透き通る世界には放射線が無いから寝る   作:キングサクシャ

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怪獣の国


 アビドス学園自治区へと向かう道すがら、私は電車に揺られながらアビドスについてまとめられた資料を眺めていた。

 

 アビドス高等学校。生徒数たったの5人の廃校寸前の学園。シャーレへの依頼は物資の供給。

 

 アビドスの特徴としては、2年前の砂漠の大蛇とゴジラの戦闘を発端としたゴジラ事件の被害を最も受けた学園である事。その被害の最たる物として、ゴジラ駆除作戦により砂漠のど真ん中に半径10㎞もの湖が発生し、それらを囲むように大樹海が広がっている。

 

”いや、おかしくない?”

 

 見たところあの爆発の中心がそのままオアシスになったみたいだけども……いや、あの映像を見る感じ地面の砂すら赤熱ガラス化していたのに、そこがオアシスに戻るどころか樹海まで自然に出来るなんておかしくない?

 

 そんな疑問が浮かんだ時、視界の端に黒が映る。

 

「ゴジラは自分の周辺の環境を自分に暮らしやすい環境に変える能力がある」

”なるほど……ってハカリ!?”

「しー……電車では静かに、だよ先生」

 

 いつの間にやら現れたのやら、私の隣の席から資料を覗き込んでいたハカリが私の顔を見てクスクスと笑う。

 

 前もそうだったけどいつの間にか現れたハカリ。どうせ今回もいつの間にか居なくなるのだろう。

 

 本当にハカリは猫みたいな子だ。

 

”ご、ごめんなさい……ってそうじゃなくて! いつの間に居たの!?”

「先生は器用、小さな声で叫んでる。いつの間に居たのかは、私がここに居ると解釈した時からここに居る」

”……つまり?”

「それじゃあ先生、何かゴジラについて聞きたいことはある?」

 

 ニコニコとこちらを見るハカリ。マスクで口は見えないけれどきっと口も満面の笑みなのだろう。

 

 恐らくいつの間にか居た事についての説明はこれ以上行われない。だって彼女にとってはさっきの説明が全てで、二度は同じ説明をしないと彼女がそう決めたのだから。

 

”うーん……それじゃあ、さっき言ってた環境を変える能力について教えて貰おうかな”

 

 と言う訳で大人しく今しがた増えたゴジラについての疑問をハカリへと投げかける。

 

「分かった。と言っても大した説明が必要ないくらいには単純な話。ゴジラが垂れ流すエネルギーが環境に作用してゴジラの暮らしやすい環境……太古の大自然へと変えてしまう」

”だからこんな大樹海が……”

「そう。でも、限界はある。ガラス化した土地を戻すような力は無いからガラス化した範囲外が樹海になって、ガラス化した範囲は水に沈んだだけで、あの駆除作戦から今も変わらず空を映してる」

 

 なるほどと納得すると同時に、随分と詩的なことを言うなとハカリの方を見れば、彼女の黒い瞳と目が合った。

 

「そんなに見つめちゃう? 私の目、不思議だもんね」

 

 コロコロと鈴の音ような声で笑うハカリの目は、確かに不思議な目だ。どこか人間離れしているような気がする色彩や瞳孔。それらをじぃっと見ていると不思議と身体全体の動きが強張るような気がして――

 

「はい、おしまい。ここから先は有料コンテンツ」

 

 ――ハカリが私の目を覆い隠してそう言う。

 

”あ、あぁ……ごめんねジッと見ちゃって”

「別にいいよ、この体には自信がある」

”まぁ、確かに魅力的だと思うよ、うん”

「先生ったらお上手、褒めてもこれ位しか出ないよ」

”これ位って言われてもまだ目隠しされてるからそれが何か分からないかなぁ”

「あ、そうだったそうだった」

 

 目を抑えていたものが外される。少し眩しくて見えにくいが、目の前には両掌に大きめの黒い鱗のようなものを置いて首を傾げるハカリが居た。

 

 両腕が埋まっていたのにどうやって私の目を隠していたのか……そんな疑問が浮かんだが一旦それは置いておこう。うん。

 

 とりあえず差し出された黒い鱗を受け取って、光に透かして見たり強く握ってみたりする。かなり固いなこれ。

 

”これは……何かの鱗?”

 

 ハカリに聞くと、彼女はにこにこと楽しそうな顔で答える。

 

「ぶっぶー! 惜しいね先生。これはゴジラの背鰭のカケラだよ」

”ゴジラの背鰭のカケラ!?”

「しーーっ!」

 

 思わず持っていた鱗……じゃなくて背鰭のカケラを落としそうになり、慌てて持ち直してハカリの方を見る。

 

 予想に反して、ハカリは笑って居なかった。

 

「先生、ここからは真面目な話」

「もしこの先、先生自身がもうどうしようもないほどピンチになっちゃって、あと10秒もすれば死んでしまうと思った時」

「そのカケラを取り込んで。食べても良いし傷口に埋め込んでも良い」

「そうすれば、一度だけノーリスクで先生は助かる」

 

 そういうハカリの目は本当に真剣そのもので、それを聞いてから改めて背鰭のカケラを見れば不思議と脈動しているような気すらしてくる。

 

「中途半端な怪我じゃダメだよ、先生。本当に死にそうな時だけ」

”分かったよ……ちなみに、もし中途半端な怪我の時にこれを使ったらどうなるの?”

「先生が次のゴジラになる」

”ひぇ……”

 

 ガオーとジェスチャーをして笑うハカリ。ごめんだけど自分がゴジラになる可能性を聞かされて笑う事は出来ないよ私は……。

 

 

 

”あ、普通に切符で駅を出るんだ”

「電車に乗った以上は正当な料金払わなきゃだからね」

 

 またいつの間にか消えるのかと思いきや、私と同じようにアビドスの駅で降りて切符を使い改札を出るハカリ。今の時代に切符派の女子高生が存在するとは思わなかったよ私。

 

 駅前の独特な雰囲気漂う街並みを前にやはりニコニコ上機嫌なハカリ。今気づいたが、彼女のフード付きのコートにはドクロのような紋章が書かれている。これがモナークの紋章なのかな?

 

「そうだよ先生、これはMSFの紋章」

”MSF?”

MONARCH SPECIAL FORCEでMSF。モナークの特殊部隊。入隊するのにヴァルキューレよりも難しくてSRTよりも厳しい入隊試験がある」

 

 へー……そう言うのもあるんだ。そういう特殊部隊って存在はちょっと男心くすぐられちゃうな。

 

「まぁ、ここまでの内容全部嘘なんだけどね」

”嘘だったの!?”

「うん、この紋章は私の学校の紋章だしMONARCHにそんな特殊部隊は無いよ」

”ええ……どうしてそんな嘘を――って居ない!?”

 

 一瞬。瞬きの間にハカリは消えていた。最後に意味も無く嘘をついて笑ってパッと消えるあたり本当に自由な子だ。

 

 残されたのはポケットに入ったゴジラの背鰭のカケラだけ、それ以外彼女が居た痕跡は一切残っていない。

 

”ふぅ……それじゃあアビドス高等学校に行くとしようか。ナビをお願いね、アロナ”

『分かりました先生!』

”それと……ハカリの通っている学園についても調べておいて”

『そっちも了解です! 先生!』

 

 頼れるスーパーOSに諸々を願いして、アビドス高等学校への道を歩き始める。

 

 この後、大いに迷って水も食料も尽き……危うくゴジラの背鰭のカケラに頼ることになりかけたのは、また別の話ってことで。

 

 

 


 

 

 

「~~~~♪ ~♪ ~♪ ~♪ ~♪ ~~~~♪」

 

 鼻歌を歌いながら、黒いフード付きのコートを着ていた少女は砂漠化した街の廃墟を1人でゆったりと歩く。

 

 雲一つない夜空から降り注ぐ月明りのスポットライトに照らされた彼女は、背から尾へと続く背鰭を僅かに光らせて自身の行くべき道を照らし、ついでに配下を呼び集める。

 

 彼女は自身をハカリと定める。(ハカリ)とは天秤。常に世の平衡を保ち、示す者。

 

 そう解釈されたのだから、彼女はハカリ()であり続ける。

 

 目視以外の感知から遮断され、自由に姿を晒して歩く彼女。その身体が童話に出てくるお姫様のように可愛らしく美しいことを、彼女自身が最も知っている。

 

 そんな彼女(お姫様)の周辺には、巨大な複数の影がまるでお姫様に付き従う騎士の様に飛んでいた。




ハカリ:いつの間にか現れて、いつの間にか消える。不思議な目を持っていて背鰭と尾もあるけれど、世界でイチバンのお姫様。

先生:当然のように遭難して背鰭のカケラを飲みかけた。現状ただ2人ゴジラの肉体を持つ個人の片割れ。

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