◆ ◆
「私、結構有名人なんですよ」
可愛らしく両手でカップを持ちながら、
「天才少女……なんて才能のない大人たちが嫉妬混じりによってたかって子供を持ち上げて遊ぶのは、今の時代にはもうコンプライアンス的にNGなんじゃないかと思うんですが、けれどこちら側から売り出す分には、まだ通じる武器ではあったようでして」
ちゅう、とストローを吸って、一息。今時の女子らしく——なんて
「はぁん。それで? 俺はサインの一つでもねだりゃいいのか?」
スティックタイプのケーキを片手に、半目になって人識は言う。
甘いものは別腹、という概念は、何も婦女子の特権ではない。特に、この時代では。
「いえいえまさか。私、アイドルというわけではありませんので」
憧れはしますけどね、なんて茶目っ気。
「ただ、あなたのような顔面刺青のチンピラと同席しているシーンをうっかり写真になんて撮られてしまった日には、傷がつくんですよ」
「……そりゃ何に?」
人識の心にだろうか。
「もちろん、萩原子荻のブランドに」
萩原子荻のブランド、と。
そう言われても。
「声かけて来たのはあんたの方だろうが」
「それはそうですが、TPOというものがあるでしょう? 公共の場なんですから、せめてそのタトゥーは外してくださいよ」
「外せるか馬鹿。俺に皮剥げってか?」
「え、嘘でしょう……まさか、シールじゃなくて一生消えない本物なんですか? そのダサいタトゥーが?」
「殺してください、って言葉をあんたの地元じゃそう言うのか?」
青筋を立てながら、人識は言った。
その苗字が
「ブッ殺すと心の中で思ったならその時すでに行動は終わっているものですよ」
「あいにくと、俺の兄貴は生ハムみてーな名前じゃなかったもんでね」
「ええ、変態みたいな名前でした」
「あの馬鹿がどうしようもない変態であることに関しちゃ異論はねぇが、別に名前はそうでもねぇだろ」
「特に苗字が」
「遠回しに俺のことも変態みたいだって言いてぇのか?」
なんで俺はこんなムカつく女と茶をしばいているのだろうか。現状に虚しさが込み上げてくる。
「嬉しさの間違いでしょう? なにせこの天才少女と名高い萩原子荻ちゃんとお茶ができるのですから」
「俺は有名人に出会ったからってはしゃげるようなめでてー頭したミーハー女じゃねぇんだよ。つーか、お前がどう有名なのかも具体的にはしらねぇし。なんだよ、天才少女って。一乗寺賢か?」
「ま、似たようなものです。巨大芋虫を連れてはいませんが。……飛び級で京大に在籍している、というだけで騒ぎすぎだとは思うんですけどね、そのおかげで色々と便利なこともあるので、文句も言えません」
肩をすくめる彼女だが、しかし人識にはピンとこない。
「京大?」
「ああ、
しかしそれを聞いて、ようやくイメージが掴めた。なるほど。ぱっと見で高校生くらいにしか見えないが——その若さで国内トップと言っても過言ではない最高学府に入学しているとなれば、天才の呼び名も聞こえてくることだろう。
「なんだよ、超エリートじゃねぇか。最終学歴中学中退の人識くんとしちゃ、コンプレックスが刺激されて涙が出そうだぜ」
「少なくともナイフが出てこないなら安心ですね」
なんて、殺人鬼としてはむしろ、舐められているということなのだろうけど。
「それで? 天才少女としてそれなりに
「同郷のよしみ、ではいけませんか?」
「いけないね。どんな勘違いをしてるのか知らないが、むしろ同郷だからこそ、俺みたいな存在には『絶対に関わりたくない』はずだろう」
彼女はそこで小さく笑う。
「あなたこそ、何か勘違いしてるんじゃないですか? 貴方達が『絶対に関わりたくない』存在だったのは、貴方達が貴方『達』であったからでしょう? この世界では、貴方はただ一人。『絶対に関わりたくない』理由は、すでに消え失せてますよ」
それを言われると、黙り込むしかないのが人識だった。
何せその理由を、人識は誰よりも理解してしまっているのだから。
人識は。
零崎——人識は。
「……ま、そうかもな」
うらぶれて、呟く。
——零崎一賊。かつて、そう呼ばれた殺人鬼
裏社会——俗に暴力の世界とも呼ばれる、この世で最も無秩序にして、血と死と屍ばかりが天上天下に満ち満ちる狂気の世界。そこに君臨する暴力の頂点——殺し名七名の一つにして、その中でも最も恐れ、忌み嫌われた狂人の集い。
それこそが——零崎一賊だった。
だった。
過去形——だ。
零崎一賊の恐ろしさは、その戦闘能力ではない。確かに、殺人鬼——
けれど、言ってしまえば
確かに彼らは一流の人殺しだったけれど、それでも他と比べて突出した戦闘力を誇ったわけではない。たとえば同じ殺し名の中でも第一位に序列される『殺し屋』匂宮雑技団のように、軍勢とでも言うべき大戦力を誇るわけでもなく、むしろ、その構成人数の少なさから、数かける質の単純方程式で割り出される純粋な戦力で言えば、零崎一賊は殺し名七名の中でも下位だったろう。
けれど、それでも彼らは忌み嫌われた。
それはひとえに、彼らの能力ではなく、性質による。
彼らはただ、純粋に。
家族愛が、強かったのだ。
それこそ——死ぬほど。
「血ではなく流血でつながる一賊、とはよく言ったものですね。いえ、
一人で殺し。
一人で殺され。
一人で死んで。
それで、終わり。
「血ではなく流血で
一人の『貴方』は、何も恐ろしくありません。
と。
萩原子荻は、ことも無げにそう言った。
「……は、知ったような口利いてくれるじゃねぇか」
「知ったような、ではありません。知ってるんですよ」
「……傑作だよ」
と。
諦めたように笑って、人識はそれきり黙った。
「それで」
彼女はカップをテーブルに置いた。ことん、と軽い音が立つ。
「あなたはどうしてここにいるんです?」
「なんだよ。ミュウツー我はここにありか?」
それは俺の方が知りたいぐらいだぜ、というのが人識の本音だったわけだけれど、しかし逆説的に言えば、それを聞いてくるということは、少なくとも目の前の少女は、人識をここに連れてきた黒幕だというわけではないらしい。
「当たり前でしょう。ただの女子高生にどんな超能力を期待しているんですか?」
「何もあんた自身がやんなくたっていいだろうがよ。できるやつに任せれば、それで仕事は完了だ。あんたにあるのは超能力じゃなくて——超謀力なんだから」
萩原子荻——職業、策士。
かの悪名高き『大戦争』の以後、裏世界においてはほとんど最大の戦いとして語られる『小さな戦争』の主犯にして戦犯。
その手のひらの上で踊らされたプレイヤーは、果たして幾万人に上るだろうか。
「それほどではありませんよ。というより、プレイヤーと呼べる格の人間がそこまでの数いませんよ。私が都合良く動かせたのは、せいぜいが数百人、というところでしょう。それだって、あまりうまく行ったとは言えません」
「ああ、兄貴に吊るされてパンツ覗かれたりしてたもんな」
「忘れてください」
零崎双識。彼女が都合良く動かせなかった数少ないプレイヤーの中でも、特級中の特級である。正直、二度と思い出したくはない。
「しかしまあ——結構期待してたんだけどな」
当てが外れた、とばかりに人識は肩を落とす。
「私のパンチラはそう安くありませんよ」
「ちげーよ。兄貴と一緒にすんな」
そんなものを期待するか。
「そうじゃなくて、あんたが黒幕であってくれることを、さ」
こうも早く同郷の人間に出会えた——その相手があの策士であるとくれば、期待する心も咎められないだろう。
「分かりませんよ。そうであるのに、そうじゃない振りをしているだけかも」
「だとして、それをしたところで今のあんたにとっちゃなんの意味があるんだよ、天才少女さん」
普通の世界にきっちり居場所を作っている今の彼女に、わざわざそれを捨ててまで策士に返り咲くメリットがあるとは思えない。
「勘違いしているようですけど、策士としての活動も、私としては表の顔ですよ。澄百合学園にしたって別に、秘密結社ってわけじゃあないんですから」
あそこでの経験は、彼女にとっては間違いなく得難いキャリアだった。順当に階段を登れていれば、あるいは四神一鏡のパワーバランスを超越して財力の世界を支配することも出来ていただろう。
今となっては、叶わぬ夢だが。
「そういう意味では、あなたに対しても結構、複雑な気持ちはあるんですよね。零崎人識さん。あなた、あの無為式さんのダブルなわけでしょう。実質、あなたに殺されたようなものですよ、私」
「無茶苦茶な因縁つけてくんじゃねぇよ。俺はカスタマーセンターじゃないんだぜ。欠陥製品へのクレームは本人に直接言ってくれ」
「いやですよ。もう二度と会いたくない」
そりゃあ俺だって同じだよ、と返そうとして、現実の再認識。
その願いが叶ってしまうことがこそ、最大の問題なのだから。
「……つーかさ、まず聞きてぇんだけど」
足を組み直して、人識は言葉を選ぶ。
「あんたこそ、なんでここで生きてんだ?」
「なんだかとってもいい感じだから、とお答えすればよろしいですか?」
「ポケモンファンとしちゃそうかもな。だがあいにくと、俺はポケモンでもデジモンでもなくたまごっち派なんだよ」
そうじゃなくて、と人識は後ろ頭を掻き——結局は、言葉を選ぶことを諦めた。
「なんで
物語の世界でも、人識の認識でも。
萩原子荻という少女は——すでに、故人のはずである。
その死に様だって、崖落ちというわけではない。
トリックだよ、と言われたところで、納得などできるものか。
「それをしたところで十万ドルポンとくれる人もいませんしね。実は生きていたとか、致命傷は免れたとか、そんなチンケなトリックは何一つとして存在しませんよ」
「じゃあどうしてあんたは五体満足でピンピンしてんだ? まさか散らばった死体の細胞が密かに培養されてできた萩原子荻2だとか言い出すんじゃねぇだろうな?」
「どちらかというとその場合、私はバイオ萩原子荻と呼んで欲しいところですが——言ったでしょう? チンケなトリックは何一つとして存在しない——と」
つまりは。
「私は間違いなく死んでいる。しかし、今は生きてる」
それが答えとしか言いようがありません。と彼女は結んだ。
「そりゃあつまり、
「私の主観としては、そうですね」
「……十字架背負って丘登ったことがある?」
「残念ながら。水をワインにも変えられませんし石をパンにも変えられません」
というより——
「生き返った、というのも、正直、正しくはないんですよ」
主観的には、と言ったでしょう? と彼女は続ける。
「どちらかと言えば、三大宗教でも東アジアよりのそれでして」
つまりは——
「
◆ ◆
彼女が物心ついたのは——あるいは彼女が彼女として物心ついたのは、中学二年生の夏のことだった、という。
「最初は、自分の頭がおかしくなったんだろうな、と思っていました」
だって、
折しも、中学二年生だ。そりゃあ時期的にもまさしく、という話である。
ところが——
「
浮かび上がる、本来の自分ならば知らないはずの知識。それは萩原子荻の策士としての顔に起因する、血生臭い、あるいは血生臭さは全くない、人身掌握の手練手管のみならず、単純に。
中学二年生であれば習ってもいないはずの、
「——まあ、そんなわけで」
語り終えて、一息。
「私としては結構、それで納得できているところがあるんですよね」
一度死んで、別人として生まれ変わる——同姓同名として生まれてきたことにも、奇妙な縁を感じざるを得ない。
「年齢的にはギリギリ——私の方が先なんですよね。西尾維新の萩原子荻よりも」
今年で十八歳になる萩原子荻は、十八歳で死んだ萩原子荻よりも年上で。
だからこそ、物語の世界から転生してきたという不可解にも、ある程度、
「だから結構、あなたを見た時には心臓止まりかけたんですよ。あなた以外に、私と同じような転生者って見たことなかったですからね。いや、自称そういうのはいっぱいいたんですけど、誰も彼もが全員、背筋が痒くなるタイプの偽物でしたし……」
あなたもぶっちゃけ、その類であって欲しかったな、という感じなのですが、と言って、彼女はため息をついた。
「本物なんですよねぇ、これが」
「何を持って本物とするか、ってのには諸説あると思うがね」
なんて返しつつ。しかし人識は顎に手をやる。
「俺以外に同類は見たことない、なんて言ってくれちゃってたがよ。しかし俺様は蜘蛛の糸に救われたわけでもなけりゃ、三途の川を渡った覚えもねぇ」
生まれた時から、今もなお。
一度も変わらず、続いたままで。
それが萩原子荻と零崎人識を隔てる、最大の相違点であった。
「え、あなた、そんな雑魚キャラみたいな見た目しておいてまだ一度も死んだことないんですか?」
「お前そんなに俺のこと嫌いなのか?」
まだってなんだよ。まるで一度や二度は死んでいるのが当たり前みたいな言い方しやがって。大体見た目は関係ないだろこの俺をデザインしてくださったデザイナー様に申し訳ないとお思わないのか——と心の中でぶちぶちと恨み言を返しながら、人識はため息をつく。
「実際、わかりゃしねぇぜ。少なくとも俺の記憶じゃ、おっ死ぬような目には何度もあっちゃあいても、実際死んだ覚えは一度もねぇ。しかし覚えはなくても場合によっちゃ、気付いてないうちにお陀仏してたってこともあらぁな」
実際、危うかった記憶をいくつも思い出し、人識は一度言葉を切る。
「だけどそれでも、一つ言っとくなら、
零崎人識の人間関係——その最終巻の最終巻。人識の赤裸々な内心を、裸ではない赤き最強が無遠慮にも暴き立ててくれやがった、戯言使いとの関係を題する一冊において描写された、未来の内容を信じるのなら——零崎人識の生存は、京都の連続殺人事件から数えて少なくとも八年後までは、確約されているのだ。
「だから俺としては、今の説明じゃ全く解せないままだ。流石の俺も、死んだと思ったら別世界にいたってんじゃあお釈迦さまか神様か、あるいは悪魔か地獄の鬼かの見えざる手を感じざるを得ないだろうけどよ、依然として俺は生きていて、連続した状態で別世界に迷い込んでんだ」
不思議なこともあるもんだ——では、済まされない。
少なくとも納得は、できそうにない。
「実はこの天才美少女萩原子荻ちゃんも、自分では気付いてない超再生能力があって、生きたままこっちの世界に迷い込んでいるという可能性もありますけれどね」
それを探るのは諦めた方がいいんじゃないかと思えるほどか細い可能性を語りつつ、彼女は眉間にほんのわずか、皺を寄せる。
「サンプルパターンが二つ切りですからね。どちらがイレギュラーなのかわからない、というのは割と、致命的ですよ」
そもそも、それが生きた人間であろうが死んだ人間であろうが、別世界に迷い込む、なんていうのがそもそも、空前絶後に驚天動地なイレギュラー中のイレギュラーなわけであるけれど。
「しかし結局のところ、あなたは何を問題としているのですか?」
実のところ。
本当の問題は、それなのだ。
「死んだ私は、まあ見ての通り、結構この世を満喫していますので。そりゃあ、私がいなくなった後の、廃校になってしまった澄百合学園だとか、死んでしまった同輩生だとか、あの無為式の末路だとか、気になることはいくらでもありますけれど——」
向こうの世界での私は、故人ですし。
「未練はあっても、帰りたいとまでは、思えない」
しかし。
「
「……まさか」
人識は肩をすくめる。
「俺がホームシックで泣いちまうほど純情なガキに見えてんなら、レーシック手術を受けることをお勧めするぜ。残念ながら、俺はそこまで殊勝な人間じゃない」
それこそ——人間失格だ。
「元の世界に未練なんかありゃしねぇよ。鬱陶しい妹だのおっかねぇ人類最強だの無関係な欠陥製品だの、厄介な縁が切れて清々してるくらいだぜ。ただ一つ——」
気がかりなことは。
実のところ、
「なあ。あんた、元の世界だと、一年と少し前に死んでるよな」
「あなたの主観から見れば」
「俺の主観だと、それは二〇〇二年だ。んで、あんた今年幾つよ」
「十八です」
そして今は二〇二〇年。
「示し合わせたようなタイミングだよな、それって」
向こうで死んだ人間は、死んだその時にこちらの世界で生まれてくる。そんな仮説を、建てたくなるほどに。
「それは流石に、無理があると思いますよ。向こうとこっちで、総人口はなんら変わらないんですから。人類皆転生者になっちゃいます」
「仏様はそうおっしゃってるわけだけどな。しかしそれを
転生者の数はグッと少なくなる。それこそ、萩原子荻が見落としてもおかしくないほどに。
「……つまりあなたは、死んだ誰かに会いたい、ということですか?」
片眉をあげて、問われるけども。
「かはは。だからさ。あんたは俺を持ち上げすぎなんだって」
そんな感傷が、零崎人識にあるものか。
「ただ、もしも」
もしも。
「殺し損ねた宿敵が、今もまだまだ死に損なっているのなら」
言いながら。
零崎人識は席を立った。
「今度こそ、俺が引導を渡してやろうかと思っただけさ」
零崎人識、殺人鬼。
人を殺す、鬼らしく。
いつも通りに、気軽に気楽に。
人を殺しに、行くだけだ。
「じゃあな、策士さん。いや、今は天才少女だったっけか。あんたとのお茶、なかなか楽しめたぜ」
後手に手を振って、店を出ようとした人識に。
「待ってください」
と、声がかかる。
「あ? なんだよ、まだ用か?」
「用というより、餞別ですよ」
あるいは純粋に、プレゼント。
言いながら、彼女は何かを人識に投げつけてくる。鉛玉をプレゼントと呼ぶタイプの洒落っ気かと身構えた人識だけれど、しかし反射的に掴み取ったそれは鉛玉でもナイフでもなく。
一枚の、名刺だった。
刻まれた名はもちろん——萩原子荻。
肩書は——京都大学総合人間学科
京大に在籍って、
「んだよ。あとで連絡くださいってか? あいにくとナンパなら間に合ってるぜ」
「私もです。そうではなくて——」
言ったでしょう? と彼女は微笑む。
「私、有名人なんです。色々、付き合いの幅も広いので、顔が効くんですよ」
それこそ——警察にだって。
「以前に何度か、捜査に協力したことがありましてね。その縁で、府警には結構、貸しがあるんです。その名刺を見せれば、
見透かしたように言ってくれる彼女だけれど、しかし。
「なんであんた、ここまでしてくれるんだ?」
なんの縁もゆかりもない——どころか、かつては明確に敵だった、人識に。これほどまでに親身にする理由など、あるはずもない。
「なんででしょうね? 実のところ、私もよくわかってないんですよ。けれど強いていうならば——多分、お礼ですね」
「お礼?」
「ええ」
思い返すように、目を閉じる。
「中学時代、私の後輩がお世話になりましたからね」
結局は、みんな死んでしまったけれど。
死ぬまでの時間を、ほんの少しだけ——マシにしてくれた。
それは人識からすれば、感謝される謂れすら理解できない恩であって、だからこそ。
「かはは。生まれ変わっても相変わらず、あんたはわけわかんねー策士だよ」
そんな憎まれ口を叩きながら、けれどその形容が似合うのは、実のところ誰よりもそれを口にして見せた本人だという皮肉にさえ気付く気もなく、零崎人識は振り返らずに、向かう先へと、足を進めた。