透き通る世界には放射線が無いから寝る 作:キングサクシャ
「こんばんは、先生」
”っ!? ああ、こんばんはハカリ”
夜のアビドスの校舎。1人でこれからの事を考えて居た先生のもとにいつの間にやらハカリが来訪していた。
「今日は良い日だった? それとも悪い日?」
”そうだね、今日は悪い日だったかな。反省することは沢山ある”
”生徒達との接し方とか、指揮の杜撰さとか、色々とね”と先生は笑う。
「そっか、先生は頑張り屋さんなんだね」
コロコロと笑うハカリ。彼女の真意は読めない。
先生の隣に座ったハカリは、どこから取り出したのか未だに湯気の立つお茶の入った湯呑を傾けていた。
「それで先生、どうだったかな、初めての怪獣は」
”……そっか、君はモナークの生徒なんだから今日の昼の事は知ってるよね”
今日の昼、突如飛来した”ネームド”セルヴァムとの戦闘。被害は
「あの子を相手に生き残っただけでもすごい事。話は聞いてるでしょ? ”ネームド”は危険だって」
”うん、聞いてるよ”
”ネームド”。小隊単位以上の生徒を単独で殺害した実績もしくは殺害しうる強さの怪獣たちの総称。それぞれに個別のコールサインがMONARCHによって付与されている。
そして何よりの特徴が、軍隊のような規律のある行動をするという事。
「先生は戦闘機を相手に歩兵だけで勝ったみたいなモノ。十分凄い事」
”そうかもしれないね、それでも私は、それを最善だったとは思えても最高だとは思えないかな”
「うん、先生はそう言うと思ってた。やっぱり優しいね」
やはりコロコロと鈴のような声で笑うハカリ。彼女は湯呑をどこかにしまったのか、手ぶらになって立ち上がり、先生の持っていたシッテムの箱を撫でる。
「MONARCHの彼女とは会った? 緑の子」
”ああ、ユメさんのことかい? 会ったよ”
「そっか、良い人でしょ?」
先生はふと違和感を感じ、ハカリの目を見る。黒い、黒い瞳。
電車の時と同じだ。吸い込まれるような感覚を覚えるその瞳を前に先生は自然と言葉が口を出る。
”うん、良い人だったよ”
「そっか」
ハカリが瞬きする。先生がハッとした様子で周囲を見渡す。記憶こそあるがその記憶が自分の物とは思えない不思議な感覚。そんな呆然としている先生の目の前に立ちなおしたハカリは、ニッコリと笑う。
「それじゃあ、おやすみなさい。先生」
”え、ああ。おやすみハカリ”
先生がなんとかそう言った次の瞬間にはハカリはどこかへと消えていた。先生が慌てて立ち上がり、周囲を見回せば先程まで開いていなかったはずの窓が開いている。もしかしなくても、彼女は音も無く一瞬でここから飛び降りでもしたのだろうか。
”やっぱり、猫みたいな子だ……”
そう呟く先生の手の中。シッテムの箱に一瞬黒い何かが蠢いた。
「アナタの先輩は頑張ったね、三本線」
「やぁ、遅かったじゃないか」
「もう来たの……いや、約束通りだったなすまん」
どこかの映画館。シアターに入る前の広間の一角に設けられたカフェテリアのような場所で、ケモミミを生やした金髪の少女がポップコーンとコーラを嗜みながら座っていた。
少女の待ち人は黒いズボンに黒いパーカー。黒髪に黒い瞳と黒まみれの少年は、先に居た少女の向かいに座る。
「驚いた、オジョウサマがそんなジャンキーなもん食べるんだな」
「ここでくらいしか食べないさ。外で食べると太るからね」
「はっ、乙女かよ」
「乙女だよ、紛れもなく」
少女の目の前に置かれたポップコーンの山から一つ拝借した少年はそれを口の中に投げ入れて、嚙み砕く。
「さて……悪いが、お前には死んでもらうことになる」
「だろうね、君から漏れ聞く話で察しては居たよ。下手人は件の彼女かい?」
自分の死を宣告されたというのに少女は平然としている。
「恐らくはな、確度はそこそこ。まぁ、どちらにせよお前は死ぬよ……それが表向きはなのかガチで死ぬのかは……まぁお前の話術と運命力次第だわな」
「安心したまえよ、口には自信はある」
いつの間にやら手にしていたオレンジジュースを飲みながら、少年は笑う。
「そうだな、信用してるよ。俺が欲しいのはお姫様にふさわしいハッピーエンドだからな。死人は1人で良い」
「任せたまえ……それにしても、随分とキザなことを言うようになったじゃないか」
「……クソ、どうやらお姫様に相当毒されちまったらしい」
「それは良いことだと思うが……ふふっ。それじゃあ、私は戻るとするよ」
少女は席を立つ。向かう先は映画館の出口だ。
「そうだ、最後に聞いておかなきゃならなかった……」
「君は、まだ君か?」
「……いいや、俺は
その答えを聞いて、どこか寂しげな顔をした少女は映画館を後にする。残された少年は少女の背中に「クソッタレ」と投げかけ、残っていたポップコーンとコーラを口の中へと投げ込む。
そうして机の上に置かれていた物を片付けた彼は、席を立ちシアターの方へと向かう。1から39までの番号が振られたシアターの内、彼は気の向くままに34のシアターへと入った。
「っぱり、結局ヒスババアが大戦犯だよなぁ」
そうシアターの中で、映画を見ながら彼は呟いた。
「……うへ」
深夜のアビドスの街。小鳥遊ホシノはその中を歩き続ける。
彼女は気付いている……否、気付かされている。自分を見ている影がある事に。
彼女は知っている。なぜ自分と先輩だけが怪獣によって死んだ生徒について覚えていられるのかを。
「やっぱり、許してはもらえないよね」
かつての自分達が犯した罪。どっちつかずになってしまったが故の惨劇。
結局、悪いのは聞き分けの無い子供だった自分1人で、その結果皆を巻き込んでしまったと彼女は悔いる。そうして悔いるたびに考えてしまうのだ、もしもの話を。
「考えたって、無意味なのにね」
彼が消えてからアビドスはおかしくなってしまった。ありとあらゆる自然の均衡が崩れ、今や怪獣の街とさえ呼ばれる異常地帯。
きっと、彼は秤だったのだ。
自然という雄大で理解の及ばぬ存在を司る巨大な天秤。そんな天秤が私のせいで消え去ってしまった。全ては、自分のせいだ。
彼女は歩く、パトロールをしなければならないからだ。彼女は歩く、どうせ夜の内は視線を感じて眠ることが出来ないのだから。
「お願いだからさ、これ以上後輩達には何もしないでね」
今日の出来事を思い返しながら、彼女は懇願するように呟く。その彼女の呟きを、数十の怪獣が聞き取った。
「…………」
ガスマスクを付けた4人の少女達、その内の1人――白いフードを被ったフルフェイスマスクの少女が足を止め、壁しか無いはずの一点に目を向ける。
「どうかしたか姫」
そんな彼女の様子を不思議に思ったのだろう、帽子を被った少女がどうかしたのかと問いかける。
《……なんでもない》
その問いかけに一瞬の間を置いて、フードの少女は何でもないと答える。
「姫、最近よく上の空になるよね」
「それに最近痣もよく見るように……ボーっとしててぶつけちゃってるんでしょうか?」
《最近疲れてるからそれかも》
確かに、フードの隙間から僅かに見える少女の肌には黒い痣のような物がチラリと見える。その足にも数ヵ所の赤黒い痣が伝播するようにして繋がっている。
どうやら相当注意散漫になっているらしい、キヴォトスの生徒という生命体に痣が出来る程のぶつけ方をしても気付いていなかったようだ。
《気を付ける》
「そうして」
気を取り直して少女達は暗い道を歩き出す。前から2番目を歩くフードの少女の首、黒い痣が脈動し、蠢き、広がる。隠された少女の瞳は片方が黒く染りつつある。
一定のリズムで行われる痣の脈動、合わせてどこかで王の咆哮が響いた。
ハカリ:ほぼ猫、あるいは猫。
オジョウサマ:”少年”と話せる現状唯一の存在。
ホシノ:原作と割と同じくらい心にダメージがある。ユメと後輩が居るから耐えれてる。
4人組:姫とその騎士。
姫:”王”と話せる現状唯一の存在。
本編への関わり
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多め
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そこそこ
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少なめ
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最低限