傷だらけな多重人格の青年は泥臭くもVtuberとして呼吸をする   作:村上トオル

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届かなかった言葉を今一度

「……必ず、必ずだよな!!母さん!!?」

 

 五日後の日……。

 俺は母さんと会う約束をしていた……。三年という空白は大きく、母さんと再び会うことで俺は精神的にも肉体的にも成長できるんだろう。それでもまだ自分の中で疑念が生じていた。ベッドに横になりながらも、幼い頃の母親との断片的な記憶が浮かんでくる。たまに見せてくれた優しい笑顔や、優しい所、子供ながらに「自分は本当に愛されているのだろうか」と感じていた幼い日の疑問はあった……。でも、俺は知っていたはずなんだ母の優しさを……。一つ一つが今でも浮かび上がり、眠れないまま夜が更けて行く……。

 

 気づけば……その日はやって来ていた。

 スマホの電源を付けると、既に零時を回っており一日前が終わりを告げて今日という日がやって来ていた。そのまま、ホーム画面に行き動画サイトに行くと真っ先に表示されたのが一昨日のアンナ達のライブ配信。総視聴回数はそれなりに再生されており、かなり評判は良かったらしい。俺の声が入っていなかった少し不安ではあったが、そもそも俺は配信を終えるまで喋っていなかった為、俺の声が入っていることはなかった。

 

「今日のライブ凄い良かったよな!!」

 

 自分の家に入る前、家の前に立っていた静音にそんなことを言われていた。

 静音は俺が帰って来るまで待っていたようで俺が帰って来たことに気づいた途端、スマホを持ちながらも俺に手を振っていた。そんなに手を振らなくてもこっちは気づくというのにだ。俺は静音の言葉に対して「ああ、ライブ凄い良かったよ!」と返していた。熱意が高まっていたあまり、その場であの日のライブのことを熱弁してしまいそうになっていたのをぐっと堪えながらも俺は「じゃあな、静音」と言いながらも部屋の中へと入って行った。あの場でライブのことを熱弁していたらきっと俺は止まらなかっただろうし、ご近所さんに迷惑になるのを配慮していたこともあったのだ。

 

 因みに、俺はあの日……あれ以上千里達とは話していない。

 千里達も片付けやらなんやらで忙しくて俺達と話す機会は取るのは難しかったらしい。琉藍は面倒だからそういうのを抜けて来て俺のところにやって来ていたようだったが……。今はそれにあれ以上千里達とも話す事はないだろう。俺はあの場で千里に全てを話した。これからも一生傍にいると……。ほぼプロポーズとも取れるあの言葉……。俺の中ではちゃんと響いていたし、なにより俺はちゃんと千里達にお礼を言うなら全ての物事に決着がついたときだ。皆は俺からの謝罪なんて要らないって言うかも知れないけど……。

 

 

「謝罪か……」

 

 俺は……母さんから謝罪を受けたとしてどんな言葉をかけてもらったとしても……俺はそれを信じられることが出来るだろうか……。母さんの優しさを知っているからとはいえ、俺はぶつけらそうになった殺意のことも知っている。期待と不安が交互に入り混じり、寝室の暗闇の中で俺はシーツに身を擦りつけながらも俺は少し疑問が生じていた。いざ、会ってみたら会うじゃなかったと後悔することになってしまうかもしれない。でも、今此処で会っておかないときっと後悔することになるはずだ。と俺は自分に言い聞かせながらも目を瞑り始め心の準備を固めていた。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

「明日だね、お母さん……。お兄ちゃん、元気にしているかな」

 

「……そうだな、結衣」

 

 私は竜弥と会うことが怖い。

 あの子にはきっと私がしようとしていたことを責められることに違いない。幼かった頃の竜弥にあそこまで言わせてしまった自分自身が憎いという憎悪を向けることはあれど、それは仕方なかったと言い聞かせる時期もあった。今はきっとあのときの行動は悪いことをしてしまった、取り返しのつかないことをしてしまったという自覚はある。だからこそ、私は仕事につき竜弥や結衣に愛情を注ごうとしていた。結果的にそれは失敗に終わってしまい母親としても余裕を持てずにいた……。

 

 竜弥はきっと私のことを恨んでいるだろう。恨まれていても仕方ない。

 

 

『俺に……何も言わないのかよ!!』

 

 竜弥は私から謝罪の言葉を待ってくれている。こんな私にもう一度チャンスを与えようとしてくれているが、竜弥はきっと私のことを憎んでいるだろう。あの行動は本当に取り返しのつかない行動だったのは間違いないのだから。でも、正直三年間会ってない間に竜弥がどれだけ成長したのか気になる親心もあった。あのときは少しチラッとしか竜弥のことを見ていなかったが、今度はちゃんと真正面から竜弥のことを見てあげることが出来る。それは本当に楽しみだった。微かな希望を抱きつつも眠りにつこうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 目覚まし時計の音が響き、目を覚ます。

 しばらくベッドの中で天井を見つめていると、「いよいよだな……」という声が出る。夜の間に眠りについたはずなのに、心は重く体はだるいまま。再会の約束を思い出すと、胃の奥がぎゅっと縮むような感覚に襲われる。それほどまでにこれから会う母さんに恐怖しているのかもしれない。

 

 俺は溜め息をつきながらも、布団を蹴り飛ばして立ち上がる。

 今日という日のこともあってあいつら(人格達)が話しかけてくるかと思ったが、そういうことは全くなかった。ライブ中、高校時代の俺が何も話しかけて来なかったのは意外だったけどあのときの俺も千里の演奏を聞いて心に響くものがきっとあったはずだ。

 

「なんでこんな怖いんだろうな……」

 

 自分が今抱えている恐怖心に怯えながらも俺はシャワーを浴び始めていた。

 俺の頭の中は今日会う約束をしていた母さんのことでいっぱいいっぱいになっていた。どんな顔をして現れるだろうか?自分を見て何を言うだろうか?「会えてよかった」とか「大きくなったな」とか言われたら、どう返せばいい?そんな思考が堂々巡りし、気づけば体を洗う手が止まってしまっていた。

 

 風呂を出て、俺は身体や髪を拭いてドライヤーで自分の髪を整えた。ブラシを使って丁寧に髪を解き、整髪剤で髪をしっかりと決めていつもより少し丁寧に身だしなみを整える。なんだかんだ恐怖心を抱きながらも母さんに会うことが楽しみだったのかもしれない。鏡の前で会う準備を固めて、俺は目をはっきりと開けていた。

 

 

 

 

 家を出る直前、俺はリビングからバッグを手に取りながらも、時計を見つめる。時間は約束の一時間前、時計は時間が止まっているようにも、猛烈な速度で流れているようにも感じていた。少し早めに出るかと思い立ち、無意味に準備を繰り返すことで不安を紛らわようとしながらも、俺は扉に触れようとする。

 

 

『行くんだな……?』

 

 聞こえて来たのは高校時代の俺の声……。

 ぎこちなく触れていた俺の手はそこではっきりとしたものになっていた。そうだな、そうだよな俺……。こんなところで怖がっていても仕方ない。前に進むと決めたからには前に進もうと精一杯足掻いて見せようと……。母さんの第一声がなんであろうと、俺は受け入れると……。

 

「ああ、行こう俺……」

 

 俺達は自分達を取り戻す為の盛大な一歩を踏み出そうとしていた……。

 取り返しのつかない一歩、大きな一歩になるかもしれない。それでも俺は進もうとしたことを後悔だけはしたくない。鍵を閉めて俺は歩き出した足を止めることはなかった。歩いている間、母さんとの思い出が何度も何度も思い出されながらも俺は臆することなく母さんが指定場所へと向かっていた……。

 

 

 

 

 

 そして……再会のときはやって来た。

 

 

 

 

「……母さん、結衣。久しぶりだね」

 

「うん、お兄ちゃん……」

 

 俺にとってこの日をどれほど待ち侘びただろうか。

 俺達にとってもこの日はどれほど待ち侘びただろうか。今目の前にいるのは結衣だけじゃなく……母さんもいる。俺は母さんの出る言葉を待っていると、母さんは徐々に姿勢を崩し始めて最後には……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当にすまなかった竜弥……!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 土下座をしていた。

 

 

 

 

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