透き通る世界には放射線が無いから寝る 作:キングサクシャ
はじめまして
「こんにちは先生、はじめまして」
”ああ、どうもこんにちは”
昼時を過ぎて太陽が少し傾いたくらいの時間。ようやく仕事にも慣れて、予定通り今日の仕事がひと段落したタイミングで1人の生徒がシャーレを訪ねて来た。
黒いマスクをしてゴテゴテの戦闘服の上に黒いフード付きのコートのような物を着た黒髪黒目のその生徒は、真っ直ぐと私の前まで歩いてきて口を開いた。
「当番、しに来ました」
なるほど、確かに私は最近希望する生徒に当番としてシャーレの仕事を手伝ってもらうようになった。ありがたいことに私の手伝いはそれなりに人気で、そのため事前に希望していた生徒達から公平な手段で選んでいる。
恐らくはその噂を聞いて当番をしようとここまで足を運んでくれたのだろう。
しかし、このような形で当番を採用してしまえば不公平になってしまう。
”ごめんね、それ――”
その旨を伝えようと口を開いたとき、目の前の彼女は片方の手で私の口をふさぎ、もう片方の手の人差し指を自分の口をふさぐように置いて「シーっ!」とジェスチャーをする。
「私知ってる。先生はゴジラについて知りたいって。知りたいから今日調べるために仕事を早く終わらせたって」
彼女の手を退けようとしていた手から思わず力が抜ける。
誰にも言っていない今日これからの私の予定。それをどうして目の前の彼女は知っているのだろうか。
そんな疑問を見透かしてか、彼女は私の口を覆っていた手を外してニコリと笑う。
「ほら、ゴジラの事も、私の事も知りたいでしょ? だったら私を資料室まで連れて行って」
私が行こうと思っていた場所まで知っているのか……と一抹の恐怖を覚えながらも、ゴジラという存在について調べる上でガイドは必要だろうと思い承諾することにした。
”分かった、よろしくね……えっと、名前は何て言うのかな?”
「名前……ハカリ。うん、私はハカリだよ」
そう言って笑ったハカリは、私の手を取り無理矢理立ち上がらせて資料室へと急かし始めた。
”ここが資料室。ゴジラについての資料は――”
「あそこ、でしょ?」
”……正解だね”
資料室に入るや否や一切の迷いなくゴジラについての資料がまとめられた棚へと直行するハカリ。ここまで詳しいってことはハカリは連邦生徒会の生徒なのかもしれない。
「ゴジラ、最初の出現はアビドス砂漠だと記録されている」
棚の前に立ったハカリは上機嫌で何か資料を探しながらそんなことを呟き始めた。
「最初の出現で砂漠の大蛇を倒した彼は、アビドス砂漠を縄張りだと認識した。だから最後までアビドス砂漠を巣にしてた」
”ゴジラに詳しいんだね”
「私はゴジラにキヴォトスで一番詳しい自信がある……と、見つけた」
そう自慢げに語るハカリの隣で適当にゴジラの資料を物色しながら相槌を打っていると、早々に彼女はお目当ての資料を見つけたらしく話を切り上げる。
なんと言うか、自分の興味に正直な子なんだなと思って見ていればプロジェクターが正常に動作したようで壁に映像が投影され始める。それに対して自慢げな顔をしたハカリは私の方を向いて口を開く。
「これは現状観測されている最後のゴジラの映像」
ハカリの言葉に釣られて壁に投影された映像を見れば、大量のミサイルや砲弾を浴びながらも悠々と歩いている巨大な黒い化け物がそこには居た。
”……これが、ゴジラ”
「そうだよ、これがゴジラ。絶対的な自然の守護者にして復讐者、恐怖を体現した太古の生物の生き残り」
映像の中のゴジラが装甲車を蹴飛ばし、戦車を殴りつけている。その間も他の戦闘車両や戦闘ヘリからの攻撃が惜しみなく叩き込まれているが……どう見ても有効打にはなっていない。
いつの間にやら椅子を用意して座って鑑賞しているハカリに促されて、彼女の隣に置かれた折り畳み式の椅子に座る。お、この椅子良いね、便利そうだし今度自前で購入しちゃおう。
「ゴジラは強い。シンプルに硬いし再生能力もある。格闘戦能力も高いし高威力の遠距離技もある。その上に体力もほぼ無尽蔵」
”それは……凄まじいね”
一瞬ハカリの言葉にそんなバカなと言いそうになったが、映像内のゴジラが口からビームのようなものを吐き出してはるか遠くのビルごと自身に向かい来るミサイルを撃墜したのを見て考えを改める。
特撮怪獣映画のような蹂躙劇を見せるゴジラを映像越しに眺めながら、ふと思った。どうしてこれが最後のゴジラの映像なのだろうか。画面の端を見ればこの映像が2年前に撮影されたものだという事は分かる。
つまりこの映像から2年間もの間ゴジラは姿を現して居ないのだろう。それはどうしてか? 一瞬駆除されたのかという考えが脳裏に過ったが、それは無いだろうと今も映像内で蹂躙劇を続けるゴジラを見て考える。
「先生、悩んでる。どうしてゴジラが2年間も姿を見せないか、でしょ?」
「答えは単純だよ、ゴジラが殺されたから」
”え!?”
どのようにしてゴジラが殺されたのか、その疑問はハカリが指し示す映像を見ればすぐに分かった。
先程のビームのようなものを吐き出そうと背鰭を光らせるゴジラに、突如飛来した大量のミサイルが殺到する。全身に余す所無く着弾したミサイルの爆煙によってゴジラの全身が包まれた。
しばらく沈黙の時間が続き、唐突に煙の中から眩い光が溢れ出す。
そして次の瞬間には、煙を中心に青い球形のエネルギーのようなものが広がる。それはオアシスの水を蒸発させ、緑の大地を一瞬にして枯れ果てさせ、砂漠の砂は赤熱したガラスのような様相に作り替え――文字通り、全てを焼き払った。
その多大な熱の余波をカメラが喰らってしまったのだろう、そこで映像は完全に途切れてしまった。
「多分、熱線がミサイルのせいで暴走して爆発しちゃったんだろうね。この爆発でゴジラはレーダーから完全に影が消えて、ほんの少しのカケラすら残らずに消滅しちゃった」
”……”
「どうしたの、先生」
”ああ、いや。なんだか呆気ないなって思って”
あれ程の怪物がこうも呆気なく死ぬのだろうか。そもそも、例えその熱線とやらが暴走したとして体全てを消滅させるなんてことが起きるのだろうか。
だってそうだろう? 自分の呼吸で消し飛ぶ生物が居ないように、ゴジラが熱線の暴発程度で死ぬ気がしない。死ぬにしたってもっとこう……高威力な攻撃を受けたらじゃないか。
なんせあの大量のミサイルを喰らいながらも煙で隠れる直前までゴジラは微動だにして居なかった。あの程度で暴走するのか?
「先生悩んでる。先生の知りたいこと、その答えはアビドスにある」
”アビドス?”
「そう、アビドス学園の今の校舎。そこに間借りしている”MONARCH”という組織が、先生の知りたいことを教えてくれる」
”モナーク……”
最早ナチュラルに思考を読まれることを気にせずにハカリから伝えられた情報を脳内に刻み込む。アビドス学園という学園の校舎を間借りするモナークと呼ばれる組織。その組織が私の知りたい答え……つまりゴジラの生死について教えてくれる。
そこでもしかしてと思い、私はハカリに聞くことにした。
”もしかしてハカリはそのモナークに所属しているの?”
「そうかな、そうとも言えるしそうじゃないと言えるかもしれない。ある側面から見れば私はMONARCHという集合の中に居ると解釈できるし、ある側面から見れば私はMONARCHという集団の集合の中には居ないと解釈できる」
”……つまり部分的にそうってこと?”
「うん、その認識が分かりやすくてちょうどいい」
やはりこの子は不思議な子だなと思いつつ脳内のメモにハカリは”モナークに部分的には所属している”とメモを残しておく。こういうのは先生として忘れないようにしなければ。
さてと、それじゃあ他の資料も見てゴジラについて調べるとしよう。そう思い立ち上がって、ハカリにも手伝ってもらおうと彼女の方を見る。
するとそこには彼女の姿は無く、空になった椅子だけが残っていた。
”……猫みたいな子だったな”
恐らく自分が興味ある事をやり終えて早々に彼女はどこかに行ったのだろう。そうだ、そうに違いない。まさか幽霊だったわけじゃないよね!! うん!!!!
そう無理矢理自分に思い込ませながら、若干震える手を無視してゴジラについての資料が入った棚を物色する。
”そういえば、ゴジラについては教えてくれたけどハカリ自身のことについては教えてくれなかったな”
最初に自分とゴジラについて教えるとハカリが言っていたことを思い出して、そんなことを呟く。まぁ、彼女がモナークという組織に属していることは聞けたのだから今度また会いに行って話を聞こう。
そんなことを考えながら適当に手に取ったゴジラの資料を開いて彼女が残していった椅子に腰かけた。うん、やっぱり良い椅子だ。
アビドス学園から救援要請が来たのはその次の日の出来事だった。
先生:チュートリアルとアビドス編開始の間くらいの先生。たまに書類やメディアなどで見るゴジラについて調べようとしていた。
ハカリ:全体的に黒い服を着た生徒。複数の十字架が重なったようなヘイローをしている。いつの間にか居るしいつの間にか居なくなっている興味のままに行動する猫のような生徒。
ゴジラ:駆除作戦に置いて大量のミサイルを喰らい熱線が暴走し跡形も残らず爆散したとされている。駆除作戦の記録では出現したゴジラの見た目が変化していた事について記載があり、具体的には尾の全長が伸びて皮膚が黒くなっていた。
本編への関わり
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多め
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そこそこ
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少なめ
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最低限