傷だらけな多重人格の青年は泥臭くもVtuberとして呼吸をする 作:村上トオル
「リュー、このギターあっちの方まで運んでくれない?」
「ああ、分かった……!!」
私はリューに仕事を頼むと、せっせと動いてギターを運び始めていた。
置いた後に「此処でいいか?」と聞いて来ていた為、私が「オッケー」と言うとその場にゆっくりと置いてくれていた。楽器を粗末に扱うことなく最後までしっかりとやる気ところは流石リューだねぇ……。お祖母ちゃんが此処に居たら、アンタも見習ったらどうだいと言われているところだっただろうけど生憎お祖母ちゃんは今出先だから安全安全……。
「全く、アンタも少し見習ったらどうだい?」
「あれ……?お祖母ちゃん?」
入口のほうからお祖母ちゃんの声が聞こえて来て「まっさかー」となっていると、そこにはリューが一生懸命働いている姿に素直に関心しているお祖母ちゃんの姿があった。
「あれ?お祖母ちゃん出掛けたんじゃなかったの?」
「用事ならとっくに終わったよ。アンタが坊主に任せてないか心配でね。すぐに帰って来たって訳さ……。竜弥君、今はもう昼時だし休憩に入ってくれて構わないよ」
「あっ、ありがとうございます……!」
「じゃあ、私も……」
リューが休憩に入ろうとしているタイミングで私も一緒に休憩に入ろうと休憩所の方向転換しようとしたときだった。お祖母ちゃんは私のシャツを思いっきり掴んでくる。
「アンタは駄目だよ。あの子を見習ってちゃんと働くことだね」
「やっぱりそうなるよねー」
お祖母ちゃんという地獄のような悪魔が帰って来たことにより、私はこれから労働という地獄を待つことになるのだった。リューが此処で働いてくれるようになったから、少しは楽が出来ると思っていたんだけどなー。お祖母ちゃん、完全にそれを見抜いてたよ。というか初日で見抜かれて指摘されて正論パンチされたんだけどねー。
「まあ、リューもちゃんと働いてることだし働かない訳にはいかないかー」
新人バイトのリューが頑張っているのに私が頑張らないなんて流石に不公平もいい所だろうし、流石にそろそろちゃんと真面目に仕事をし始めますか……。というか、お祖母ちゃんがめっちゃ睨んでくるから怖いだけなんだけど……。
「はぁ……やっと休憩できる……」
約30分間真面目に働きまくっていた私は疲れ果てながらもリューとは向かい合うような形で椅子に座っていた。机の上に手を伸ばしてその上に頭を乗っけながらも私はスマホを片手で弄っていた。
「まさかリューが此処でバイトするなんてねぇ……」
「本当に助かったよ、琉藍」
「いいっていいってー」
リューが此処で働くようになったまでの経緯はちょっとある。
と言うのも、私がコンビニで買いものをしに行こうとしていたときにコンビニ前でスマホと睨めっこしている姿があったから、なにしてるんだろうと思ってスマホと顔の間に手を置いて上下に振って「なにしてるのさー?」と聞こうとした瞬間、内容を話すのが嫌だったのか口篭っているのを見てスマホを取り上げると、求人を探しているのが目に入っていた。
私も流石にその場で職探してるんだーなんて言えるはずもなく、近くに偶々あった喫茶店で話を聞くと、本当に職探しをしていたようけどいい求人が中々見つかなかったらしい。そこで私は思いついたようにこう言ったのだ。
『じゃあ、私のところで暫くバイトすれば?』
と……。
キッカケは割と単純だったけど、リューには丁度いい機会だったと思う。チサがやっている音楽というものに触れることが出来るいい機会だった訳だし、これで少しは音楽に詳しくなれるわけだからさー。
リューは私の言葉にすぐに了承していた。その日の内にお祖母ちゃんに面接をして貰う事にしてもらった。お祖母ちゃんには「急に連れて来たね」と飽きられながらも言われたけど真剣な眼差しになっていた。
『アンタ、どうしてうちで働きたいんだい?』
と聞かれたリュー。
『俺は今まで音楽というものを知らないままで琉藍達の音楽を聴いてきました。でも、やっぱりみんなのことを知って行くなら、ちゃんとみんなが好きなものを知るべきだと思うんです。知って行く上で俺はみんなの音楽というものは本当はこういうものだったんだと知りたいんです。だから、謂わばこれは興味本位という奴なのかもしれません』
正直に答えているリューの言葉を聞いて、お祖母ちゃんは腕を組みながらも目を瞑っていた。
『なるほどねぇ……。アンタの言っていることは悪くはないよ。このバカ孫のことやあの千里という女の子達のことを知りたいから自分もそれに触れたい。そして、それは恐らくこのバカ孫から吸収したいと思っているんだろうねぇ……。幸い、その千里もウチで働いてるからいい機会じゃないかい?』
「そうなの?」と言いたそうな表情を浮かべながらも私の方を見るリュー。
ああ、そういやリューには言ってなかった……。最近になって千里がうちでバイトするようになったっていうこと……。お祖母ちゃんは私の方をチラッと見られて私は口笛を吹いて無視することにしていた。
『まあ、ウチで働きたいという意志は充分に伝わったよ。それじゃあ悪いけど、今日からよろしく頼むよ』
『は、はい!!』
と言った感じでリューはその日の内にバイトとして採用されて今ではこうしてしっかりした働き者として働いている。因みに私がお祖母ちゃんに任されて仕事を教える際、残業代無し。年末年始も休みなし。休む場合は代わりの人を見つけてねーと揶揄ったらお祖母ちゃんに思いっきり引っ叩かれた……。冗談なんだから軽めに流して欲しいんだよねー、本当に……。
「そういえば琉藍、初配信お疲れさまってまだ言ってなかったな」
「ちゃんと出来てたでしょー?」
無言で頷きながらも「確かにな」と彼は言っている。
私が配信をやるまでリューはかなり心配だったようで何度も連絡をしてきていた。面白いから凄い揶揄いまくってったけどさー。私に対して本当に準備は万全なのかと聞いて来て、私は……。
『まあ本番で動かなかったらその場で考えるから大『ちょっと待て、それ大丈夫じゃないだろ。一回ぐらいテストしといた方がいいぞ』』
『うーん?じゃあ、テストの仕方教えてよー?あっ、昼寝今からしたいんだよねー。昨日夜中まで準備してたからさー』
寝る素振りをする音をわざと立てるとリューは危機感を抱いていた。
自分がちゃんと言わないと駄目なんだろうと思っていたんだろうね。
『そんな余裕ないだろ……ちゃんとやっておかないと後で後悔することになるのは琉藍の方なんだぞ』
『分かってるよー。ちゃんと準備してあるから安心してよー?本当リューは揶揄うと相変わらず面白いんだからさー』
『揶揄ってたのかよ……』
とやり取りを配信前に少ししていた。
これと似た話を香織ともしていて香織は私に対してノリツッコミしながらも反応を示してくれて面白くて仕方なかった。チサだったら本気で心配されそうだから何も言えなくっちゃうし、エリーだったら「早くやって」とか「真面目にやって」とか言って鬼のようなこと言われただろうなー。まあ、エリーは厳しいけど結構優しいところあるんだけどねー。
「初配信、結構よく出来てたな」
「でしょでしょー?ビビったでしょ?」
元ゲーム実況者で今はVのリューにそう言われるということはこりゃあ初配信は大成功って言う奴なんじゃないかなー。よくVの初配信なんて失敗ばっかりだって聞いたし、実際Vをこの数日間で研究していて分かったことだけど、私は結構上手くやれた気がする。
「……」
「あーやっぱりビビったんだ」
無言で何かを言うのを堪えているリューの顔をスマホで撮った後に、私は動画サイトで自分の配信を流し始める。
初配信のタイトルは『
配信が始まると、画面には暗い背景が映し出され、どこか不穏な空気が漂う。少しぼやけた映像、微かに見えている街灯が消えたり灯いたりしている。音のない静寂が暫く続いている。
『なにこれ?』
『放送事故?』
『なんかそういう演出?』
面に「配信準備中」とだけ書かれた文字が表示され、リスナーは何も起きないこの状況に少しずつ不安を感じ始めていると、突然画面にノイズが走り、何もかもが乱れ始める。音もなく、画面が揺れ、まるで映像が壊れているかのように……。リスナーからは「なんだこれ?」といったコメントがちらほらと流れ始め、緊張が高まっていると数秒後、画面が真っ暗になり、一瞬だれかの足が映っているのが見えていた。
『誰ェ……?』
『初配信、ホラー回とか聞いてない』
『こっわ……!!』
それぞれ思い思いの反応が書かれている中、徐々に近づいてきた人と思われる人物……。
じわじわとカメラに近づき、緊張感が高まる。次の瞬間、カメラが倒れる音と共に激しいノイズが画面を支配する。画面が乱れ、何も見えない状況が続いていた。「何が起きた?」「バグ?」とコメントを飛ばしていると……。
数秒後に画面が一度暗転し、次に現れたのは大きな目がカメラに近づいてくる瞬間。目だけが画面いっぱいに映し出され、赤色の瞳の奥が光っているのが見える。その目はまるで私たちを見透かすようにじっとこちらを見つめていて、まるで何かを探し出そうと必死になっている。リスナーの間で一気に緊張感が走り、コメント欄では「え、なにこれ!?」「怖すぎ!?」と混乱している人が増えている。
そして、突然画面がパッと明るくなり、私がにっこりと笑いながら現れる。
「はーい、びっくりした?びっくりした?ごめんごめん、これも一部の演出だから!」
という訳で此処までが私の配信の初配信の茶番っていう訳だよー。
いーや、正直此処までビビって貰えるとは思わなかったよねぇ。だってみんな、滅茶苦茶怖がってたし足ガクガクになって配信目瞑茶った人とかも居たんじゃない?エゴサした感じだけどさー。
「そんな怖かったのー?臆病だなぁ……まあ、怖がってもらえたのならなによりだよー」
『マジでビックリした!』
『ホラー演出滅茶苦茶怖かった』
『目の前にいる美少女はお化けじゃないよね?』
「えー?私がお化け?ふーん?まあ、八尺様みたいにみんなに付きまとったりしちゃうかもねー?」
自分の見た目を改めて確認する。
私の見た目は赤色の鮮やかな瞳に黒髪の短髪ボーイッシュって感じの見た目……。私の見た目とダブっているのは多分きっと恵梨が私のことを参考にしたんだと思う。なんでかは知らないけどねー。
「付きまとって欲しい?知らないよー?どんな結末になってもー?例えば……いや想像に任せるよーこういうのは」
わざと濁した言い方をするとコメント欄は賑やかになって、「え?え?なにされるの?」と反応をしている人が多かった。みんなもどうやら興味津々になってきたみたいだねーと私がニヤニヤしていると、更に揶揄いがありそうなコメントを見つける。
「ガチ恋?いいけどさぁ、人生破滅しても知らないよー?」
「まぁ破滅したら私の配信が支えになれるかもねー、ふふっ」
『この子やばい子じゃない?』
『凄く魔性の香りがする』
思わず揶揄い甲斐があるコメントを見かけた私はそのコメントを読み上げた後に揶揄うようにして笑いながらも言う。ただその笑みは人によっては魔性の笑みに見えていたかもしれないけどねー。というか、香織には実際言われたけど。
「まあ……そんなところで私の紹介をしていこうかなって思もうんだよねぇ」
私は自分の紹介に映っていた。
エリーは私のことをちゃんと決めていなかったようなので私が好き勝手決めることにした。その内容としては簡単に説明してしまえば、私が普通の人間であることと、心臓が喜ぶことが大好きということ、廃墟マニアだということを紹介したり、自分の好きな物がバナナやレトルト食品だと言うことも紹介した。因みに好きな物に関しては単純に食べるのに捨てるものが少なく済むから。廃墟に関しては今後やるであろう、ちょっとした視聴者達と体験していくものに触れることになるから今は置いておいた。配信中にも突っ込まれたけど、追々って感じだねぇ。
「でまあ、みんなも気になってると思うんだけどさー。心臓が喜ぶことってなに?と思う訳じゃんよー。私ドラムが好きで毎日ヘビメタ叩くのが滅茶苦茶好きでねー。叩いている間凄い心臓が喜ぶんだよねー、多分だけど好きだからこそそういうふうになるんだと思うからさー」
多分こいつ何を言っているんだ?と思われるだろうなーと思いながらも言っていたけど、案外そうでもなかった。私の話していることに共感してくれている人の方が圧倒的に多かった、ふーん?意外とV界隈ってあったかいんだねぇ。実際、それ分かる気がするみたいなコメント欄も見えていたからさー。後、私がヘビメタ好きなことに触れてくれたりしている人もいた。
「おっ、分かってくれる人いる?だから私の活動を通して私自身が心臓が喜ぶようなことがあればいいし、みんなの心臓が喜ぶことがあればいいと思うんだよねー。まあ、ぶっちゃけ面白そうだからV始めたんだけどねぇ」
『素直でいいね』
『最後の最後で本音出てて草』
「という訳でまあこんな感じかなぁ……」
好きな音楽ジャンルとして昭和歌謡を挙げようと思ったけど、これに関しては後の歌枠に取っておいた方がいいかなぁ……。後の楽しみになるしさ。
「じゃあ、これからもみんなよろしくねー」
『よろしくねー!』
話をある程度台本も読み終えた私は一息つくかのようにして息を吐きながらも言うと、画面が一瞬乱れ、ノイズが走り始める。突然、画面に不穏な音が響き、リスナーには一瞬何が起きたのか分からない。数秒の間、画面は真っ暗になり、その後、ぼんやりと映る何かが映し出される。
それは、人間の目のように見える、巨大な瞳だった。恐ろしいほどに大きな、どこか異次元から来たような目。ノイズが再び鳴り響き、画面は一気に暗転する。その瞬間、私の声が不意に響く。
「夜道には気を付けてね」
「なーんて、ビックリしたー?怖かったよねー?じゃあ、今度こそ……」
「じゃあねー!!」