傷だらけな多重人格の青年は泥臭くもVtuberとして呼吸をする   作:村上トオル

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アタシは証明してみせる

 アタシが音楽を好きになったのは中学一年生のとき、偶々CDショップで試聴したのがキッカケだった。ヘッドホンを装着すると、耳には七色の音にカッコいい音源が流れていた。このとき初めて自分でロックというものに触れて全身が痺れるほど自分がこの音楽が好きだと実感していた。

 

 気づいたときにはアタシはその音楽が入ったCDを手に取って会計に向かっていた。財布の中には貰った小遣いがまるで「こんにちは!」と言いながらも姿を見せているのを見てからアタシはお金を払ってCDを買った。

 

 CDを買ったその日の夜はずーっとお父さんのパソコンで曲を聴いていると、他の曲も気になって来てアタシは手元にあるスマホでそのバンドの楽曲を調べているうちに音楽というものにハマっていった。

 

 音楽というものは中毒性が高い曲が多くて聞いているうちにアタシはそのバンドのことも気になりだしていた。そのバンドのボーカルは強いコンプレックスを持っている人だ。両親がとてもつもない有名人の人で彼は劣等感を抱えつつも自分の歌を誰かのために響かせようとしていた。提供しようとしていた。そんな素敵な話を聞いているうちにアタシはあのボーカルみたいになりたいという気持ちが強くなっていた。あの人みたいになれたらどれだけが楽しいことだろうと……。大勢の人に見てもらえたらどれだけ楽しいだろうと……。

 

 

「お父さん、アタシ楽器が欲しい」

 

 即決即断、リビングで新聞を読んでいるお父さんに話しかけていた。

 毎日小難しそうな顔をしながらも経済のことを読んでいるようだけど何か興味深い内容でもあるのだろうかといつも気になっていたが今はそんなことはどうでも良かった。

 

「楽器?ピアノやバイオリンとかか?」

 

「違う、ギターが欲しいの」

 

 アタシが目標としている人はギターボーカルだった。

 だからあの人みたいになるためにもギターを手にする必要がある。

 

「駄目だ、ギターなんて……。どうせバンドをやりたいとか言うんだろう?」

 

「駄目なの?」

 

「駄目だ、バンドなんて……他人と混ざれないゴミ溜めみたいな人間がやることだ」

 

「なにその言い方……もういい。自分で買うから」

 

 お父さんは古い人間だ。

 確かに昔のバンドマンは学校を中退したりして社会に反発する人達が組んで自分達の憂さ晴らしをする為に活動しているなんてことがよくあったみたいだけど今の時代は全然違う。ちゃんとしている人達ばかりだ。偶に駄目なことしている人達もいるのは否定できないけど、それでもお父さんの考えは古いとしか言いようがない。

 

 

 

 

「どうしよう……」

 

 楽器屋に来ていたアタシ。

 安い奴でも結構いい値段はする。今まで使う機会もなかったから貯めていたお小遣いを使えば安いギターぐらいは買うことが出来るけどどうすればいいだろうか。首を傾げながらも「うーん?」と頷いていると、アタシに店員さんが話しかけてくる。

 

「楽器欲しいの?」

 

「……はい」

 

「そっかぁ、その歳でもう楽器に興味を持ってくれるなんて嬉しいなぁ……。じゃあさ、今回だけ特別なんだけど好きな奴ちょっとはお安くするけどどうする?」

 

「えっ、いいんですか?」

 

 偶々入った楽器屋でまさかの思わぬ展開が起きてアタシは少し躊躇していた。

 安くしてくれるのはとても嬉しいけど、遠慮してしまってどうしようかと悩んでいたが折角の御好意を無駄にするのも良くない。アタシは指で差した方向のギターを買うことにしてその日はるんるんな気分だった。お父さんが何か言いたげにしていたがそんなのは無視してアタシは自分の部屋でギターを弾いていたが少し難儀していた。

 

「駄目だ……全然意味が分からない……」

 

 夜更け、押し入れの中で息を潜めるようにしてギターを抱えていた。

 初めて耳にしたあのバンドのギターボーカルのように心を鷲掴みにするような音色で奏でたみたいという欲求が抑えられなかった。想像とは全く違っていた。指に弦に当てることは出来ているものの、思い描くメロディは何処か空回りしているような感覚で響くだけで、自分の手元はただぎこちなく鈍い音が漏れるばかり。こんなんじゃあの人みたいになるなんて到底難しい。早くギターを投げ出しそうになっていたアタシ。

 

「というかギターボーカルするなら歌えなくちゃダメじゃん……」

 

 別に音楽の成績が悪いとか、音痴とか言われたことがあった訳じゃない。二つのことを同時にやるなんて難しすぎてどうしようかと悩んでしまっていたのだ。でも折角始めてみようと思って始めたことをすぐに諦めるのは嫌すぎるという諦めない気持ちでアタシは練習を続けることにした。

 

 

 

 

「駄目だ……何回やっても酷いものしか出来上がらない……」

 

 アタシの練習はかなり強気なものだった。

 ある程度弾けるようになってからというものの自分だけで下手なのか上手なのかを認識するだけではダメだと思って路上ライブをし始めていたのだが、誰にも見向きもされなかったし酷いときには怒鳴られることすらあった。それに最初なんて本当に酷すぎてお話にならなかった。何故なら声を震わせて歌うことすら出来なかったのだから。

 

「まあいいや……物は試しでってことで……」

 

 今やろうとしているのは動画サイトでアタシが弾きながら歌っているのを投稿しようとしていたのだ。所謂、Mixと呼ばれるのは全くしておらずただ歌って弾いたのを投稿するという誰が見るんだこんなのっていう感じだったし、なによりこの歌ってみたも後に黒歴史送りされることになる。理由は初めてのネットに放出するものとして恥ずかしさのあまり全く音程があってなかったのだ。そんな動画が再生される訳もなく、再生回数はたった2だった。でも嬉しいことはあった。あんな酷い動画でもコメントをしてくれている人がいたのだ。物好きもいるもんだなとコメントを見ると、そこには此処の歌い方が良かったけど全体的に勿体無いというコメントが付いていたのだ。褒めるところは褒めてダメなところはダメと言ってくれるのはアタシにとっても嬉しかったけど先が思いやれるとなっていた。

 

「はぁ……」

 

 自分のこれからのことを考えると頭が痛くなる。でも、この子がまたコメントしに来てくれるようになったら頑張ろうかなと思いながらも今日も今日とて路上ライブをしに行こうと思っていたとき、アタシは師匠と呼べる存在に出会うことになるのだがこの話はまた今度にしよう。ただその師匠といえる人のおかげはある程度の自信が付くことが出来るようになったのは間違いなかった。

 

 

 

 

 そしてあの日、彼と出会うことになる……。

 

 

 

 

「それじゃあまたね樫川」

 

 あの日、今日も今日とて誰も最後まで聞いてくれなかった路上ライブを終えた後アタシは公園で一人で楽器を弾きながらも歌っていると竜弥と出会った。竜弥はアタシの歌を初めて最後まで聞いてくれた人だった。ごくまれにこういうこともあるんだろうなと奇跡的なことが起きたのだろうとアタシはなっていたが、それでも竜弥とは此処でまた会える気がしていた。実際、竜弥は次の日もあの公園に来て演奏を聞きに来ていた。楽しそうに笑いながらもアタシの色を聴いてくれる竜弥を見てアタシも楽しくなっていき、いつしか竜弥とは友達と呼べる関係になっていた。

 

 

 

 

「言ったろ、俺も千里と同じ学校に行くって」

 

 同じ高校に通うことになるなんて本当にビックリしたけど悪い気分じゃなかった。

 寧ろ、これから始まる学校生活がより楽しくなるかもしれないという期待感を込めれるほどであり、この学校に来て良かったと本当に思えるようになったのはバンドを組んでからのことだった。あのバンドがアタシを更にこの学校に来て良かったと思えるほどのことだった。

 

「よろしくチサ」

 

 一番最初にこのバンドに入ったのは琉藍。

 バンドのことをよく聞かれるとき一番最初に入ったのは誰!?なんて聞かれることがこれから増えるかもしれないけど「琉藍」と答えたらきっと「ええ!?」と言われることの方が多くなりそうだ。彼女はのんびり屋で自由気ままでめんどくさがり屋だから一番最初に入ったなんて誰も思わないし、ドラムを叩いたら別人になるなんてこと誰も気づかないに決まっている。

 

 

 

 

「その方針を変えたら私はバンドを抜ける」

 

 アタシは恵梨の歌声を聞いたとき、確信した。

 この子はボーカルになるべきだと……。本当は自分がギターボーカルをやりたかったけど、アタシより恵梨の方がずっと人に寄り添える歌を、響ける歌を歌えると実感したから。だからアタシは恵梨にボーカルを譲ろうとしていたが……。

 

 

 

 

「恵梨、本当にいいの?ボーカル」

 

「私はいい、私は千里に歌って欲しい。千里が歌ってる姿を見て確信したの……。千里の歌声はまだ未完成だけど千里ならより完璧な歌を歌いあげることが出来るって……。それに私はロックは専門外だしさ。だからお願い千里」

 

「恵梨がそこまで言うなら引き受けるよ……。だから、アタシの最高の右腕になってギターで支ええてね」

 

「それは任せて」

 

 路上ライブをバンドとしてやることになったのが決まった日。

 私はギターを担当するつもりだったけど、恵梨から勧めでボーカルを担当することになった。あそこまで言われちゃ引き受けないっていう手はなかった。

 

 

 

 

「そうだね恵梨、アタシは言い訳したままの自分で居たくない。失敗するって分かったままライブなんてしたくない!!」

 

 あの日、アタシは恵梨にライブは絶対に失敗するからと先に謝ろうとしていたが恵梨はアタシに言ってくれた。アタシの歌は凄いと、そしてやる気があるなら全力でサポートしてくれると……。その言葉を聞いてアタシはやれるだけやってみようと思えた。恵梨があそこまで言ってくれたのならアタシは一歩も引きたくないと、泣いても笑ってもこれが最初だって胸を張って言えるライブにしたいと……。でもそれは無理な願いだった。

 

 

 

 

「お、お腹痛い……」

 

 路上ライブ当日になったアタシは酷い腹痛に見舞われていたし、なにより極度の緊張感で気持ち悪さがとんでもなかったのだ。お手洗いの前で恵梨はこう言ってくれた。

 

「ねぇ千里、聞いて欲しいことがあるの……。私ね、今回のライブ……千里も私もみんなも楽しかったねって言えるライブで終われたらいいなって思ってるの。だから絶対に気負いしないでね千里」

 

 恵梨がお手洗いの前でアタシに言ってくれた励ましの言葉。最後に楽しかったねと言えるライブにしようと……。そうだ、失敗を恐れていたら何も始まらない。まだアタシ達は最初の到達地点にすら立っていない。ならアタシ達はその最初の到達地点を目指せばいい。今回のライブが楽しかったと言えるものに、という到達地点に……。だからアタシはお手洗いを出てすぐに路上ライブの会場へと向かった。

 

 

 

 

 路上ライブは始まっている。

 アタシは最初のうちはかなり良かったが人だかりを見ているうちに緊張感に襲われ、徐々に音程がズレ始めたり、歌詞を飛ばしたりMCでは噛み噛みになっていた。それを通って行った人に指摘されるのを聞いてアタシは顔を赤くしながらも二曲目を続けているときだった。

 

「Aya!!」

 

 アタシの歌い手としての名前を呼ぶ子がいた。

 呼ばれた方向を見るとそこに立っていたのは路上ライブでいつもアタシの歌を聞いてくれる子だった。名前は確か……渚って言ってたけ……。そっか、今日も聴きに来てくれてたんだ。アタシはあの子のことを誰かに言ったことはない。自分だけの秘密にしておきたいから。それにしてもなんか、悔しいな。アタシ、あの子の前なのに歌えないでいる。こんなんじゃダメなのに人通りが多すぎて歌うことができないなんて……。でもどうすれば、どうすれば歌えるんだろうと困っていると隣にいる恵梨が歌い始めてくれていたのだ。

 

 

 

 

 

「Aya……良かった……」

 

 ありがとう渚……。

 貴方のおかげで歌い切ることが出来たよ。アタシは帰っていくあの子の姿を見ながらも撤収を開始していた。

 

 

 

 

 

 

「三人の練習の成果を無駄にして……ごめん!!」」

 

 知っていた。

 恵梨達が香織を含めて練習をしていることを……。知っていたからこそ今回のライブ自分の中で悔いが残るライブになってしまったことになったのが自分が許せなかった。体を震わせながらも謝っていると、恵梨や琉藍たちは許してくれていた。温かい二人に囲まれながらもアタシは「バンドを組んで良かった」となっていたのだ。

 

 

 

 

 

 

「改めて一年B組の姫咲香織です!!ベース担当としてよろしくお願いします!!」

 

 路上ライブを終えた一日後、ベースとして入った香織。

 あの一日間で色々なことが起きていたけど琉藍もいつものような感じでいたからアタシは特に何かを聞くようなことはしていなかったけど、無事にならなくて良かったね琉藍。

 

 

 

 

「ああいうジャンルの曲はやっぱり恥ずかしくて歌えない……竜弥は褒めてくれたけど……」

 

 香織がバンドに加入して少し経ったぐらいだろうか恵梨が竜弥と一緒にカラオケ屋に来るから少し待っててと言われてアタシは言われるがままに待っていると、恵梨に入って来てと言われてカラオケ屋に入って来て竜弥の今思っていることを全部聞いた。竜弥は自分が何も出来ていないというじれったい思いをしていたようでアタシはちゃんと言ってあげた。

 

「何も出来てない……?そんな訳ないじゃん、竜弥……。竜弥はアタシに言ってくれたよね?アタシの音楽が好きだって……。アタシは竜弥がアタシの音楽が好きで居てくれたから此処まで来れたっていうところもあるんだよ。それにアタシ達が一度でも竜弥が役立たずなんて言ったことあった!?言ったことないよね!?それなのに竜弥は自分が何も出来てないって言うならアタシは二度と口利かないから!!」

 

 竜弥は分かってくれたようだったので少し調子に乗ってこうも言った。

 

「好きか……じゃあさ。どうしても償いたいならこうしてよ。この先アタシ達のバンドだけ絶対に見てて。他のバンドばっかり見て浮気したりしたら……絶交だから」

 

 少し小っ恥かしい思いもさせらたけどこの後、歌わされた曲を思えばこんなものは序の口でしかなかった。というかこの後もこの前もずっと恥ずかしい思いさせられてばっかでちょっともう思い出したくないけど……。

 

「恵梨も……恵梨だよ。人の気持ちも知らないで……あーいや多分分かっていてやってるんだろうけど……」

 

 アタシはこのとき既に竜弥への想いが出来上がっていた。

 なんかまるで料理が出来あがったような言い方しているけど本当にそう言い方をするしかない。だって次の日、馬鹿みたいに気分が良すぎて竜弥に対してお弁当を作ってしまうほどだったんだから。それのせいで香織からは「愛妻弁当!愛妻弁当だこれ!!」って凄い言っていたけど……。

 

 

 

 

「バラバラ、か……」

 

 ライブハウスでのライブが決まってからというもののアタシは香織や竜弥と共に衣装作りに励んていた。その間に土日休みが挟まったことにより、香織から勧められていたバンドアニメを三つほど消化していたときバンドとしてバラバラに何度もバラバラになってしまうアニメを最後に見ていた。人の心っていうのは難しいものだからいつもいつまでも上手く行くなんて保証はない。もしかしたらアタシ達だっていつかはこうなってしまうかもしれない。いや、でもどうだろうかアタシ達は互いに強い絆で結ばれている。

 

「でも……」

 

 本当にないなんて言い切れるだろうか、仲が良いからこそ切れてしまう絆というのもあってしまうのかもしれない。

 

「それでもアタシは……やり遂げて見せたい」

 

 あのアニメのように駄目になってしまうこともあるのかもしれない。

 それでもアタシは前を進みたいという覚悟があった。例え駄目になってしまっても前を見て進んで行けば大丈夫だと……。だけど……。

 

 

 

 

 何れアタシがアニメで見ていたようになってしまうのも事実だったのは間違いなかった。

 

 

 

 

「千里、まだバンドなんてくだらないことをしているのか?」

 

「別にお父さんには関係ないでしょ」

 

 ライブハウスでのライブを終えた後、お父さんは説教するかのように言って来ていた。雑音程度にしか考えずにいるとお父さんの次の言葉に腹が立ちそうになっていた。

 

「どうせバンドなんて学生時代の思い出作りにしかならない。所詮その程度なら辞めるべきだな」

 

「……っ!!」

 

 アタシは今にも怒り狂いそうになっている感情を抑え込むのに必死になっていた。

 此処でお父さんの胸倉を掴むのは簡単なこと。でもそれをしてしまえば、アタシはお父さんと二度と口を利かなくなってしまうかもしれない。だからアタシはなんとか堪えながらも自分の部屋に戻ってスマホを見ると渚が今日のライブ終わりの投稿に反応を示してくれていた。

 

『ライブお疲れ様です!ライブハウスでの初ライブ本当にかっこよくて一緒に見に来た友達も本当に楽しそうにしてくれていて布教して良かったです!!』

 

「そうだ、アタシにはアタシのことを見てくれる人たちがいる」

 

 渚は友達を連れてアタシのライブを見に来てくれていた。

 優しそうな子だったけどまた次のライブも見に来てくれるかな……。

 

「お父さん、アタシはアタシの為だけじゃない。渚やファンのみんなのためにも活動してるんだ。だから証明すればいいんだよねアタシが……アタシ達はやれるってことを……」

 

 学生時代だけの思い出になんかさせない。

 アタシ達の音楽はアタシ達がお祖母ちゃんになっても誰かに伝わるような響くような音楽にしていきたいんだ。それを否定すると言うなら真っ向から見返してやる。

 

 

 

 

「行くぞおおおおおみんな……!!」

 

 アタシはこれまで以上バンドに対して意欲的になっていた。ファンのみんなもアタシに共鳴するようにして盛り上がってくれていた。勿論、渚やその友達の子もだった。良かった、また見に来てくれたんだ。だったらアタシもその期待に応えなくちゃいけない。

 

「見せるからお父さん……これがアタシだって……」

 

 自分のためだけじゃない。他人のためにもアタシはやってやる。お父さんがアタシのバンドを認めないっていうならこっちだってやれるってところを見せてやる。アタシ達の実力はこんなもんじゃないっていうことを……。アタシ達は生半可な気持ちでバンドをやっていないということを……。それを証明すればお父さんだって認めてくれるはずだ。

 

「遠い空の星平衡したまま同じ夜を願いながら見上げた」

「全てを繋ぐ線は音を立てて崩れて深く混ざり合う程に夜明けを望んでいる」

 

 アタシは全身全霊を込めて歌にぶつけていた自分の想いを……叫びを……。恵梨もそれに合わせてくれているようで女性のパートをきっちりと歌い上げてくれていた。

 

「愚かしく麗しい人生が息苦しくても壁は高ければ高い程乗り越える意味があるから」

「100万年の1でも夢が叶うなら」

 

 アタシは恵梨には本当に感謝しかない。

 ただ本当に自分の心の叫び、鬱憤をぶつけているだけだというのにそれに付き合ってくれているのだから。それは恵梨だけじゃない、琉藍だって香織だってそうだ。アタシの魂をみんなの魂と一緒になって音になってくれているのだから。そして、なにより客席から見てくれている皆と竜弥のおかげだ。

 

「ありきたりな世界を」

「型破りな世界へと」

「「変えれる一人じゃないからあああああ!」」

 

 歌っている最中、お父さんのことなんてどうでもよくなっていた。

 どうでもよくなりながらも気持ちよく歌えている自分に酔いそうになりながらもアタシは歌い続けると客席の方で一人のお客さんが目に入っていた。お客さんの顔を一人一人覚えている自信があるアタシはそのお客さんを珍しそうにちょっと見ていると、見覚えがある人だったのだ。その人物は先ほどまでどうでも良くなっていた、お父さんに似ていたような気がしていたのだ。

 

「気のせいだよね……?」

 

 小さくな声で自分を納得させていた。

 だってそうだ。お父さんはアタシが音楽をやるのが反対だったはず。なのに、お父さんがこんなところに居るはずなんて万に一つもないのだから。

 

 

 

 

「本当にお父さんじゃなかったのかな……」

 

「どうしたんだ千里?」

 

「竜弥……あーちょっとね。さっき観客席から見ていたお客さんの中にお父さんっぽい人が居たんだ」

 

 ライブを終えた後、アタシはファンの反応をネットで見ながらも楽屋でただ一人椅子に座り込んでいた。他の皆は片付け等していたが一人だけ先ほどのお客さんのことを考えていたのだ。

 

「千里のお父さんって確か音楽やるの反対してたんだよな?」

 

「うん、だから来るはずないんだけど……仮にお父さんだとしたらどうして来ていたんだろう」

 

 本当は来てくれていて良かったという僅かな気持ちはあったし、見返してやれたかもしれないなんていうのもあったけど何故あの場に居たのかが本当によく分からない。あれだけアタシに音楽なんてくだらないなんて言ってもっと違う道を生きろなんて言っていたくせに……。

 

「千里がどうしても気になるって言うならお父さんに直接聞いてみたらどうなんだ?」

 

「それはちょっと嫌かな……。どうせ言われることなんて嫌味ばっかだろうしさ……」

 

 どうせライブに来ていたよね?と言っても返って来る言葉は分かり切っている。アタシに対して辛辣な言葉を投げて音楽を諦めさせようとしてくるに決まっているんだ。

 

「アタシ、片付け手伝ってくるね」

 

「ああ……」

 

 あのお客さんのことは忘れよう。どうせ考えたってしょうがない。

 片づけを手伝いながらもあのお客さんのことを考えるのをやめていた。だって考えていてもしょうがないことだから。

 

 

 

 

「オリジナル曲って……え?恵梨って曲作れたの!?」

 

「ちゃんと作れるって訳じゃないんだけど最近ボカロを噛み始めてさ……それで多少は作れるようになったんだ」

 

「それでも凄いじゃん!!」

 

「へぇー?エリー曲作れるようになったんだ」

 

 香織や琉藍が「凄い凄い」と言っているのを聞いて、恵梨は悪くはないと言いたそうにしながらも二人の話に頷きながらもアタシに丁度作っていた楽曲を見せてくれた。その楽曲はアタシに沿ったものであり、ジャンルはロックだった。最初から激しさ全開の曲であり、この曲をライブでやれば盛り上がること間違いない。

 

「恵梨この曲このまま採用で良いよ」

 

「え?いいの?」

 

「うん、アタシ達にピッタリなロックな曲だと思う」

 

 いきなり採用と言われた恵梨はビックリしているようだったが、それほどまでにアタシはこの楽曲に惚れこんでいたのだ。この曲なら新しいオリジナル曲の最初としては悪くないと……。

 

 

 

 

 二年生になった頃のアタシ達は丁度活動を初めて半年以上が経つこともあり、そのときにオリ曲を発表していた。オリ曲を発表した際、アタシ達が思っていた以上に賑わいを見せており、今まで以上にワン・フォー・オールが知れ渡るいい機会になったのは間違いなかった。

 

 

 

 

「海外、か……」

 

 二年生も後半となり、アタシ達は学園祭へのライブに向けて準備を進めていた。

 何度もスマホを見ていたこともあってか、恵梨に聞かれてしまってそのまま答えてしまっていたけど本当に海外に行くことは嫌だった。お母さんとまた一緒に暮らせるというのは本当に嬉しいことだけど今のアタシは此処にいることの方が楽しくてしょうがなかった。だからお母さんには悪いけど今は此処に居たいっていう気持ちが強かったのだ。

 

「お父さん、アタシ……海外なんかに行きたくない」

 

「どうした?昔は母さんのところに行きたいってよく言っていたじゃないか」

 

 ほら、話が噛み合わない。

 これじゃあまるで話なんて出来るわけがなかった。

 

「音楽なんてどうせ続かないんだ、だったらお母さんと暮らしてしたいことを見つけて行けばいいじゃないか」

 

「もういい……」

 

 分かってくれるはずもないなんてことは分かっていた。

 分かっていたけど本当に時間の無駄でしかなかったことにアタシは苛々しながらも部屋に戻って行くことにした。

 

「行きたくないな海外……」

 

 お母さんっ子だったから昔はお母さんのところに行きたくてしょうがなかったけど今は行きたくないという気持ちが強い。みんなと離れるなんて嫌でしかなかった。でもお母さんとまた会えるの楽しみだな……。

 

 

 

 

 

 

「どうすればいいんだろ……」

 

 

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