透き通る世界には放射線が無いから寝る   作:キングサクシャ

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プロット/Zero


地底湖

『力が必要だ』

 

 誰かがそんなことを言うのが彼女には聞こえた。その声が聞こえたからか不思議と彼女はハッキリと目覚める。

 

(真っ暗……)

 

 窓の外を見てみれば、誰もが寝静まった真夜中。月を雲が覆い隠して居るのだろう、真っ暗な廃墟の群れが彼女を覗いている。

 

(あれ、近くに誰も居ない)

 

 ”姫”と呼ばれ、大事に大事に――壊れないように壊れないようにと監禁状態に近い環境で生きている彼女。そんな彼女の押さえつけられていた好奇心を解放し、後押しするかのようなこの暗闇に乗じて、彼女は自身の寝床を抜け出した。

 

『まだ足りない』

 

 声は未だに聞こえる。否、彼女自身の頭の中にのみ響いている。

 

 彼女は気付いた。自身が聞いているのは声では無く地響きであり、その地響きに重なるように頭の中で声が響いているのだと。

 

 その事実はさらに彼女の好奇心を駆り立てる。この声はなんなのか、この地響きはなんなのか。知りたいという欲望に身を任せて彼女は走る。

 

「ふぁ~……眠いな」

「バカッ……! 任務中だ……!」

(危ない……)

 

 途中警備している他の生徒を回避し、監視カメラやトラップの位置は不思議と解ったためにそれらも回避。

 

『もうすぐ、もうすぐだ』

 

 走って走って走って――やがて彼女は崩落した廃墟の中に巨大な穴を見つけた。軽く半径が5mを越えてぽっかりと空いているその穴は地の底まで繋がっているようで、地響きはこの穴のさらに奥から響いているのが分かる。

 

(どこに繋がってるんだろう)

 

 夜闇よりも遥かに暗く黒い闇は彼女の好奇心を大いに刺激し、彼女の足を突き動かす。

 

 月明りを頼りにその穴を降り始めた彼女は、途中数度足を取られながらもしばらく歩き続けて――いつしか地面が階段になっていることに気が付いた。

 

 歩き易くなったことで彼女の歩く速度は上がり、それからさらにしばらく歩き続けて。やがて彼女は巨大な空間へと辿り着いた。

 

(……綺麗)

 

 青く輝く鉱石によって僅かに照らされるその巨大空間は明らかに人工の建物が建っており、その入り口が彼女を待っていたかのように開いている。

 

 しかし、彼女の好奇心はそこには向かない。彼女はその建物を無視して、その空間のど真ん中から遥か奥まで続く巨大な湖へと向かう。靴を脱いで水辺にちゃぷちゃぷと足を浸らせる。

 

(冷たい)

 

 耳をすませば、この湖の底から地響きが聞こえているのだと彼女は確信した。

 

 地響きは続く。やがて地響きに合わせて湖の水面が振動を始める。最初微小な揺らぎだったそれは、地響きが大きくなる度に小さな波に変わり、さらに大きくなる地響きと共に大波へと変わっていく。

 

『ようやくか』

 

 やがて一際大きな地響きと共に巨大な水柱が上がった。そして次の瞬間にはその水柱を中心に湖が渦巻く。流れる水の音と動きから、湖の底に大穴が空いたことは明白だ。

 

 そして、その渦巻の中心――湖の底に空いた大穴から背鰭のみを水面に出した巨大な生き物が悠々と現れて彼女の元へと――正しくは水辺へと向かう。

 

 自身へと向かってくるその存在に、彼女は一カケラの恐怖すら抱くこと無く、ただそれが姿を現すのを今か今かと待っていた。

 

 やがて、湖の深さが足りなくなったのであろうその存在が大量の水を巻き込みながら立ち上がる。立ち上がった巨大な黒竜とも言えそうなその存在――ゴジラは大口を開けて天井――空へと向けて叫ぶ。

 

『GRAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッ!!/イヤッフゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウッ!!』

(……! すごい声)

 

 ゴジラ咆哮と共に、彼女の脳内には狂喜する男の声が響き――

 

『GURURURU――A/ふぅ……あ』

 

 ――彼女と、咆哮を終えた黒竜の視線がピッタリとカチ合った。

 

『……………………/……………………』

「………………」

 

 方や喋ることを禁じられたお姫様、方や喋る喉を持たない怪獣王ゴジラ。沈黙の時間が続く。

 

 そんなどうしようもない時間に耐えかねた彼女は、無理は承知で手話での会話を試みる。

 

『こんにちは』

 

 手話を習うのなら最初に知るだろう非常に基本的な手話。とはいえ相手は人では無いのだから通じる訳も無いか……と、彼女は他のコミュニケーション手段について考えようとする。

 

『GRUAAAAAAAAAAAAAAAA……?/こんにちはだっけ今の手話って?』

(通じた……!?)

 

 しかし、彼女の考えとは裏腹にゴジラは手話を理解していた。もしやと思い出来るだけ初歩的な手話での会話を試みる。

 

『なまえ、おしえて』

『GRURURURURURU……GRURURU……GURAAAAAA?/名前か、ゴジラだけど……濁点ってどうやるんだっけ……てか俺って手話やれるんか?』

 

 やけに人間臭い口調と仕草で悩むゴジラを前に、彼女はクスリと笑って再び会話を続ける。

 

『きこえてる』

『GRUAAA……GRAAAAAAA!? GRAAAAAAAAAAA!?/きこえてる……聞こえてる!? 俺の言葉が分かってんの!?』

 

 彼女は手話では無く普通に頷いて肯定する。

 

『GRAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA……/え~マジか。初めてだぞ俺の声聞こえるヤツ』

『そうなんだ』

『GRURURURU……/そうなんだよ』

 

 ゴジラがよっこらせと彼女の目の前に顔を置き、うつ伏せに寝転がる。怪獣王の威厳はどこに行ったよ……ゴジラって割とこんなもんだったわ、ラドンも「そうだそうだ」と言ってる。

 

 何よりも、ゴジラとは言え元はまだ子供であった彼。そんな彼が自身とコミュニケーションを取れる相手を前に、少々気を許すのは仕方が無い事でもあるのだろう。

 

『GRURURURURURURURU……?/それで、そっちの名前は何と言うんだ?』

『あつこ』

『GRUAAAAAAA……/アツコか、良い名前だな』

『ありがとう』

 

 なんともほっこりする会話であるが、傍から見れば食われる寸前の少女と少女を食おうとする怪物である。まぁ、ゴジラは人を食わないので正確には嚙み殺される寸前といった所だが。

 

 とはいえ見た目だけであるしギャレゴジ成分強めのこのゴジラは、マジでよほどのことをされない限りは殺すどころか攻撃すらしないのだが。

 

 このようして、1人の少女と1匹の怪物(1人の少年)は言葉を交わし夜を深めていく。半ば運命に導かれたこの関係は、今日の所は少女の直感により日が昇る少し前に切り上げられたのだった。

 

 

 


 

 

 

『生きていれば、良い事あるもんだな』

 

 あんな美少女と喋れるなんて俺は幸せ者だなぁ。こんな経験前世でも――

 

『――あれ、俺って何だったんだっけ?』

 

 どうして俺の認識において人間だった時が前世なのか、俺は死んでゴジラになったのか? 今考えてみれば名前も年齢も記憶も――人間として大事であるはずの記憶は何一つとして覚えていない。

 

 覚えていることと言えば恐らくは男であったこととゴジラの記憶。何とも偏った記憶で、それが本当に俺の記憶であったのかすらも怪しく思えてしまう。

 

 ともすれば俺はもしかしてゴジラという存在の中に埋め込まれた制御装置的なモノであり、それに際して最低限の記憶を与えられただけの存在に過ぎない可能性が出てくる。

 

 もしそうだとすれば――

 

『――はぁ……ヤダヤダ』

 

 止めだ止め。せっかく新しいトンネル掘り終わって美少女と会話出来たってのにこれじゃあ俺自身のアイデンティティが崩壊の危機だ。これは深く考えない方が良いだろうな今は。

 

『俺は(ゴジラ)だ。それ以上でもそれ以下でも無い。今はこれで良い』

 

 非常に単純明快な答えを出して思考がドツボにハマるのを防ぐ。

 

 万が一この体で思考のドツボにハマった挙句アイデンティティが崩壊してSAN値ピンチからの発狂しようもんなら……正直被害がどうなるか分からない。だからマトモな答えでなくとも、精神を保護できるこの答えこそが最適解だ。

 

 自由に生きて自由に死ぬ。その為には心の死を避けることがマストだからな。

 

 そんなことを考えながら地下トンネルを泳いで進む。地下水のおかげでトンネルでの移動速度が上がってかなり便利になったよマジで。

 

 ゴジラは水棲生物ってハッキリ分かんだね(多分違うけど)。




ゴジラ:本能に従ってトンネル掘ってたらよく解らん遺跡に辿り着いて自分と会話できる美少女と出会えて上機嫌。自分の存在が解らなくなりかけた。

アツコ:自分でもどうして声の元に行こうと思ったのか分からない。何かに導かれるように友人を得た。

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