短めでかつ中身なしです。
どうかあまり期待せずに暇つぶしにご利用ください。
『───さ───て、今日は君の旅立ちの日になるわけだけど』
やけにもったいぶるなと思ったが、嘘を付く理由のないその少年は素直に頷く。
頭の中では今日食べたかぼちゃスープの味を思い出し、詳細に味覚を呼び起こすことで半ばトリップしていたが頷いた。
少年は無口で無表情で無知だった。
だからよくわからなくてもとりあえず頷いておけばいいと思っている節があった。
少年は本当の意味で眼の前の男の問いを理解していた訳では無いのだが、頷かれた方は当然のように少年が理解していると思ったらしい。
少年が頷いたのを見て、少年を呼び出した眼の前の神父は何故か天を仰ぎ見た。
この男は左遷とやらで最近やってきた神父で、この男が来てからなぜか不正と虐待に熱を上げていた教会の大人たちが
『最期に君は何がほしい』
再び顔が見えるようになった時、なぜか罪悪感で押しつぶされそうな顔をしている神父に問われた少年は困惑した。
なにせ少年はまだ幼い。
三大欲求のうち2つしかまだ存在しておらず、そもそも忙しくて自分の趣味を作るような暇もなかった。
欲求などほとんどない。
幼子の忙しさなんてたかが知れてると思うかもしれないが、少年は少し普通とは事情が異なる。
この教会に預けられるのは、親はすでになく、他に行く宛もなかった孤児たちだ。
まぁこれだけならまだありふれているかもしれないが、少年が物心ついたときにすでに所属していたのは《二本指》と呼ばれる存在を信仰する教会で、更に言うなら眼の前の神父が来るまでは子供であろうが容赦なく地獄へと叩き落とす集団だったということだ。
少年はその日の食事にありつくために、他の孤児たちと一緒になって戦士としての厳しい鍛錬に耐えてきた。
その厳しさは、少年以外の孤児たちすべてが命を落とすほどのものだった。
だから少年は一人だった。
粗末なベッドが所狭しと敷き詰められている大部屋から一人、また一人といなくなり、独りになってから半年。
神父が来てからは貧相ながらまともな食事と寝床を手に入れ、たまに出るかぼちゃ料理以外楽しみがない少年は、悩みに悩んで一つの結論を出した。
“かぼちゃぱい”
『い、いや最後の晩餐とかそういんじゃなくてね…うんなんか大人がごめんね?でもおじさん料理の分野だと切って焼く以外できない無能だからちょっとかぼちゃパイは作れないかなって』
“せかいせいふく”
『ごめんおじさん普通のおじさんなんだわ。いや昔は密使の長としてぶいぶい言わせてたけど膝に矢を受けちゃって…世界征服は無理かな。うん。いや昔ならできたけどね?特技は悪い大人と異教徒をぶっ殺すことだよ!』
“つかえない…”
『うわぁぐさっと来た!めっちゃぐさっと来た!ごめんよ!情けないおじさんでごめんよ!あ、ほら、これ!おじさんのお古だけどこのバリバリに改造してバリスタ並の威力が出るようになったクロスボウあげるから!本物だぜ?そこらに流通してるパチモンじゃない本物は貴重だぜ?さらには《黒鍵の杭》の製法書までつけちゃう!』
“なら、ともだちちょうだい”
『ふっ…今日から僕が友だちさぁ!?痛い痛い!スネ蹴らないで!わかった!なんか友だちが入った袋あげるから!キメ顔で臭いこといったおじさんが悪かったよ!』
その日は満月。
過酷な旅立ちの日にしては皮肉なくらい大きくて真ん丸な、金色の月とむせび泣く神父に見守られながら少年は狭間の地へと送り出された。
───少年の役目はエルデの王になることではない。
少年の役目は案内人。
探索し、罠にかかり、製法書や情報を時に買うことで集め、記録をつける。
あるいはそれはあとから来る褪せ人の楽しみを奪うことになるのかもしれないが、少年が課されたのはそんな役目だった。
名無し、幽霊、影法師、暗闇、黒子。
人としての名前を持たず、祝福されず、彷徨うことしか能のない少年は後に来る褪せ人の糧になるために狭間の地へと降り立った。
大祝福とやらに送り込まれ、二本指との謁見を済ませた少年は、とりあえず友人として渡された《餓鬼インプの遺灰》とやらの入った袋を振ってみた。
〝………?〟
反応がない。
困惑した少年はその後振り回したり、土下座してみたり、魔力を流してみたり、歌を聞かせてみたり色々してみたが何も起こらない。
〝???????〟
奮闘すること半時。
諦めて不貞寝しようとする少年に声を掛ける人影があった。
『何をしているのかね?君は確か、二本指に外から呼ばれた案内人だろう。ならさっさと外へ出てネズミらしく駆けずり回ってこればいいだろうに…』
『なに?今日はつかれたから寝る?偽物の友人を掴まされた?…これだから子供は…』
『……はぁ。見せてみたまえ。その友人とやらを。…いいか?これは遺灰だ。然るべき場所で、《霊喚びの鈴》というアイテムを用いて初めて使えるものだ。鈴ならそこでみすぼらしい老婆が売っている』
『とりあえず明日から頑張る?…そうか。ならそうしたまえ。どうせ君の先もそう長くない。一晩休もうが今から動こうが、変わらぬのもまた道理だろう。それは識っている?くく、そうだろうともさ』
『ではな』
この半年後、少年はデミゴッドを倒すことはなかったが、それぞれのデミゴッドの居場所を概ね突き止めた。
そのうちのいくつかは初対面でネズミ呼ばわりしてきた《ギデオン》が討伐し、二つの大ルーンが円卓へと集められることになる。
そして《リムグレイブ》に始まり、《レアルカリア》と《ケイリッド》の祝福の位置や勢力図、ダンジョンが記された地図を作り終わり、この三地方に存在する全ての製法書と各地の商人から買った情報をまとめ、《アルター高原》へ行くための割符の位置を突き止めて。
───少年は蛍光色で全裸でハゲの褪せ人に出会う。
『オッハー!うわぁァァァ緑が眩しいいいいいい!目がぁぁぁぁぁ!』
お前のほうが眩しいよ。
少年は眼の前で悶える褪せ人に向かって若干引きながらそう呟いた。
◆
《回復》
二本指を信じる者たちの祈祷
周囲の味方を含め、HPを回復する
長押ししている間は祈り続け、効果は発動しない
二本指は、褪せ人に望んでいる
たとえ傷つくとも、倒れることなく
使命のため戦い続けることを
◆
少年は別世界へ呼び出される感覚と共に目が覚めた。
またあの腐れ姫か、それともデブとのっぽの二人組か。
はたまた久しぶりにラダーン祭りかと期待して目を開けて周りを見渡せば、そこは勝手知ったる狭間の地…というわけではない。
そこは暗く、時折緑や黄色といった小さな光が点滅する円柱状の見たこともない部屋だ。
全体的にのっぺりとしていて、ところどころ角ばっている。
蛇のような黒いロープが幾重にも重なっていたり、何かを冷やすためなのか部屋が全体的に少し肌寒い。
明らかな異変を前に、少年は目を見開く。
“しらないばしょ”
そして異変は周囲の景色だけではない。
身体がある。
霊体特有の黄金色に薄く輝くものではなく、狩人のように青い透けた体でもなく、間違いなく普段通りの自分の身体があるのだ。
明らかに自分の領分を超えた異常事態を前に、咄嗟に元の世界に戻ろうにも、《指切り》が反応する気配はない。
つまりは少年はこの世界に閉じ込められたということになる。
どうやら自分の
頭を抱える少年がとりあえずと試してみれば、収納として利用している自分の
“………”
少年は慣れた手つきでランタンをつけてから沈黙して、考える。
まず帰れないことのデメリットはなんだろうか。
見知らぬ土地で、おそらく素寒貧からスタートになることだろう。
逆にメリットは、あの頭ハッピーセットの蛍光色全裸ハゲの褪せ人にうざ絡みされることがないことと、やたらと加虐的な笑みを浮かべて自分に絡んでくる暗月の姫からの解放、クソみたいに即死トラップにまみれた土地から離れられること、思う存分未知の世界を探検できること。
あの褪せ人はむせび泣くかもしれないが、少年が泣くわけではないので別に問題ない。
“かえらなくて、いいか?”
今日が自分の独立記念日だ、やったぜパーリナイ!
とガッツポーズをする少年は、ことここに至ってようやく自分を呼び出したホストらしき人物に目をやった。
ランタンの頼りなく、それでも温かみのある光に照らされたホストは、烏の濡羽色の長い髪に、透き通るような白い肌の少女。
眠っているのか、目を閉じたまま固そうで傾いている椅子に体を預けている。
体躯は小さく、その体躯に相応しい幼い容貌をしていて、彼女の足元にはおそらく少年を呼び出したであろう《白い秘文字の指環》が落ちている。
───だがそんな情報をすべて吹き飛ばす要素が存在していた。
全裸。
ZENRA。
圧倒的肌色は、少年にかつての褪せ人との出会いを思い起こさせる。
あっちと違ってむしろ常識的だ、なんていう馬鹿な思考すら少年の頭には浮かんだがすぐにそんな訳あるかと消し去った。
“すっぽんぽん…すかんぴん…うっ、あたまが”
正直コンタクトは取りたくない、そんな想いを押し殺して触れてみるが反応がない。
まるで
肩を揺する。
歌う。
土下座する。
見る人が見れば、まるで成長していない…と揶揄されてもおかしくない程に、狭間の地に来たときとまったく同じ行動を取る少年はやがて諦めた。
“ほすとのといれたいむはきいたことないが?”
おそらく自分を呼び出したであろうホストが身動き一つ取らずに眠り続ける状況に少年はため息をつく。
トイレタイムは、異世界の戦士を呼び出す力を持った褪せ人が名付けた現象で、いわゆる身体はあるのに魂がない状態のことを指す造語だ。
『無駄に召喚枠を食うだけで、役に立たないただの案山子。指切り安定だよ!こんなの!』
と、自分から協力を頼んでおいて地団駄を踏む蛍光色を少年は我関せずと眺めていたが、なるほどこれがトイレタイムとやらへの苛立ちか。
…悲しいことにこうなってしまえば、向こうが戻ってくるのを待つしかないのを少年は経験則で知っていた。
“しゃーない。ひまつぶしにたんさくするか…”
その部屋にある唯一の扉に手をかけ…かけようとして固まる。
ドアノブがない。
だがそんなやけに黒くてのっぺりした扉を前に少年は慌てずに隙間に指をかけ、力任せに開く。
こういう扉は一般的ではないが、狭間の地ではよくあるタイプだ(矛盾)。
開ける際、バキ、ボコ、と鳴ってはいけない音ともに、『あ~私が厳重にかけたロックの意味!』と透き通るような水色の髪をした誰かが頭を抱える幻影が見えた気がしたが、未知への好奇心で頭がいっぱいの少年は気にしないし気付かない。
“しんにゅうしゃはいずこ”
探検ついでにホストが少年を呼び出すきっかけになったであろう侵入者も見つけ次第ホストのために殲滅しよう。
少年はそんな決意とともに暗闇へと踏み出した。
最後まで読んでくださってありがとうございました。
まだブルアカの登場人物が誰も喋ってねえ!という文句は、はいほんとにすいません。
起伏のない本作は、ゆっくり更新していきます。