透き通る世界には放射線が無いから寝る 作:キングサクシャ
「困るんだよな、ここで先生になんかされちまうと」
深夜のアビドス自治区内。道に迷って死にかけの先生が呑気にグースカ寝ている場所の付近。そこでは、アビドスの廃墟を拠点として活動する不良生徒達と1人の黒いフードを被った生徒が見合っていた。
「あ? なんだお前」
「進路の話さ。お前らがこのまま真っ直ぐこの先に行こうとしてるからこうしてる。こっちとしては穏便にやりたいんだ、だから今すぐ進路を変えてくれ」
「なに意味分からねぇこと言ってやがる?」
不良生徒達は自身らの目の前に立つ気に食わない奴をタコしてしまう気満々なようで、各々が銃を握りなおしている。
「ああ、やる? それでも良いよ。ちょうどいい」
「お前ら! アイツをぶっ殺せ!!」
不良生徒達が銃を構え、黒いフードの生徒へと銃口を向ける。
圧倒的人数不利と自身に向けられた銃口を前に黒いフードの生徒は笑う。
「今の俺は、この体を試したかったところだ」
瞬間、20近い銃口が煌いた。大量の弾薬が火薬によって容易に人の命を奪える程の速度まで加速し、一直線に黒いフードの生徒へと向かう。
反動を腕力で押さえつけ、圧倒的な精度で黒いフードの生徒に命中するかに思われた大量の銃弾は、全てが黒いフードの目前で軌道が大きく逸れてあらぬ方向へと飛んで行く。
「なっ! 銃弾が曲がったぁ!?」
「本当は皮下に展開するんだよコレ。だがこの体で皮下に展開すると服が破れちまいそうでね。ちょっと解釈を変えてみたんだ」
「また訳の分からない事を! 撃って撃って撃ちまく――」
「じゃ、付き合ってくれてありがとう」
リーダー格の不良生徒の目の前に黒いフードの生徒が立っている。突如距離を詰められたリーダー格の不良生徒は反応出来ず、そのまま首を掴まれて20mほど先のビルの壁へと投げ捨てられる。
「り、リーダー!」
他の不良生徒が焦りを見せる。その隙を黒いフードの生徒は逃さない。
ある不良生徒は足を掴まれ投げられ、仲間を巻き込み倒れる。ある生徒はゆっくりと自身に迫りくる黒フードの生徒に銃弾を撃ち込み続け、それら全てを曲げられて恐怖に飲まれながら踏みつけられる。
まさに蹂躙。黒いフードの生徒が走る度に1人また1人と地面に不良生徒が倒れていく。倒れてなお動けるタフネスがある不良生徒達にはしっかりと頭を踏みつけることで意識を奪う事も忘れていない。
30秒もすれば、20は居たはずの不良生徒は全員が地面に倒れていた。その惨状を背後に、下手人である黒いフードの生徒は不良生徒達が持っていた缶コーヒーを1本手に取り、蓋を開けて飲み始める。
「いいね、クソみたいな味だ」
「し、シロコ先輩どうしたんですがその人!?」
「ん、保護した」
「もしかして人攫い……どうしようノノミ先輩! シロコ先輩がついに犯罪に手を出しちゃった」
「ん! 保護した!」
「とと、とりあえずバレる前に証拠隠滅しましょう! セリカちゃんスコップを――」
「ん! 保護した! 人道的行動!」
騒がしい声に目が覚める。どうやらまたマフラーの主が問題を起こしたようで、メガネの主と猫の主、それと長髪の主が叫んでいる。
話を聞いていればどうやらマフラーの主が瀕死の人間を拾ってきたようで、それを見た他の3人の主がその人間を埋めようとしていたようだ。マフラーの主よりもよっぽど3人の方が非人道的では無いだろうか。
まぁ、大したことでも無さそうなので我は小さい主を探すことにする。なにせ起きたばかりで腹が減っている。
ガラスの壁を這い上り、蓋をおもり代わりの本ごとズラして水槽から抜け出す。また脱走したことを怒られるだろうが……我は腹が減ったのだから仕方が無い。
おっと、誰かに持ち上げられた。
「うへ、また逃げ出しちゃって」
おお! 小さい主! 早く飯をくれ、腹が減ったのだ!!
「おっとっと……すごい動くね、お腹が減ってるの?」
そうだ! 他の4人はダメだ! 拾って来た人間をどうするかで我の事なぞ覚えていない!
「おお、やっぱりお腹が減ってるんだね。それじゃあエサを……の前に、どうしてみんなはあんなに騒がしいのかな?」
む、それはあそこの人間が原因だ。それを小さい主へと伝えるために体全体で拾われて来た人間を示す。
「あの人が原因って言いたいのかな?」
頭を縦に振る。
「そっか、教えてくれてありがとね」
はいエサ、と小さい主に差し出された飯を口に入れて咀嚼する。こんなものでは足りないが、何やら大事な話が始まりそうな雰囲気なので一旦我慢して大人しく小さい主の手によって水槽に戻される。
「おはよー」
「ん、ホシノ先輩」
「ホシノ先輩おはようございます」
「はいはいおはよう皆、それじゃあ色々とお話ししようか」
「あら、寝てるの?」
トントンと水槽が叩かれる。音のした方に頭を向ければ猫の主がこちらを見ていた。まだ後ろの方で何やら物品譲渡が何とか言っているが猫の主はこちらに構ってて良いのだろうか。
「起きてたのね。”セル”、まだお腹減ってるでしょ? 空気読んで大人しくしてたみたいだけど私にはお見通しよ」
構ってて良い! そうだ! 我は腹が減っているのだ!! 王に会話の内容を流すだけとはいえ疲れるのだぞ!! 我は飯を所望する!!
「アンタすぐそうやってブンブン動くからお腹が減るのよ……? はいこれ、大将がセルにって作ったチャーシューよ」
おお! 大将のチャーシュー!!
滅多に食べれない御馳走を前に思わず踊りながら跳びはねる。まぁ、我の体では大して跳べないのだがな。
「ふふっ、喜んじゃっ――って銃声!?」
チャーシュー美味い。流石大将、我好みの味だ。
口いっぱいにチャーシューを頬張っていると主達がどこかへと駆けだす。差し詰めいつもの不良の襲撃といった所だろう。
まぁ、王が近くに居るようだから今回も大丈夫だろうな。と言う訳で我はチャーシューを食べ続ける。本当に美味いな、このチャーシュー。
時間は少し巻き戻る。
”私は連邦捜査部シャーレの先生だよ、よろしくね”
「「「……えええぇぇ!?」」」
先生の自己紹介に部屋の中に驚愕の声が響き渡る。
「シャーレの先生ってことは……連邦生徒会関係の!?」
「支援要請がようやく受理されたんですね☆」
「支援を送り続けてたかいがありました!!」
「補給もこれで受けられる!」
”ああ、そのことなんだけど……”
三者三様の喜びを見せるアビドスの生徒達に、先生はかねてから疑問に思っていたことを口にする。
”このアビドスにはモナークっていう組織が校舎を間借りしてると聞いてるんだけど。そっちの組織からは弾薬とかを分けて貰えなかったの?”
ハカリに聞いたアビドスの校舎を間借りするMONARCHという組織。それがこのアビドスの危機に何もしていないのかという疑問を先生はぶつけた。
「えっと……それについてなんですが。MONARCHがこのアビドス学園の校舎に本部を置くにあたって、アビドス学園自治区内においてMONARCHは基本非武装でなければならないという条件があったんです」
「それで医療品とかはまだしも弾薬とかはどうしようもなかったって訳」
”なるほどね、ありがとう説明してくれて”
疑問に思っていたことが解決され、ならば物資の受け渡しは必須だろうと先生が端末に物品譲渡証明書を表示させる。
そしてアヤネに差し出しサインを貰おうとした時。
「おはよー」
どこか間の抜けた声が部屋の入り口から響く。
そちらに目を向ければ、ピンクの長い髪を後ろで結ってポニーテールにした小柄なオッドアイの生徒が立っていた。
「ん、ホシノ先輩」
「ホシノ先輩おはようございます」
シロコともう1人の生徒の言葉に、なるほど彼女がこの学校の最高学年かと先生は考える。
「はいはいおはよう皆、それじゃあ色々とお話ししようか」
そう言って、ホシノは席に着く。
「じゃあまずは自己紹介からしなきゃね? 私は小鳥遊ホシノ、アビドス対策委員会に所属してる3年生だよ」
「そうだ、まだ私達も自己紹介してませんでしたね☆! 私は十六夜ノノミ、2年生です!」
「私は1年生の奥空アヤネです」
「改めて、2年生の砂狼シロコ。それでこっちが――」
「1年生の黒見セリカよ」
”それじゃあ私も。改めまして連邦捜査部シャーレの先生だよ。よろしくね”
至って平和な自己紹介。しかしただ一人ホシノの視線だけはどこか鋭い。
”それでこれ、物品譲渡の証明証。これにサインしてもらえないかな?”
「は、はい! 分かりまし――」
「ここは私がサインするよアヤネちゃん。ほら、私ってば一応最高学年だしね?」
先生の差し出した端末に触れようとしたアヤネをホシノが静止し、代わりにと自身の名前を記入した。
その様子を見て自身への信用の無さを先生は知った。
”ああそうだ、アビドスに来たのにはもう一つ理由があって。それでお願いがあるんだけど――”
と、先生がそこまで口にしたところで弾丸が窓を割り、壁を穿つ音が聞こえる。そして僅かに遅れて多数の発砲音が鳴り響く。
「うへ、悪いけどその話はあとでね先生」
真っ先に反応したのはホシノ。彼女は躊躇なく背負った盾を構えながら窓から飛び降りた。
”え!? ちょ、ホシノ!?”
「ん、先生はここで隠れてて」
”シロコまで!?”
続くはシロコ。負けていられないと言わんばかりに彼女は銃を構えてホシノの後を追う。
「私達も行きましょう!!」
「「はい!」」
残っていた3人は窓からではなくしっかりドアから出て階段を駆け下りていく。イノシシ2人は流石に初手例外かと先生は少し安堵しつつ、端末――シッテムの箱を操作する。
”あの様子じゃ私は必要ないかもだけど……頼むよ、アロナ”
そう独り言を呟いた先生も、急がねばとドアから外へと駆けだした。
そうして、先程まで賑やかだった部屋に残った1体の芋虫のような生物は、呑気にチャーシューを食べ続けるのである。
先生:普通に死ぬかと思いゴジラの背鰭のカケラに手を伸ばしていた。現状の自分の信用が無い事は察してる。
アビドス廃校対策委員会:原作通り。
ホシノ:髪を後ろに纏めて一人称が変わってる以外は原作通り。盾もショットガンもしっかり持っている。
セル:芋虫みたいな生命体。人並に知能がある生物だが挙動がバカなので皆犬程度の知能だと思っている。
黒いフードの生徒:解釈を進める。
不良生徒:起きたら樹海に居た。
本編への関わり
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