落ち着け狐っ子、彼女はオペレーターだ。俺たちと違って常に前線を張れるような武器を持っちゃいない」

 「それに加勢しなかったのは通信指令室からの指示だよ。言いがかりはやめて欲しいな」

狐はそれを聞いて表情が面白おかしく変わり、やがて顔が真っ青になった。

 「……」

 「おい、なんか言ったらどうだ?」

 エリは椅子から立ち上がると、流れるように駄狐の顎に指をかけて押し上げた。所謂『顎クイッ』だ。*4

 

 「ご、ごめんなさいぃぃぃぃぃぃ!!」

 お騒がせな襲撃犯はあっさりと逃げ出した。

 

 「……なんだったんだ奴は?」

 

 

 数分後。

 会議から戻ってきたハルキが見たのは、千切れた扉の蝶番を交換し終えたユイエリの姿だった。

 「……なにをやってるんだ?」

 「さっき第9中隊のピンク狐が難癖つけて殴りこんできたのよ」

 「ピンク狐?」

 「本部警備局の生徒の顔は一通り覚えたつもりなんだが、奴の事は微塵も知らねえな。チーフは何か知ってるか?」

 「ふむ」

 

 ハルキは会議で受け取った資料束を机に置くと、傍らにあったタブレット端末を手に取った。

 「職員リストが更新されたのはついさっきだな。……事務方がサボっていたらしい」

 氏名検索をかけ、お目当ての生徒を表示させると画面を二人へ向けた。

 「……八重樫(ヤエガシ) ミオ、三年生。レッドウィンター連邦学園自治区出身」

 「文化が独特すぎるレッドウィンターではヴァルキューレはお呼びじゃないからな。かといって警察学校にはそれなりに腕の立つ奴を遊ばせるほどの余裕はない」

 警察学校の生徒に課せられる定期テストのうち、件のミオという人物の点数は散々たるものだ。

 「え? アカはアカでも赤点かよ?」

 「なんのギャグ? ……でも協調性はない子みたい。さっきチンピラと戦ってた時も一人で飛び出してたから」

 

 ヴァルキューレに限らず治安維持組織は『個』でなく『群』での活動を基本とする。

 ミレニアムやゲヘナのように、ごく少数の特記戦力によるスタンドプレーに依存してしまっている所もあるが、それはあくまで例外でしかない。

 

 「……無能な働き者か?」

 ユイもエリも『彼女が地方出身で良かった』と思わざるを得なかった。

 武力だけはあるが単細胞で思い込みが激しい、なんて人物は悪い人間にまんまと利用されるのは目に見えている。

 自分たちが警察学校を粛正するまでの腐敗しきった環境に居たならば、確実に汚職を働いていた生徒の手駒として使われていただろう。

 そして自己判断で余計な事をしては被害を拡大させていたに違いない。

 

 二人が考えこむ姿を眺めながらハルキが口を開く。

 「……なあ二人とも、SRTの隊員に『心』は必要だと思うか?」

 チーフからの思わぬ問いかけに、ユイとエリは一瞬ではあるが思考が途絶えた。

 

 「──フッ!」

 その隙を見逃す事無くハルキは一瞬で距離を詰めると、まずはユイの腕を力任せに引っ張って椅子から引きずり下ろす。

 「わ……」

 その勢いのまま机を片手で突いて反対側へ飛び上がり、エリにラリアットを食らわせ床へと倒す……が、自分の体を間に差し込んで頭をぶつけないようにする配慮を忘れない。

 

 わずか四秒間の出来事だった。

 

 「いたた……」

 「久しぶりに食らったな、チーフの()()()()()()()……」

 WOLF1(ハルキ)は時としてこのような暴力的手段をもってして『抜き打ちテスト』をすることがある。

 本人曰く『予想外の事態に直面した時、正常な判断力を保てるか』を試しているらしい。

 『泣き虫に言われたくない』とは全員思っているが、彼女は作戦中に動揺することは滅多にない。

 「お前たち……少し弛んだな?」

 ハルキはエリをヘッドロックから解放すると、なんとなく彼女の頭皮をマッサージしながら語り始める。

 

 「世の中には『兵士はただ上官の命令に従えばいい』とか『道具に心は必要ない』とかいう主張がある。だがこれは軍隊の一兵卒での話だ、それはわかるな?」

 「うん」

 「無能な怠け者の話だな」

 余計な事をせず与えられた仕事だけをこなし、それが済めば何もしない(できない)か次の仕事がないかを聞きに行く。

 そういった指示待ち人間を末端の兵士か連絡役に充てるべきというのが『組織論』の例えだ。

 「私たちはその辺の警察や風紀委員とは比較にならないほどの厳しい訓練を受けている。だがSRTは軍隊じゃない、犯罪捜査と容疑者等の逮捕を主任務とした捜査機関だ」

 

 SRT特殊学園は超法規的な権限を与えられており、今のシャーレがそうであるように『あらゆる場所での活動・戦闘行為が許されて』いた。

 だがそれは連邦生徒会の権威を知らしめるためのものではない。

 『国』を跨いで暗躍する悪を追い、生きたまま捕らえて法の下で裁きを下すためのものだ。

 ゆえに『無能な怠け者』には務まらないし、ましてや『無能な働き者』であってはならない。

 

 「生活安全局のように人々に寄り添い、公安局のように犯罪者へ容赦なく、そして警備局のように全力で仕事にあたる……」

 エリの手を引いて立ち上がらせると、腕を組んで目を瞑った。

 「それらをまとめて強い力を授けたのがSRTの姿だと自分は思っている」

 いま公園で野宿してる後輩たちを含めて、逃げ出した者たちにはその意識が足りなかったのかもしれない。

 そして根拠もなく上に暴力を振るい、何も言わずに姿を消した狐ども(FOX小隊)も。

 

 「目標は『燃えるハートでクールに戦う特命刑事』でしたね? ハルキ」

 「ヒスイ」

 全員で凹んだ扉の方を見ると、医務室へ応援に行っていたヒスイが通路から顔を出していた。

 「えー初耳なんだけど。随分とちびっこ趣味だねハルちゃん?」

 「うるさい」

 ヒスイは壁に隠れていた訪問者を無理やり引っ張り出して矢先へと立たせた。

 そうして顔を見させられたのは、学校の近くにあるコンビニの袋を提げたミオだった。

 「ミオさん、二人に何か言いたい事があるんですよね?」

 「……はい」

 

 「(自分の非を素直に認めれるのはいい事だ)」

 第一印象は最悪だったろうが、これはすぐに打ち解けれそうだなとハルキは笑みを浮かべた。

 

 

 

 Ep.07「無能な……?」(終)

*1
ユイの慈悲はたったの『2』である。

*2
生活安全局グループストーリー2 

*3
……を隠れ蓑とした秘密基地建設。

*4
なおエリの身長は168cmなので相手より背が低い




 原作のヴァルキューレモブは間違いなく『無能な働き者』です。
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