この素晴らしい世界にスライムを!   作:履舌裏駄像

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このイケメン義賊にスライムを!

 アクセルの街に帰れなくなった。理由は私の友達、ライムがご飯をいっぱい食べて馬車代が吹っ飛んでしまったからだ。もともと領主さんから交通費としてもらっていたお金。それがすべてライムの食費になって消えてしまったのだ……

 

「……疲れた」

 

 夕暮れ時を私はとぼとぼと歩いていた。ほとんど一文無しとなってしまったので、宿代だけでも稼がなければいけなかった私は王都ギルドでお仕事を探すことにした。しかし、さすが王都というべきか、どんなクエストも難しいものばかり。今回の討伐クエストもライムのおかげで何とか達成できた。帰れなくなったのもライムのせいだけど……

 

「あれ? もしかしてゆんゆん?」

 

 後ろから、声をかけられる。振り向くと、そこにはクリスさんが立っていた。

 

「クリスさん! こんなところで会えるなんて! どうして王都に?」

 

「ちょっとした仕事でね! ゆんゆんこそ元気がないけどどうかしたの? よかったらお姉さんが聞いてあげるよ?」

 

 そう聞いた瞬間、私は王都でした苦い記憶が駆け巡った。そして、感情があふれ出してクリスさんに泣きついてしまった。

 

「クリスしゃぁぁぁぁん! ぶぇぇぇぇぇん!」

 

「ちょっ、ゆんゆん!?」

 

「おうちに帰りたいよぉぉぉ!!!」

 

「よしよし、わかったから! ここだとあれだし、宿屋に行こう! ね? ね?」

 

 こうして、クリスさんの行きつけの宿屋で部屋を取った。クリスさんの隣の部屋だ。そこで今まで何があったのかたくさん話した。思いっきり泣いた。そして、たくさんよしよしされた。クリスさんの膝枕はとっても気持ちよくて、女神さまのような包容力と優しさに私はすごく癒されていった……

 

 

 

 

 泣きつかれたのか、ぐっすりと眠るゆんゆんに布団をかける。もともとスライム君と合流するためにゆんゆんたちを探してたけど、傍目から見ても元気がなさそうで心配だったので声をかけた。まさか、あそこまで泣いてしまうとは思ってもみなかった。

その原因の一部に私の義賊としての活動があるので、表には出さなかったが、申し訳なくてすごく気まずかった。それにしても……

 

「他に王都に足止めする方法があったんじゃない? いくら何でも食費で文無しにするのは可哀そうすぎるよ」

 

そう言って、スライム君のことをジトっと見る。実は言うと、あの日の夜、彼にゆんゆんをなんとかアクセルの街に帰らないように足止めするように頼んでおいた。もしも、ゆんゆんが帰るとなれば、使い魔であるスライム君も一緒にアクセルに帰らなければならないからだ。こんなことなら、私が合間を縫ってゆんゆんとクエストを受けるなり、すればよかったと反省している。

 

「ごめんね、ゆんゆん」

 

私はゆんゆんの頭をなでたあと、切り替えて仕事の話に入る。

 

「今回、潜入するのはこの貴族の屋敷だよ」

 

 そう言って、資料を出す。色々と良くないお金儲けの仕方をしている典型的な悪徳領主についてまとめたものだ。試しにお宝感知を発動してみたら、見事にヒットした。

 

「それに、こういう貴族ってね、たいてい高級食材をため込んでる場合が多かったりするんだよね」

 

 スライム君に耳打ちをする。すると、彼はゆんゆんの姿に擬態した。顔の下半分は黒いマスクで見えなくなっている。

 

「やる気になってくれたみたいだね」

 

 

 そうして、貴族の屋敷に来たものの、最初の難関に悩まされていた。

 

「この塀高すぎない? もはや壁じゃん」

 

 塀が高すぎるのだ。しかも、装飾がないツルツルの壁なのでよじ登ることもできそうにない。前にはなかったはずなのでおそらく魔法か何かで造ったのだろう。

 

「しょうがないか、スライム君、他の侵入経路を……」

 

相棒に声をかけようとしたところ、彼はスライムの姿に戻っていた。そして、透明な糸のようなものを壁に向かって飛ばす。それを見て、あのとき宝石を割った攻撃が何か合点がいった。

 

「あぁ、ウォーターカッターか」

 

そして、壁に私でもギリギリ入るほどの大きさの穴を空けた。やっぱり、スライム君を選んで正解だと思った。その後は、私は潜伏スキルを、スライム君はおそらく素の技量で気配を消して、誰にもバレずにすんなりと潜入することができた。あとはお宝が収められている部屋に向かう。そして、宝感知が示す部屋に行くと、その前には衛兵が二人立っていた。

 

「まあ、そうだよね。ねえスライム君、お願いできる?」

 

 すると、スライム君は目にもとまらぬ速さで二人との距離を詰め、みぞおちに拳を入れる。急所を殴られた二人は声を出す暇もなく意識を沈めた。

 

「さっすが~、じゃあ、中に入っていこう!!」

 

 部屋の中に入ると、そこには宝石やアクセサリーなどの高価なものがたくさん展示されていた。そして、奥には金庫があった。スライム君に見張りをしてもらいながら解錠スキルで開けていく。

 すると、中には神器が入っていた。勇者候補が女神から賜ると言われている強力な武器や魔道具。それは別の言葉ではチートとも呼ばれ、この世界のバランスを崩すことができるほどの代物だ。だから、基本的には賜った本人以外には真価が発揮できないようになっている。しかし、例外的に誰でも使用できる神器というものが存在する。

 

「これは、生物以外であれば何でも宝石に変えることができる魔法窯だね……なるほど、それでこんなに宝石があるんだね」

 

 今回の神器は直接人身に危害を加えるものではなかった。しかし、経済的にいろいろと弊害がありそうなので回収をする。ついでに部屋にある宝石も没収することにした。そして、スライム君に声をかけて、さっさと撤収する。さっさと屋敷の中から脱出して、裏庭を突っ切ってる途中だった。スライム君が足を止める。

 

「どうしたの?」

 

 声をかけると、ある方向をじっと見ており、私もそちらに視線を向けるとそこには食料庫があった。しかも、ただの食料庫ではなく高級食材が入っているらしい。解錠スキルを使ったが鍵が開かなかった。

 

「うーん、ダメだなぁ。しかも、強い結界が張ってあるから多分外側からの攻撃も通らないよ?」

 

 スライム君が壁に向かって思い切り蹴りを放つ。しかし、結界の効果なのか食料庫の壁はビクともしなかった。次にスライムの姿に戻ってウォーターカッターを出すが、切断することもできなかった。むしろ、水圧で壁が綺麗になっていた。

 

「ほら、やっぱり無理だよ。あとで美味しいものを奢ってあげるからさ? さっさと脱出……」

 

 そう言いかけたところで、スライム君がまたゆんゆんの姿になった。そして、壁に向かって走っていき、思い切り背中から体当たりをする。その鈍い衝撃は壁を内側からグラグラと揺らした。手ごたえを感じた彼は今度はスライムの姿になり、今度はもっと速く、強い体当たりをする。自身の流体性を活かして、さらに内側から揺らされた壁はとうとう耐えられなくなり、ガラガラと音を立てて崩れたのであった。食料庫を覆っていた結界は壁の崩壊と共に役目を失ったかのように儚く、解けていった。

 

「す、すごい……すごいよスライム君!!」

 

 私もこの偉業に思わず興奮してしまった。しかし、そのときだった。

 

「侵入者だ! 侵入者が食料庫を破壊しているぞ!!!」

「宝物庫もやられてるぞ!!! 絶対に逃がすな!!!!!」

 

 普通にバレた。しかも衛兵以外に領主に雇われたのだろう冒険者も交じっている。

 

「ちょ、ちょっとぉ! 音を立てたから見つかっちゃったよ! どうすんのこれ!!」

 

 すると、スライム君は食料庫をパンチや蹴りで徹底的に壊した。その瞬間、数多の高級食材が一斉に飛び出した。月明かりが照らす夜空が高級食材から放たれる敵意と殺気で埋め尽くされる。

この状況を引き起こしたスライム君が近くで呆然としている冒険者を殴り飛ばして、剣を強奪する。その隙を狙ってなのかタケノコがその臓腑に穴を空けようと弾丸のように飛んでいく。しかし、スライム君はそれを真っ二つに斬り伏せた。そして、タケノコを手でつかむと、ゆっくりと咀嚼した。かくして、人類と高級食材の戦いが始まった。

そこは戦場というより地獄絵図だった。人々は襲い掛かる大群を相手に逃げ回り、その中で一人の少女が獲物を狩り続けていた。私は当然、近くの茂みに隠れて様子を伺った。そのまま逃げても良かったけど、一応、仲間が戦っていたので応援はせずとも見守ることにした。

 

「人選、間違えちゃったかなぁ……」

 

 ちなみにこの戦争はスライム君が敵を全て狩り尽くして、ようやく終わった。その頃には屋敷の人間は皆倒れていた。

 

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