この素晴らしい世界にスライムを!   作:履舌裏駄像

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この長い夜に終止符を!

ーーザクッ……

 

 あっけない音と共に私は後ろの脇腹に熱と痛みをじわじわと感じた。

 

 

 何が起きたのか分からなかった。

 

 

 私は魔王軍の幹部候補の一人だ。一年以上前から活動する冒険者として王都に潜伏していた。そして今日、食料庫を爆破して、城内を混乱させたところで、魔王軍にとって危険になりそうな冒険者を暗殺するのが私の仕事だった。特に要注意人物として、ミツルギには懸賞金をかけられていた。やはり、オーク全滅が功績として大きかった。

 

 しかし、実行した日に異変が起こった。黒づくめの侵入者たちが現れたというではないか。他の冒険者に紛れていったところ、そこには飛び回る野菜や果物と戦闘をする黒装束の人影がいた。彼が魔物だということにはすぐに気が付いた。こちらに気づいて一瞬で周りの冒険者共を昏倒させた彼に私は取引を持ち掛けた。

 

――私の部下にならないか、と。

 

 自分はいずれ、魔王軍の幹部になる予定だ。もし、傘下に入るのなら、それなりの権力と金は約束してやると言った。彼の戦闘力、擬態能力は私が幹部の地位を得るのに大きな力になると確信したからだ。必死に説得しようとした。

 その答えがこれだ。脇腹に刺さるナイフからは殺気も敵意も感じない。ただただ興味のないものを処分するかのような、温度のないものだった。やがて、身体中が冷たくなっていき力が入らず、崩れ落ちてしまう。

 

奴の背中が視界に入る……気づけば、私は詠唱をしていた。このまま終わってたまるかと命を絞って禁忌の魔法を使う。すると、あたりを飛んでいた無数の野菜や果物が集まって巨大な人型になっていく。

 

 それが奴を殴り飛ばすところを見届けてから私は瞼を下げた。

 

 

 

 

 野菜と果物でできたゴーレム。それも、俺たちがいる城の最上階と同じくらいの大きさの巨大なものが、そびえ立っていた。

 

「なにアレ、なにアレ、なにアレ!!! なんであんなのがいるのさ!!!」

「知らねえよ!!」

 

「めぐみん! ば、爆裂魔法を……!」

「無理です! ギリギリ魔力が足りないです!!」

 

 ギャーギャーと騒いでいると、ブラッキーが飛んできて華麗に着地をした。スーパーヒーロー着地する奴って本当にいるもんなんだな……向こうを見ると、なんとゴーレムが大股でこちらに歩いてきているではないか!

 それに対して、ブラッキーは答える様に凄まじい飛び蹴りをかます。しかし、打撃に耐性があるのか、のけ反りはしても大したダメージには至ってない様子だ。今度はゴーレムが殴打の姿勢に入る。ブラッキーは空中にいるので躱すことはできない! 腕をクロスさせて拳を受けるが当然、圧倒的な質量の差でぶっ飛ばされて、アイリスの部屋の壁を突き破った。

 

「ギャアアアアア!!!!」

 

「あなたも盗賊団の一員ですか!? そのフードカッコいいです!!!」

 

「言っている場合か! アイリス様、お怪我はありませんか? アクアも大丈夫か!?」

 

 悲鳴やら何やらが聞こえてきた。

 

「追い詰めたぞ、侵入者共!」

「さっきは、よくも卑怯な真似を!」

 

クレアたちが追いついてきた! このままでは挟み撃ちになると思ったとき、視界に一瞬黒いものを掠めた。

 

「うぐぉ」

 

 次の瞬間、ミツルギが唸り声をあげて倒れていた。ブラッキーがミツルギの顎に膝を入れたのだ。そして、魔剣を強奪した。

 

「み、ミツルギ殿ぉぉ!!! 貴様、何を……」

 

クレアの言葉を待たずにブラッキーが飛び出す。今度は、魔剣……とはいってもミツルギ以外が使っても丈夫で切れ味が少し良いだけの大剣でしかないのだが、ゴーレムが翻弄されているように見える。

 持ち前の身体能力と技量で大分優勢っぽい感じだ。ブラッキーの動きが速すぎて見えないけど。しかし、神話の如き異次元な戦いは皆の目線を釘付けにしていた。

 

「なあ、お頭……あいつ、普通にこのまま勝てそうだし、一緒にスティールして脱出しようぜ」

 

「それは良いけど、君のスティールって……」

「下着を奪うと言いたいのか?」

「うん」

 

 なんて失礼な奴だ。否定はできないけど……それはそうと方針は決まった。俺たちは一緒にアイリスの部屋に走っていく。

 

「はっ!! アイリス様!!! ダスティネス卿、挟み撃ちだ!!!」

「えっ。ああ、了解……! 渾身の~、我が渾身のぉぉ!!!」

 

しかし、攻撃はスカだった。流石ポンコツクルセイダーだぜ!

 

「行くぞお頭!!」

「うん! せーのっ!」

 

「「スティール!!」」

 

 そして、そのまま城から脱出をした。

 

「ただで行かせるもんですか!! 神器封印!!!」

 

 アクアの大声を背中に受けながら、俺たちは城を後にした。

 

 

 

 

「アイリス様! ご無事ですか!?」

 

 クレアが私のところに走ってくる。それに対して私は頷きながら、崩れた壁の向こうから目を離すことができなかった。そこでは巨大なゴーレムと先ほどの侵入者の仲間と思われる、黒装束の侵入者が激しい戦いを繰り広げていた。

 

「アイリス様、避難をしましょう。戦いの余波でここも危ないかもしれません」

 

 レインが私の手を引こうとする。だけど、私は動かない。

 

「アイリス様……?」

「ごめんなさい、レイン。私、この戦いをもっと見ていたいの」

 

 私は見惚れていた。まさか、こんな剣があるなんて思わなかった。私が知っているのは一振りで相手を倒す誇りと真っ直ぐさがある剣だった。だけど、あの人の扱う剣技はそれらが一切なく、荒々しく、無造作に冷徹に相手の命を刈り取るためだけの冷たい型だ。私とは大きくかけ離れた形で極められた剣にワクワクしていた。

 

「クレア殿、なにかがあれば私がこの身に変えてお守りいたします。ですから、今だけはアイリス様に彼らの戦いを見せるのはいかがでしょうか? 賊も逃げ去った今、彼がこちらに攻撃を仕掛けるとは思えません」

 

「……そうだな、許可いたしましょう」

 

「ありがとう!! クレア、ララティーナ!」

 

 お礼を言って、あの人の戦いを見ることにした。

 

 迫りくる拳を竜巻のような連撃でバラバラにする。そして、凄まじい跳躍と共にゴーレムに斬りかかる。しかし、ゴーレムのほうも巨体に見合わない速さで後ろに一歩下がり、空中で無防備になった黒装束に下からカチ上げるような渾身の一撃を入れた。それをまともに喰らった彼は空高くへと飛んで行ってしまった。

 

「勝負ありですね……アイリス様、避難いたしましょう。あのゴーレムが残った以上、ここに残るのは危険です」

 

 私は動かなかった。まだ勝負は喫してないと分かっていたから。あんな使い手がこの程度で負けるわけがない。

何かが空気とこすれ合うかすかな轟音が聞こえる。私はふと、お兄様から聞いた空から落ちてくる石の話を思い出した。炎を纏って雲を割り衝撃波で辺り一帯を吹き飛ばすらしい。

 

 かすかな轟音がどんどん大きくなる。

 

 割れた雲から炎が隕ちてきた。

 

「アクア! 私に支援魔法を頼む!!」

 

「おっけー!! パワード!!」

 

ララティーナが部屋に飾ってある大盾を持って私たちの前に来たのと同時に、その炎がゴーレムを二等分に叩き斬った。凄まじい空気の壁がこちらへと迫ってくる。ララティーナが構えるアダマンタイト大盾も悲鳴をあげているのがわかる。

 

 

しばらくして土煙がおさまった頃、そこには魔剣だけが残されていた。

 

 

 

 

 

「痛い痛い痛い!! ちょっ、割れちゃうよ!!!」

 

「俺はクリスから唆されただけなんだ! ひ、被害者だよ!!」

 

 私たちは今、宿屋でダクネスからアイアンクローを受けていた。当然ながらダクネスには私たちの正体はバレていたようで折檻をされている。

 

「盗賊行為の目的は危険な神器の回収だっただと? なぜ最初から私に相談しなかった?」

 

「助手君が、義賊の私と通じてるとバレたらダクネスの立場が悪くなるからって……いたたたた!!!」

 

 ダクネスの質問に答えていった私たちは、ようやく解放された。あ、危なかった……これ以上されたら頭蓋骨が割れるか、変形するところだった……

 

「それで、あの黒装束の……ライムについてはゆんゆんは知っているのか?」

 

「気づいてたんだ、そういえば、置いていっちゃったけど上手く脱出できたの?」

 

「擬態できるということはカズマから聞いていたからな。それにあの強さでお前たちの共通の知人ときたらライムしかいないだろう。ゴーレムを一刀両断したあと、魔剣を残して消えていた。それで、ゆんゆんは知っていたのか?」

 

「いや、知らないはずだよ」

 

 そうなんだ、上手く逃げてくれたようで良かった。ホッとした私は、ダクネスにスライム君が仲間になった経緯と今までのことを話した。高級食材が食べ放題を餌にして仲間にしたこと、食べ物関連になると言うことを全然聞いてくれなくて大変だったこと、アルダープ邸では食料庫が空になっていて、めちゃくちゃ不機嫌だったことなどなど…………

 

「アルダープ邸の大穴はただの八つ当たりだったのか……改めて思うと、ゆんゆんは凄いな……」

 

 アルダープ邸の話を聞いたダクネスは引いていた。私もカズマ君も引いていたし残当だね。

 

「他に隠していることはないか?」

「えーとぉ……」

「あるんだな……?」

 

 そこで私は、カズマ君がスティールで王女様の指輪を取ってしまったことを告白した。その瞬間、ダクネスの顔が曇って固まった。しかし、すぐに切り替えてカズマ君に真剣な眼差しを向ける。

 

「良いか、カズマ。この指輪を絶対に無くすなよ。そして、誰にも見つからずに墓の下まで持っていけ」

「な、なんでだよ!! そんな大事なものなら、拾ったって言って今から届けて来ようぜ!!」

「たわけ!!」

 

 厄介なものだと理解して拒否をしたカズマ君にダクネスが頭突きをお見舞いする。

 

「これは、婚約者が決まったときのみ外して相手に贈るものだ。賊に盗まれたうえに、その辺の冒険者が届けたなどとなれば、それが善意であったとしても口封じに始末されるぞ!!」 

 

「なにそれ怖い!!!!」

 

「アイリス様が肌身離さずに持っていた指輪だ。どんなことがあっても、その身から離さず、誰にも見つからないようにするんだぞ」

 

 そう言われて、カズマ君は渋々だったけど、承諾した。

 

「まあ、やってしまったものはしょうがない。クリスはアクセルの街に帰れ。カズマは私と共に城に行くぞ。報告は必要だし、カズマはアイリス様に別れの挨拶がまだだろう? それにクリスは銀髪が目立ちすぎるからな」

 

「わかったよ。そうだ! ゆんゆんによろしく伝えといてね。別れの挨拶ができなかったけど、楽しかったありがとうって」

 

「ああ、わかった」

 

 

 こうして、私たちの長い夜は終わった。

 

 

 

 

「まさか、あの首飾りがそんなに危険なものだったとは……それに、魔王軍も入り込んでいたとなると、警備の見直しが必要になりますね」

 

「でも、安心して頂戴! 私があの神器を封印しておいたから、悪用されることはもうないわ!!」

 

「魔道具のエキスパートである私から見ても、あんな神器を作れる者などいませんから安心して良いと思いますよ!!」

 

 カズマです……今、俺たちは城内の応接間でアイリスたちに報告を行っていた。ここには、俺たちとアイリス、クレアとレインしかいない。今回の騒動で死人が出たということと、魔王軍のスパイがいるということで秘匿性のあるものになっていた。

 

「だとしたら、どうして義賊たちはあの神器を盗んでいったのか……噂を聞く限りは神器を悪用する連中とも思えないのだがな……それに、今回は城内の兵士や冒険者が数人殺害されている。まあ、全員確認したわけではないが魔王軍の幹部候補がいたという報告は受け取っているがな」

 

 話を聞いていったところ、今回殺害された兵士や冒険者の人数は12人らしい。刃物で急所を一突きされていたとのことだ。おそらくやり方からして、犯人はライムで間違いないだろう。殺人に抵抗がなさすぎる。

 

「もしかして、あの方たちは私を助けに来てくれたのでしょうか? ネックレスからも魔王軍からも私を守るために……」

 

 アイリスが俺をチラッと見た。あれ? もしかして気づいてたりするのか……? 

 ただ、正直に言うと、ライムがどうして魔王軍のスパイを殺していたのかはわからない。アイツなら放っておきそうな気もするのに。アイリスのことを助けようとしたのか、はたまた別の理由か……うん、後者だな。

 

「それは考えすぎでしょう。ですが、もし本当にそうであれば大した者たちだと言わざるを得ませんが……特にあの黒装束の剣士。まさか、あんな怪物がいたとは思わなかった。ミツルギ殿も途中から目を覚まして戦いを見ていたようだが、落ち込んでいたな。自分の強さは魔剣頼りでしかなかったと」

 

「私は仮面の男ですね。兵士を魔法で次々に捌いていった上に、私の杖も砕かれてしまいました。高レベル冒険者はよく知っているつもりでしたがあれほどの使い手は心当たりがありませんね」

 

 

どうしよう……めちゃくちゃ自慢したい。実は言うと俺でしたって言いたい。皆に褒められて思わずニヤけちゃうなぁ……

 

「カズマさん、なんでニヤニヤしてるの? すごく気持ち悪いわよ?」

 

 うるさいな、こいつ。

 

「本当に何をニヤニヤ笑ってるんだ? 昨日の夜は何の役にも立たなかったというのに」

 

 ぅぐ……最後まで嫌味な女だな、コイツ!

 

「でも、本当にかっこよかったですね。私、あの義賊様のことを好きになってしまいました……」

 

 よし、言おう。カミングアウトしちゃおう! 俺が立った瞬間にダクネスにチョークスリーパーで邪魔をされた。

 

「今頃、何をしているのでしょうか…………あの黒装束の剣士様は」

 

 冷めたわ。

 

 

 

 

その後は、ダクネスと共にゆんゆんを訪ねてクリスからの伝言を伝えた後に、改めてアイリスたちと合流してお別れの挨拶をした。そこでは、アイリスが俺にお願いをしようとしていたところに、またもやダクネスが邪魔をしてきやがった。俺に魔王を倒すなんてできる湧けねえだろうがってのに……

 

 

もうちょっと、夢を見ていたかったなぁ……こうして俺の、波乱万丈な王都での一幕が終わった。

 

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