アビドス自治区、砂漠地帯。自治区と呼ぶには管理が行き届いていないが、ここはまだ自治区の中だ。人のいない砂漠を、アビドス廃校対策委員会の1人。小鳥遊ホシノは歩いていた。
朝起きて、服を着替えて学校に行く前だったり、終わった後だったり。バラバラだけど、1日に一度は必ず足を運ぶ。
何故か。きっと、私は怖いのだ。あれから2年、あの頃の記憶が掠れていく事が。時間とは残酷だ。涙は枯れ果て、あれほど後悔したのに、あの人の声や、顔は記憶の片隅へと追い出されていく。それだけはダメだ。
この後悔も、涙も、全て罪。忘れてはならない私の罪。例え世界中が忘れても、自分だけは忘れてはならない。
そうして向かうのは、あの人が夢見た祭りがあったとされる場所だ。優しいあの人が、せめて安らかに眠れるように、と自分にしかわからない墓標を建てた場所。
今日もそんな1日の始まりだと思っていた。だけど、違った。乾いた風が吹く砂漠は、一面をガラスに変えていたのだ。
「な──」
そんな異常事態より先に、私は
「ユメ先輩──ッ!」
建てた墓標は砕け、地面は大きく割れていた。それはつまり。
「──なんで」
「ユメ先輩が何をした……?あの人は」
底抜けに優しくて、困ってたらつい手を差し伸べてしまう善人だった。そんな優しい人なのに、静かに眠ることすら許されないのか?
ふざけるな、それを受けるべきは自分であってこの人じゃない。
結んだ口の端から血が垂れる。こんな事をするのは、出来るのはカイザーしか居ない。
「ユメ先輩の眠りを妨げたツケは必ず払ってもらう」
自分でも驚くほどに低い声だった。
一方その頃、ワルキューレ警察学校、公安部局長の尾刃カンナは書類を片手に眉を顰めていた。
「……」
その視線の先に書かれていたのはここ数週間に渡る犯罪率と、検挙率、そして武器などの押収品のリストである。
「カイザーコーポレーション……」
ギシ……と背もたれに背中を預け部屋の天井を見上げる。しかし、天井のシミを数えたところで現実逃避にも使えないだろう。
カイザーコーポレーション、このキヴォトスにおいて有数の企業。その事業は多岐に渡り、このワルキューレ警察学校もスポンサーとして様々な支援を受けていた。しかし、企業とはそんな優しいものではない。利益の為なら平気で汚い事もする裏の面が存在している。
それの一端を知るカンナは、これが単なる犯罪じゃないと理解したのだ。もっと根深いもの。たった1人の正義感でどうにかなるものではない。
これが、警察学校に入学した頃の私なら──正義感を燃やして義憤に駆られていただろう。そう在れたならどれだけ良かっただろう。今の私には立場がある。公安部局長として、部下を背負う立場。自らが望んで背負ったはずの責務が、今自分の肩に重くのしかかっている。
「はぁ……」
ため息が漏れる。持っていた書類を雑に机に落として目を瞑った。
心の何処かで、こんな状況なんてぶっ壊してくれないか、なんてあり得ない願望が頭に浮かんでは消えていく。また、ため息が漏れた。
ゲヘナ学園、ビル群の間。大きな交差点から見えるように取り付けられた大きなディスプレイにはデカデカと『エデン条約ついに締結か!?』とテロップが流れ、万魔殿の羽沼マコトがクロノス報道部のインタビュー映像が流れていた。
──キキキ、これが締結すれば万魔殿の評価は鰻登り!今まで夢物語だと言われてきた偉業を成し遂げる瞬間を見届けるが良い!
そんな風に景気良く話すマコトの映像を、交差点に佇む少女は見ていた。気怠そうに着こなす黒いパーカーが特徴的な彼女は、それを見て何処かへと携帯で連絡を取り始める。
小さなディスプレイに書かれた相手の名前は『陸八魔アル』。
「うん、そう」
電話越しで聞こえてくる声は自信満々で、いつも通りの顔が思い浮かぶようだった。
「依頼はないんでしょ?ちょっと気になる事があって」
最近よく聞く名前と、今このタイミングで話題になる『エデン条約』──彼女は感じていたのだ。この先、どんな形にせよ
リアル
兵器とか横流しについてはノータッチ。カイザーはPMCなど使って治安維持の活動もしてるので恐らくマッチポンプをしてる。流している武器や兵器は片手間に作られた手抜き品なので興味ない。そういうところだぞ。
少女達。
1人、1人と資格を持つ者達は動き出す。その足音が化け物に迫るその時がくるだろう。