この素晴らしい世界にスライムを!   作:履舌裏駄像

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※これからは文量を前よりも少し長めにします。


このスライムに急成長を!

 昨日はひどい目にあった……結局、私たちが宿に帰ってきたのは早朝だった。やっぱり、人選を間違えたかもしれない。選んだのは人じゃなくてスライムなんだけど……それにしても、めちゃくちゃ眠い。

 

「あの、クリスさん……大丈夫ですか? すごく疲れているそうですけど」

 

「うぇ!? ああ、うん大丈夫だよ。ちょっと昨夜はあまり寝られなくてさ……」

 

 そう言いながらも私は頭をカクン、カクンとさせてしまう。今日はゆんゆんとギルドで朝ご飯を食べている。だけど、寝不足のせいもあるのかスープも碌にのどを通らなかった。すると、ゆんゆんが真剣な表情で私を見る。

 

「クリスさん、今日は宿でおやすみしたほうが良いと思います。さすがにその状態でクエストを受けるのは危なすぎます」

 

 そして、私の目を見ながらキッパリと言った。

 

「ゆんゆん……」

 

「それに、私はクリスさんのことをすごく尊敬してて、優しいし、頼りになるし、物知りで……だから、そんな人に何かあったらすごく悲しいから」

 

「ふふっ、ありがとう。確かにこんなに可愛い友人に泣き顔なんてさせるわけには行かないね。今日はおとなしく宿に戻ることにするよ」

 

 私はゆんゆんにちょっぴり、ズルいなぁと思いながらギルドを後にした。

 

 

 

 

 クリスさんを宿に見送った後、私はギルドで食事を再開させることにした。そして、先ほどクリス案に言われたことを思い出す。記憶違いでなければ、私のことを『可愛い友人』と言ってくれた。

 

『可愛い友人』

『友人』

「……友達」

 

 そう、友達と言ってもらえたのです!! 嬉しくて思わず口角が上がる。クリスさんが元気になったら今度は一緒に遊びに出かけたいなと思っていると、机の上にライムが飛び乗ってきた。上には依頼書を乗っけている。全然見かけないなと思ったらクエストを選んでいたらしい。とりあえず、内容に目を通す。

 

「えーと、イノシカチョウの討伐……ねえ、これ推奨パーティーが上級職16人なんだけど……」

 

 イノシカチョウとは大きなイノシシの身体に鹿の角と蝶の羽を持ったモンスターだ。大きな羽で竜巻を作り、角と牙を存分に使った突進は山を平らにすると言われている。そして、イノシカチョウのお肉はどんな猪肉よりもおいしいとされていて、高級食材にもなっている。

 確かに、紅魔族の長に見合うような、めぐみん以上の魔法使いになりたいのは事実だけど、だからってこんなのと一人と一匹だけで戦って死んでしまったら本末転倒だと思う。とりあえず却下をした。その後も、ヤマタノヒュドラの討伐だったり、ギガロドンの卵の採集などなど……間違いなく死んでしまうような依頼ばかりを持ってきたので私が選ぶことにした。

 

「どうしようかな……とりあえず、これにしようかな?」

 

 初心者殺しを5体討伐するクエストを選んだときだった。頭の上にいたライムが急に溶け出して私の服の中に入ってくる。そして、私の身体に纏わりついて無理やり身体を動かしてきた。そ、そんなことできたの!?

 身体の主導権を渡さないと必死に耐えるが、依頼書をもとの場所に戻されてしまう。そして、次に手を取ったのは、王都の近くの平野に巣を作ったタカイドリのつがいの討伐だった。それを受付に持っていこうとする。

 

「それ、推奨パーティが上級職5人のやつじゃない! 絶対に受けないからね!」

 

 

 

 

「ライムが選んだんだから、しっかりと働きなさいね」

 

 結局、押し切られてしまった……私たちは今、原っぱを歩いている。タカイドリ、紅魔の里でもアクセルでも聞いたことのないモンスターだ。普通なら上級職5人で対応するらしいから結構強いと思うんだけど、ライムは知ってるのかな? そんなことを考えていると、私に擬態していたライムが立ち止まる。両手には剣と盾を装備している。なんていうか、自分の顔をまじまじと見るのすごく不思議な気分。しかも、ライムっていつも無表情だからなおさら違和感がすごい。そんなことを思っていると、ある疑問が出てきたので、聞いてみる。

 

「ねえ、ライム。わざわざ擬態しなくてもスライムのままのほうが強いんじゃないの?」

 

しかし、返答することなく前に歩き出す。む、無視!? せめて、こっちを振り向いても良くない!? そんなことを思っているとライムが次の一歩を踏み出した。その瞬間……

 

 ――ガッキィィィィィン!!!!!

 

金属と金属が勢いよくぶち当たる音と共にライムが弾き飛ばされた。そこには私よりも頭二つ分高い身長の大きな鳥がいた。私はすぐさま、バックステップで距離を取る。ライムの様子を横目で確認すると、特にけがはしていなかった。しかし、鉄の盾は引き裂かれて使い物にならなくなっている。

 

「これが、タカイドリ……」

 

 どこに隠れていたのかと、あたりを見渡す。しかし、隠れることができそうな物陰は一切ない。遠方に草を積み重ねたようなものが辛うじて見えるだけだ。

 

それに、さっきは距離が近かったものあって気づかなかったが、このモンスターは脚が長くて、太い。しかも大きくて鋭い爪も持っており、こんなのに蹴られれば一撃で死んでしまうかもしれない。私は警戒を最大まで高める。

 

「ライト・オブ・セイバー!!!」

 

光の剣をタカイドリに放つ。しかし、相手はそれを容易く躱して私の方向へと走ってくる。

は、速い!!

 

「インフェルノ!!」

 

 そこで私はとっさに炎の壁を作る。そして、相手の視界を遮ぎながら横に転がる。するとさっきまでいた場所に強烈な蹴りを飛ばしながらタカイドリが突っ込んできた。その隙を狙って走ってきたライムが斬りかかる。しかし、それも躱されてカウンターの蹴りが飛んでくる。それをライムが切り返しで弾く。

 

キィィィィィン!!!!

 

 また、耳をつんざくような音が周りに響き渡る。両者はともに弾き飛ばされて距離が空いた。そして、またお互いに近づいて接近戦闘に入る。タカイドリの華麗で力強い蹴りをライムは躱したり、剣で捌いている。対して、タカイドリはライムからの攻撃を体躯からは考えられないほどの身軽さで躱していた。ときおり、ライムの振るう剣とタカイドリの繰り出す爪が当たって凄まじい音が鳴っている。

このハイレベルな攻防に私は魔法で援護ができないでいた。ライムたちがせわしなく動き回るので、魔法がライムに当たる可能性がある。しかも、タカイドリも先ほどの業火の魔法を突破したのを見るに、魔法の耐性がある。

 

「ライム……ん? あれ?」

 

 歯噛みをしていたとき、なんと、タカイドリが小さい傷をいくつも作っており、そこから血を流していることに気づいた。はじめは互角だったはずなのにライムが押し始めている。その理由を知るために私はライムをジッと見つめる。すると、ライムの剣捌きが軽やかになっており、タカイドリの蹴りを少ない動きで受け流して、体制が崩れたところを斬りかかっていた。相手は凄まじい身体能力で何とかギリギリ躱すがやはり、攻撃がかすっている。

 

「もしかして、タカイドリの攻撃を見切り始めてる……?」

 

 もしかしたら、ライムがスライムの姿に戻って戦わなかったのは人間の姿で戦う練習をするためだったのかも知れない。今までのライムは音速による体当たりやウォーターカッターを使ったのオーバーキルがメインだった。しかし、前者はともかく、後者は必殺の攻撃だけど体の水を使うので、短期戦特価だった。それが、擬態能力を手に入れたことによって長期的な戦いができるようになった。

 

「す、すごい……」

 

 ライムがタカイドリの渾身の蹴りを頭を下げて躱す。それと同時に軸足に足払いをかけた。タカイドリは転んでなるものかと、羽ばたいて姿勢を安定させるが、それが致命的な隙となった。

そこで、ライムは一歩踏み込んで強烈な蹴りを喰らわせた。タカイドリの攻撃から学習したと思われる強く、洗練された突き刺すような蹴りだった。立てなくなり、虫の息となったタカイドリは最期に断末魔のような大きな鳴き声を出した。

 

「倒しちゃった……流石だね……」

 

 私は唖然としながらも、なんとか言葉を口にした。そのとき、私たちの前方になにか大きなものが落下してきた。

 

「な、なに!?」

 

 土煙が晴れる。すると、そこには先ほどのタカイドリよりも二回り大きなタカイドリがいた。丸太のように太い脚がライムを襲う。しかし、それを容易く躱して剣を振り下ろした。しかし、その斬撃は骨を断つことはなかった。分厚い筋肉によって刃が阻まれてしまった。

 ライムは落ち着いて距離を取った。そして、私の少し前に来て、スライムの姿に戻る。多分、擬態したままで勝てるような相手じゃないと感じたんだと思う。私も改めて、気を引き締める。

 

「ライム、ここはもう一気に決めるよ……ライトニング!!」

 

 私が電撃を飛ばす。しかし、それは躱されてしまい爆発するような瞬発力で私たちのほうへ近づこうとしてくる。だけど、これは陽動だ。地面がめり込むほどの踏み込みをしている軸足。そこにライムはウォーターカッターを飛ばした。

すると、飛び出すための発射台を切断されたタカイドリはバランスを崩して転びそうになる。そこをライムは目にも映らないような速さでタカイドリの真下に移動して思い切り上にタックルをお見舞いする。そして、タカイドリが羽を広げてバランスを取ろうとした瞬間にウォーターカッターで翼をどちらも切断した。

 

「今! ライト・オブ・セイバー!!!」

 

 空中で身動きが取れないタカイドリに私は鞭のようにしならせた光の剣でバッサリと斬った。今のライムは私に擬態してできることと、できないことを学習して戦闘スタイルを確立しつつある。一種の急成長をしている最中だと私は考えている。

 

「私も、置いていかれないようにしないと……!!」

 

 私は武者震いをしながら奮起した。めぐみんを超える魔法使いには、それくらいの気概がないとなれないと知っているから。

 

 

 

 

「ん~!! よく寝たらスッキリしたぁ!」

 

 私が窓の外を見ると、空は茜色に染まっていた。どうやら夕方まで眠っていたらしい。とりあえず、顔を洗っていつもの服に着替えて部屋の外に出てみる。

 

「おーい、ゆんゆん! いるー?」

 

ゆんゆんの部屋のドアをノックするが返事はなく、中に誰かいる気配もしない。まだ帰ってきていないのか。そんなことを思っていると、腹の虫がなった。そういえば、朝から何も食べていないかった……とりあえず、何かを食べに王都ギルドに行ってみることにした。

 

ギルドに着くと何か騒がしいことになっている。なにかと思い、人だかりのほうへ駆け寄ってみると、その中心には後輩冒険者で私の友人のゆんゆんがいた。

 

「すげえぜ、嬢ちゃん! まさかタカイドリの番を使い魔一匹と一人だけで倒しちまうなんてよ!!!」

「おれ、この子のこと知ってるぜ!! アクセルの街では切り札って言われていたんだ!!」

 

「い、いえ、私は別に……ライムがやったことですから……って言うか、ジョーカーはやめてください! 恥ずかしいのでやめてください!!」

 

 なんだかすごく困ってるみたいだ……ここは先輩の出番だね。私は人ごみをかき分けて、ゆんゆんにさりげなく近寄る。

 

「クエストお疲れ様、ゆんゆん」

 

「クリスさん!!!! 寝不足はもう大丈夫なんですか?」

 

 ゆんゆんの反応はまるで救世主が来たかのようだった。私はゆんゆんの手を取る。

 

「おかげさまでね。ほら、あっちに移動しよう? 話したいこともあるでしょ?」

 

 そして、人だかりの中心からさっさと退散した。

 

「チクショウ……イケメンが全部持っていきやがった……!!」

 

 何か聞こえた気がするけど、気にしないことにした。

 その後はゆんゆんから夕飯をご馳走になった。私は悪いと言ったけど、討伐したタカイドリの肉が多すぎるので、手伝ってほしいとのことだった。まあ、それなら良いかと思い、お言葉に甘えてたくさん食べることにした。

 

「もぐもぐ……それにしてもタカイドリの討伐とは本当にゆんゆんはすごいね」

 

「い、いえ、私はほとんどサポートに回っていたので」

 

 私たちは談笑を楽しんでいる。ちなみに、スライム君はゆんゆんの隣でタカイドリの卵焼きを食べていた。

 

「でも、やっぱり大変だったでしょ? あのモンスターってさ縄張り意識がすごく強いんだよ。だから、縄張りに一歩でも踏み出そうものなら、どこからでもすっ飛んできて攻撃してくるんだ」

 

「確かに、ライムが一歩踏み出した途端にものすごい音がして、攻撃は間一髪で防いだんですけど、せっかく買った鉄の盾もダメにされちゃって……」

 

「そう、タカイドリの爪と蹴りは甲冑さえ容易く引き裂くと言われてるからね。しかも、身体の大きさの割にすごく足が速いから、縄張りに気づかずに踏み込んだ冒険者がバッサリとされちゃうこともあるんだよ……」

 

 私が声のトーンを落として言うと、ゆんゆんは生唾をごくりと飲み込んだ。

 

「めちゃくちゃ危険じゃないですか……あっ、それと飛んできたタカイドリを倒したら、もう一匹、すごく大きいタカイドリが上から落ちてきました。」

 

「それはタカイドリのメスだね。メスは二回り以上身体が大きくてね、強さもスピードも二回り違うんだよ。旦那さんの断末魔を聞いて飛んでくるんだけど……これが厄介なんてものじゃなくてね、走らせたらまず、目で追うことができなくなる。」

 

「クリスさん、すごく詳しいですけど、もしかして、このクエストを受けたことがあるんですか?」

 

 ゆんゆんに質問された。特に隠すこともないので普通に答えた。

 

王都ではなく、アクセルの街で友達のダクネスとパーティーを組んでいた頃、他の高レベルの上級者を三人を雇った。オスのタカイドリはよく作戦を練って倒せたけど、メスのタカイドリですごく苦戦させられた。ダクネスの囮スキルと防御力で何とか釘付けにして、他の冒険者とタコ殴りにして勝った覚えがある。

 

「まあ、ダクネスはすっごいボロボロになったんだけど」

 

「流石ダクネスさん……すごい!!」

 

 鎧や服を引き裂かれたダクネスがほとんど裸の状態で、喜んでいたのは言わないで良いか。この子の純粋な尊敬を汚したくない。

 

 

 

 お互い、満腹なったのでそろそろ宿に戻ることにした。そして、疲れたのか満腹になったからなのか眠くなっていたゆんゆんと別れてそれぞれの部屋に入った。

 

 深夜、私の部屋の窓際に気配を感じた。そちらに顔を向けると、仮面をつけた少女が立っていた。

 

「準備はできてるみたいだね。この前みたいに倉庫から暴れる食材を放つとかしないでよ? おかげで大変だったんだから」

 

 仮面の少女は何も言わない。食堂でいろんな表情を見せてくれていたあの娘とは思えないほど冷たい雰囲気を持っている。

 

「じゃあ、行こうか。アルダープ邸に!」

 

 そして、私たち義賊は悪徳領主を懲らしめるために暗闇の中に音もなく飛び込んだ。

 

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