この素晴らしい世界にスライムを! 作:履舌裏駄像
お父さん、お母さん、ご無沙汰しております。ゆんゆんです。今、私は貴族のパーティーに参加しています! ドレスって動きにくいものだと思っていましたが、そうじゃないタイプのドレスもあるんですね。一つ勉強になりました。どうして、私なんかがパーティーに参加しているのか? それはですね……
「結局、義賊なんて出てこなかったね。あっ、これ美味しい……ライムも食べる?」
ライムとパーティー会場に並んだ料理を摘まみながらぼやいた。王都に来てから、すでに数日が立っている。その間、私とライムは依頼主の領主さんが持つ大きなお屋敷で寝泊まりをしていた。さらに、私以外にも腕利きの冒険者も何人か寝泊まりしていた。あの人たちが受けた依頼も私と同じものだ。そして、その依頼とは
――噂の義賊から魔道具を守ること。
魔道具とは、領主さんがダンジョンに派遣隊を出して入手したものだ。専門家によると、対象の時間を一定の時間止めることができるらしい。しかし、なぜか犬にだけは効かないらしく、犬種を問わず全て無効化されてしまうとのこと。そんな魔道具が見つかったダンジョンだけど、なんと私がクリスさんと挑んだあのダンジョンだった。
話を戻すと、その魔道具には歴史的価値があるということで、領主さんが経営する博物館に展示することになった。だから、それまでの間は、屋敷に保管してある魔道具は私たちが盗まれないようにすることになった。しかし、義賊は結局現れることはなく、この展示記念のパーティーをしているわけである。
「でも、評判の悪い貴族しか狙わないっていう噂だったしね。領主さんは義賊が出なくても報酬はくれたし、パーティーにも参加させてくれるしで、すごい律儀な人だもん。そんな人のところに来るわけがないよね!」
その瞬間、部屋が真っ暗になった。
「うぇ!?」
しかし、また明るくなる。照明が戻ったようだった。しかし、直後に領主さんが叫び声がパーティー会場に響いた。
「ま、魔道具がない! ショーケースに入れていたはずの魔道具がなくなっているぅ!
義賊だ、義賊が現れたんだぁ!!」
それを聞いた、衛兵やパーティーに参加していた冒険者たちが一斉に会場の外に出る。まだ、時間がそんなに立っていないから、魔道具を盗んだ下手人を探しに行くのだろう。そして、私たちも出ようとしたのだが……
「ほら、行くよライム! 他の人たちがいなくなったからって、料理をひとり占めしようとしないで……!!」
いつまでも料理を食べ続けるライムを引っ張っていた。
なんとか、ライムを説得したものの相手は噂の義賊。いろんな貴族が被害にあっているのに、未だに全容すらつかめていない。だから、探し出すのは困難に違いない。
「そっちに行ったぞ!」
「捕まえろ! 魔法撃ちまくれ!!」
「ファイヤーボール! ライトニング!」
あっさりと見つかった。黒装束に銀髪の男の子をみんなが捕まえようとして、混乱状態になっている。そんなとき、あたり一面に煙が広がった。そのせいで、いろんな人からぶつかられてしまう。
「いたっ! ライム!踏まれないように気を付けて……ライム?」
周りを見渡すと、自分の友達が行方不明になっていた。人ごみに飲まれたのかと思い、辺りを探すが煙で何も見えない。大きな声で呼んでもこちらに来ることはなかった。
「……どこに行ったの?」
私の言葉は冒険者たちの怒号でかき消された。
「いやぁ、見つかったときはどうなるかと思ったけど、なんとかなって良かったぁ」
林の陰でホッと息をつく。手には盗んだ魔道具が握られていた。いつもだったら、ついでに宝石や金品も盗むところだけど、今回は違う。この貴族の領主は不正や隠れた悪事を行ったわけじゃないからだ。
「それにしても、まさか護衛の冒険者の中にゆんゆんがいたとは……」
ゆんゆんの実力は一緒にパーティーを組んだことがあるのでよく知っている。しかし、まさか、こんなに早く王都で貴族の護衛を任されるくらい出世をするとは思わなかった。いったい何をしたのか、と私は少し心配になった。そして、あの娘がいるということは……
「私、あの子ニガテなんだよね……でも、あの戦闘力、もしかしたら……」
そう思ったところで、近くの茂みからガサガサと音がする。私は即座に懐に手を伸ばしながら、敵感知スキルを発動する。周りに敵はいないことを確認すると、茂みのほうに集中する。たとえスキルに引っ掛からなかったとしても油断は禁物だ。いざとなったら、残りの煙玉を使って即座に逃げる必要がある。しかし、茂みから出てきたのはただの猫だった。
「なんだ……脅かしちゃダメでしょ?」
顎をゴロゴロしてあげると、気持ちよさそうにする。どうやら人懐っこい猫らしい。ふふっと微笑みが溢れる。
ーー背中が急激に冷たくなった。
殺気どころか気配すらもない。敵感知も反応していない。にもかかわらず私の身体は、本能は今すぐ逃げろと警告してくる。私はその警告と高い幸運を信じて全力で前に転がった。信じるしかなかった。この迫りくる死の気配、味わったことがない恐怖を決して気のせいだろうと、断じることはできなかったからだ。
避けると同時に、私の後ろの木が切り倒される。月明かりで私を襲ったものが照らし出される。屋敷にあったのを持ってきたのか、銀色に輝く剣を持ったゆんゆんがそこにいた。
「ゆんゆん……じゃなさそうだね。君は一体誰かな?」
私はゆんゆんに化けているであろうナニカにそう問いかける。すると、相手の身体が光に包まれる。そして、スライムの姿になった。
「な、なーんだスライム君か! もっと別の何かだと思ったよ! あ、そうだ顔が隠れたままだったね、私だよ、私。クリスだよ! 一緒にダンジョンに潜ったことがあったでしょ?」
まったく驚いてしまった。それにしてもスライム君はいつの間にか擬態能力を得ていたらしい。しかも、先ほどの敵意もなければ殺気もない神域一歩手前の闇討ちは、多分私じゃなかったら確実に死んでいた。だけど、これはもしかしたらチャンスかもしれない。
「実は言うとさ、私はエリス様に頼まれて危険な魔道具や武器を回収してるんだ。今回のこれもそう。そこで提案なんだけどさ、私のお仕事のお手伝いしてみない?」
そう言いながら、腰のポーチから前の貴族の屋敷から盗んできた宝石を取り出す。
「もちろんタダじゃないよ、悪いことをして大金を稼いでる貴族から資産をいくらか没収して、教会や孤児院に寄付するのも私の仕事のうちなんだけど、その何個かを君に渡すのはどうかな? 結構、魅力的でしょ?」
その瞬間、手に持っていたパーンと宝石が弾ける。そして、頬を何か生暖かいものが伝う。触れてみるとそれは真っ赤で、あとから来た痛みで頬の皮膚がすっぱりと切れていることに気づく。
何が起きたのか全くわからなかった……だけど、敵意を表しながらゆっくりと近づいてくるスライム君を見れば、彼からの攻撃だと嫌でも気づかされる。
「え? ウソ……」
完全にミスった。よく考えれば人間並みの知能があるといっても、所詮は魔物だ。お金や宝石なんかに興味があるはずがなかった。まさに猫に小判、スライムに宝石だ。おそらくここから逃げたとしてもすぐに追いつかれる。なんなら、あの攻撃で私が真っ二つになるかもしれない。
――つまり、ここで何とかして説得するしかない。
「もしも、私の仲間になったら高級食材が食べ放題だよ」
スライム君の動きがピタッと止まる。結構、好感触だ!
「高級食材ってさ、貴族と王族が独占してるのもあって、市場にはあまり出ないんだよね。なんなら冒険者ギルドを介して専用の確保ルートを持っている貴族もいるくらいだよ。つまり、貴族の屋敷には蓄えられた食材がたんまりとあるってことなんだよね」
相手から敵意がどんどん薄まっていく。
「改めて言うよ。結構、魅力的でしょ?」
結局、義賊を取り逃してしまった。せっかく王都まで来たというのに仕事を失敗してしまったことに私は落ち込んでいた。王都ギルドの隅っこで突っ伏している私をよそに、ライムはずっとご飯を食べていた。しかも私の姿で。
「スライムはお気楽そうでいいね。私なんか全然ダメダメだよぉ……」
はぁ……とため息をつく。
「まあ、このまま落ち込んでいてもしょうがないよね。アクセルの街に帰ろう」
そう言って、ライムが食べ終わったタイミングでお会計をする。しかし、どれだけ注文をしたのか、馬車代が吹き飛んでしまった………
「あの、会計ついでで申し訳ないんですけど……お仕事ください!!!」
こうして、私は王都に残ることが決まってしまった。