透き通る世界には放射線が無いから寝る 作:キングサクシャ
気が付けば、目の前にゴジラが居た。ファン達からはマイゴジと呼ばれるそのゴジラは、ゼロとなった世界を――ゼロとなってもなお残り続けていた戦後の銀座を蹂躙している。
一歩踏み出せばアスファルトが捲り上がり、逃げ惑っていた人々が空を舞い。また一歩踏み出せば逃げ惑っていた人々が足の下へと消えていく。
その蹂躙劇は最終的に放たれた放射熱線による大爆発によって幕が下ろされた。
気が付けば、目の前にゴジラが居た。ファン達からはドハゴジと呼ばれるそのゴジラは、ゼロと呼ばれる偽りの怪獣王を友と王妃から託された力によって焼き尽くし、再び王座を我が物とした。
トドメに放たれた放射熱線は偽りの王を残らず消し去り、余波で空を裂き、王としての威厳を世界へと知らしめた。
その英雄劇は最終的に数多の怪獣が王へと忠誠を誓ったことにより幕が下ろされた。
気が付けば、目の前にゴジラが居た。ファン達からはシンゴジと呼ばれるそのゴジラは、ゼロのその身を進化させることで東京という都一つを焼き払った。
ビルをなぎ倒し、ステルス爆撃機を焼き払い、ついでに内閣を総辞職させる暴虐の化身は恐怖の怪獣王という存在を人々に刻み込んだ。
その恐怖は最終的に人類の勇気と叡智ですら終わらせられず、第5の姿が羽化を待っていた。
どこかふわふわとしているような気がしながら、俺は歴代ゴジラ達の上映会を見ていた。
古臭いギャグチックなゴジラから核という存在を表す恐怖の象徴かのようなゴジラ、ヒロイックなゴジラになんだおめぇゴジラかと疑いたくなるようなゴジラ。
俺が知らないはずのゴジラも、俺が知っているゴジラも、ありとあらゆるゴジラという存在を見せられて――いや、見ている。
「夢かと思ったが、そういう訳でもあるまいな」
フカフカとは言えないそこそこの質の映画館の椅子で頬杖をつきながらそんなことを呟く。自分の知らないゴジラすら流れているのだからこれが俺の夢ではない事くらい察しが付くって訳だ。
てなわけで、変な行動を起こさず文句も言わずにただひとすらにゴジラの歴史を見続けている。変なことして一生ここから出られないとか嫌だからね、俺にゴジラを見せ続けている存在が満足するのを待とう。
アニメだったりCGだったり着ぐるみだったり。小さかったり大きかったり。こうして見るとゴジラってのは色々居るもんだ。
それからずぅっとずぅっと見続けて、ゴジラの映像が白黒になった頃。俺しかいない映画館で何かおかしな気配が居る事に気が付いた。
「隣に座ってもよろしいか?」
「あーー……どうぞ」
その気配は俺が気付いたからか、それともその気配がそうするからこそ俺が気付いたのか、一応俺に許可を取ってから俺の隣の座席に座った。
チラリと横を見てみれば、首の無いコートの男が座っていた。コイツが俺にゴジラを見せているのかと一瞬考えたが、どちらかというとこの男は俺に相乗りしているような気がしたので違うのだろう。
2人並んで暫くゴジラが暴れる様を眺めていた。先程までと何も変わらない、なんとも単調な時間だ。
「貴下は”記号”の変種――それの更に変種です」
「……は?」
この空気で唐突に何言ってんだこいつ。思わず頬杖を外して男の方を見てみれば、男の手に遺影のようなものが持たれて居るのが見えた。
「この都市においては俗に”クリーピーパスタ”と呼ばれるような存在が自ら”崇高”に至る現象が稀に起こります」
「それら”記号”の変種は通常、”神秘”も”恐怖”も無いままに始動する”崇高”であり、稀有なテクストです」
「しかし、貴下を選んだその”記号”の変種は”恐怖”も”神秘”も宿して始動した更に稀有なテクストと言えましょう」
淡々と、早口になるでもなく男は続ける。
「非常に興味深い。全てに変えてでも解釈されるべき記号です。惜しむらくは、その”記号”は既に”記号”の域に無く、それを解釈することが出来る存在が貴下以外に存在しない事ですが」
「そういうこったぁ!!」
「どういうこったぁッ!?」
延々と続く意味の分からない話、そしてそれに対して唐突に挟まれた合いの手に思わず叫んで立ち上がって男の方を見る。するとおかしなことに隣の席は空っぽになっていた。
その怪奇現象に困惑していると、どこかレトロな感じがするブザーが聞こえて来た。音につられてスクリーンを見ればゆっくりと幕が下ろされている。どうやら男との話をしている間に最後のゴジラ――最新から上映されているのだからつまり初代ゴジラの上映が終わったのだろう。
「ったく、なんだったんだよマジで」
なんにも整理が出来ないままに映画館の電気が付き、アナウンスで退館を促される。
とりあえず指示には従おうと席を立って通路に出ようと横を向いて――ふと背後に気配を感じた。
先程の男かと思い振り返ると空っぽになっていたはずの席に金髪の少女、それもケモミミが着いている美少女が座っていた。ああ特徴はそれだけじゃない、なんか服装がおかしい、側面がすげぇ寒そうな服着てる。
「キミは、誰だ」
そんな痴女……もとい少女は、既に幕が下りたスクリーンを見ながらそんなことを聞いて来る。え、これ答えなきゃいけない感じ? えー……まぁ一応それに対する俺の答え? はもちろん決まってる。
「俺は
正直さっさとこの場から離れなきゃいけない気がしていたのでそうとだけ言って俺は席を後にして通路を下る。
ふと後ろを振り返れば少女は未だスクリーンを眺めている。もしかすると、彼女の目にはスクリーンで暴れるゴジラが映っているのかもしれない。
そんなことを考えながら、俺は映画館特有のヤケに重厚な扉を開けた。
水底で目が覚めた。なんともゴキゲンなモーニングだこと。
『よう解らんが……よう解らん夢? だったな』
ただひたすらにゴジラを見せられるという体験は中々にも良いもんだったが……あまりにも状況が意味分からな過ぎて集中出来なかったのが凄く残念だった。1人のゴジラファンとしてはマジで今度はちゃんと集中できる環境で見たいものだ。
『そんであの男とあの痴女。なんだったんだマジで』
首無し遺影コート男に痴女ケモミミ。インフルの時でももうちょっとマシな夢見るだろこれマジで。パプリカじゃねぇんだぞ。
とはいえ、首無し遺影コート男の言っていたことはどうも気になるというか……忘れちゃいけないことな気がするのも事実。”クリーピーパスタ”やら”記号”やら”記号”の変種の変種やら”崇高”やらよう解らんが覚えておくべきだろう。
『……とりあえず太陽を浴びるか』
地面を蹴って浮上を開始する。急速に水深を上げたってへっちゃらだぜってのは前にも言ったか。
水面が近くなるにつれて太陽の光が強くなっていく。いくら透明度が高いからって深いところまで明かりが届かないのは……なんか自然の神秘を感じる。
『……ん?』
そんなことを考えながらトンネルを登っていると、ふと太陽の光に点々と黒い影が見えることに気が付いた。なんかゴミでも浮いてるのかなぁと思いながらさらに上昇していると、それが思いの外大きい事に気が付いた。
というかあれ見た事あるぞ、なんかモヤッとボールみたいな刺々した丸い水に浮く奴。WWⅡの映画とかでよく見る……
『って機雷じゃねぇかぁッ!?』
寝起きのフワッフワの頭がようやく覚醒し気付いた時にはもう遅い! 減速に失敗した結果無事に俺は大量に爆発に包まれた。
「機雷原にゴジラ到達! 起爆に成功しました!!」
オアシスの周辺に駐屯している兵器群、その中の観測車内からそんな声が飛び出す。
「了解。それでは駆除作戦第二段階に移行、予定通り」
「作戦第二段階に移行、予定通り!」
戦車や装甲車が陣形を移行する中、オアシスの中心からゴジラが飛び出す。その体に一切の傷を作っていないゴジラは、しっかりと自身に害をなす存在を見据えて息を吸う。
『GOAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッ!!!!』
既に賽は投げられた。こうなればもう、互いに進むしかない。
彼:ゴジラという存在をさらに深く知った。中々に生意気で図太いクソガキだった。
ゴジラ:寝起きで機雷に突っ込むバカ。自身の存在について大きなヒントを得た……気がする。
顔無し遺影コート男:うっわなにこの記号すっげぇ崇高じゃん解釈してェ~~!! でも出来ねぇ~~!! しゃあないから解釈できる奴にヒントあげたろ。
側面が寒そうな少女:完全に巻き込まれた。起きた後? ……うん。
本編への関わり
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多め
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そこそこ
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少なめ
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最低限