連続する銃撃音、ジリジリと後ろに下がりながら連続的に撃つも逸れていく弾丸は後方の壁へ着弾していく。
「やはり正面は無理か……!」
返す刃で放たれる不可視の衝撃。必死に避けるが、やはり全てを避けるのは難しい。咄嗟に銃を盾にするも、勢いよく後ろ壁を破壊しながら吹き飛ばされた。
「ぐぅ……!」
ゴロゴロと転がり、地べたを這う。壁の向こうから声が聞こえてくる。絶望を醸す言葉が。
「虚しくないのかな?わかってるでしょ、私には勝てないよ」
血が床に垂れる。派手に額を切り裂いたようで、片目の視界が血で潰れる。しかし、それでも握られた拳にはまだ力があった。
「それでも──」
振り返りながら懐に忍ばせたスイッチを起動する。即座に爆発し、化け物の頭上から瓦礫の山が降り注ぐ。
「──それでも、私は抗う。弱い、何もできない……そんな事は私が一番理解している!」
瓦礫によって宙を舞う煙の先を睨む。私は強者にはなれない。サオリみたいにはなれないし、1人で戦況を変えられる強さなどない。それでも、それでも。
「それは何もしない事の理由にはならない!」
私が銃を握る理由はそれだけでいい。この身体に染みついた薄汚れたものは、私が守りたい綺麗なものの為に使う。もう、そこに戻れないのだとしても、私は抗う。
今も目を瞑れば思い浮かぶあの蒼く輝く青春の日々は、私にとって何よりも守りたい綺麗なものだ。そこに居るであろう友人も。
「──でも、結果は変わらないよ」
ピシャリと冷たい、熱を遮断する言葉が煙の向こうから聞こえる。
──ヒュン
耳に残ったのは、そんな軽い音。聞こえた時にはもう、私は自らの血で満たされた床に倒れていた。
「な─に、が……?」
何故自分は倒れている?何故体に力が入らない?
「流石にこれ以上時間は掛けられないからね」
不可視の攻撃は何も『ヨグソトースの拳』だけではない。普段からこれを使っている理由は、ほぼ無いと言っていい詠唱の少なさからくる速射性からだ。しかし、不可視の攻撃は他にもあった。『幽体の剃刀』不可視の斬撃を放つ魔術。
アズサが取った対策は完璧だった。そこに敗因があるとするなら、化け物が使う魔術が二つだけだと思っていた事だろう。
「──まだ、だ」
だが、アズサはそれでも諦めない。まだ作戦は生きている。罠はこれからが本番。
立ち去ろうとした化け物は、そこで気がついた。いや、分からされた。自分の足がピアノ線のような薄いワイヤーに掛かる。それは起動スイッチ。
「──ん?」
気がついた時にはもう遅い。力無い体のままアズサは笑った。
サーモバリック爆薬、それ一つでは大した効果がないのは先ほど見た。であれば。
化け物は見た。頭上から降り注ぐ爆薬の雨を。
『被害を逸らす』には対象の視認が必要である。だが、今回はそれを適応するには数が多すぎた。数十を超える数を全て視認して個別に対応する事は化け物をして難しい。
そして、肉体を得た今ではこの数をまともに受けて無事で居られる保証などなかった。涼しい顔から初めて余裕が取れる。
「う、うおおおおおおおお!」
化け物は吠えた。凌ぐ、凌いでみせる。こんなところで躓く訳にはいかない。そうして爆発は起こった。あまりの数があった為か、爆発音はトリニティ全体に伝わる規模であった。
「げほっ、酷い目にあった」
建物は完全に崩れ、瓦礫の山となった廃墟から1人の影があった。体の至る所から血を流し、左腕の途中から先が吹き飛び欠損しているが、しっかりと地面に足をつけ立っている。
「予想より手こずったなぁ……」
化け物は先程の事を思い出す。あのサーモバリック爆薬の数は凌ぎ切った。だが予想外だったのは、その中の一つに『ヘイロー破壊爆弾』が混じっていた事だった。
効かないとわかっていた爆薬をあれだけ使ったのも、罠をいくつも張っていたのも、全てはこの為だったのだ。
身で受けてヘイロー破壊爆弾の仕組みは理解できた。とても悪辣な対神秘兵器だ。
「爆弾……というより、自爆誘発だね」
手に持てる程度の大きさでどうしてあれほどの威力があるのかと疑問だったが、その正体は神秘にある。キヴォトス人に宿る神秘は、薄く身に纏われている。それは無意識だろうが呼吸をするかのように当然皆している事だ。それによって肉体の強度を上げているが、この爆弾はそれを利用したのだ。
爆弾の威力の源は使われる対象の神秘だ。爆発する瞬間、相手から神秘を吸収してその威力を跳ね上げ、なおかつ相手の防護する神秘を奪う事で生身に直撃させる。
「おかげで、逸らす事もできなかった」
『被害を逸らす』も、その源である神秘もとい魔力を奪われては使えない。その結果まともに直撃する事になった。
「……だけど、それを成功させたのは」
間違いなく、白州アズサだ。今のダメージは全てアズサによるものだろう。
「舐めてたのは謝るよ」
あの出血に瓦礫の下敷きでは長くもたないだろう。化け物はふらつく足で目的通り動き出す。
今頃アリウススクワッドはヒフミ含め覆面水着団と戦い撤退する筈だ。先生が目覚める前に本来なら接触したかったが、この展開ではそれも難しい。
「予定変更かな、本当はホシノちゃんを狙ってたんだけどなー」
目的地を変える。一度ゲヘナに戻ろう。第二候補がまだ居た筈だ。
化け物、もといリアル
マジで舐めてた。対策されても地力が違う、だから余裕だと思ってたが、切り札で痛手を受けて予定変更する事に。
白州アズサ
瀕死。このまま助けがなければ死ぬ。
小鳥遊ホシノ
予定変更によりターゲットから外れた。本来なら──
第二候補
その予定はなかったが、もしもの為に残しておいたサブプラン。その為にゲヘナを荒らしに荒らした。カイザーの介入はあくまでそのカモフラージュだった。
『幽体の剃刀』
不可視という点はヨグソトースの拳と同じだけど性質は少し違う。視認した対象に剃刀のような切傷をつけるもの。弱点も明確で視認できなければそもそも発動できないので相手が隠れたり、視界を遮られると不発に終わる。
簡単に発動できて、コスパもいい『逸らす』と『ヨグ拳』がイカれてるだけで本来魔術はデメリットも多いのである。