この素晴らしい世界にスライムを! 作:履舌裏駄像
ウィズの攻撃でハンスは動くなくなり、これで終わりかと思ったが……
「氷の魔女と言われたお前を相手にするのでは、やむを得ん……本能のままに食らいつくす」
自分で腕を切ったかと思えば、そのままゼリー状になって肥大化していくではないか。ライムのような小さくてシンプルなフォルムと違ってその形も色も禍々しく、巨大だ。少しでも触れると即死と言われる理由がよくわかる。どうやって倒すんだアレ!
「なんと見事な……! 毒さえなければペットにしたいところだ!」
「脳みそに毒回ってんのか!」
巨大化した影響か、ハンスから巨大な毒液が飛び散り、汚れていた源泉をさらに汚していく。それを見たアクアが駆け出し、源泉に手を突っ込んで浄化魔法を使い始めた。
「熱い熱い熱い!!」
「おい、そんなん良いからさっさと逃げろ!」
しかし、アクアはそこから離れずに浄化を続ける。クソッ、あいつをどうにかしないと!
そう思い、ウィズに凍らせられるか聞いたが、今の魔力ではあの大きさをやるのは無理らし
い。そして、ゆんゆんはカースド・クリスタルプリズンをまだ覚えていないので、二人で凍
らせることもできない。
どうするものかと考えていると、巨大スライムから触手のようなものが伸び始めた。まさか、俺らも食うつもりか!? 俺はアクアの元まで走って、無理やりにでも連れ出そうとしたとき、触手どもが一斉に襲い掛かる。
……ライムに向かって。
「ラ、ライム!」
ゆんゆんが悲鳴にも似た声をあげる。
理性を失い、手当たり次第に喰らうだけになったデッドリーポイズンスライムは、どうやら同じスライムを餌だと認識したらしい。お前らはザリガニか何かなのか……?
「か、カズマさん! このままじゃライムが……」
ハンスの触手攻撃をすべて紙一重で避けているライム。だけど、それも長くは持たないはずだ。でも、いかんせん、あのデカさじゃ……
「な、なんだあのデカいのは!」
「あれが、温泉を汚してたのか!? 青髪の姉ちゃんの話は本当だったんだ!」
「みんな、あのプリーストの姉ちゃんを手助けするんだ!」
「お姉ちゃん、がんばれ!」
アクシズ教徒の人たちもやってきた。これは、とうとう大ごとになってきたな。どう倒したものか……と思っている、巨大スライムの中に何かが見えた。目を凝らすとそれは、人骨だった。どうやら、あの管理人はまだ消化され切ってないらしい。
「あれは、管理人さんだ! あの野郎喰ったのか!」
「温泉を汚すなんて、罰当たりな!!!」
「この、すっとこどっこい!」
アクシズ教徒たちが石鹸やまんじゅうを投げる。それに対して、ダクネスが危ないから離れろと言うと……
「黙れ、エリス教徒!」
「この邪教が、俺たちに命令するんじゃねえ!」
「はう!!!」
ダクネスが的になってしまった。これだからアクシズ教徒は……お前も喜んでんじゃねえぞ! まったく遊んでる場合じゃないってのに……このままだと、ライムが喰われちまう。そうなったら、今度は誰のもとに向かうのかわからないから危険だ!
そう思いながら、ライムのほうを見ると、襲い掛かる無数の触手を避けながら飛んできた石鹸やまんじゅうを器用に食べていた。こいつ、意外と余裕あるな? ……そう思ったとき、俺の頭に考えが浮かんだ。
「アクア! 完全に消化されてなかったら蘇生はできるんだよな!」
「ええ、できるわよ!」
「ウィズ! あれよりも小さくなれば凍らせられるんだな!」
「はい、半分くらいになれば」
「よし、めぐみん! 撃たせてやるから準備しろ!」
「本当ですか!? 一発、良いのをお見舞いしてやりますよ!」
「私たちは、飛び散るハンスから皆を守ればいいのだな」
「魔法で全部撃ち落とします!」
「そういうことだ! 頼りにしてるぜ! おーい、ライム! そのデカいのを奥のくぼ地まで誘導してくれるか!?」
すると、ライムは襲い掛かる無数の触手を巧みに避けながら、ハンスに追いつかれそうで微妙に追いつかれない速度でくぼ地まで逃げ始めた。
さすがだ、加減が上手い!そして、めぐみんはその二匹を追いかけながらも魔法の詠唱を始める。
「黒より黒く闇より暗き漆黒に我が深紅の…………」
ライムがハンスの攻撃を躱しながら、崖を飛び降りる。それに続いてハンスも飛び降りる。空中のライムを食べようと体を伸ばしたとき、ライムが先ほど食べた石鹼で補充した聖水を凄まじい勢いで噴射して攻撃すると同時に、ハンスの攻撃を避けた。そして、地面に着地すると同時に瞬間移動したかのように爆裂魔法の効果範囲から離れた。
「いまだ、めぐみん!」
「行きます! エクスプロージョン!」
凄まじい轟音と爆発に包まれたハンスの体が人々に向かって飛び散る。しかし、ゆんゆんとダクネスがそれを防いでくれた。
「ウィズ、頼む!」
「はい、カースド・クリスタルプリズン! ハァァァァァ!!!!」
今度こそハンスの全身が氷に覆われた。そして、ウィズはその氷が砕けるのを見届けると魔力不足で倒れた。でもこれで……
「まさか、俺をここまで追い詰めるとはな」
「何!?」
氷の中からハンスの声が聞こえたかと思えば、デフォルメした紫色のクラゲみたいなやつが出てきた。確か、あのゲームに出てきたやつもスライムだったな。って言うか、これだけやっても、まだ倒せないのか!?
「悪魔倒すべし、魔王しばくべし! 悪魔倒すべし、魔王しばくべし!」
後ろから、アクシズ教団の声が聞こえてくる。そして、その先頭にはアクアがいた。源泉の浄化が終わったらしい。
「よくも私の信者たちを……あんただけは絶対に許さないんだから!」
「何を言うのかと思えば、お前らを全員喰って回復してやる!」
いよいよ、この戦いもクライマックスだ。まったく、温泉旅行先で幹部クラスに遭遇するとかゲームバランスどうなってるんだ!
アクアが右手で渾身のゴッドブローを放つ。しかし、それでもハンスは倒されない!
そのとき、アクシズ教徒たちが教義を唱える。それによってアクアの信仰パワーが上がったのか、アクアの力が上がる! 本当なら、熱くなるところなのだが……
「アクシズ教徒はやればできる。できる子たちなのだから上手くいかなくてもそれはあなたのせいじゃない。上手くいかないのは世間が悪い!」
「迷った末に出した答えはどちらを選んでも後悔するもの。どうせ後悔するのなら今が楽ちんな方を選びなさい!」
「エリスの胸はパッド入り!!!」
教義が終わっている……特に最後のは普通に悪口じゃないか。しかし、おかげでハンスのことを押し始めている。
「喰らいなさい、ゴッドレクイエム!!!」
「クソッ、だが、ただでは倒れんぞ!」
「アクア!」
ハンスが触手をアクアに突き刺そうとクロスカウンターをしようとするのが見えた。俺はアクアに声をあげるが聞こえてない! そう思ったとき、相手の触手が切り飛ばされた。
「ぐっ、クソスライムがっ……!」
ライムが作った隙によって、アクアのゴッドレクイエムがハンスに突き刺さった。
「この力……まさか、この忌々しい宗教の言う女神アクアとは……お前かぁ!!!」
そして、ハンスはアクアのゴッドレクイエムで沈められた。
戦いは終わって、これは後日談だけど私たちは温泉の汚染騒ぎを解決した功労者として、感謝された。
……わけではなかった。アクアさんのゴッド・レクイエムによってアルカンレティアの温泉はすべてお湯になってしまったからだ。アクシズ教の財源を奪うという、魔王軍の当初の目的を達成してしまったのだ。
そして、ウィズさんのテレポートで帰る予定だったけど、アクアさんの強力な浄化にあてられて消えかけてしまっており、また馬車で帰ることになった。カズマさんからは関係ないのに巻き込んでしまったと謝られてしまった。
「すごかったなぁ、ウィズさん」
馬車に揺られながら、昨日の戦いを思い出す。ウィズさんの扱う魔法はとてつもないレベルの高さだった。それこそ、私なんかと比べ物にならないくらいに。そして、ライムの攻撃も驚いた。カズマさんはウォーターカッターって言ってたけど、てっきり体当たりくらいしか、できないと思っていた。
私の膝の上にいるライムを見て考える。やっぱりライムが考えていることは良くわからない。モンスターだから仕方ないと思うけど、それでも、私は知りたい。せっかく友達になったんだから、一方的にこちらが話しかけるんじゃなくて、意思疎通を取りたいなと思うのはわがままだろうか。
「なにを一人でシリアス気味な雰囲気を醸し出しているんですか、似合わないですよ」
「何よ、うるさいわね。別に醸し出してないわよ。ただ、もっと強くなりたいなって思っただけよ。そしたら、ライムの気持ちもわかるかなって……」
「そうですか……まあ、ゆんゆんがどんなに強くなっても、そのころには私ももっと、もっと強い爆裂魔法使いになってますから、ゆんゆんが私に勝つことはありえませんがね!」
「そんなことないもん! 一発しか撃てない魔法使いになんて負けないわよ!」
「なにを……!」
めぐみんが売り言葉に買い言葉で応戦してくる。そうだよね、まずはライバルに勝つことから始めないとね。そう思って、アクセルに帰った後に決着をつけることをめぐみんと誓った。こうして、私たちのアルカンレティアへの旅は終わった。
めぐみんとの勝負だけど、三本先取のジャンケンをした。私が二回勝って、あと一本というところでめぐみんがアクアさんの魔法で運を上げたことで、逆転負けしてしまった……
ずるい!!!