傷だらけな多重人格の青年は泥臭くもVtuberとして呼吸をする   作:村上トオル

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選んだ解答

「私は竜弥の首を絞めようとしたのは自分が楽になるためだった……!お前のことを血の繋がりのない子供だから……殺しても罪悪感を感じないと魔が差していた……!でも私は寸前のところで手を止めた……!!それでも竜弥は私にとって血のつながりがなんかなくても自分の子供だと……!!だからあのとき手を止めたんだ……!!でも竜弥に気づかれて私は謝ることが出来なかった……!!ごめんと言えなかった……!!私は最低の人間だ……親としても人としても……!!」

 

「竜弥に殺していいよと言われたとき、私はちゃんと働こうと心に決めた。それが竜弥への罪滅ぼしになると信じて……。でも、結局私は自分のことしか見ていなかった……!!働いてそれを二人に還元しているだけでいれば二人はそれで納得してくれるだろうし、罪滅ぼしもできると……!だからあの日結衣の誕生日を祝う事も出来なかった……!傍にいてやることも出来なかった……!!全部が……全部私の責任だ!!」

 

 母さんのいつも聞こえていた低い声。

 今は低く掠れた声で聞こえていて、いつもの何を考えているのかがよく分からないと言ったものとは全く違った。言葉が途切れ途切れになりながらも嗚咽のような声が耳に届いていた。母さんの声と言う名の叫びは慟哭となっていたのだ。

 

「こんな私を許してくれとは言わない……!!だけど、竜弥のことも結衣のこともちゃんと愛していた……!!自分を守るための自己弁護、言い訳にしか聞こえないと思う。それでも私はお前達のことを愛していた……!!」

 

 あいつだったらなんて言うだろうか……。

 今も気づいていないだけで母さんのことを許せない、殺せと言っているんだろう。母さんのことを憎くて憎くて仕方のないあいつのことだ。そう言うに決まっている。あいつの声が聞こえてないことが少し疑問だが、それは今置いておくべきだろう。なによりも今重要なのは……俺が母さんのことを許せるか……どうかだから。

 

 

 

 

 

 

「母さん、そうだな……。そうだと思う、それは結局は自分を守るための言い訳に過ぎない……。だから……」

 

 夜中に雨が降っていたようで水溜まりを踏みながらも俺は母さんへと徐々に近づいて行く……。

 その足取りは重たいように見えて軽いようにも見えていた。ただその一歩ずつが俺にとってとても重要なものでしかない。水溜まりを踏む度に俺は母さんとの色々な思い出が記憶の中で鮮明に思い出されていた。

 

 母さんの目の前に立つ……。

 母さんは俺が目の前に立って少し怯んでいる様子だったが、俺はそんなことはお構いなしに胸倉を掴んで握り拳を作り、その拳を振り落とすと母さんの頬に鈍い音が響いていた。一発入ったのを見てから母さんの表情を見ると、先ほどまで怯んでいた母さんが俺の目を見ながらも殴られるだけのことをしたから好きなだけ殴れと言いたそうにしているのを見て、俺はもう一度肩を上下に揺らしながらも拳を振り落とすと母さんの頬はかなり赤くなっていた。

 

 何度も何度も……母さんの頬に拳を打ち込んでいるうちに俺は溜め息をつきながらも……母さんの胸倉を放してこう言った。

 

 

 

 

「もう気分は晴れた……。これでもういいよ」

 

「竜弥……」

 

 殴られた母さんの頬を見ないようにしていたつもりだったが、いざ視界に入ってしまうと俺は罪悪感に駆られていた。人を殴るなんて……慣れないことはするもんじゃないな……。それに全然嬉しくなんてなかった。

 

「痛かったよね、母さん……ごめん」

 

「いいんだ、私はそれだけのことをしたから……」

 

 母さんの前に手を出すと、母さんは俺の手を取って握ってくれた。

 その感覚にかつて感じたことのある感覚を思い出して俺は母さんに見えないように少し口元を緩ませていた。

 

「きっと俺は母さんにされそうになったことを忘れられない……。でも俺は……母さんから受けた優しさもあったからこそ俺はずっと苦悩してきた……。母さんにはあの出来事以上に色々なことをして貰ったから、母さんの言うようにそれはきっとただの自分を正当化するための罪滅ぼしに過ぎなかったのかもしれない。それでも、俺はあの日初めてラーメンを食べた味を覚えている。母さんの手の温もりを今でも覚えている。なにより母さんは俺と千里の関係を応援してくれていたことも知っているし、母さんは千里が入院しているとき謝りに行ったことも知ってる……」

 

「今日此処で三年ぶりに母さんに再会して分かった……俺は心の底から母さんのことを……」

 

 

「憎かったんじゃないって……」

 

 口から出た言葉を言うまでにかかった時間はそう長くはなかった。

 こんなにも簡単なことだったんだ。憎くなかったという言葉を言うのは……。俺はこの言葉を言うのを今まで恐れていたから、自分を納得させることが出来るのかと……。自分自身が復讐心に囚われて母さんのことを殺そうとしないかと不安だったんだ。

 

 でも違うよな……。

 最初から分かっていたことだったんだ。会えば分かることだったんだ。復讐が駄目だということも……。それに囚われることも……。もっと早く母さんに会っていればそれに気づけたのかもしれない。少し後悔しながらも俺は言葉を続ける。

 

「……今すぐにでも許すってのは無理だと思う。でもこれからゆっくりと俺は母さんのことを許していきたい。偶に帰ったりして顔を合わせるから……。だから、これから先楽しいことだったり、良かったこととか……それ以前のことだって母さんに話したい、何処か出掛けたりしたいな。そうだな……昔行ったラーメン屋に行ったりとかしてみたいな母さん」

 

 俺の声は徐々に優しい声になっていた。

 母さんの肩に手を置きながらも先ほどまで母さんのことを殴っていた拳には痛みが伴っていた。気分は晴れたと言っていてもその拳は泣いている。泣き叫びながらもこの行動は必要だったのだと言い聞かせている。一つだけ言うことがあるとすれば、もう母さんのことは殴りたくない……。

 

「竜弥……私はいつだってお前と過去の話や今の話や未来の話をしたい……。こんな私を許してくれるならお前ともう一度話せる機会を与えてくれ……」

 

 今の俺の表情は母さんからすれば聖母に満ち溢れている顔をしているかもしれない。

 頭の中では様々な感情が螺旋階段のようにぐるぐると回っていたけど、それでも俺は目の前にいる母さんの真っ直ぐな瞳……。なによりも瞼から幾つも零れ落ちている真っ白の輝きを見て俺は母さんの真意をようやく見れた気がしていた。だから、俺が今から言うことはこれしかない。

 

「いいよ、母さん……。でも一度だけじゃなくて何度でも話そうよ。色んなこと……」

 

 母さんは何度も頷きながらも「ああ……」と言ってくれていた。

 不思議と体が軽くなっていた。鎖のように何重にも縛られていた蟠りは母さんの言葉によって今解放された気がしていた。胸の奥からは新鮮な風を吹き抜けており、太陽の光が俺のことを照らしているのも含めて俺という人間がこれから先の自分の人生を歩むことが出来ると言う想像の余地を膨らませていた。

 

 俺は……これから先のこと……母さんと会っていなかった間のこと……色々なことを感情を出しながらも話して行きたい、本当にそんなふうに思えていたからこそ俺の心の鎖は解放され、なによりも……俺の中にいる俺達もようやく浄化の道へと導かれることになるんだろう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

『なんで……なんでなんだよ僕……!!なんで裏切るんだよ……!!』

 

 

 

 

『母さんのことが憎かったんじゃないのかよ……!!』

 

 

 

 

 一人を除いては……。

 

 

 

 

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