この素晴らしい世界にスライムを! 作:履舌裏駄像
「……ここは」
気づくと、私は川の中にいた。だけど、どうして川の中にいるのか自分でもわかっていない。たしか、私は魔王軍幹部として紅魔の里と戦いを……ダメだ、そこからが思い出せない。
「おーい、おーい!」
私が必死に思い出そうとしていると、向こうから声が聞こえてくる。目を凝らすと、そこには、文字通り頭を抱えたかつての同僚がいた。
「べ、ベルディア!? 死んだはずじゃ……」
どうしてこんなところに……そう思っていると、足をつかまれて川の中に引きずり込まれた。先ほどまで足がついていたはずなのに……息ができないっ! 咄嗟に下を見ると、そこには
「あんたアレがついてるのね!」
「こっちに来なさいよ! 天国を見せてあげる!!」
「見た目なんて気にしないわ!!!」
無数のオークが私を掴んでいた。これで、ようやく自分がどこにいるのかを理解できたと同時に記憶を取り戻した。
「い、いや! やめて! 私はまだ、まだそっちに行きたくな……!!」
振りほどいても、振りほどいても、次々と手が伸びてきて私を川の中に引きずり込もうとする。必死に水面から顔を出して助けを呼んでも、口になかに川の水が入ってくるばかりで返事もない。そして、体力が削られ、もがいても沈みゆく意識の中で手を必死に伸ばした。
「悲惨な戦いだったわ……私はもう、誰も傷つけないと誓うわ」
「おい、やめろよ。そういうフラグっぽいことを言うのは」
不穏な展開になりそうなことを言う駄女神を注意する。レールガン(仮)は壊れてしまってるんだからな。それに、最高戦力だったライムもこんなに小さくなってんだから……
「って、ゆんゆん! ライムが小さくなってないか!? ソフトボール大になってんじゃねえか!!」
俺はゆんゆんの肩に乗ったライムを見て、驚きの声をあげた。
「ソフトボール? 私のことをシルビアから守るときに、かなり水を出しちゃったみたいで……炎を消したりしてましたし。多分、水を飲んだら戻ると思いますよ」
「そうか、それなら良かった。あとでアクアに頼んで水をたくさん飲ませるよ。って言うか、ハンスのときは、そんなことにはならなかったのに、随分と主が気に入ったんだな」
そう言うと、ゆんゆんはクスッと笑いながら、そうですねと返した。
「どうせ、ゆんゆんみたいなチョロい子の側にいたら、食事に困らないからでしょう」
「落とすわよ? まったく、めぐみんと一緒にしないでよ」
こいつ、ゆんゆんに背負われておいて、よくそんな皮肉が言えるな……
「とりあえず、これで戦いは終わったのよね? だったら紅魔族のみんなで宴をしましょうよ! じゃんじゃん飲んでやるわ!」
「おい、だからフラグっぽいことを……」
そのとき、どこからかうめき声が聞こえる。なんだと思って振り返るとシルビアの死体が起き上がったではないか!
しかも、腹に空いた穴はふさがり、巨大化しながら変形していく。これは、アカンやつや……! そう思い、全員で走った。
「ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ…………!!」
「もっと速く、もっと速く走るのです!!」
「暴れないでよ、めぐみん!」
「カズマさん、まってぇ!!」
そして、シルビアの変形……変態が終わる。そこには、角が生え、黒曜石のような鋭く、長い爪、そして、ボロボロの蝙蝠のような羽を持った、シルビアがいた。
「私の……人生ぃ!!!! ここで終わってなるものか! まずはお前たちを、潰す!」
そう言って、大量のどす黒い水を俺たちに吐き出し、津波のように襲い掛かってきた。
「あ、あれ、呪いがこめられたやつよ! 触れたら呪いで身体が溶けるタイプのやつ!!!」
走りながらアクアが説明する。何それ、怖い! 呪いの水は勢いを落とすことなく、俺たちとの距離を縮めていく。もうダメだと思ったとき……
「カースド・クリスタルプリズン!」
大量の水が一気に凍り付いた。呆然としているとバニルとウィズがこちらに来た。
「ウィズ、バニル! なんでここに!?」
「姑息な生活の知恵に長けた小僧よ。汝のアイデアグッズを商品化するために、この里の職人に会いに来たのだが……あれは魔王軍幹部のシルビアか。ふむ、アンデッドになっているな。死に際でなにかと契約したか」
「道理で、なんか臭いって思ったのよねぇ。ウィズかあんたの匂いかと勘違いしちゃったわ。プークスクス!」
「ひ、ひどい! 私、貧乏ですけどお風呂には毎日入ってるんですよ!?」
そんなやり取りをしていると、俺たちの真後ろに何か巨大なものが突き刺さった。あぶねえ! とりあえず、全員でその場を離れるとシルビアはいつの間にか巨大な剣を持っていた。
「なっ! ウィズ、それに見通す悪魔のバニル!」
シルビアがなんちゃって幹部たちに気づいた。
「うむ、我輩が生きていることを魔王軍に知られるのは、些か面倒だな……」
「お久しぶりです、シルビアさん! ここはどうか穏便に……」
「できるかぁ!!」
怒ったシルビアが剣を振り回しながら、こっちに来る。これはヤバイ……と走りだそうとしたときに、1つ思いついたことがあった。
「なあ、アクア! お前ならアレを浄化することができるんじゃないか!? 女神なんだろ!」
「まったく、カズマったら。できるに決まってるじゃない! 任せなさい、セイクリッド・ターンデッド!」
巨大な魔方陣がシルビアの下に現れ、巨大な光に包み込まれる…………ことはなかった。魔法がレジストされたのだ。
「だ、ダメじゃねえかぁぁ!!!」
俺が走り出したのに合わせるように、皆も走り出す。しかし、ウィズとバニルはシルビアのほうへと向かっていった。
「わ、私の魔法が……女神なのに……私、女神なのに」
「多分、魔術師殺しの効果だ! 物理攻撃じゃないと、有効打は与えられないぞ!!」
「だが、バニルの爆発攻撃も効いていないようだぞ! どうするんだカズマ!!」
ちくしょう! 隙がなさすぎだろ! 何か、隙があれば……隙、すき……好き? モテ期?
足を止める。こうなったらアレしかない……一か八かだ!
「しょうがねえなぁ!!!」
ゆんゆんがめぐみんを背負ってシルビアと逆方向に走る。その間、俺はアクアから運をあげる補助魔法を何重にもかけてもらっていた。
「カズマさんとは長い付き合いだけど、本当に無茶するわね」
「そりゃあな、俺には女神がついてるからな。頼んだぜ、相棒!」
「! ……任せて!」
シルビアのほうは、ライムとバニルの仮面をつけたダクネスが対処していた。小さくなったライムだが、アクアが出す聖水をしこたま飲ませたことで、対アンデッド用の聖水ボディになったのだ。それで、音速でタックルしたり、ウォーターカッタ―で翻弄している。
「こんな頭のおかしい里に時間を費やしてる暇はないのよ! 私は魔王軍幹部として誇りをもって戦ってきた! そして、部下たちも必死に着いてきてくれた! だけど……!!」
それは、悲痛な嘆きだった。シルビアは自分が充実していると思っていた。しかし、それは自分にそう言い聞かせていただけだったのだと。彼女は狂うほどの恋に焦がれていた。愛がなければ、自分の人生は輝かないと……
「馬鹿野郎!!!」
そんなことを言う、シルビアに俺は怒鳴りつける。
「シルビア……お前は出会ったときから、輝いてただろぉ!!!!」
そして、上半身を脱いで、俺たちは一体化した。
「好き」
「好き」
「だい」
「好き」
後は頼んだぞ、みんな!
ウィズを介して、里のみんなから魔力が送られる。その力を感じながら、私は少し前のことを思い出していた。
「やっぱりダメです! カズマがシルビアの弱点になるなんて……私が上級魔法を覚えてさえいれば!」
カズマが提示した作戦。それは下手をしたら蘇生することができないものだった。それに魔術師殺し相手に私の爆裂魔法が通用する保証も……
「めぐみん。カズマさんはめぐみんの爆裂魔法を信じてる。そうじゃなきゃ、こんな作戦立てないもん。めぐみんは、もう爆裂魔法を信じてないの?」
ゆんゆんはやっぱり辛口なときがある。その問いかけは卑怯ですよ……そして、場面は今に戻る。力が奥底からみなぎってくる。みなぎって、みなぎって……
「フォォォォォォォォォォ!!!!!!」
叫びだしてしまうほどに!
「我が名はゆんゆん! 紅魔族随一にして最高の魔法使い!」
「我が名はめぐみん! 紅魔族随一にして最強の魔法使い!」
「ゆんゆんがあのとき、爆裂魔法の道を行かせてくれたから、今日の私がいるのです!」
「めぐみんがいてくれたから、ライバルとしてここまで来れた!」
お互いに名乗りを上げ、お互いの必殺魔法を唱える! ゆんゆんはライト・オブ・セイバー、そして、私は……
「吹けよ嵐! 響けよ爆裂!! 爆裂魔法はロマンなのです! どんな逆境も撃ち砕く最強の魔法なんです!! エクスプロージョン!!!!」
光の剣と爆裂が融合した、かつてないほどの強い光がシルビアに向かっていく。
「来るぞ、ハニー!! 準備は良いか!!!」
「良いわよ、ダーリン! ハァ! 愛!!!」
しかし、私たちの魔法はバリアによって防がれる。だけど、決してあきらめたりしない!!魔力を込め続ける。
「今の私には守りたいものがある! そんな魔法で私の人生、ダーリンは奪えない! 行くのよ、その先……未来へ!!!!」
「死んでたまるか!! 俺はハニーと行くんだよ! モテ期の果て……未来へ!!!!」
バリアに押し戻される。でも大丈夫……今までもそうだった。この魔法は、爆裂魔法はみんなが、仲間がいるから最強なのです!!! それが例え、無慈悲なスライムであったとしても!!!!
どこから、ともなく伸びてきた細い糸のようなもの。聖水カッターがバリアをすり抜け、カズマの眉間に穴をあけた。
「だ、ダダダダダダーリン!!!」
シルビアが動揺した瞬間、バリアが一気に破られる。そして、巨大な爆炎に包まれてシルビアは倒された。