この素晴らしい世界にスライムを!   作:履舌裏駄像

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このスライムに賞金を!

拝啓

 父さん、母さん、カズマです。異世界生活にも慣れてきました。頭の悪い駄女神、頭のおかしいアークウィザード、変態クルセイダーを率いるというのは思った以上に骨が折れますね。

 ですが、悪いことばかりではありません。こんな仲間たちとともに、魔王軍幹部のベルディア、機動要塞デストロイヤーなど、数々の強敵を討ち取ったのですから。そんな華々しい戦績を持つ俺たちですが、今何をしているのかというと……

 

「待てやゴルァァ!!!」

 

 小さな、それはもう小さなスライムを追いかけまわしています。どうして、こんなことになっているのか、それは数時間前のこと。

 

 

 

 

「このままじゃ……まじでやばい」

 

 俺は今、絶望していた。自分でも顔面が蒼白しているのがよくわかる。そして、俺以外の仲間の二人もうつむいて黙っている。

 いつもなら、冒険者共で賑わっているはずのギルドは職員と俺たち以外見当たらない。冬になると、クエストは難しいものばかりになるため、活動はお休みするらしい。

 そんなガランとしたギルドは寒さと相まって、俺の心を表しているようだ。

 

「どうすんのよ!? 差し押さえですっからかんになっちゃったし、お腹すいたし、寒いんですけど! 魔王を倒して天界に帰るどころか、凍えそうなんですけど! 私女神なのに!」

 

「仕方ねえだろ! 3億だぞ、3億!こんな借金日本でも背負ったことねえわ! しかも、それで国家転覆罪の容疑をかけられるし、ダクネスも連れてかれちまったし、こっちが聞きてえよ!」

 

 こっちの気も知らずに喚き散らす、駄女神アークプリーストこと、アクアに俺も思わず大声で怒ってしまう。俺たちがギャアギャアと騒いでいると、めぐみんが顔を上げた。

 

「では賞金首を獲りに行きましょう」

 

めぐみんの提案に思わずアクアと目を合わせる。

 

「「え?」」

 

 

 

 

 テーブルの上に置かれた一枚の手配書。

 それを見て、俺は自分の目を疑った。なぜならそこには

 

「おい、なんでスライムなんかに1億エリスもかけられてんだよ。スライムと言ったら雑魚モンスターの定番じゃないか」

 

 そう、たかがスライムに1億エリスもの賞金がかけられているのだ。今は亡きベルディアが3億だったので、その3分の1と考えると穏やかではない。そこまで危険なスライムなのだろうか。

 

 そう思っていると、アクアが補足をしてくれる。

 

「何言ってんのよ、これだからゲームに毒されたニートはだめなのよ。

いい? スライムは基本的に魔法や物理への耐性が高いうえに、ある程度の大きさになれば人を丸のみにしてゆっくりと溶かしたり、窒息死させて食べちゃうのよ!

実際、木から落ちてきた小さいスライムが顔に張り付いて、それで窒息死したこともあるらしいわよ。それはそれとして、この1億エリスってのは魅力的よね。受けましょうよ、このクエスト。」

 

「受けねえよ! むしろ、今のを聞いてなおさら受けたくなくなったわ! 首が回らないのは確かだけど、だからと言って、命を懸ける気はさらさらねえからな!?」

 

「そこらへんは大丈夫ですよ。このスライムに関する情報の中に、人を死なせた、もしくは大けがを負わせたという記録が一切ないとのことでしたから。」

 

 めぐみんの言葉に、引っ掛かりを覚える。死人や重傷者がいない……?

 なんだか、きな臭くなってきたぞ。本当にこのクエストを受けてもいいのだろうか。

 

「カズマさん、その依頼についてなのですが……」

 

 受付のお姉さんが話しかけてきた。どうやらこのクエストについて何か知っているらしい。

 

 

 

 

 お姉さんによると、このクエストのスライムは、かなり変わった個体らしく、基本的に自分から人間に対して攻撃することはないらしい。それは襲い掛かってきた者にすら、返り討ちにすることはあっても、命まで奪うことはないとのことだ。

 ここまで聞くと、無害な……なんなら友好的とも言えるモンスターであるが、なんと、このスライム、空腹になるとこの街を行き来する馬車を無差別に襲うらしいのだ。幸い、けが人は少なく死人も今まで出てはいないが、馬車に積まれた食料を奪っていってしまうらしい。

 しかも、選り好みをしているのか、やたら高級なものばかり持って行ってしまうのだから、手に負えないとのこと。

 だが、これだけの理由であんな大金をかけられることはない。いったい、どんな高級食材を奪っていったのだろうか?

 

「それが貴族が取り寄せた、とても貴重な食材でして、王都から派遣された冒険者も何人かが護衛についていたのですが……」

 

「まんまと、奪われてしまったと」

 

「はい……」

 

 どうやら、その貴族はアクセルからテレポートを使って、王都へと食材を運ぶつもりだったらしいのだが、そのアクセルへの道中で狙われたらしい。まさか、駆け出しの街にそこまで強い魔物がいるとは思わなかったのだろう。ご愁傷さまとしか言いようがない。

 

「つまり、ただ逃げ足が速いだけで危険な魔物というわけではないんでしょう?それなら、俺達でもなんとかなるかもしれないな」

 

「そうでしょう、そうでしょう! それに、そのスライムはこの街一番のパーティですら討ち取れなかった大物です。それを私たちが討伐したとなれば……もしかしたら、カズマの容疑も少しは晴れるかもしれませんよ?」

 

 確かにそうだ。きな臭いとか思ってたけど聞けば聞くほど、恐ろしさがなくなっていく。第一、王都の冒険者や街一番の冒険者パーティがどうした!

 こちとら、魔王軍幹部のベルディアに泣く子も黙るデストロイヤーまで倒したんだ。今更、スライム一匹なんて、どうってことないはずだ。このまま一億エリスをもらって、借金を大幅に減らしてやろう。

 

「お姉さん、ここは任せてください。そんな迷惑なスライム、必ずや俺たちが討伐してみますよ。よっしゃ行くぞお前らぁ!」

 

 

 

 

 

 そして、冒頭に戻る。

 

「なんだよあいつ! メタルでもねえのに速すぎだろ!この世界のスライムはどうなってんだ!!」

 

「明らかに異常個体です! あんなに速く移動するスライムなんて普通いませんよ!」

 

「ちょっと、1億エリスが逃げちゃうんですけど! 私の1億エリスがぁ! カズマさん、なんとかしてぇ!」

 

「いいから走れ! あと、お前のじゃなくて、俺たちの1億だからな! 借金の返済に充てんの忘れてんじゃねえぞ!」

 

 俺たちが叫びあっているうちに、奴は森の中へと入っていく。まずい、このままでは見失うと思った俺たちも森の中に入る。すると、疲れてきたのか、スライムの走る速度が下がる。チャンスだと思った俺は力を振り絞って相手との距離を少しずつ縮める。

 

(これは、いける!いけるぞ!1億だ!1億エリス!)

 

 そして、スライムを捕まえるまであと一歩のところまで来たとき、後ろからめぐみんの声が聞こえた。

 

「カズマ! 前見てください! まえ!」

 

「え?前?」

 

 言われて顔を上げると、目の前には木の幹があった。

 

 

 

 

 目が覚めると、そこには綺麗な青空が広がっていた。雲一つない穏やかな晴れ空だ……

 

「ちがーーーう! スライムは!? 1億エリスは!? っていうかなんで俺寝てたの!?」

 

「落ち着いてください、カズマ」

 

 俺が混乱していると、めぐみんが状況を説明してくれた。

 どうやら、俺はスライムに気を取られるあまりに目の前の倒木に気づかず、そのまま顔面を思い切りぶつけて気絶したらしい。そして、スライムにはそのまま逃げられてしまった。

 

「プークスクス!カズマったら、すごい勢いでぶつかってて面白かったわよ!芸人でもあんな豪快なぶつかり方はしないでしょうに! あれだけかっこつけておいて、オチが顔面衝突とか……ひーっひっひっひ」

 

 こいつは後でぶん殴ろう。

 

「あのスライム、足が遅くなったかと思ったら、倒木から気をそらすためのブラフとして自分を使ったのでしょう。私とアクアがカズマに気を取られた瞬間に見たこともないスピードで去っていきましたから」

 

 道理で、どんなパーティも失敗するわけだ。とんだ食わせ物だった。何はともあれ、俺たちのクエストは失敗したわけだ。

 

「はぁ……日本に帰りたい」

 

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