傷だらけな多重人格の青年は泥臭くもVtuberとして呼吸をする 作:村上トオル
安藤みのりの初配信が三日ほどが経っていた。
あの不気味な感じの初配信が反響があったことにより、彼女の次の配信というのはかなり期待されていた。次はどんな配信をやるのだろうか、どんなことをしてくれるのだろうかという楽しみが視聴者の間では繰り広げられていたりしていた。そして、始まった第二回目の配信は架空廃墟探検体験ツアーというものだった。
どんな内容かというと視聴者と共に架空の廃墟を探検しながらも廃墟に潜む恐怖というものを味わうというものだ。但し、みのりは全く怖いという感情を抱くことがないためどちらかと言うと視聴者で遊んでいるという状況に近い。だが、それがかなりウケたようで彼女の配信は二回目も大きく反響を呼んでいた。因みに俺はその配信は途中で怖くなって配信を見るのをやめてしまった。因みにこれに関しては琉藍は気づいてたらしく後で「ビビりだねぇ、リュー」と煽られたが俺は無視した。反応したら絶対揶揄われるからだ。
三回目では彼女の眠くなるような声で朝雑談枠というものをやって眠ろうとしている視聴者に対して「私も眠いんだよねー」と言いながらも、「でも駄目だよー」と言いながらもドラムロールで叩き起こそすという鬼畜の所業をしていたらしい。こういう感じでみのりは配信している為、視聴者との掛け合いをよく面白がられたり、彼女がよく反応してくれるというのも相まって人気を博しているようだ。きっとみのり……じゃなくて琉藍も疲れているだろうなと俺は労わろうとしていたが、そんなことはなかった。
「はぁ……次の配信のネタ考えないとなぁ……」
「あの廃墟探検体験配信良かったぞ」
「でしょー?まあリューは途中で見るのやめてそうだけどさー」
「……」
俺は何も言えずにいた。実際、怖くなって途中で見るのをやめてしまっていた。
仕事中大体いつもこんな感じで面倒そうにしているが琉藍はそれなりに楽しめているようだ。あの廃墟探検体験配信だってまだ粗はあったが、初回にしてはかなり良かった。本当の廃墟に視聴者と遊びに来ているという感じが恐怖心を煽らせていただろうし、琉藍が考える廃墟の題材というのもかなり悪くなかった。よくある事件とか事故とかそういう類のものではない。
海に浮かぶ灯台を舞台としたものであり、その灯台はもう使われてはいないが、その灯台の中で変な影を見ると灯台の光が不気味になるらしいという噂があったのだ。その光が何処かを照らしているのか?という謎に迫るという物語になっている。彼女は配信中に「一緒に灯台守になりたい?」と軽く誘うような冗談を言ったり、変な影が見えた瞬間夢の中に放り込まれると灯台の光が不気味に光っているのだ。足元は砂浜だが、波は静かで、何も音がしない。そして砂浜の向こう側からは巨大な影が見えていて、影が一歩動く度に地面が震えていた。このとき彼女はあたかも自分も怖いと焦っているように見せかけて視聴者達に緊張感を与えていたが、俺はこの辺で怖くなってパソコンから逃げていた。
「でもあの廃墟探検、本当に怖かったね」
「あーまあ、時間なくて夢落ちにするしかなかったから私としてはちょっと心残りあるんだけどねー?かと言って、最後にまた灯台の光が不気味に光っているなんて展開にしたら安心して終われないだろうしさぁ」
俺達と一緒に休憩している千里。
俺が最初此処でバイトしていると知ったときはかなり驚いていたようだったが、俺が一緒に働いているということが嬉しかったようだった。
「安心してか……、でも恐怖系のって大概後味悪く終わることない?」
「まあ……そうなんだけどねー。実際、そういう系統のVさんとかいる訳だし差別化しておかないと一緒になっちゃうからね」
その恐怖系のVというのは恐らく夕闇ヒミカのことなんだろう。
彼女は人を怖がらせることに愉悦を感じるタイプだから、琉藍とは別タイプだ。
「それにこの廃墟探検体験配信は……月一度ぐらいが良さそうだしあんまり週に何度もやったり月に何度もやったりしたら味がしなくなりそうだしさー」
「ちゃんと向き合ってるんだな」
「まあ、そりゃあ成り行きで始めることになったとはいえちゃんとやらないとねー」
琉藍は琉藍なりに考えているということがよく分かる。
いきなりのVデビューということもあってドタバタすることになるかもしれないと予想していたが、俺が思っていたより琉藍はVというものに関してかなり向き合っているようだ。俺が関心しながらも腕を組みながらも頷いていると、俺の休憩時間が終わったようで俺は先に休憩から戻って俺は仕事を再開しようとしたそのときだった。
「竜弥、一つ聞いておきたいことがあったんだけど……他の竜弥たちはどうなったの?」
「あいつらなら……俺に全部託して消えたよ。あいつらはそれぞれに俺に託して消えて行ったけど、これからは俺は……俺と神無月ロウガの二人が……」
「作って行こうと思うんだ」
あいつらは俺に託してくれた。特に高校時代の俺は千里のことを絶対に幸せにしろと言っていた。言われるまでもなく俺は千里のことを幸せにしたい。まだ告白は出来ないけど、もしそのときが来たら俺はちゃんと言いたい。千里に俺の気持ちをちゃんとぶつけたいんだ。千里のことが好きだって言うことを……!
「じゃあ……」
「アタシとも作って行こうね、竜弥」
「ああ、当たり前だろ。千里は俺にとって彼女なんだから……!!」
「うん……!!」
「彼女」という単語を口にするだけで木っ端恥かしいことなのかもしれない。でも、こうやって定期的に自分の中でも千里が俺の彼女だということを意識付けるっていうのは悪いことじゃないのかもしれない。自分でも顔が赤くなるぐらい恥ずかしい気持ちはあるけど、それでも本当に悪くない気持ちだっていうのがよく分かるんだ。
だって……俺は今……。
幸せだから……。
千里と一緒にいられることが本当に嬉しくて仕方ない。
「千里、ああそうだ。仕事しながら暇なときでいいからさ……。俺にも音楽のこととか教えてくれよ。俺も此処で働いて千里が好きな音楽を知りたいって思って居るけど、千里からも聞いてみたいんだ、千里が好きな音楽のことを……」
「前に言っていただろ、先生としてじゃなくてもいいから俺の彼女として音楽のことを教えて欲しいんだ」
彼女となったことで俺はもっともっと千里のことを知っていきたい。
俺はきっと千里のことでまだ知らないことがあるはず、だからこれからもっとしていきたい。空白になってしまったこの三年間をこれから彼女と一緒に結んでいきたい……。
「じゃあ私も言うね、前に言ったけど言わせて……」
「任せて……」
「誰かのことを感動させられるぐらい凄い歌声にして見せるから」
千里は手を胸に当てながらも首を傾けながらもこう笑顔で言ってきていた。
彼女のその笑顔を見る度、俺という人間が酷く熱を打たれるようにして病的なものを感じてしまうほど、俺はどうしようもなく彼女のことがきっと好きになっていたんだろう。だから千里の笑顔を此処まで揺さぶられていたんだろう。
「ああ、よろしく頼むよ千里……!!」
俺は笑顔で言いながらも彼女の言葉に了承していた。
あのとき、俺は千里の前で誓ったもの。次歌うときは千里のことを感動させられるぐらいにはなって見せたいと決意は今も変わらないものでしかなかった。千里が言う空間っていうのを俺は使いこなして見せよう、そう思いながらも仕事を再開しようとしたときだった。誰かが来店してきたようで自動ドアが開く音が聞こえて来ていた。俺はすぐ「いらっしゃいませ!」と言うと、薄茶色の長い髪の女性が俺の方を見て「あっ!!」と言っているのが聞こえて来ていた。
「あ、あの……もしかして……!!」
「千里の彼氏ですか!!?」