特殊性癖の戦国転生   作:星野林(旧ゆっくり霊沙)

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転生をする

 儂の名前は永満···長門にあるとある寺で住職をしておる。

 

「和尚、殿の子を頼みまする」

 

「···相わかった。この子を立派な僧侶に育ててみせようぞ」

 

 儂が預かった子供は五つ(数え年なので実質四歳)になったが立つことも話すこともできず、虚ろな瞳で空を見て口を開閉させるのみ。

 

 名前を亀童丸···歴代大内家の当主を務める家の嫡男である。

 

 ···大内家、源平藤橘という武家の祖とする四家とは別系統で古くは百済(昔の朝鮮半島南部の王国)の王子の子孫とし、渡来人を祖とする特殊な武家貴族である。

 

 大内の前は渡来人が多用した多田良性を名乗り、平安時代後期に祖先が周防介という役職が与えられ、苗字を大内へと変え、元から周防にて土着していたこともあり、周防を基盤に鎌倉時代、南北朝時代の混乱で勢力を拡張させ、周防の他に長門を支配下に置き、二国支配に成功する。

 

 そこから三代将軍足利義満の頃には朝鮮との貿易独占と周辺六カ国を支配するまで膨張したが、これを危険視した義満により討伐され、周防、長門の元の二カ国に勢力を減衰したが、応仁の乱による混乱と今の当主の父親の代(先代様)に北九州と中国地方をほぼ平定し、上洛。

 

 将軍問題(将軍がコロコロ変わるため追い出された将軍を再び中央に戻すための挙兵という名目)に介入し、管領代(幕府で三番目の地位)と朝廷から従三位(武家の階位としてはマックス 室町歴代将軍でもここまで)にまで上り詰め、天下人と呼ばれるようになった。

 

 しかし、長期の京への滞在により九州や中国地方で反乱が発生し、約十年に及ぶ京滞在を終えて再び山口の大内館を本拠地として政を行っていた。

 

 そんな偉大な父親を持つのが当代の大内義隆殿で、男色(同性愛)が激しいが高位の貴族である嫁(万里小路家の娘 どれくらい偉いかというと後々この一族から天皇が産まれるくらい偉い)を貰い、その息子として産まれたのがこの亀童丸であった。

 

 ただ産まれる前から甥として容姿端麗かつ武芸や教養に長ける養子の大内晴持(一条恒持)がおり、生まれた時から様子がおかしかった亀童丸は家臣達に養育を任せられた(この時代では普通)のだが、あまりにも病弱かつ、知恵遅れと見なされ、寺に預けられることになり今に至る。

 

「全く···難儀なものよのぉ」

 

 仏門に入れば特殊な事(族滅や宗家断絶等)が起こらない限り武家に戻ることもできない。

 

 しかも浄土真宗とは違い禅宗であるため食事の制限や肉食妻帯が禁止されている。

 

 とてもこの子が修行に耐えられるとは思えないが、領主様かつ、こんな寺に預けられるような血筋ではない。

 

 事実上の子供を捨てる行為であるが···仕方がないだろう。

 

 

 

 

 

 

 亀童丸が寺に来て数週間が経過したある日、弟子の徳源という若い(というよりこの寺では唯一の弟子)に亀童丸を任せていたが

 

「お、お、お、和尚!?」

 

「どうした徳源、そんなに慌てて」

 

「亀童丸様が!」

 

「亀童丸様がどうした!? まさか病か!?」

 

「いえ、立ち上がり、和尚と私を呼んでおります!」

 

「な!?」

 

 ドタドタと慌てて私らは亀童丸様の部屋に入ると亀童丸様が正座をし、こちらをじっと見つめている。

 

 床に寝そべり、寝返りも上手くできなかった亀童丸様が正座をして、こちらに虚ろな目でなく、しっかりとこちらを見つめている。

 

 更に透き通る様な美しい声で喋り始めた。

 

「和尚、徳源殿、私の様な知恵遅れに丁寧に接していただき感謝致す」

 

 とそのまま頭を下げられた。

 

 私達は慌てて頭を下げる。

 

「亀童丸様、お言葉をお喋りになるだけでなく、思考が回復されたのですか」

 

「奇跡だ! 奇跡が起こった!」

 

 徳源はその様子を見て奇跡だと頭を下げながら言うが、亀童丸様は続けて言う。

 

「仏神より知恵を賜った。ただ見通しは暗いと出ている」

 

「暗い···ですか」

 

 仏神の知恵も気になるが見通しが暗いというのが気になる。

 

「大内の家脈が消えかかっている。今は良いが、直に一瞬にして消えると出ている。下り坂を転がり落ちるように」

 

「···大内の民は」

 

「多くが巻き込まれると出ている。なーに、私がそうしないように手を打つ。安心なされよ」

 

 そう亀童丸様が言うが、いきなり将来が悪いと言われれば気分もよろしくない。

 

「まぁ今まで知恵遅れの私が何を言っても始まらないだろう。まずは行動で示さねばならんな。和尚、寺領の田畑は幾らある?」

 

「儂と徳源が管理しているのは自前で食う為の田畑しかないが···二反と少しじゃな」

 

「なるほどでは使われていない痩せた土地と徳源の力を借りようぞ···ただ腹が空いた。何か食べたい」

 

 なし崩し的に食事となるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まずこれが甘芋(薩摩芋)、これが自然薯、これが馬鈴薯、これが大和芋」

 

 翌日、神通力で亀童丸様が枕元に置かれた袋から様々な芋を取り出した。

 

「どれも痩せた土地でよく育つ。三等分にし、それぞれの育て方を教えようぞ」

 

 亀童丸様はまだ上手く動けないのか、杖を付きながら動き、芋の育て方を教えていく。

 

 どの芋も最初は水に浸けて芽が出るのを待ち、目が出てある程度大きくなったら、切り分けて芋ごと耕した地面に植えていく。

 

 ただ自然薯は節を貫いた竹を地面に入れ、竹に囲まれるように芋を植えた。

 

 曰くこうすることでまっすぐに育ち、抜く時の手間が減るらしい。

 

 芋の数も少なく、芽が出るまで寺の一部を耕して、植えたが、どんな芋なのかわからない。

 

 聞くと甘芋はとても甘く、栗を更に甘くした味がするらしい。

 

 自然薯は知っているが、馬鈴薯は異国では米の代わりに食べるほど力が付く食べ物らしい。

 

 大和芋は粘り気のある里芋らしく、里芋よりも大きく育つのだとか。

 

「何より全て美味いのと痩せた土地でも育つ。米が不作の時でもこれらは沢山実るぞ」

 

 と自信たっぷりに亀童丸様は答えた。

 

 儂としては元気になられただけでありがたい話だ。

 

 ただ儂と徳源に亀童丸様は

 

「私が健常になれば(大内)晴持殿と家を割る可能性が高い。私は大内の風向きが変わるまで、知恵遅れで寝込んでいることにしてくれ。そして私は今から安慈と名乗る。小坊主の安慈だ」

 

 とそのまま徳源に頼み髪を剃られてしまわれた。

 

 

 

 

 

 

 

 亀童丸様いや、安慈様は畑にも色々と言われた。

 

 まず米であるが、また枕元に置かれた袋から、袋いっぱいの米を出され、これを種籾とし、二週間ほど冷水に浸けた後、土に移し、苗とした。

 

 苗の時点で明らかに成長速度も葉の大きさも大きく、強そうであるが、それを田んぼに植えるように言われ、いつもの様に苗を植えた。(正条植えではなくまばらの植え方)

 

 米を植え終わると竹を節ごとに切り、その中に土を入れ、また何かわからない種を植えて育てていた。

 

 何か聞くと様々な野菜だと言い、真っ赤な野菜や瓜の仲間、大きい茄子が育つとのこと。

 

 私こと徳源めは寺の掃除をしたあとに安慈様にこき使われて居るが植えた物が育つのを見ると面白くて仕方がない。

 

「何故このような野菜や植物を育てるのか」

 

 と安慈様に聞いたところ、米を除き、生命力が強く、比較的手間もかからず多くの実を宿す。

 

 それすなわち多くの物を食べることに繋がると仰っていた。

 

「食べるものが増えることが大内を救うことに繋がるのか」

 

 と問うと

 

「民あっての国であり、武士。おっと、私は僧であったな」

 

 と言っていた。

 

 民あっての武士···なるほど。

 

 面白い考えだと私は思う。

 

 私は安慈様が何をなすのか見てみたくなりつつあった。

 

 

 

 

 

 

 

 安慈様はある程度元気になると掃除を率先して行い、御経を覚えられ、儂に字を教えてくれと字の練習を始められた。

 

 それに朝起きたら必ず体操をされるようになった。

 

 儂と徳源も安慈様に習って同じ体操を始めたところ、体が温かくなり、肩のハリやコリ、足のむくみが軽くなった様に思えた。

 

 何でも血の流れを良くすることで体の不調を取り除くのだとか。

 

 瀉血の考えに近くなるほどと儂は思った。

 

 が、安慈様曰く瀉血は逆に体の毒抜き以上に体を壊すと言われ、血を抜かなくても邪気を汗や尿で出すことができるらしい。

 

 その為にはよく食べ、よく働く事が大切なのだとか。

 

 食べる物は安慈様曰く肉もある程度は食べた方が良いらしいが、教義として肉を食べるのはいかんともしがたいといったところ、大豆でも代用は可能と言われた。

 

 安慈様は徳源に大豆を買ってくるように言い、豆腐を作らせた。

 

 鍋で豆腐を煮る際に湯葉が出るので、それを集め、固めることで湯葉刺しという物を作り、味噌に付けて食べたところ不思議な食感と湯葉の美味しさが引き立っていた。

 

 誠に美味であり、作った豆腐は味噌汁や野菜を混ぜて焼いた物も美味しかった。

 

「美味いは身体の源になっている証拠であり、不味いは体が受け付けない事を現す。様々な美味いを見つけ身体の源にすることが大切」

 

 と安慈様は仰る。

 

 安慈様は時折枕元に袋を敷き、翌朝に種や作物の苗を出し、徳源に指示を出して植えていく。

 

 気がつけば寺には様々な木の苗が植わり、畑には色とりどりの野菜が実をつけるのだった。

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