この素晴らしい世界にスライムを! 作:履舌裏駄像
「この街の危険が危ないの!」
朝からアクアが何かを言ってくる。
「なんだよ、危険が危ないって。言葉くらいちゃんと使えよ。昨夜はずっと泣いていたくせに」
昨日、この駄女神がアルカンレティアの本部の秘湯に入ったところ、こいつの体質なのか温泉を誤って浄化してしまったのだ。それで、温泉の管理人に自分が女神であること、体質で浄化してしまったことを明かしたらしいが、鼻で笑われたとのこと。もちろん俺も鼻で笑った。
「それで、何があったんだよ」
仕方がないので、聞いてやることにする。まあ、大したことはないのだろうが。
「昨日、管理人のおじさんが言ってたんだけど、最近、温泉の質が下がってきてるらしいの。これはきっと、魔王軍がアクシズ教を警戒して財源をつぶそうとしてるんだわ!」
「いくら、アクシズ教団が疎いと言っても、そんな遠回しなことをしますかね?」
「するに決まってるわ! きっと真正面からやりあえないと踏んで、こんな陰湿なことをしてるのよ!」
街を守りたいから、協力してくれとアクアが言うが、俺含めてみんながまともに取り合おうとしない。いくら何でも、そこから魔王軍を繋げるのは無理がある気がするしな……そう思っていたのだが、ゆんゆんが口元に手を当てて何かを考えている。
「ゆんゆん、どうかしたか?」
「え? いえ何でもないですよ。ちょっと考え事をしていただけなので」
「そうか」
アクア関連というわけでもなさそうだ。ちなみに本人はダクネスのグレープジュースを浄化しながら懇願していた。
「ウィズならお前に甘いから付き合ってくれるんじゃないか?」
「あの子なら一晩中泣きついてたら、朝には消えかけてたから寝かせてるわ」
「まずはウィズを救えよ!!!」
その後、俺は朝言ったようにめぐみんと散歩に出かけた。アクアはダクネスを連れて、宿を飛び出し、ゆんゆんは、調べ物があるから、と俺たちと別行動をすることになった。
今はベンチに座ってめぐみんと景色の良さや、饅頭の美味さを堪能しているところだ。こうしていると、いい街なんだがなぁ……
「この鍋ね! 焦げないの!! いま入信すれば必ずもらえるの!!!」
「お散歩ですか!? お兄さんにはこの石鹸を!! これ食べられるんですよ!!!!」
「妹さんには、このフワフワのタオルを!!!!」
「なぜ、私の目を見ないのですか!!!!! あなたのため! あなたのためなのですよ!!!!!!」
このとおり、人だけが致命的にダメだった。
「石鹸って飲めるんですかね」
なんとか追っ手を撒いて、川が流れるところで一息つくと、めぐみんが呟いた。まあ、ライムも食ってたしな……
「俺には、払えるものがねえんだよ……」
なにやら、声が聞こえてきたので見てみると、そこには昨日、風呂であった男が立っていた。それも両手に石鹸と入信書がたんまりと入った籠を持って……
「石鹸洗剤、石鹸洗剤、石鹸洗剤、石鹸洗剤、石鹸洗剤、石鹸洗剤、石鹸洗剤、石鹸洗剤、石鹸洗剤、石鹸洗剤、石鹸洗剤、石鹸洗剤…………飲めるかぁぁぁ!!!!」
おかしくなっていた。随分と苦労を掛けられたんだなと思っていると、向こうからウィズが手を振りながら走ってきた。どうやら、もう大丈夫みたいだ。
「川の向こうで、昔の冒険仲間がこっちに来るなと慌てていたのが見えました!」
ぜんぜん、大丈夫じゃねえ……すると、アクアの声が聞こえてきた。嫌な予感がする。
簡単に言うと、魔王軍の破壊工作によって温泉に毒が混ぜられているから、しばらくは温泉に入らないでくれということだった。
あいつは、ダクネスを連れて浄化という名の温泉巡りをしていたらしく、そのおかげで今は皆の健康には何の影響も示していないという。
しかし……
「新手の詐欺ね! 私たちは、そう易々と騙されないわよ!」
「温泉をお湯に変えるとか、どんな嫌がらせだ!」
アクアが悪者になってしまった。すごい超展開だ……そこで、泣きそうになったアクアが最後の手段に出る。
「我が名は水の女神アクア、あなたたちアクシズ教徒を救うため、こうして降り立った水の女神なのです」
自分の正体を明かしたのだ。これには、皆も思わず黙り込む。
「何言ってんだ、この野郎!!」
「ちょっと、髪が青いからって調子に乗ってんじゃないわよ!!!」
「簀巻きにして、湖に放り込め!! 本当にアクア様なら大丈夫だろうよ!!」
「ウソツキィィィィ!!!!!」
まあ、信じられるわけがないので、石を投げられた上に魔王軍扱いをされてしまった。
夜、皆でアクアを慰めていた。ゆんゆんたちは、まだ調べ物から帰ってきてないらしい。まったく、あんな奴ら、放っておけばいいものを……
どうやら、アクアがあそこまで、アクシズ教徒を助けようとするのは、神の力というのは信仰心と信仰者の数によって決まるらしいのだ。まあ、こいつの場合、本気で自分を信仰してくれる人たちを大事に思っているのだろう。
すると、しばらくして、外が騒がしくなった。なんだろうと、窓から見てみると街の住民が松明や槍を持って歩いてくるではないか。
「悪魔倒すべし! 魔王しばくべし! 悪魔倒すべし! 魔王しばくべし!」
なんだか、嫌な予感がしてきた……アクアも窓をのぞいたときだった。
「いたぞ! アクア様を名乗る魔女だ!」
「魔女狩りだぁぁぁ!!!!!」
マジかよ……俺たちは裏から逃げ出した。ゆんゆんが帰ってきてなくてよかった。こんな関係ないことに巻き込んだら、申し訳が立たないなんてものじゃないからな。そうして、逃げ込んだ路地裏で話し合い、源泉に向かうことにした。
そして、源泉に向かうとそこには先客がいた。なにやら、門番と揉めている様子だ。俺たちも近づくと、その正体が分かった。
「ゆんゆん!」
「ぐずっ……ぐすっ、めぐみん、どうしよう……」
そこには、泣きべそをかいたゆんゆんがいた。ちなみにライムは彼女の頭の上にいる。
時を今朝までさかのぼる。
私は、アクアさんの言うことを聞きながら考えていた。温泉の質が下がっていること、そして、バニルさんからの助言……前回、この街に行ったとき、紅魔の里の占い師である、そけっとさんからの頼みで占いの手紙を持って行った。
そのおかげで、教会本部の責任者のゼスタさんが逮捕されてしまったんだけど。占いの内容は……
『アルカンレティアに危機が訪れる、温泉に異変が見られたときは湯の管理者に注意を払え。その者こそ魔王の手の者』
というものだ。前回こそは温泉がところてんスライムになってしまったものの、管理者が関与したものではなかったし、魔王軍の工作にしては危険性が少なすぎる。めぐみんの機転で街に来たばかりのアーネスが犯人に仕立て上げられたけど……あのときは、ちょっとかわいそうだと思った。
話を戻すと、要は、この予言はあのときことを言ってるのではなく、今回のことを言っているのではないだろうかと考えた。
「あの、温泉の管理人さんはいますか? 話を聞きたいのですが」
そこで私は、朝食が終わったあとカズマさんたちと別れて、温泉の管理人さんのところへ訪ねることにした。もしかしたら、この人が魔王軍の手先かもしれないと思ったけど、言動におかしいところはなかったし、ライムも反応しなかったので本物の管理人さんだと判断した。
「やっぱり、毒が混じってる……」
管理人さんに許可を得て、質が下がっているという温泉をライムと調査したところ、アクアさんが言っていた通り、毒が入っていたみたいだ。それを管理人さんに伝えて、どこから汚染されているのかを調べることにした。
そして、調べた結果、源泉が汚れていることが分かった。それで管理人さんが危ないと思い、追いかけたのだけれど……
「門の人が通してくれなくて泣きべそをかいていると。なんとも、情けない子ですねぇ」
「うぇぇぇん! めぐみん、どうしよう! このままじゃ管理人さんがぁぁぁ!!!」
めぐみんに泣きつく。すると、アクアさんが説得しよとするが上手くいかなかった。そこで、カズマさんがダクネスさんに貴族の証を出すように言う。しかし……
「貴族の証をこんなことに乱用できるわけがないだろう!」
と言って、出し渋るので、みんなで取り押さえた。ダクネスさん、ごめんなさい!
そして、源泉がある部分についたが、至る所が暗い紫色に変色していた。まさか、ここまで、汚染されてるなんて……管理人さん、どうか無事でいて!
そのまま奥に進むと人影が見えた。そこにいたのは管理人さんではなく、普通の男の人だった。どうして、こんなところにいるんだろう。
「あの人も、大分、精神をやられてたからな。身投げするつもりだったのかもしれない」
「えぇ!?」
ありえないとは言えないのがつらいところだ。そして、その男の人の体が傾いたとき、カズマさんが飛び出した。
「はやまっちゃ、ダメだぁ!!!」
しかし、そのカズマさんの隣を何か細いものが通り過ぎ、男の人の眉間に穴をあけた。
「うぐぉ」
相手は変な声を上げてその場に倒れた。身体をピクピクさせてる死体から下手人をたどっていくと、そこには小さなスライムがいた。