この素晴らしい世界にスライムを! 作:履舌裏駄像
「ぐすっ、めぐみんが、めぐみんがぁぁ!!!」
「大丈夫ですよ、ゆんゆんさん。もう臭くありませんから」
「ありがとうございます、ウィズしゃん……」
「いいえ、このくらいお安い御用です」
ゆんゆんです。めぐみんに粘液まみれにされて、ボロ負けしちゃったゆんゆんです。今、泣いているところを魔道具店のお姉さんのウィズさんに慰めてもらっているところです。
実は言うと、あのあと、カエル臭くなって泣きながら宿を探しているところをウィズさんに保護をしてもらいました。ちなみに、ウィズさんとは、私が上級魔法を覚える前に、一度お会いしています。上級悪魔を倒すために、この魔道具店で買い物をしたのがきっかけでした。
「本当にありがとうございました。おかげで、ちょっと元気が出てきた気がします。そうだ、よかったら一緒にお菓子とかどうですか? 私、いっぱい持ってきたんです! それにボードゲームとかトランプもありますよ!」
私がリュックの中をひっくり返すと、中からライムが、ボトッ、と落ちてきた。
「あら? このスライムは確か……」
ウィズさんがライムのほうに反応した。
「この子ですか? この子の名前はライムといって私の友達なんです! これから、ギルドで使い魔登録するんですよ!」
私がライムを抱っこして紹介すると、ウィズさんが何かを言おうとして、お店の扉が開かれた。
「いらっしゃいませ! 今日はどのようなご用件で、ってあら?」
「久々に、貧乏店主を見にくれば、なかなか興味深いものがいるではないか」
そこには、変な仮面をつけたタキシード姿の男の人が立っていた。
「ふむ、まさか1億エリスもの賞金をかけられたスライムが吾輩たちの店にいるとは。討伐されて吾輩の夢の礎になるのはどうだ?流体生物よ」
え?1億……?
私が驚くと同時に、後ろから強い圧がかかった。
「ら、ライム!?」
ナイフで刺されたかのような感覚が全身を襲う。恐怖で身体が動かない。森の中であった冒険者にすら隠れていた、スライムから出ているとは思えないほどだ。
「ふむ、やはり魔物は魔物か。」
そんな圧の中でも、バニルさんは平然としていた。
「安心するがよい、今のはちょっとしたジョークだ。その証拠に敵意はないであろう?」
ライムからの圧がかなり弱まった。思わず、その場にへたり込んでしまった。生きた心地がしなかった……あのままだったら、気絶していたかもしれない。
「フハハハハハハ! 魔物が発する怒りの悪感情も美味である!」
「あの、ウィズさん。この方は……?」
高笑いをする仮面の人から距離を取りながら、ウィズさんに質問をする。
「この方は、私の友人のバニルさんです。ちょっと変わっていますけど、いい人ですよ」
全然、そんな風には見えない。むしろ、ライムを討伐するとか、物騒なことを言ってたような。
「そうだ! ライムが1億エリスの賞金がかけられてるって……」
「ゆんゆんさんは知らなかったんですね。実は言うとこのライムさん? はアクセルの馬車を襲っては高級食材を奪うを繰り返していたことで、ちょっとだけ有名なモンスターなんですよ。」
「ええ!? ライムが!?」
じゃあ、あのとき追われてたのって……
「それにしても、人を食べたわけでもないのに理性を持ったスライムとは、すごく珍しいですね」
やっぱり、ライムは本能だけで動いてるわけじゃなかったんだ。そういうスライムの種類なのかもしれない。
「それで、どうしますか? やはり賞金首となると使い魔登録をするのは難しいと思います」
たしかに、そうかもしれない。だけど、ここで見放したらこの子はどうなるんだろう。また馬車を襲うかもしれない。そうしたら、今度こそ殺されちゃうかもしれないし、逆に人を殺して食べちゃうかもしれない。そんな目には合わせたくない。
「やっぱり、私は、この子を使い魔登録したいです、ギルドには頑張って説得してみます。だって、私はこの子の友達だから」
ウィズさんの目を見て、はっきりと伝える
「……そうですか、じゃあ、そのときは私もお手伝いいたしますね!」
「い、いいんですか!?」
「当然です! なんたって、ゆんゆんさんは大事なお客様ですから」
ウィズさん……! やっぱりとてもいい人だ!
「ふむ、賞金首とも知らずに馬車狩りスライムを匿っていた哀れな小娘よ」
「それは、言わないでぇ!」
「そやつと共にいるというのであれば一つ忠告をくれてやろう。いかに人の言葉を解していようと所詮は魔物だ。きっかけさえあれば、簡単に牙をむくことを忘れぬことだ。ましてや、好きに扱おうと思うものなら、それ相応のしっぺ返しが来るだろう」
そう言うと、バニルさんはお店から出て行った。
翌日、私は朝から、ウィズさんのお店で商品を見ていた。理由は今後のクエストで役に立ちそうなものをかおうとおもったから。別に、めぐみんたちがよく来る場所だからじゃない。
そんなこんなで、ウィズさんから商品の説明を聞いたり、ウィズさんがライムにご飯を食べさせるのを見たりして、時間が過ぎていった。そして……
「我が名はゆんゆん! なんという偶然! 運命のいたずら! こんなところで鉢合わせるとは、やはり終生のライバル!」
偶然、この店にやってきためぐみんに名乗りを上げる! これは決まった……
「皆さんがここによく来ると話したので、朝から待っていたんですよ」
「何言ってるんですか、ウィズさん! 私はマジックアイテムを買いに来ただけで……これください!」
本当に何を言ってるんですか、ウィズさん!
「なんだ、そんなことなら、普通に家に訪ねてきたらいいのに」
「そんな、いきなり人様の家に伺うなんて……」
カズマさんの提案にちょっと委縮してしまう、だって他人の家にいきなりお邪魔するなんて迷惑だよ。
「煮え切らない子ですね、これだからボッチは」
「そうなの?」
アクアさんが聞いてくる。
「そ、そんなことありませんよ! 私にだって友達くらいいたもん!」
「ゆんゆんに友達? 聞き捨てなりませんね」
「いるわよ! ふにふらさんとか、どどんこさんたちが“私たち友達よね”って言って私のおごりでご飯食べに行ったり……」
「やめろ! それ以上は聞きたくない!」
私が思い出話をすると、カズマさんが止めてきた。
「それにしても、そのスライム……ゆんゆんの使い魔になったんだな」
「賞金首ですよね? 使い魔登録できたんですか?」
カズマさんが私の頭の上のライムに目を向けた。めぐみんも私に質問を投げかける。
「ウィズさんが一緒に説得してくれたのもあって、仮登録だけどできたわよ。ただ、条件として一定の功績が必要って言われたから、そこは大変かも」
「へー、いい主人に拾われたな、スライム」
ライムが受け入れられてるようで、ちょっと嬉しかった。カズマさんも迷惑を被ったというのに、やっぱり優しい人だ。
「ふふっ、ライムっていう名前なんですよ」
「スを抜いただけとは、安直ですね……まあいいでしょう。そんなことより、勝負についてですが、爆裂魔法しか使えないので魔法以外がいいのですが」
「もう、ほかの魔法も覚えなさいよね、ポイントだって溜まってるでしょ?」
「全部、爆裂魔法の向上に使いました」
その言葉にあきれてしまう。どうして、こうも爆裂魔法にこだわるんだろう。そのようなことを、めぐみんといいあらそっていると、アクアさんが『仲良くなる水晶』を見つけた。しかも、ウィズさんの補足によると熟練した魔法使いにしか使えないとか! これは勝負に使えるかもしれない!
そう思って、試しに使わせてもらうことにした。めぐみんは仲良くなる必要はないと言ってたけど、怖気ついたのかと煽ったら、あっさり乗ってきた。
「止めてえええ!!!!誰かこれ、止めてええええ!!!!!」
「見るな!見るなあああ!!私の過去を見るなああああ!!!」
いま、黒歴史を晒してる途中です!助けて!!!!
「誕生日会なのに一人なの……?友達欲しさに悪魔召喚まで……」
「友達におごるために、バイトを……?なんだ魚でも友達にできる本って、ほんとに魚でいいのか?」
「いやああああああ!!!!」
私の黒歴史を見て、みんながドン引きしてる!見ないでぇ!
「あ、あれは虫?虫を食べてるんですか……?」
「うわああああああ!!!!」
めぐみんのほうもダメージを負ってた! っていうか、お互いの恥ずかしいところを見せあう魔道具って何!? これどうやって止めるの!?
結局、このあと、めぐみんが水晶を壊して勝負はお預けになった。
「勝負が、勝負が……」
私が黒歴史を晒したことと、勝負がめちゃくちゃになったことで落ち込んでいると、めぐみんが煽ってきた。
「何を。いつまでもめそめそしてるんですか。全く、勝負ごとにこだわってばっかりで、ゆんゆんは子供ですね」
大人ぶったことを言うめぐみん。
「そういえば、昔、発育勝負をしたわよね、またあれで勝負をしてもいいわよ!」
「発育がいいからと言って大人であるとは、やはり子供ですね。いいですか、私はこのカズマと一緒にお風呂に入ったのです!」
「へ?」
思わぬカウンターを食らってしまった……これは勝てない!!!!
「今日のところは私の負けにしといてあげるからあああああ!!!!!」
そのまま逃げ帰ってしまった。
「この口か!? この口がいらんことを言うのか!?」
「あなたは帰らないの?ゆんゆんは帰ったけど」
「もう少し、ごはんを食べたいみたいです。やっぱり、スライムは食いしん坊なんですね」
ライムはしばらくしてから、帰ってきた。