この素晴らしい世界にスライムを! 作:履舌裏駄像
「湯治へ行きましょう」
めぐみんの提案に首をかしげる。俺はてっきりクエストに行こうなどというと思っていたから驚いた。しかし、湯治か。湯治ということは……
「温泉か……!」
「はい、水と温泉の都アルカンレティアです!」
「アルカンレティア!? アルカンレティアって言った!? 私も行く!」
「そうだな、日ごろの疲れを癒しに行くというのも悪くないだろう」
アクアとダクネスにも好反応のようだ。これは行くしかないだろう。だって、温泉っていうことは、当然あるわけだしな……混浴が!
「確かに、温泉で古傷を癒すのも悪くないな!」
そうして、俺たちの温泉旅行が始まった!
そして、早朝。俺とアクアは準備を済ませて玄関で待機していた。
「まったく、あの二人は俺たちをダメ人間扱いしてくるのに、いつまで寝てるんだ!」
「私、二人を起こしてくるから、カズマは一番いい馬車を取っといて!」
「任せろ!」
アクアには、そういったが俺は真っ先に馬車乗り場にはいかず、ウィズの店に寄り道をする。
「へい、らっしゃい! おや、こんな朝早くからどうした?」
バニルが出迎えてくれる。ちょうどよかったので、温泉に行くにあたり、商売の話を少し待ってもらうことにした。しかし、足元を見ると焦げたウィズが転がっており、それについて聞いてみると
「昨日、このポンコツ店主が、またいらぬものを入荷しよってな。それで我輩の殺人光線で折檻したところだ。なんと、この魔道具、音が鳴るタイプの水洗トイレでな、排泄の音を消すことができるのだが、その音が大きすぎてモンスターは寄ってくるのだ。さらには水が出る勢いが強すぎて周りが大惨事になるのだ。一ついるか?」
「いや、いらねえよ」
なるほど、なかなかのガラクタだ。そうして話していると、バニルが思いついたかのような顔をした。
「そうだ、小僧。一つ提案があるのだが」
「提案?」
「それで、ウィズの子守を引き受けたわけね、だけど、その子消えかけてるわよ」
「おい、やべえじゃねえか!」
温泉に行くメンバーにウィズが追加された。とりあえず、思い出に浸っているダクネスから生命力を奪ってウィズにながしこむと、実体が戻り、目を覚ました。俺は首を絞められたけど。
そうこうしているうちに、アクアが見つけてきた馬車に乗ることになった。しかし、どうやら席に一人、すでに乗っているらしく、相席になってしまうとのことだ。まあ、ほかの馬車は埋まってるみたいだし仕方がないだろう。そう思いながら、挨拶を兼ねて馬車の中を見ると……
「あ、カズマさん」
ゆんゆんとライムが乗っていた。
「奇遇ね!めぐみん!まさかあなたもアルカンレティアに行くところだったなんて!」
「なんですか、待ち伏せですか。ストーカーですか! 一緒に温泉行きたかったのなら言ってくれればよかったのに、これはちょっと引きます……」
「違うわよ! 私はちょっと、アルカンレティアに用事があって来たのよ!」
どうやら、本当に偶然だったらしい。というわけで、温泉旅行にはゆんゆんも行くことになった。しかし、ここで問題が起こる。
本来であれば、全員で座れるはずが先にゆんゆんが座っていたので、誰かが荷台のほうに移らなくてはならなくなったのだ。つまり、自分で料金を払っているゆんゆんは良いとして、俺たちで荷台に座る者を決める必要があるということだ。
すると、アクアが公平にジャンケンをすべきだと言った。こいつは自分の運の悪さを忘れているんじゃなかろうか?
そして、五人でジャンケンをしたのだが、アクアが一人の敗者が出るまで続けるルールにすべきだと言い始めた。めんどくせえこと言いやがって。
「じゃあ、おれと3回勝負をするか? 一度でもお前が勝ったら荷台に移ってやるよ」
「マジですか。ねえ、確率って知ってる? 三回連続で勝つとかありえないんですけど!」
「俺、ジャンケンで負けたことねえから」
その後、3回勝った後もアクアが負けを認めずに魔法で運を上げて再戦をしたが、それも下したのだった。
「チートよ、そんなのズルじゃない! そんな特殊能力持ってるなら、私という素晴らしい恩恵は無効よ! 無効! 帰してよ、私を天界に帰してよ!」
こ、こいつ……!
「この駄女神が! おれのチート能力はジャンケンに勝てるってか! こんなので、どうやって異世界を生きて行けってんだ!」
「しかも、一番腹立つのは、お前が自分のことを恩恵だと思ってるところだよ! お前なんか、返品できるならとっくにしてるってんだ!!!」
「う、うぇぇぇぇん! カズマが言っちゃいけないこと言ったぁぁぁ!!!!」
そんなこんなで、アルカンレティア行きの馬車は出発した。
しかし、しばらくすると、おとなしかったはずのライムが俺の頭に移動して窓の外を気にするようになった。
「なんだ、ライム。窓の外に何かいるのか?」
窓の外を見ると、確かに何かが見える気がする。試しに、千里眼を使ってみると土煙がこちらに向かってきているようだった。
馬車のおっちゃんに聞いてみると、このへんで土煙を上げると言えば、スナクジラかハシリタカトビらしい。ちなみにハシリタカトビとは、危険なモンスターで硬いものに高速で向かったかと思えば、ギリギリで避けるチキンレースで求愛行動を取るらしい。
ただ、おっちゃんが言うにはそこらへんの硬い岩に向かっていくだろうから問題ないとのこと。しかし、ライムはいまだに落ち着く気配がない。なんなら、土煙もこっちに向かってきているような……
「あの、やっぱり、こっちに向かってきてる気がするんですけど」
「ありゃ、ハシリタカトビですね。でも、こっちに来るなんておかしい話ですよ、馬車の中にアダマンタイト並みに硬いものでも積んでるんですかいって話ですよ」
俺は思わず、ギクッとなってしまった。なんだか、すごい心当たりがあるぞ……めちゃくちゃ硬いやつの心当たりが! そう思っていると、後ろから、疑いのあるやつが話しかけてくる。
「カズマ! ものすごい速さの生き物たちがこちらに来ているぞ! なんなら凝視している気がするぞ! なんという熱視線だ!」
やっぱり、お前かああああ!!!!
「おい、ダクネス! あいつらの狙いはお前だ! お前の硬い筋肉めがけて走ってきてるんだ!」
すると、ダクネスが顔が無表情になった。
「おい、カズマ。これでも私も乙女の端くれ、硬い筋肉などと言ってくれるな。多分、あれだ。この鎧はアダマンタイトを少量含んでいるから、それが影響しているのだ。そうに違いない、私の筋肉はそこまで硬くにゃい!!!」
こいつの羞恥スイッチはどうなっているのだろうか。それはともかく、まずはあいつらを何とかするのが先だ!
「めぐみん、アクア行くぞ! 今回は俺たちが招いたやつだ、自分のケツは自分で拭くぞ!」
「カズマさん、私たちも戦います!」
ウィズには馬車でおっちゃんを守ってもらい、関係がないので、心苦しいが、ゆんゆん達にも手伝ってもらうことにした。
おっちゃんが、金をもらってるんだから戦わなくていいと言ってくる。すみません、原因うちの仲間なんです……
その後は、護衛の冒険者たちとの合同で戦うことになったのだが……
「おい、クルセイダーの姉ちゃん! あんたは戦わなくても……モンスターが彼女に! まさか、デコイを使ってるのか!? おれたちのために!」
「なんて、勇敢なの……!?」
ダクネスが真っ先に突っ込んだり……
「俺のバインドを受けた!? まさか、俺がターゲットにならないように!? すまねえ、援護のつもりが足を引っ張っちまうなんて、すまねえ!!!!!」
ダクネスが後方からのバインドに自分から引っ掛かりに行っていた……すみません!!うちの変態クルセイダーが本っ当にすみません!!!!!
俺が申し訳ない気持ちでいっぱいになってる間にも、ハシリタカトビはダクネスのほうに向かっている。そして、ぶつかると思ったとき……
ダクネスの前には一匹の小さなスライムがいた
「ライム! ぶつかるぞ!」
俺がそう叫んだとき、ハシリタカトビが一斉に止まった。そして、ライムの前で怯えた顔をする。何が起こっているんだ……?
「いま! ライトニング・ストライク!」
奴らの隙を見逃さなかった、ゆんゆんが雷を落として一掃した。
「さすが、上級魔法使い!」
「おい、カズマ! 今のモンスターたちの顔を見たか!? この世にはない恐ろしいものを見た顔だ! なあ、ライム! いったい何を食らわしたんだ! 後学のために私にもアレをやってくれないか!?」
「ゆんゆんもいるんだぞ! お前黙ってろ!!!」
こんなやり取りをしていると、仕留め損ねたハシリタカトビの大群がUターンして戻ってくる。まだ来る気か! こうなったら
「おっちゃん、この先に崖とかないか!?」
「そんなもん、ありませんよ! あるとしたら、雨除けの洞窟しか……」
「それでいい! 案内してくれ!」
そうして、ダクネスを馬車に運ぼうとするが、めちゃくちゃ重い……!俺が苦戦していると、ダクネスがロープで馬車とつなげて引きずってほしいと言ってきた。
マジか、こいつ……
しかし、時間がないのでダクネスの言うとおりにする。仲間たちからの視線がいたい……その後も、追いつかれそうになったが、ウィズが泥沼魔法で足止めしてくれたりして、ようやく洞窟が見えてきた。俺はアクアに筋力支援の魔法をかけてもらい、屋根にのぼる。
そして、狙撃っ! でハシリタカトビの数を減らしていく。すると……
“キィィィィィ!!!!”
ハシリタカトビが鳴いた。トビの部分はどこに行ったのかと思ったが、おかげですっきりした。
おっちゃんに洞窟のわきに馬車を停めてもらい、ダクネスを洞窟の入り口までぶん投げる!すると、ハシリタカトビたちが、ダクネスを超えて洞窟の中に入っていく。そして、めぐみんに爆裂魔法を撃たせて、今度こそ一掃した。
夜、野宿をしているとゾンビがやってきた。どうやら、このへんには滅多に現れないらしく、皆が驚いているので、まさかと思ったら……
「セイクリッド・ターン・アンデッド! さあ、成仏しなさい! 寝込みを襲ったゾンビたち!!!」
案の定、マッチポンプをする水の女神がいた。
本当に、本当にごめんなさーーーーーい!!!!!!!