この素晴らしい世界にスライムを! 作:履舌裏駄像
「粗茶ですけど」
「あ、ありがとうございます」
アクアがゆんゆんにお湯を出した。また浄化したのだろう。
「それで、どういうことなんです? 紅魔の里が滅びるとは思えないのですが」
めぐみんがそういうと、ゆんゆんはポケットから手紙を出した。彼女の父親から送られてきたらしい。それをめぐみんが読み始めた。
「この手紙が届くころには、私はこの世にいないだろう……!?」
俺たちの間に緊張が走る。めぐみんが先を読んでいく。どうやら、紅魔の里が魔王軍によって蹂躙されているらしい。魔王軍の基地を破壊することもかなわず、滅亡の一途をたどっていると……なんか、かなり深刻な話になってきてるじゃないか。めぐみんがさらに読み進める。
「占い師が里の壊滅という絶望の未来を見た日、また希望の光も見ることになる。それは、紅魔族唯一の生き残り、ゆんゆん。どうして生き残りがゆんゆんだけに!?」
「いいから、先を読んで!」
「私の身にいったい何が……唯一の生き残りである彼女は、駆け出しの街である男と出会う。それは頼りなく、何の力も持たないその男こそが、彼女の伴侶となる相手であった。」
皆の視線が俺に集まった。
「いや、なんで俺を見るんだよ。ゆんゆんもそれだけの情報で俺のところに来たのか?」
ゆんゆんが少し小さくなる。
「やがて、月日は流れ、その男との間に生まれた少年は、母から譲り受けたスライムとともに旅に出ることとなる。しかし、彼は知らない。自分こそが一族の仇である魔王を倒すことになるとは」
俺は衝撃を受けた。まさか、俺たちの子供が魔王を倒すことになるとは……! すると、アクアが立ち上がって抗議してきた。
「ねえ、私そんなの困るんですけど! そんな悠長なことやってないで、さっさと魔王を倒して、天界に返してほしいんですけど! カズマの子供が大きくなるまで待ってなきゃいけないの? 3年で何とかならない? ならないなら、その予言はなかったことにして!!!」
「お、おまえ、幼児に魔王退治させる気かよ……!」
マジかこいつ。
ゆんゆん曰く、紅魔の里には腕利きの占い師がいるらしい。つまり、その人が見たことは訪れるということか。それなら仕方がない、世界のためだ。と言って、ゆんゆんの手を取った。
「お、お前というやつは普段は優柔不断なくせに、こういうときに限って……!」
「うるさい、黙れおっぱい!!」
「ひんっ!」
「あれ、これは……『紅魔族英雄伝・第一章』著者、あるえ」
俺とダクネスが言い争っていると、めぐみんが手紙を見ながら、なにかを言った。すると、ゆんゆんがめぐみんの手紙をひったくって叫びながらクシャクシャにしだした。一体なんだ? どうしたんだ?
「ああああああ! あるえのバカぁぁぁぁ!!!!」
めぐみんやダクネスが言うには、手紙に記された占いというのは紅魔の里で作家を目指しているあるえが書いた作り話らしい。俺はこいつらが何を言っているのかわからなかった。混乱してズボンを脱いで、そこでうずくまって叫び続けるゆんゆんと俺が甘酸っぱい関係になるんじゃないのかと、と問いかけたが、
「ならない!」
と、ダクネスからきっぱりと言われてしまった。
「ほ、本当にすみませんでした!!!」
ゆんゆんが頭を下げた。しかし、ゆんゆんは勘違いをしただけで別に悪意があったわけじゃないので、頭を上げるように言った。
「だけど、これからどうするんだ?」
ゆんゆんが勘違いする原因になった手紙は二枚目のほうだったが、めぐみんが最初に読んでいた1枚目の手紙は本物らしい。つまり、紅魔の里に危険が訪れているということだ。それで、ゆんゆんはアルカンレティアを経由して、紅魔の里までテレポートやで帰るとのこと
「それにあっちには、と、トゥモダチがいますから……」
……そんなに、はっきりと友達と言えない中なのだろうか。ちなみにめぐみんは同行しない。こいつが言うには、アクシズ教団と並んで魔王軍に恐れらている紅魔族がそんな簡単にやられることがないこと、それに、万が一があっても、皆は心の中にいるから大丈夫だと……ドライすぎるだろう。里で何か嫌なことでもあったのだろうか。
「それでは、そろそろ行きますね」
こうして、ゆんゆんたちは去っていった。
アルカンレティアに着いたのは早朝だった。以前とは違って、モンスターに襲われなかったのであまり時間はかからなかった。苦い経験をした場所だけど、しょうがない。そう思って、噴水の水を飲んでいるライムを抱き上げて、テレポート屋で30万エリスを払った。そして、紅魔の里の近くに飛ばしてもらった。
「じゃあ、行こっか」
ライムに、そう言って紅魔の里に向かおうとしたとき、少し遠くでものすごい数の足音が聞こえた。
「この方向は、オークの群れがいるところ? こんなに走っているということは、誰かを追っているということ!?」
ライムと一緒に音のするほうへと走っていく。オークというのはとても危険なモンスターだ。オスのオークはとうの昔に滅びており、たまに産まれてきてもメスのオークたちに弄ばれて死んでしまう。そして、今では縄張りに入ってきた他種属のオスに襲い掛かり、干からびて、死ぬまであんなことをするという、男性にとっての化け物になってしまった。
「うおおおおお! たすけてぇ! お願いだから許して!」
叫び声が聞こえてきた。思わず足を速める。そして、私の目に飛び込んできたのは……!
「うちの息子は恥ずかしがり屋なんですぅ!!! 今日のところは見逃してくださいぃ!!」
「大丈夫よ!!! 私の包容力で包んであげるから!!!!!」
「めぐみん!! 撃て! 撃てぇぇぇ!!!!!」
「こんな、近くでは撃てませんよ!!! あとダクネスも起きてください!!!」
「か、カズマさぁぁぁん!!!!」
そこには、オークに押し倒されているカズマさんと、助けに行けないでいるめぐみん達の姿があった。早く助けないと……そう思ったとき、周りのオークたちが私たちに気づいた。
「なによ、あんた! 言っておくけど、彼は渡さないわよ!!!」
「邪魔するんだったら、容赦しないわ!!!」
ま、まずい! 勘づかれた! 戦闘準備に入るが、いかんせん相手の数が多い。そう思ったとき、奥にいたオークがこっちに向かって叫んだ。
「隣のあいつなんか、潰してローションにしてしまいましょう!!」
その瞬間、ライムが消えた。
それと同時に“パァン!”と何かが破裂する音が聞こえた。視線を向けると、先ほどのオークの上半身がなくなっている。しかも、いつの間にかライムもそこにいた。遅れてやってくる、衝撃波に私もオークたちも吹っ飛ばされた。
「きゃあ!!」
しかし、ライムは止まらない。そのままオーク達を目に映らぬ速さのタックルと衝撃波で蹴散らしながら、カズマさんのところにたどり着いた。周りにはオークたちが密集している。
「ライム! ライムじゃないか!!!」
「なによ、あんた! 人が取り込み中に失礼な奴!! このスライムであんたの腸内を綺麗にしてあげるわ!!!」
「な、なに恐ろしいこと言ってんだよお前!!! や、やめろ!!!」
周りのオークたちがライムに襲い掛かろうとしたとき、ライムが細い線、ウォーターカッターを出した。それが一番外側にいるオークの心臓まで貫通したとき、時計回りにグルンと一周させた。
――あたりが異様なほど静かになる。
それに遅れて、オークたちの上半身や首が
もちろん、カズマさんに覆いかぶさってたオークも例外ではない。
頭の上半分が落ちて、カズマさんの顔に当たったあと、胸板に崩れ落ちたオークの切断面から噴き出した血しぶきが、カズマさんの顔を汚した。
「ぎ、ぎゃあああああああああああ!!!!! おわああああああ!!!! うぎぃぃぃぃぃぃやあああ!!!!!」
カズマさんの絶叫が響き渡った。
「う、うわぁ……」
私も、その凄惨な現場を見てクラクラしていた。いくら何でもスプラッタすぎる!
「う、うぷっ! に、臭いが、死臭がここまでやってきて……ちょっと無理です。朝に食べたパンが戻ってしまいます……! うぇぇ……」
「やっぱり人間としての倫理がないと、ここまでの大虐殺ができるのね。ある意味感動だわ……」
こうして、五百匹はいたであろうオークたちは全滅した。
「ライム、紅魔の里が無事だったらお説教ね」