傷だらけな多重人格の青年は泥臭くもVtuberとして呼吸をする 作:村上トオル
三人でカラオケを終えた私達。
あの出来事から一週間が経とうとしていた頃、私たちは此処で期間を空けることなくライブを行うことが重要だと決めて私達はライブハウスでライブをすることにした。香織も加わったことで更なる練習が必要だと考え、私たちはスタジオで練習していたが竜弥と香織がゲームの話をしているのが気になって私は話に入ることにした。
「香織、私にも似合いそうなゲームってある?」
「え?恵梨に似合いそうなゲーム?」
香織は少し困った様子だった。
私がゲームをやりたいとは言い出すとは思ってもいなかったのかもしれない。琉藍が偶々のんびりと出来るゲームをやっているのを見てそんなにみんながハマるゲームがあるなら私もやってみようかな……ってなっていた。
「恵梨ってどんなゲームが好きなの?」
「どんな、か……」
言われてみればゲームというものを此処に来るまでやったことがなかった。
だからすぐにどんなゲームをやりたいのかなんて言われても答えることが出来ないで困っていると、パッと思い浮かんだジャンルの名前を出すことにした。
「アクションとか?」
「あーアクションならいいのあるよ」
「買ってみたんだけどこれでいいのかな……」
香織に勧められたのはヤクザが主役のゲーム。
なんで私にヤクザのゲームを勧めてきたのかはよく分からないけど、強烈なキャラクターが居るからもしかしたら好きになるかもしれないと言われて持っていたパソコンにゲームを購入してインスト―ルを終えたのを見て私はゲームを進めることにした。
それからライブが始まる二日前のこと。
私は香織から勧められたゲームの続編をサブストーリーを熟しつつ次々と攻略していくと、気になるキャラが現れ始めていた。それは後に私の中で先生と呼べるような存在になるキャラであり、私はそのキャラから節々と感じる知性のある兄貴分的な存在感に私は魅了されつつあったのだ。
「いいな……このゲーム……」
所詮極道なんて反社もいいところだけどこういう誰かを魅了させて舎弟のようなものにしていく先生の姿を見て私は惚れ惚れとしていた。二メートル以上の熊を撃退するのは意味分からないけど……。
ライブハウスでのライブまであと二日目の放課後……。
「え!?もうあのゲームそこまで進んでるの!?」
と香織も仰天の様子で私のことを見ていた。
流石の香織も此処まで私がハマるとは思ていなかったようで「えっ怖」と言いかけているのが聞こえていた。え?そんなビビられるようなことしたのかな?したことといえば大体一週間ぐらいで徹夜してゲームを遊んでいただけなんだけど……。そのせいで碌にイラスト描けなかったけど……。
「香織、衣装なんだけどこんな感じでいいか?」
「ああ、うん。大丈夫だよ」
竜弥は竜弥で自分でやるべきことを見つけてられているようで私はそんな竜弥をまるで保護者かのように見つめるようにして見ていた。良かったね、竜弥……なんて笑っていると竜弥が私の様子に気づいて「良かったね」と言うと、なんのことか分かったのか頷いてくれていた。
「どうよエリー、今回の私は?」
「琉藍ならきっと今回のライブもきっと大丈夫」
琉藍は「ん、当然」と言いながらも、楽屋で美味しそうにドーナツを口の中に頬張っているのを見て私は笑いそうになりながらも視点を千里の方へと変えつつあると、千里が私の隣に座ってきた。
「恵梨、アタシやってみせる。アタシの声で色んな人達の鼓動を掴み取って見せるから」
「うん、やろう千里」
日々の練習や路上ライブの経験を得て千里は成長しつつあった。
もうあの頃の弱気な千里はおらず、目の前には決意を固めた綾川千里のその姿があった。千里に「大丈夫?」なんて声を掛けそうになっていた自分が少し馬鹿らしくなりながらも「これから歌うぞ」となっている千里の姿を見て私も気合を入れて行こうとしていた。後ろで手を振っている竜弥の姿を見ながらも……。
「行こうみんな……!!」
「「うん!!」」」
「ん」」
意気込みは良し、私たちは腹を括って初めてのライブハウスのステージと立ち、私たちの音が奏で始められる。初めての四人のライブでもこのライブの出だしは最高としか言いようがなかった。お客さんも一体化に包まれて私達の演奏を聞いてくれていたような気がしていた。
「よ、良かった……成功して……!!」
「お疲れ香織」
「うん!!お疲れ恵梨!!いやー衣装もそうだけどライブチケットのことも一時はどうなるかと思ったよ」
「ライブチケット売り切れてよかったね香織」
「全くだよ!一時はどうなるかと思ったよ!!」
初めてのライブハウスを終えてそれぞれが楽屋の中で思い思いの反応をしていた。
琉藍はぐったりとソファーの上に寝そべっており、香織は感涙の様子で私の前でジャンプをしていた。千里とは言うと、ソファーに座り込みながらもスマホを眺めていた。
「どうしたの千里?」
「いや……今日のライブのエゴサをしてたところなの」
「あんまり深く見ちゃダメだよ千里。そういうのは良いことばっかり書いてある訳じゃないんだから」
「そうだね……でもアタシはこんなところでへこたれたりしないからもう安心して恵梨」
「千里……」
千里は徐々に成長しているのが私には伝わっていた。
スマホに向かってちょっとムッとした顔をしながらも千里は立ち上がり「お手洗い行ってくる」と言っていた。
二回目のライブが成功した私達は勢いに乗ってそれ以降もライブを入れ続けたりしていた。
鉄は熱いうちに打てというぐらいそれに則った形で私たちはライブを入れたり、対バンを申し込んだりしていた。対バン相手の情報は琉藍がよく持って来てくれたりしていたこともあって向こう側とは対照的な内容のライブをしたり、向こう側に沿ったライブをしたりと色々な試みをしながらもライブをし続ける日々が多かった。
私達のバンド生活は順風満々という言葉が相応しいものになって行き、二年生の学園祭のライブに参加することになった私達。私はその学園祭の間ずっと気になっていたことがあった。それは千里が練習の休憩中、ずっとスマホを見ていることが多かったのだ。またエゴサでもしているのだろうかと見ていたがどうにも違うような気がして私は声を掛けることにしたのだ。
「千里、どうしたのスマホばっかり見て……」
「あーごめん恵梨、気散るよね」
千里はスマホを隠すようにしていたが、私は首を横に振る。
「なにか悩んでいることがあるなら言ってみて」
「……アタシさ、もしかしたら海外に行くことになるかもしれないんだ」
「え……?」
あまりにも突拍子が無さすぎる発言に私は思わず「え?」と言ってしまっていた。
今千里なんて言ったっけ……?え?海外に行くことになった……?気のせいだよね?
「あー勿論今すぐって訳じゃないし、まだ行くかも分からないけどさ……勝手だよね娘の気持ちも知らないでさ……」
「千里……」
話はどうやら千里抜きで進んでしまっているようだった。
私はそれ以上なんて声を掛けてあげるべきなのか分からず、どうすることも出来なかったが千里は私と別れる際に「大丈夫だから安心して!ごめんね恵梨」と言っていた。
そして学年祭でのライブ当日……。
私の中で千里のあの発言が気がかりになりながらも私は今それを考えるべきではないと頬を叩いて覚悟を注入することにしていると、千里の方を見ると竜弥が「見せてやれよ千里の本気を……!」と言っているのが聞こえていた。二人の様子を微笑みながらももしかしたら話自体なくなっているのかもしれないというのを期待して「お願いします!!」と言っているのが聞こえながらも私達はステージに立つ。
慢心しているようにも聞こえるかもしれないけど、多種多様なライブを熟してきた私達にとって今このライブはいつもより人が多いという理由以外で敵はなかった。自分達のライブに魂込めて作り上げることが出来たが……。
「あれ?琉藍、千里は?」
「ーん?なんか用事あるって急いで何処かへと行ったよ?ってエリー?」
私は琉藍の言葉を聞いて急ぐようにして昇降口へと向かっていた。
ライブ衣装を着ていた為、みんなが私のことを見ていたが特に気にすることなく全速力で昇降口へと向かうとそこには竜弥と千里の姿があった。
「千里、何処行くの!?文化祭は始まったばかりだよ!?」
「恵梨……みんなには謝っておいて」
どうやら先ほどまで竜弥とは話していたようで話はもう済んでいるようで千里は車の中へと入ろうとしていた。
「竜弥なんで止めなかったの!?」
「これは千里達が決めたことだろ?俺達が口出しすることじゃ「馬鹿!!」」
こういうときだっていつも双方の意見を両立しようとする。
少しぐらい自分の欲を出して言えばいいのに、千里に行って欲しくないって……なのになんでそれが言えないの竜弥。本当は言いたくて仕方ないくせに……!!私はこんなところで歩みを止めるつもりはなかった。例え自分のエゴだとしても言われても私は思いをぶつける。千里とバンドを続けていたいということを口にしたかったはずなのに……口に出していたことは千里を扇動する言葉だった。
「もういい千里!!千里がどうでもいいって言うなら私が……私が竜弥を貰うから!!」
口にしていたのは竜弥のことだった。隣で見ている竜弥も「え!?」と言った様子で私を見ていたがどうでも良かった。続けるようにして言葉を言う。
「私が竜弥のことを幸せにするから!!!千里なんかよりずーーっと幸せにしてみせるから!!」
今にしてみれば少しだけ本音も混じっていたのかもしれない。
選べないでいる千里に対して苛ついていたっていうのもあったのかもしれない。でも私はあのときあの選択をして良かったと思っている。あの選択を取らなければもう二度と千里と会えなかったから。
「幸せにするのはアタシ!アタシだから!!恵梨!!!」
車を脇に止めてもらい、千里が車の中から出てきて走って私に抱きつきながらも千里は怒りながらも笑っている声が聞こえていて私は千里と一緒にお互いに顔を見て笑い合っていた。結局、その日の夜千里は両親と話し合って家に残ることを決めたそうだった。
私はこのときこの選択をして本当に良かったと思っている。
この選択を取らなければきっと私はずっと後悔していることが増えてしまっていただろうから。だからこのとき、勇気を振り絞れたことは自分に感謝している。
「ほら、竜弥言うことあるでしょ?」
「お、お帰り千里……」
「うん、ただいま竜弥……」
まるで熟年夫婦かのような感じっぷりに私は満足しながらも二人を置いて帰ることにしていた。
それから学園祭に戻って来た千里は自分のクラスの出し物に参加することになっていたが、今にも恥ずかしくて逃げだしそうになっていたが琉藍や同じクラスの人達にニヤニヤされながらもメイド服を着せられて竜弥の接客をしているところを私と香織は遠くから見つつも二人の感じを楽しみながらもこれからこんな日常が続いて行けばいいなーと思っていたが、そんな日常は続くことはなかった。
「嘘でしょ香織……何かの間違いでしょ?」
「間違いじゃないの……竜弥が刺されたの」
ライブハウスでの帰り道、竜弥が刺されたという話が私の中に飛び込んできていた。
私は急いで香織から聞いた竜弥が緊急搬送されたと思われる病院の方へと向かってしまっていた。自分が野次馬になるかもしれないというのは頭から消し去っていた。
「琉藍、本当に何も知らないの!?刺した奴の目星!?」
「知らないってば……。知ってたら今此処で恵梨に言ってる……」
香織からの電話を切って、琉藍なら犯人のことを知っているかもしれないと早とちりして電話を掛けていた。香織から聞いた内容では犯人は自分の体にナイフを突き刺して死亡したということだった。自分だけ逃げるなんて許せない、怒りに囚われながらも病室へと着いた私は「もういい!」と言いながらも通話を切っていた。このときの私は苛立っていたあまり、琉藍が何も情報をくれなかったことに対して「役立たず」とすら思っていた。
「千里、竜弥は!?竜弥はどうしたの!?」
病院に着いて香織から指定された階に行くと、そこには既にバンドメンバーの皆が揃っている。
千里の体を揺らしながらも千里に聞き出そうとするが、千里は拳を握り締めたままで何も話そうとしない。
「恵梨止めなよ……千里は」
「千里がどうしたって言うの!?千里だけでしょ、知ってるの!?」
「……千里は喋れなくなってるの」
「え?」
思わず自分の耳を疑った。
嘘だ、そんな訳がない。いつも私のことを引っ張ってくれた千里が喋られなくなっているなんてそんなの嘘に決まっている。きっと竜弥が刺されたのがショックで喋っていないだけだ。
「ショック……?」
自分が心で思っていた言葉に疑問を感じていると、私はすぐに気づいた。
何故千里が喋られなくなってしまっているのか、それは竜弥が刺されたショックで喋れなくなってしまっているということにすぐに私は気づいたのだ。目の前で大好きな人が刺されたりしたらこうなるのも当然だ。なのに私は千里に対して苛立ちながらも問い詰めようとしていた。今でも先ほどまでのことを鮮明に覚えているはずの千里の体を揺さぶりながらも……。
「ごめん千里……!!ごめんね……!!」
千里を傷つけてしまった私は千里の体を抱きしめながらも彼女に謝罪の言葉を繰り返していた。繰り返すことで許されるならば私は謝り続けたかったから。千里に許してもらえるなら、ただこれは自分の勝手な妄想かもしれないが千里が口の動きが「気にしないで」と言っているようにも見えていた自分がいた。
それから暫くして竜弥は退院して学校へ通うことも出来るようになっていた。ただ千里の声は戻ることなく定期的なメンタルケアが必要になったのだ。そして、バンドのボーカルは私が担当することになった。言い出したのは私であり、これはあくまで千里に対する償いの為でもあったが、それ以上に私は千里が居てくれたこの居場所を守りたかったという気持ちが強かったのだが強すぎるあまり、私は周りを傷つけてしまうことになってしまい、ただ一心で音楽を楽しむだとか、誰かに寄り添うだとかそういうものを蔑ろにし始めており、それが外に漏れだしていたのか私の音楽や私達のバンドの音楽から離れて行く人達が続出していたのだ。それでも私は居場所を守ることだけに必死になってしまい、ある日香織にこんなことを言ってしまったのだ。
「ねぇ恵梨……一旦ライブとか挟むのやめよう?ほら恵梨も休息期間含まないと体持たないよ?」
居場所を守りたい私はファンを離さないためにもライブを集中的にやっていたが、ファンは離れて行くばかりだった。
「……は?なんで?」
「なんでって……そんなんじゃ誰も音楽に聴き耳持ってくれないよ。折角恵梨は凄い音楽を持っているのにそれじゃあ「分かったようなこと言わないで!!」」
「私はただ千里が居てくれた居場所を守りたいの!!守れればそれでいいの!!だから私の邪魔をしないで!!」
分かっているつもりだった。
私がやろうとしているのはただ自分の中の千里に「ありがとう」と言って欲しいだけだと言うのが……。分かっていても辞めようとすることが出来なかった。あのときもしかしたら自分があの二人の身に起きた悲劇と変わることが出来たのかすら出来たんじゃないかと都合のいい夢まで見てしまうほどだったから。この後も練習をしたり路上ライブを何度かしたりしていたがままならない結果ばかり続き琉藍は私に対して諦めを持ち始め、香織は溜め息ばかりの日々が続いていた。
『最近のEriの歌声って響かないよなぁ……なんか焦ってばっかりって感じで……』
「何も知らないくせに……」
偶々エゴサをしていた私は手に持っていたスマホをベッドの上に投げながらも苛ついていた。苛つきながらも手に持っていたプランケットを頭に被せて私は自分の世界に入ろうとしていたが入ることが出来ないでいると、竜弥から連絡が来ていた。
『今度千里とデートに行こうと思うんだが何処か良い場所ってあると思うか?』
ベッドの上に置かれていたスマホに通知音が鳴り響いたのを見て私はスマホから来ていた竜弥の連絡に「水族館」という返事だけ返していると、再び通知音が鳴り今度からは千里からの連絡で竜弥と同じ内容の連絡が来て私は少し微笑を浮かべながらも同じことを返した。
それから私は千里から竜弥と水族館でデートするということを聞いた。
「来て良かったんだろうか……」
少し罰が悪くなりながらも二人のことが心配で私は竜弥と千里が来る予定の時間に合わせてバイクを走らせて此処まで来ていた。十八歳ということもあり、この愛バイクとも長い付き合いになるかもしれないなんて手でバイクを触りながらも私はバイクから降りて竜弥たちが来ないかを待っていた。
暫くして竜弥たちが水族館の中へと入るのを見て私もチケットを買って中へと入って行った私は竜弥たちの後を追うようにして追いかけて行った。二人を追いかけながらも楽しそうにしている二人の様子を見て私は良かったと思っていた。二人の間に溝が出来て居ていないか心配でしょうがなかったがよく考えてみれば竜弥は千里とかなり向き合ってくれていたのを思い出していた。
「あれ?竜弥たち何処行ったんだろ……」
竜弥達を追いかけて此処まで来たというのに何処へ行ったのか分からなくなってしまい、私は周りを見ると水族館の水槽を見つめているただ一人の少女の姿が目に入っていた。彼女は真っ白なワンピースをひらりと揺らしながら、静かに立っている。少し長めな薄茶色の髪に入った青緑の筋が、水槽の淡い光と白いワンピースに溶け込んでいるように見えていて、私は正直今すぐその様子を絵で描かせて欲しいと言ってしまいそうなぐらい彼女の姿は水族館の水槽と一致していたのだ。本当に自分が今竜弥たちを追いかけていることを忘れてしまうほどった。
「どうかしましたか?」
「あっ…‥‥いや、ごめんなさい。その……綺麗な人だなって思って見惚れちゃって……」
こんな展開、前にもあったような気がする。
前のときは竜弥が私の歌声を聞き惚れちゃってその場で止まりながらも聞いていたんだっけ。まさか自分が同じようなことをしちゃうなんて思ってもいなかったけど……。ちょっと笑えちゃうな、なんて私は自分の中で笑っていた。
「ふふっ、ありがとうございます……」
「あ、あの……茶髪でポニーテールの子ってさっき見かけませんでしたか?」
「茶髪でポニーテール……?その人なら、少し前に此処を通り過ぎましたよ」
「えっ……何処へ向かったかって知ってますか?」
白いワンピースの少女は指をさす。
指を向けられた方向を見てから私は「ありがとうございます!」と言ってから……。
「あの……お名前教えてもらってもいいですか?」
「
「八十科恵梨です、またいつか……」
私もまた彼女に対して自己紹介を済ませて彼女に感謝の言葉を改めて言ってから、私は二人のことを追いかけることにした。彼女、まるで人形みたいに顔立ちが整った人だったな……なんて彼女の綺麗な姿が水族館と一致していたことを思い出しながらも私は二人のことを追いかけていると、竜弥の声が聞こえていた。
「俺はどんなことがあっても俺が千里の傍にいる。絶対に守るから……!」
「竜弥……」
竜弥の声を聞こえて来て私は思った。
此処に来たのは正解だったのかもしれないと……。二人のことが心配でお邪魔になってしまうかもしれないという気持ちが半々にあったけど、本当に此処まで来て良かった。
「心配し過ぎたかな……」
曇っていた心が少しでも紛れることが出来ていた私はすっきりとした気分になりながらも水族館を後にすることにした。此処最近、ずっと自分がワン・フォー・オールという居場所を守らなくちゃいけないという感情が強かった。久々にあの頃より前の自分に戻れていた気がしていたのだ。
「それでは聞いてください……ワン・フォー・オール!!」
あの水族館での出来事があったからこそ私はもう一度自分を取り戻すことが出来たような気がする。取り戻すだらけの人生ばっかりで本当に笑えちゃうけど、私は自分の心の余裕を取り戻すことが出来て本当に良かった。
「みんなー!!更に盛り上がって行くよ!!!」
だって私はこんなにも楽しく歌えているんだから……。
『いやー!!今日のEriすげえ良かったよな』
『なんつうか盛り上げ上手って感じで良かった!』
『前に比べてちょっと余裕持ててるって感じがしてよかったよなー』
エゴサをしていると今日のライブはかなり盛り上がってくれていたのが伝わってきていた。
「恐るべし千竜パワー」
「キモいこと言うようになったってことは元に戻ったんだね恵梨」
香織が苦笑いしながらも言っているのが聞こえて来た私が香織と琉藍の方を振り向いた。
「ごめん二人……」
二人の顔を見るのは怖かった。
かなりの間二人に当たり散らしていた時期もあったほどだから私は二人に謝ることすら億劫になっていたが私は謝ることが出来た。
「気にしなくていいよー。ねぇヒメ」
「当たり前じゃん!私達はチームなんだからさ!!」
「みんな……」
私も調子を取り戻すことが出来た。
きっとこのまま行けばいつかは千里だってバンドに戻って来れる日々がやって来るに違いない。私はそう期待しながらも待つこと早何か月も経ち、卒業式までやって来ていた。
結局、千里の声は戻ることはなかった。
それでも音楽を諦め切れないでいた千里はギターの道を進むために音楽大学に入り、私は美術大学に入ることにした。そして、その卒業式が終わった後千里からこんな連絡が届いたのだ。
『竜弥に連絡届かない』
「竜弥、何処行ったんだろ……」
卒業式を終えて家に戻って来た私は雨が降っているのを見て家から傘を持って私は竜弥が何処にいるのか探そうとしていた。卒業式が終わるまでは一緒に居たけど、その後のことを私達は全く知らない。結衣ちゃんからも何処にいるのかを聞いてみたけど、何処にいるのか分からなかったようだし琉藍も香織も知らない。じゃあ何処へ居るんだろうと思って、私はその昔竜弥と千里が出会ったと言われる公園のことを思い出してそこに行ってみることにしようとしていたのだが、嫌な胸騒ぎがしていたのだ。
「何だろうこの感覚……」
嫌な胸騒ぎがしながらも私は目的の公園の場所の前に着くと、竜弥が傘を差さずに立っている姿が目に入って来た。
「風邪引くよ……?」
雨の中傘を差さないまま、濡れている竜弥に傘を差し出そうとしていた私だったが……。
竜弥に近づこうとするほど、彼の冷たさに触れているような気がしていたのだ。その冷たさはまるで全てのことがどうでもいいと言いたそうな無気力で虚無に近いようなものだったのだ。それでも私は彼に近づこうと触れようとしていたのは彼のことが心配だったからだ。
「りゅう……や……?竜弥……?」
心配だったが……。
一瞬彼の目が見えたとき、私は彼に対して冷めた感情を持ち始めようとしていたのだ。それは彼が本当にもう何もかもどうでもいいから、逃げるという選択肢を取ろうとしていることに気づいたような気がしていたからだ。実際、竜弥は私のことを見ようともせずその場から去って行くのを見て私は小さくこう言った。
「なんで……裏切るの?千里のこと……」
それを大きな声で言えば、私は竜弥のことを引き留めることが出来たのかもしれない。
出来たかもしれないと言うのに私は大きな声で言うことが出来なかった。怖かったのかもしれない。竜弥の口からどんな言葉が出るのか分からなくて私は怖くて仕方なかったのだ。私には言い出せる勇気がなかった。
「どうして……?」
あの雨の日、あれから数か月後が経っていた。
竜弥からの連絡は途絶えたことにより、あいつが本当に逃げたんだということが分かり私は憎悪に満ち溢れていた。そして私達のバンドも解散した。バンドに関しては実際これが正しかった。私達のバンドはやれることだけのことをやったんだからと自分を納得させていたが、バンド以外で一つだけ納得できないことがあった。それは竜弥のことだ。
あれから竜弥のことを考える度に腹が立ってしょうがなかった。
千里も香織も琉藍もいつか連絡しに来てくれるなんて言っていたけど……。そんな日は絶対に来ない。私には分かっていた。あの日の竜弥の顔が全てだと……。
「くだらない……」
竜弥のことで無性に腹が立っている私は苛立ちながらも完成間近のボカロを破棄しようとしていた。私が作っていた曲は誰かに寄り添いたい、誰かを応援する為の曲を作り上げていたのだが馬鹿らしくなっていたのだ。
「もういい……もう……!」
もう私にとってもこんな音楽は苦痛でしかなかった。
苦しみでしかなかった。
「共感性ってなに……?寄り添うってなに……?そんな音楽なんか……」
「大嫌い!!!」
苦しみから解放されるために何度だって叫んでいた。
辛く苦しく悲しみでしかないあの出来事を何度だって忘れようとしていたけど、私には忘れることが出来ないでいた。この間にも私は琉藍や香織に何度だって当たり散らしているうちに月日は流れ始めていると、あの日私は彼と出会った。
「キミって……樫川竜弥からサイン貰った子だよね」
彼が目標としていることの話を聞いているうちにこの子はあの樫川竜弥、坦々を尊敬しているというのがなんとなく分かり、私はわざと疑問を投げかけると恭平は迷うことなく頷いていた。私の顔は怒りに満ち溢れていそうになっているのをどうにか笑顔で誤魔化しつつも「ふーん?」と言いながらも話を進めていたが私は苛ついたあまりに恭平の言葉を遮りながらもこう聞いた。
「今でも尊敬しているの?」
これはきっとかなり突発的に聞いたことだ。
竜弥への憎しみに満ち溢れていてそれが我慢することが出来なかった私は聞いてしまったのだ。年上だというのに碌に感情の処理も出来ないまま私は聞いていたのだ。
「尊敬しています。僕はあの人に助けられましたから。あの人が居てくれたから今の自分が居ると思っています。あの人が応援してくれたから僕は今も頑張ろうと思えるんです」
「そう……」
くだらない、ペンを置きながらも私は溜め息を吐いていた。
きっと恭平にも分かるほどに竜弥に対して嫌悪感を出していたことは間違いなく、私は恭平のアバターを作るのを改めて了承した。
「なんであんな奴のこと……尊敬できるって言えるんだろう」
駅まで見送った私は恭平の後ろ姿を見ながらも何故ああ言い切れるのだろうかと、不思議でしょうがなかった。そしてその日の家、恭平が「竜弥さんは元気なんですか?」と言う連絡が来て舌打ちをしながら「元気」と返していた。
「あいつはクズなのに……!なのになんでみんな揃って庇おうとするの!!意味が分からない!!あいつは……あいつは……千里のことを裏切って捨てたんだよ!?なのに、なんで……!!みんな優しすぎるんだよ!!」
叫ぶことしか出来ないでいた。私だったけど……竜弥と再び再会出来て私は良かったと思っている。再会出来なければ千里に対してすら当たっていたのかもしれないなんて考えると私は自分がどうなっていただろうかと思ってしまう。それになによりこの舞台に立ってよかったと思っている。
私が……私の音楽を取り戻すことが出来たから……。
「私の音楽を取り戻してくれてありがとう……」
◆
みんなの音が聞こえている。みんなの音色が聞こえている。
かつての私達の音が集合したことにより私達の色彩となっている。
「最後の曲になります。その前に今日ボーカルを歌わせていただいたのは久龍アンナ……です!!そして、最後の曲は私達のオリジナル曲でもある曲になります。この楽曲は
「ヒペリカム」
私は歌い出していた。このヒペリカムの開花の時期である、六月の梅雨の時期を例える歌詞を口に出しながらも竜弥との日々を思い出していた。
「アタシの音は此処にある。もう怯えるだけで縮こまってるだけの綾川千里じゃない。過去のアタシに見せてあげるんだ!!これがアタシの今の力だってことを……!!この学園祭で……!!」